難易度測定と開業報告
いつもよりほんの少し長めです。
翌日、スマホの着信音に起こされた。
画面を見ると、ダンジョン管理課 後藤と書かれている。
こんな朝早くから、と思い時間を確認すると 11時を回っていた。
あくびをしながらも、着信ボタンを押す。
「中野様、おはようございます。」
「あい……。おはよう、ございます。」
「あはは、眠そうですね。」
昨日はダンジョンの準備にかかりっきりだったため、思った以上に疲れていたようだ。
今も、すこし体がだるく感じる。
「さて、早速難易度測定の依頼を、探索者団体に依頼したと聞いています。結構準備に時間をかける方もいるのですが、早いですね。」
そうなのか。まあ、自分が戦えるわけではないので、魔素を集める手段もない。
なので、準備と言っても怪物の配置を変える程度しかない。
「本日電話を差し上げたのは、その件ではなく、昨日の石田の件です。」
そういえば、そんなことがあったな。
半開きの目をこすりながら、一応メモの用意をしておく。
「石田ですが―」
後藤さんが言うには、今回センサーを全階層につけたのは石田の独断だったらしい。
他のダンジョンにもセンサー設置の打診を行っていたようだが、すべて断られたと言う。
まあ、これからずっと働く場所……自分の会社のようなものに、いろいろな異物を取り付けられるのは、いい気がしないだろうな。
一応謝礼として大量の魔石を用意していたのだが、それらは研究材料にならない欠片サイズの石で、
ある程度軌道に乗っているほかのダンジョンマスターからすると、「なにそれ、いらね」という感じだったらしい。
それで、できたばかりのダンジョンを持ち、しかもダンジョンマスターとしては初心者の僕なら、大丈夫だと踏んだようだ。
ん、でも謝礼のことなんか言っていなかったぞ。
「あの、謝礼の件は何も言ってこなかったんですが。」
「……そうなのですか。」
「そういえば、謝礼の魔石って魔素としてはどれくらいなんですか?」
「500程度と聞いています。」
500か……。昨日ダンジョンで得た魔素量は、怪物1体につき1だったはず。
確かに、軌道に乗っているダンジョンだと微妙な数字だ。
毎月とは言っていないので、初回500のみだとすると、わりに合わないな。
「撤去をお願いします。」
素直に撤去してもらうことにした。
「ですよね。では、本日難易度測定をされるということで、担当の探索者さんのほうに依頼しておきますね。」
どうやら、ついでに撤去をしてくれるらしい。
一息つくともう昼が来た。
平日だと言うのにこの時間まで寝ていると、仕事をしていないようで少し違和感を覚える。
まあダンジョンを開業したら、忙しくなるのだろうが。
ー
居間でテレビを見ていると、玄関のチャイムが鳴った。
時間的に、探索者さんかな。
「こんにちは!」
扉を開けると、二人の女性に囲まれた好青年が立っていた。
少し僕よりも年下くらいに見える。
そんな彼は、明るい声で挨拶をしてきた。
「ええと、探索者の方々ですか?」
3人ともゴルフバッグのようなものを持っているので、直ぐにわかった。
「はい。こちらのダンジョンの難易度測定依頼を受けて来ました。」
昨日の今日で来るなんて、探索者はフットワークが軽いな。
「ええと、ダンジョンまでの案内は必要ですか?」
「いえ、道はわかりますので大丈夫です。2階層ということと、なにやら機械を撤去するということなので、夕方まではかかると思います。」
こんな若いのにすごいな。階層と仕事量から、作業時間を大体見積もれるのか。
「依頼が終わったら、そのまま帰ります。おそらく今日中にはダンジョン管理課のほうから電話があると思いますよ。」
それでは、と3人は立ち去る。
探索者の依頼と言っても、本当になんと言うか……普通の仕事なんだな。
荒くれ者たちが酒場で騒ぐ、なんてことをすると日本だと捕まるのだろう。
他の国はわからないが。
それはともかく、夕方までの間、ネットの動画でも一気見するか。
〇△□
日が傾き始めたころ、後藤さんからの電話が来た。
時間は、17時を過ぎたころか。早めに依頼が終わったのかな。
