スライムのミユとスキルの発現
外出自粛の期間中、料理のレベルがアップしてます。
カレー粉を使わずに香辛料でカレーを作ったり、ラーメンをスープから作ったり。
知り合いに聞いたら、そうやって料理をする男性がこの期間増えてるみたいですね(周りだけかもしれませんが)。
会社通勤が再開したら、またしなくなるんだろうなあ。
「あーあー。繋がったかのう。」
見知らぬ番号ではあったが、携帯からでなく市外局番付きの番号だったためとってみた。
スピーカーからは、しゃがれた男性の声がしている。
「ええと、電話先は正しいですか?」
「間違いないはずじゃ。お前さんは、今回ダンジョンマスターになった中野という男じゃろ?」
どうやら、僕にかけてきたらしい。
しかも、ダンジョンマスターという補足付きで。
怪訝な表情を浮かべると、スライムが心配そうに見つめてきた。
それを撫でながら答える。
「はい、確かに私は中野です。失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「わしは、このダンジョンの調査を担当した石田というもんじゃ。ダンジョン生態学を専門としておる。」
研究班の人間らしいのだが、どうして携帯の番号を知ってるんだ……。
「ダンジョン内に、強い魔素を検知してな。ダンジョン管理課の連中は帰ったようだし、おぬしに何が起きたか聞きたいのじゃ。」
検知した?
「あの、調査は終わってるんですよね。研究機材もすべて引き上げたと聞いていますが。」
「映像や音声を収集するような機材は片づけたが、魔素のセンサーは全階層に設置させてもらっているのじゃ。」
それは聞いていないのだが……。
確かに、ダンジョンの入り口に対して魔素のセンサーはつける決まりになっている。
それは、万が一ダンジョンの怪物が外部に溢れて、昔のような被害が出るのを防ぐためなのだが、それはあくまで入り口だけだ。
「まあそれは管理者の連中に聞いてくれ。で、どうなのじゃ?」
強い魔素というと、思い当たる節は一つしかない。
足元に居座っているスライムと、『パートナー契約』というものをしたことだ。
隠すことでもないので、その旨を伝えた。
「『パートナー契約』じゃと!? で、相手はそのスライムなのか? なにか変わったことはないか?」
興奮した声で畳みかける。
スピーカーを耳から少し話ながらも、淡々と先ほどの状況を説明した。
「その指輪は、確かに左手薬指に出現したのじゃな?」
「はい、あとは感覚的に……この『スライム』とつながったような気がします。」
そう、あの契約から、どことなく他人のような感覚ではなくなったのだ。
「まるで結婚指輪じゃな。」
スライムと結婚は勘弁してほしい。
「こちらでも調査をしてみる。恐らく近日中に調査チームを派遣するじゃろうから、それまでは気づいたことをメモに取っておいてくれ。」
そういって、石田という男は電話を切った。
いったい何だったのだろう。
魔素センサーの件、電話の件……一度、後藤さんに聞いてみよう。
そう思い、名刺に書かれた携帯番号に電話を掛けた。
数コールの後、後藤さんが出る。
「先ほど、石田と名乗るものから電話がありまして。私の番号は研究チームにも知られているのでしょうか?」
少し強めに言うと、驚いた声で
「なんですと!?」
と叫んだ。
「少々お待ちください」という言葉の後、保留音にするのも忘れていたようで、会話が少し聞こえた。
スピーカーの音量を上げて、耳を澄ませる。
五十嵐さんの声もする。どうやら、後藤さんが怒鳴っているようだ。
ダンジョン研究部から機材の撤去をし忘れた件で、ダンジョンマスターと直接話をしたいから電話番号を聞いて来たそうだ。
五十嵐さんは、その人間と懇意にしていたため、そのまま電話番号を教えたらしい。
1分ほどして、電話先に後藤さんが戻ってきた。
「中野様、申し訳ございません。私共の手違いで、ダンジョン研究部のものに電話番号を共有しておりました。本来であれば、ダンジョンマスターの皆様と、研究部の人間が直接やり取りすることはなく、管理課が仲介するという決まりになっておりました。」
まあ、同じ組織内ではあったので、多少は違和感を覚えるが、良しとする。
「その研究部の人間というのが『石田』という者で、『研究機材の撤去不備』の件で電話を差し上げたと思うのですが、お間違いないですか?」
「ええと、私のほうには『魔素のセンサーを全階層に設置した』という話だったのですが……。」
「え!?」
数秒、空白の時間が過ぎる。
「中野様。こちらでも確認いたしますので、折り返しでよろしいですか?」
そう言って電話は切れた。
あの石田という人間……、わざとセンサーを置いていたのか?
まあ、後藤さんたちが良しなにやってくれるだろう。
ダンジョンマスターという職業になったのに、事務的な電話ばかり……。
そう思うと、深いため息をつかずにはいられない。
ー
気分転換に端末を操作する。
ダンジョン情報の画面には、『パートナー』に『スライム(仮)』と表示されていた。
仮というのは、スライムではないのか? それとも、名前をつけろということなのか?
疑問に思いながらも、『スライム(仮)』を押してみる。
文字入力が表示されたので、やはり名前を付けるということらしい。
それがわかっているのか、スライムから熱い視線を感じる……気がする。
スライムか……液体、リキッド……なにか違う。
粘液は英語でなんといったか。自分のスマホで検索すると、『ミューカス』らしい。
名前が粘液そのままだと、何か悪いとバリエーションを考える。
ミューク、ミュー、ミユ……。
そういえば、こいつは性別あるのか?
でも、個人的にはメスであってほしい。
結婚指輪だし、女性が好きだし。
となると、ミユが何となく水のニュアンスにも近くて言いやすいか。
「ミユってのはどうだ?」
一応確認を取る。
何となく、肯定の返事が返ってきたように思う。
端末にミユと入力する。
その瞬間、脳内で声がした。
『パートナーの名前を確認。ダンジョンマスター中野に、言語理解スキルを付与します。』
スキル? 聞いたことがない。何か頭に入ってくるような、少し重い感覚がした。
「マスター!」
スキルについて考えていると、どこからか若い女性の声がした。
端末……の声でもないような。
「こっち! こっち!」
少し下のほう……。
「ミユ?」
「そう! マスターの言葉わかる! すごい!」
ミユが激しく揺れている。
まさか、先ほどのスキルというものの影響か!?
スキルといい、パートナーといい、ダンジョンマスターの本では見たことがない。
これは、一度調査をしてもらったほうが、いいかもしれないな。
チート系は読むのは好きですが、物語を考えるのが苦手なので、チートにはしないです。
現実とフィクションの狭間で、運よく成り上がったり、ほんの少しだけ他人よりも幸せに生きていく。
そんな話が書きたいですね。
主人公は、たぶん少しだけ運がよかったんだろうと思います。