(閑話)私がミユになるまで
今日は仕事に忙殺されていたので、閑話です。
一気に書きなぐったものなので、見返してはいますが誤字などあれば報告頂ければと思います。
気が付いたら水の中にいた。
水はおいしいし、違う味のものも沢山ある。
周りの様子はよくわからないけれど、おいしいものが沢山あるので、パクパク食べた。
体が大きくなるにしたがって、水の外に興味が湧いた。
いつの間にか見えるようになった周りの景色……、なかなか溶かすのに時間がかかるものや、柔らかいものが沢山。
みんな私のお口に入ってくれる。
しばらくたって、おいしい食べ物達がとても小さく見えたころ、私は強い眠気に誘われて、最初にいた水の場所に戻っていった。
水にすっぽり体を沈め、何も考えないでぼーっとする。
次は何を食べようか、どこに行こうかと体のコアをぶるぶるふるわせ、冷たい水に体を任せる。
心地よい眠りの中、急に水が大きく揺れた。
せっかく気持ちよく寝ていたのに、と体をくねらせ、すっかり寝床になった水の周りを見渡す。
遠くに、少し大きな食べ物が見える。
見たことがない歩き方、見たことがない体。
好奇心と少しの空腹から、食べてみようと体を向ける。
その時、私のコアが大きく震えた。
タオセ……シンニュウシャをタオセッ……
気が付けば、大きな体を飛び上がらせ、食べ物に飛び掛かっていた。
そこからは意識がもうろうとしているが、強い痛みが私を襲ってくる。
イタイッ……イタイッ……
体が少しずつ小さくなっていくのを感じる。
私のコアを包む粘液は、すっかりむき出しになっていた。
少なくなった粘液を駆使して、必死に食べ物から離れようとする。
食べ物から放たれた青い炎が私にあたり、体が強く引き裂かれる感覚とともに意識を失った。
ー
体中が痛い。
そして、周りの全てに強い恐怖を覚えている。
体のコアは以前の半分以下になっていた。
他の食べ物がいないことを確認して、最初にいた水に入る。
もう水の外には絶対に行かないようにしよう。
特にあの生き物の前には。
しばらくして、私の体は意識が芽生えたときの大きさに回復していた。
このまま、水だけ食べて生きていこう。
そう思った矢先に、再び見つけてしまったのだ……二足歩行の生き物を。
3体の生き物が、私の横を通り過ぎている。
存在を隠すことを覚えた私は、決して見つからないように隠れる。
「中野様、どうぞ。」
それでも聞こえた見知らぬ言語を聞き、好奇心のままそっと体を出してみた。
怖そうな2体のオスとメスの間、1体のオスを見た瞬間、しばらく落ち着いていたコアが強く振動した。
恐怖でも、食欲でもない……好奇心でもない。
この生き物なら、臆病な私を守ってくれる。
見た瞬間それが、わかったのだ。
私は、横にいるオスとメスがいなくなるのを待つことにした。
しばらくして、あのオスだけになる。
今がチャンスと、勢いよく目の前に飛び出した。
私の存在をアピールしようと、どうにか音を出してみる。
「……」
粘液がこすれる音しかしない。
これでは、目の前のオスにわかってもらえない。
焦った私は、少し強引だが体にアタックすることにした。
「キュー!!」
勢いよく地面をける。
その瞬間、運良くコアが振動して音が出た。
ー
オスが倒れてしまった。
頭を強打してしまったからだろうか。
焦った私は、体をうまく頭の下に滑らせて、冷たい体で包み込む。
しばらくすると、オスが目覚めた。
「キュ?」
先ほどのようにコアを振動させ、音を出す。
どうやら、私のことを認識してくれているようだ。
それがうれしくて、体を揺らしているとコアの中から声がした。
『パートナー契約を申請しますか?』
パートナーというものが何なのかはわからないが、このオスに守ってもらえるようになる……ということはわかる。
私は「する!」と強く願った。
オスが驚いている。
私の思いが伝わったのだろうか。
私のほうも見つめたまま、何か板のようなものを取り出した。
その板に指を付けた瞬間、私は光に包まれた。
光が収束したとき、コアから、私以外の感情が伝わってくるのを感じた。
目の前のオスが、自身の手を見て驚いているのがわかる。
『ダンジョンマスターとの契約に成功しました。』
コアの中で声がする。
ダンジョンマスター……マスターというのが、このオスの名前なのだろうか。
マスター……マスター……。
そう何度も繰り返すと、茂みに体を滑らせた時のような、少しかゆい感覚がする。
そんなことを思っていると、マスターは誰かと話し始めた。
あれが、スマホと呼ばれる遠い人と話す道具――電話 ということが、伝わってくる。
それ以外の……マスターの知識がおぼろげに私の中に入ってくる。
長い電話の途中、私は暇なのでマスターの体に乗ったりする。
途中で不機嫌な感情を抱きつつも、長電話が終わった。
マスターが私を見つめる。
どうやら、私にとってのマスターのように、名前を考えてくれるらしい。
私の大好きな水のことを考えているようだ。
「ミユってのはどうだ?」
ミユ…ミユ……。
私の名前を繰り返す。マスターから私に伝わったように、私の楽しい感情を送る。
『名前の付与を確認。スライム――ミユに、言語理解スキルとダンジョン知識スキルを付与します。』
人間、日本語、探索者、ダンジョンマスター……。
様々な知識が私の中に入ってくる。
「マスター!」
私は、日本語を使ってマスターの名前を呼んでみる。
なかなか気づいてくれないので
「こっち! こっち!」
と声をかける。
「ミユ?」
マスターが私の名前を呼ぶ。
「そう! マスターの言葉わかる! すごい!」
マスターはどうやらこの場所でお仕事?をするらしい。
私は「ダンジョン知識」スキルを使って、マスターと楽しく過ごすんだと心に誓った。
パートナー契約したスライムのミユのお話でした。
次回からまた本編に戻ります。
仕事のある日は、昼休みに書いて、終業後に見直してます。
パソコンを扱う仕事なので、最近目が痛い。。
目薬欲しいですね。