「はい、中野です。」
「お世話になっております。管理課の後藤です。難易度測定が終わりましたので、ひとまず電話で報告しますね。」
ダンジョンの難易度だが、
E => D => C => B => A => S
という順番にランクがつけられているらしい。
怪物やダンジョン内の仕掛けの危険度で設定され、そのランクによって探索者の入れるダンジョンが決まっているようだ。
また、Cランクからは、通常の税金とは別に、国に治める治める管理料が発生する。
Cランク以上では、探索者が大けがを負ったり、ごくまれに死者が出ることもある。
そのため、高ランクの探索者とダンジョンマスターが出し合った管理料から見舞金を出しているらしい。
それで、僕のダンジョンは――
「はっきり申し上げますと、Eランクです。怪物も比較的弱く、危険な仕掛けもついていません。」
まあ、何もしていないから当たり前か……。
「ですが、私共としてはこれはありがたい話です。みなさん、もっと稼げるようにとダンジョンの難易度を上げてしまいますから。」
そうか、低難易度のダンジョンだと怪物が落とす戦利品も微々たるもので、探索者からは受けが悪い。
魔素を使ってより高利益な怪物(比例して強くなる)を発生させると、ダンジョンの難易度は上がっていく。
日本のダンジョンは、Dランク以上のみで、Eランクはいないらしい。
「探索者に成りたての方は、いきなりDランクのダンジョンに挑まなければいけないので、怪我の報告が多いのです。ベテラン探索者に同伴を依頼しているので、その依頼料もばかになりません。」
後半、本音部分が出ている気がするが。
そうか、ゲームによくある初心者向けダンジョンというものは、この世界にはないのか。
ダンジョンマスターも自分の生活があるから、仕方がないのだろう。
「それで、中野様はそういった初心者向けのダンジョンを売りにしてはどうかと思いまして……。」
これは、僕のダンジョンを Eランクの難易度のまま維持しろ、ということなのだろう。
初心者向けの怪物を配置するだけでは、得る魔素量も少ない。
魔素量が少ないということは、ダンジョンを拡張もできないわけで、ダンジョン内に入れる探索者の絶対数も少ないままだ。
正直じり貧だと思う。
ただ、今の日本にそういうダンジョンがないのであれば、差別化という意味で探索者が来てくれるかもしれない。
「うーん。後藤さん、正直迷っているところです。生活もありますし。」
「管理課を挙げて探索者のあっせんも行いますし……。そうだ、Eランクのダンジョンには国の助成金もあるんですよ。」
探索者のあっせんは願ってもないが、助成金だと?
どうやら、ダンジョンマスターに成りたてでEランクのダンジョンを経営している場合は、1年間の助成金が出るらしい。
これは本などには書かれていなかったので、わざと認知度を下げているのでは……。
助成金の金額は、毎月30万で1年間もらえる。
ただ、期間中にダンジョンを廃業した場合や、途中の利益が月額50万を超えた場合は、支払いをストップするらしい。
比較的甘い条件だとは思う。
そうか、実家暮らしということもあって、30万あれば……税金を考慮してもやっては行けるか。
半年程度やってみて、ダメそうなら高ランク路線にするか。
「わかりました。助成金が頂けるということであれば、初心者ダンジョン……やってみます。」
「おお! ありがとうございます!」
興奮した声色で、何度もお礼を言われる。
「早速ですが明日にも、助成金と初心者ダンジョン開業の打ち合わせに参りますので、よろしくお願いします!」
そう言って電話は切れた。
うーん。流されるまま初心者ダンジョンとして開業する旨を伝えてしまったが、大丈夫だろうか。
本格的にダンジョンを開業することになったので、少しダンジョンに行ってくるか。
ミユの様子も見たいしな。
いよいよ、ダンジョンの開業です。
助成金が出るなんて羨ましいですね。
6月以降も、何とかテレワークが続けれそうです。
月に1~2回は、お客さんの会社に行きはしますが。