土固めます
ちょっと今回の話を書き終えたのが17:40だったので、ザクっとしか見直しできてないです。
翌日、珍しくアラームではなくスマホの通知音で目を覚ました。
時間を確認すると、6時。寝すぎたというわけではないようだ。
今日は土曜日だというのに一体誰だと通知を見ると、メッセージツール LIME に、高梨の名前が表示されていた。
なになに……
「これから新幹線です」
ん?
どこか旅行にでも行くのか。まあ社会人としては息抜きで旅行に行くのはいいことだろう。
だが、わざわざ新幹線の写真つきで送ってくるとは、どういうつもりだ。
とりあえず、「楽しんで来いよ」と。
アラームが鳴るまで1時間はあるので、もう一度寝よう。
ピコンッ
スマホを置いた瞬間に通知が鳴る。
また高梨か……。
「先輩のダンジョン見に行きますよ!」
既読をつけないで音を切り、布団をかぶった。
〇△□
二度寝後のまどろみの中、あくびをかく。
どうやらアラームより前に起きたようだ。
スマホを確認すると、何通かのメッセージが届いていた。
コンビニのお知らせもあるが、ほとんどが高梨のものだった。
駅弁を食べただの、車窓の田園風景がきれいだの、返信するまでもないメッセージばかりだ。
既読だけつけると、大きく背伸びをする。
ここ数日ダンジョン作業で歩き回ったからか、足腰が痛い。
もともとデスクワーク中心だったため、運動といえば通勤と満員電車くらいなものだった。
軽くストレッチをしておこう。
そういえば、高梨はうちのダンジョンに来るといっていたが、大丈夫かな。
今のダンジョンは、基本的に後藤さんに引率されて探索者がやってくる。
もちろん、入場ゲートの機能はほかのダンジョンと同様に動いているため、単独で探索者がやってきても入れはする。
念のため後藤さんにも伝えておくか。
まだ7時のため、電話ではなくSMSでメッセージを送信する。
「おはようございます、中野です。もしかしたら私の知人の高梨という女性が、私のダンジョンを訪ねてくるかもしれないので、来たら引率だけお願いできますか?」
と。
さて、朝ご飯を食べて納屋に行くか。
今日はダンジョン付近の地面を固める予定なのだ。
納屋に行くと、親が鎮圧ローラーをトラクターにつけてくれていた。
じゃああとはダンジョンに移動するだけだな。
それじゃあ麦わら帽子とお茶でも持ってくるかな。
公道を通るため、免許証をポケットに入れトラクターのエンジンを入れる。
子供のころ、祖父の膝でハンドルを握らせてもらった記憶がよみがえる。
クラッチを踏んだまま、鍵を回しエンジンをふかせる。
バイクほどではないが、けたたましい音とエンジンの振動に体が揺さぶられた。
副変速機を低にしたまま、変速機をいじる。
おっと、その前にブレーキを踏んでおかないと。
さて、行くか。
納屋から出ると、副変速機を高に変えスピードをあげる。
「じゃあ行ってきます!」
子供のころはトラクターに乗ってしゃべると、扇風機の前でしゃべるのと同じように震えていたのだが、
大人になると体がしっかりしているからか、そんな心配もない。
しばらく都会にいたため、車などには縁がない。
そのため道路に出た瞬間、多少の緊張感を覚えたが、車の通りが少なく助かった。
スピードが遅い……ということもあるが。
畑に入ると、タイヤが地面にめり込んだ。
おっと、やはり砂利をまいて固さを補強しておいたほうがよかったか。
ともかく、無事畑についた僕は、鎮圧ローラーを下した。
少し地面を押す感じに調整をしてある。
とりあえず入り口の周りだけでも固めるか。
ゆっくりと鎮圧していく中で、ぼーっと畑を見渡す。
畑の道路側から25mほど歩いたとこにダンジョンの入り口はある。
道行く人からすると、かなりシュールな光景だろうな。
1時間ほど土を固めて、畑のわきにトラクターを停める。
うん、前よりはしっかりとしてきたが、建設現場で使うような何トン級のものではないため、ただ畑をいじっただけになっているな。
ちゃんとした整備は近い将来で、そろそろ砂利を頼んでおくか。
そういえば、高梨は無事こっちに来られてるんだろうか。
スマホを確認すると、どこかの店で鯛茶漬けを食べている様子を送ってきていた。
鯛茶漬けは地方によって内容が異なるのだが、写真を見るとこの辺りで食べらているもののようだ。
お返しに、ダンジョンの入り口の写真でも送ってやる。
あ、すぐに既読がついたと思ったら、電話をかけてきたようだ。
「おう、鯛めしはうまいか?」
「先輩! これダンジョンじゃないですか! あ、ちなみにこれはあげませんよ。」
食べられるからいらないや。
相変わらずテンションが高い。
「それはさておき、本当に今日来るのか?」
「はい。有休まで使って探索者の登録をしたんですから。それに調べはちゃんとつけています。先輩のダンジョンは誰でも簡単に探索できるんでしょ?」
言い方よ。
「そうだ、近くにあるダンジョン管理課に行ったら、後藤っていう人に『高梨』が来たと伝えろよ。そしたら、連れてきてくれるみたいだから。」
はーいわかりましたと声高々にいうと、電話を切りやがった。
まあ、いいさ。
初心者ダンジョンが、本当の初心者にとっていかにきついものかを、身をもって体感してもらおう。
そう決意して、もうしばらく休憩することにした。
次回、ダンジョン行ったことない系ダンジョンオタクの高梨が来る。
きっとくる。