父よ、高梨にお酒を与えないでください
改めて、誤字報告等ありがとうございます。
キリがよかったので、ちょっと少なめです。
「ふう、いいシャワーだったー。」
高梨がTシャツにハーフパンツ姿で出てきた。
「はあ、つらい。」
「何ですか、そんなに……不景気なため息をついて。」
お前のせいだよ。
しかも今の服装……胸のあたりがなまめかしい……、高梨の癖に。
「おー。先輩の視線が変なところにいってますよ。」
視線をずらすと、母親がにやにやしているのが見える。
なぜか高梨が僕の隣に座ると、ちょうど父親も帰ってきた。
と、とりあえず晩飯だな。
晩飯を食べながら親が、東京のこと、あっちでの僕の様子など、根掘り葉掘り高梨に聞く。
変なことを言われないかハラハラしながらも、僕は無言で米を口に運んだ。
以外にも真面目なことしか言わない高梨に、父親が日本酒を注ぐ。
それ、高いやつだから飲まないようにしていたんじゃ。
高梨はお酒もいける口なので、父親から酒を注がれては注ぎ返している。
いつの間にか高梨の口調も柔らかくなってきた。
「先輩はーですねー。私が前にミスをした時も、全部庇ってね……くれたんですよ。」
それ一年前の話だろ。
「そんな私を守ってくれる……先輩から、会社辞めちゃうって言われて……。ねえ、先輩。」
高梨がおちょぼ口を向けてくる。
「でも、こうしてお前が好きなダンジョンに入れたんだから、よかったんじゃないか?」
「それはそうですけど……。」
そういうと、高梨は腕を組みしばらく考えこんだ。
ん、飲みすぎたから眠くなったんじゃないか?
少し酒の匂いもしているし。
しばらく考え込んだ後、目の前のお猪口の酒をぐいっと飲み込んだ後、急に立ち上がった。
「よし! 私、もうちょっとお金を貯めたら、専業の探索者になって……先輩のダンジョンをもっと探索します!」
ええ……。
「お前、わかってると思うけど探索者は怪物を倒す側で……。 怪物と馴れ合うなんて出来ないぞ?」
「わあってます!」
少し呂律がまわっていないまま一方的な宣言をして、どしんと席に座る。
両親は「おー」と小さく拍手を送っている。
「だから、その時はまた一緒にお仕事しましょうね――先輩。」
そう言って、高梨は僕の肩に倒れこんだ。
「おい!」
高梨からは、濁音まじりのいびきが聞こえてくる。
ダンジョン探索で疲れていたのに、酒をあんなに飲むからだ。
母親が客間に布団を敷いたので、しぶしぶ高梨をつれていく。
腕を僕の肩に回し、ゆっくり立ち上がる。
そういえば、新人歓迎会で酔っぱらった高梨を、家まで送っていったことがあったな。
こいつは、東京でもちゃんと仕事できているんだろうか。
大きなミスはしなくなっていたが、細かいものは多かったように思える。
急に探索者になって、僕のダンジョンに来るのは、仕事のストレスもあったのかもしれない。
僕が付きっきりで教えていたからな。
同期の社員に、高梨についての引継ぎはしていたつもりだが、急に頼る人がいなくなるとしんどいよな。
客間につくと、空いている手で掛布団をずらす。
ゆっくりと腰をおろし、布団に寝かせたら体を少し横に傾けて、掛布団をのせた。
居間に戻り、僕も日本酒をあおる。
― よし! 私、もうちょっとお金を貯めたら、専業の探索者になって……先輩のダンジョンをもっと探索します!
酔っていたとは言え、あれは本当なのだろうか。
あいつは、思い立ったらすぐに行動してしまうから。
まあ、僕のダンジョンは初心者向けだ。
本当にあいつがやる気なら、ダンジョンマスターとして熱く見守ってやろう。
僕は戦えないけどね。
はあ、長い一日だったように思える。
明日は昼から砂利が届くはずなので、疲れはちゃんと癒しておいたほうがいいだろう。
母親がいつの間にか沸かしていた風呂に入ると、歯磨きをして寝ることにした。
高梨は明日帰るはずだから、もし午前中に家を出るんだったら駅までは見送ってやろう。
明日は砂利をまいて、ダンジョン入り口付近の地面を整備します。