高梨がやってきた
ダンジョンに高梨がやってきた。
久しぶりの運転の疲れもとれ、一度家に戻ろうかと思ったときに、後藤さんから電話が来た。
「おはようございます、SMSの内容拝見しました。高梨様の件ですが、私が外出をしている場合、『五十嵐』が対応するようにいたします。よろしいでしょうか?」
「はい。お手数おかけします。」
あ、そうだ。一応宝箱や柵を設置したことを伝えておくか。
「宝箱と柵を設置して頂いたのですね、ありがとうございます。本日探索者を引率してダンジョンに入った時に、確認いたします。」
野菜の詰め合わせは伝えていなかったが、探索者は喜んでくれるだろうか。
好評であれば季節性を持たせて、米が収穫できる時期には新米を置いてもいいかもしれない。
ついでに、ダンジョンの周りの整備を行っていることも伝える。
金銭面で舗装などを行うには、年単位の時間がかかることも。
「さようでございますか……。ダンジョンは、管理されるダンジョンマスター様方の所有物なので、私共が整備差し上げることは原則として行えないんですよね。」
今回設置される講習所などの初心者向け施設については、例外として管理課が無償で工事を行うらしいのだが、それ以外のダンジョン運営にかかわる部分や景観はさすがに助けてはもらえないらしい。
ただし、安い業者を紹介してもらえることにはなった。
お礼を言って、電話を切る。
LIMEで高梨に一報を入れておくか。
「後藤さんという人が不在の場合は、五十嵐さんという人が対応するらしいぞ。」
と。
さて、一度家に戻るか。
家に着き、シャワーを浴びる。
居間でお茶を飲みながら時計を見ると、針は11時を指していた。
昼飯にはまだ早いが、母親が食事の支度をしている。
今日はカレーか。
後で写真を撮って、高梨にでも送ってやろう。
手持無沙汰を紛らわすためにテレビをつけると、ちょうどダンジョン特集が始まっていた。
「はい、今日は関東でも有数の難易度を誇るダンジョン『世田谷バンブーフィールド』の前にやってきました!」
他の番組でもよく見る女子アナが、明るい声でダンジョンを紹介している。
そうか、東京にもあったんだっけな。
― 世田谷バンブーフィールド
― 都心に近い世田谷だが、竹林や畑が点在している。20年ほど前に、竹林の一つからダンジョンが湧いた。
― 都内唯一のダンジョンということもあり、日本トップクラスの知名度と難易度、探索者の集客数を誇る。
そういえば、何か忘れているような……。
ダンジョン『世田谷バンブーフィールド』……。
もやもやした気持ちのまま、管理端末を取り出す。
あ、ダンジョン名を決めていなくないか?
ダンジョン名がなくても、管理課から探索者がやってきていたので、すっかり忘れていた。
開業届も出していないじゃないか。
浮足立ってダンジョン周りの実作業ばかり行っていたので、事務的な作業をしていなかったな。
もう少し余裕はあるはずなので、今日か明日にはやっておこう。
お、テレビはダンジョンの中に入るようだ。
「ダンジョンの中は、名前の通り竹林が広がっていますね。景色を楽しみながら弁当を広げているカップルも見られます。」
なんだと……。ダンジョンの中は探索者以外は入れないのでは?
それともみんな探索者か?
「このダンジョンでは、1階層には怪物を出現させないように、設定しているそうなんです。そのため、探索者登録だけしておいて怪物の討伐は行わない。そういう人たちも増えているようです。」
入場料をとる公園のような感じか。
ダンジョン内の季節は固定で雨も降らない。もちろん最初から雨のダンジョンになっている場合は、その限りではないが。
ただ、このダンジョンのランクはBのはず。
であれば入場料は高いのではないだろうか。
「早速ですが、カップルさんにお話を伺いたいと思います。」
テレビの情報では、このダンジョンの入場料はBランクなので6000円だが、2階層以降に進まない探索者は、1階層に設置してあるコテージで宿泊できるということがわかった。
食事はなんとダンジョン内でとれた肉や魚を出しているらしい。
外のものを持ってこられないはずだが、ショップでそういう施設を購入できるのか?
後で見てみよう。
―――― ダンジョン入場料 ――――
E \1,000
D \2,000
C \4,000
B \6,000
A \10,000
内1割は手数料としてダンジョン管理課がとっている。
―――――――――――――――――
商魂たくましいな。
だが、これぐらいしないと稼いでいくのは難しいのかな。
― 昼
カレーを食べていると、玄関のチャイムが鳴った。
こんな時にだれが。
軽く手をふいて、玄関の扉を開ける。
そこには、五十嵐さんと……高梨が立っていた。
「あ、先輩だ!」
「高梨……なんだこの荷物は……。」
キャリーケースによく分からないガラクタが括り付けられている。
「中野様、これは全部武器とからしいですよ……。」
五十嵐さんも乾き笑いをうかべる。
「先輩! 早速ダンジョン行きましょう!」
「え、僕は一緒には行けないよ。」
「え?」
高梨は全く勉強していないようだな。
ダンジョンマスターには、所有しているダンジョンの怪物が襲ってこない。
「だから、とりあえず行ってこい。」
「むむ……わかりました。後でまた寄りますね。」
そういって扉を閉めようとすると―
「あ!」
高梨が、閉じかけた扉を勢いよく開く。
「泊まるところないので、お願いします!」
そういって、また扉を閉めた。
お願いします……?
ん……、あいつ家に止まるところがないのか!?
問い詰めようと勢いよく外に出ると、二人の姿はそこに無かった。
LIMEでメッセージを送っても、「よろしく!」と書かれたスタンプしか送ってこない。
仕方ないので高梨が帰ってきたら、話をしよう。
物語の舞台は四国ですが、文中には方言を書いていません。
一度下書きで書いてみたらルビが多くなってしまったので……。
作者の出身地が四国ですが、今は仕事で東京に住んでます。
世田谷は「都心」と「田舎」の中間くらいで住みやすいところです。
近くの無人販売店に、農家さんがちょくちょく野菜を置いているのを見かけます。