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そこは触れて良し

 サクラ芽吹く春。16歳になる俺、淵神覗輝(ふちがみのぞき)にとっては高校生活の始まりという意味合いを持つ。特に珍しくもない親の都合で引っ越しになり俺はある意味転校生ということになるのだが、中学を卒業と同時に引っ越して新しい土地で高校生になるというだけで正直他の生徒と変わらない。「はい、今日は転校生を紹介します」というお約束な展開で目立ってクラスの参入ということは一切ないのである。別に、そのためにチョークで格好よく名前が書けるようになる練習とかしていたわけではないからなんてことはない。本当である。

 しかし今となってはそんなことがなくて良かったと思っている自分がいる。それもというと

「でさー、昨日のテレビで映ってたワンコがちょー可愛くてさー!」

 自分の右隣り。その席に座って……とぐろを巻いて……? いや座っている女子、女子……じょ、し……がどうみてもアレにしか見えない。

「はーい席に着いてー。始業式の前に点呼を取りますからねー」

 つるんとしたピンク色の表皮。流線が美しいと思えるほどの言葉通り真っ直ぐなボディ。椅子にとぐろを巻き、担任の先生の方を向く少し細くなった先端。どう見ても……触手である。

「淵神くーん? いますかー?」

「あ、はい。すいません」

 名前を呼ばれたので手を挙げて点呼に応じる。点呼には手を挙げて返事をしなければいけない。手も足も皆無なそのボディでどうやって返事するんだ。

「では次、巻月触子(まきつきさわこ)さん」

「はーい!」

 元気のよい挨拶と同時に細い手があげられる。あげられた。

「(か、体の側面から別の触手を生やす……だと……!?)」

 正か負かわからない妙な興味に身をゆだねジーっとそのボディを見つめていると

「うん? なぁに? あたしの顔になにかついてる?」

 さすがに視線に気付かれて声をかけられる。俺にはわからないがどうやら顔に類する部位が存在するらしい。恐らく今こちらに向いている先端なのだろうが、どこからどこまでが顔なのか、顔の各種パーツはどうなっているのか興味は尽きないが、ここで問題が一つ。

「(女の子と気軽に話せるような小粋なトークスキルなんぞ持ち合わせていない……!)」

 この年で言ってもあまり意味がないかもしれないが、彼女いない歴=年齢という月並みのステータスである俺には大変困った事態になったのである。

 疑問と困惑の二重苦。開いたりしまったりするだけの口からようやく発せられた言葉といえば

「リ、リボン似合ってると思って……」

 もう視界に入ったことを言うしかなかった。いきなりボディのことを聞くのはいかに相手が触手でも失礼だろう。なんなら普通の女の子でさえアウトだ。

 それ以外の特徴と言えば先端から少し下、見ようによっては首のあたりに真っ赤な大き目のリボンがくくられている。そのアイテム一つで全体の愛らしさが格段に上がっているのだからおしゃれとは恐ろしいものである。

 ボディがダメだからアクセサリーなら良しかと言われれば滅相もない。初対面の男からの第一声が身に着けているものの評価なんてのはウェイ系ないしチャラ男の領分である。つまり俺が言った発言は十中八九ドン引きものであって―――

「ほ、ホント!? よかった~。今の今まで内心ちょードキドキだったんだ! 知り合いもいるけどさ、このクラスの人ほとんど知らない人だからさ、まず第一印象が大事じゃない? それってやっぱ見た目で結構決まってくるわけだし、昨日とかずーーーっとどんなリボンつけて行こうか迷っていたんだよね~! うんうん。悩んだ甲斐があったなぁ」

 スゴイシャベルナコノコ。

 喜びがボディに出ているのか文字通りくねくね身を躍らせているとか興奮してるせいか体の側面から出てる触手が増えているとかいやめっちゃ饒舌やんとか、そんな未知と初見のダブルインパクトで頭をぐらつかせていると、両腕のように二本伸ばした触手でこっちの両手に巻き付い……握ってきた。

「ありがとう。君のおかげでソワソワが消えたよ!」

「そ……それは、よかった、ね……?」

「そこの二人―? 始業式があるから教室から出てくださーい」

「あ、先生が呼んでる! 行こう!」

「あ、ちょっとうおっ! 引っ張る力強っ!」

 なかば引きずられるように教室を出る。誰かと手を握るなんていつ以来だろうか。よもや久々のシェイクハンドが触手だとは過去の自分も思うまい。

 蛇でもなければ魚でもないなににも似つかない前進方法を後ろで見ながら思う。

 あぁ、俺はなにかとんでもないものを覗いてしまったのだと。


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