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496 伏兵



 シェンロウ聖国の秘宝とも言える聖遺物。

 俺は悪魔を追う過程で、偶然にもソレを手にしてしまったわけだが。あまりにもあり得ぬ存在に体が震えてしまう。


 その金属ドクロを一言で表すならばオーパーツであった。

 恐らく人工生命体(アンドロイド)の頭部。電子回路さえ組み込まれた、複雑にして精密な作りは、この異世界では在りえない技術と発想で。なにより刻まれたメイドインジャパーンの文字が、一層に異物感を増している。


「へ、へぇー。こっちにも日本ってあるんだー」


(ないないない!)


 魔王が隣でパタパタと手を振り否定した。

 俺は「あるやろがい!」と逆ギレしたくなる気持ちをぐっと堪えて、仮面の男へコレは何だと問いただす。


「ウィッキーさん。なんで聖遺物に、俺の世界の言葉が使われているんですか?」


「……馬鹿な。そこにおわすは、アイリス神の御聖体と言われているのだぞ!?」


 驚きに声を張る枢機卿。さしも日本産という事までは知らなかったようだ。

 だが、俺は何度と聞く名前が記憶をノックした。アイリスとは浮遊島が崇めていた、異世界より来た天使の名なのだ。導かれる答えに、背筋がゾワリとするのを感じる。


(お前さん。地球の技術でコレは作れるのか?)

 

「一応外見だけなら作れると思う。でも、完全なアンドロイドは無理だよ」


 つまり、因果は俺が来た時代よりも遥か未来にあるのだろう。

 過去に遡ったという初代勇者。タイムスリップの前例はあるが。むしろ、未来から与えられた超技術と考えるのならば、腑にも落ちるというもの。


 将来、地球に一体何が起こるんだ。一つを知るにつれ倍々で増える謎に頭は思考の海に沈みかけ。


「うおっ……ツカサ!」


「はっ」


 普段とは立場が逆になり、イグニスの声が意識を現実に引き戻した。

 突然の大声に、つい顔は赤髪の少女を向くのだけど、それが良くなかったようだ。ふと腕から重さが無くなって、室内にカンと高い金属音が響く。


 なんて間抜け。俺は聖遺物を床に落としてしまったのである。よりによって枢機卿と聖女の前で信仰対象を傷つけるなんて最悪だ。


「ぎゃーごめんなさい。悪気はないんです!」


「い、いや。それよりも司くん、痛くはないのか?」


 慌ててしゃがみ込み、足元のドクロちゃんを拾おうとした。しかし、不思議なことに両手はがっちりと聖遺物を掴んでいるではないか。その様子を見てやっと理解をする。落ちたのは腕の方だったのね。


(す、すまん。儂も気が逸れておった……)


「なんじゃこりゃー!」


 体とは現金なもので、怪我を自覚したら急に痛みが襲ってくる。止血をしようにも両手が無く、ただ噴き出る血に困惑することしか出来なかった。


 どうしましょ。イグニスへ空笑いを向ければ、怖い顔で後ろに引き倒されて。彼女はそのまま、なりふり構わずに床へと飛び込んだ。目当ては当然に聖遺物と腕。しかし取ったと思う直前に、ドクロはひょいと宙に浮かんでしまう。


「なるほど。虚空に収納していたのか。更に鍵は聖者の祈り。これでは悪魔も手が出せないわけだな」


 そこには、闇と見間違う漆黒の鎧が立っていた。

 俺は目を疑いたくなる。どうしてこの男が大聖堂の地下に現れるというのか。追っていたのは悪魔のはずなのだが、予想だにしない大物が釣れてしまったらしい。


「モア、なんでお前が!?」


「君はまず腕を治せ。出血で死ぬぞ!」


 魔女は立ち上がろうとする俺を叱咤。なんとか拾えた両腕をポポンと投げつける。

 パスされたのは聖女様だ。おばあちゃんは、酷い絵面にも狼狽することなく、すぐさまに腕を添えて祈ってくれて。


 これが司教の神聖術か。切断された箇所がなんとほんの数秒で綺麗に繋がってしまう。動作も違和感が全く無い。薄気味悪さを覚えるほど完璧に元通りであった。


 言葉が伝わらないなりに、どうもありがとうと頭を下げる。ニコリと微笑んでくれる老婆は、しかし俺の顔を見て、一瞬とても恐ろしい物を目撃したような表情をしていた。


「さて、困ったな。囲まれては戦うしかないか。まったく抜け目がないお嬢さんだよ」


 この部屋の出入り口は一つ。聖遺物を奪うために部屋の真ん中まで踏み込んだモアは、もはや袋のネズミだ。イグニスは火炎槍を手に持ち、漆黒の鎧へと突きつけて。脇を俺とウィッキーさんで補助をした。


 この形に持ち込めたのは、何と言っても魔女の最初の一声が大きいだろう。襲撃を警戒し、出入り口を塞いでいたからこその功名だった。


「私が潜んでいるのに気が付いていたのかい?」


「まさか。でも敵の攻撃はあると考えていた。ウィッキー、この地下墓地には隠し通路でもあるんだろう」


「……うむ。むしろ出口なのだが、王家の避難路として城と繋がっている場所がある」


 悪魔の策は、聖女にニセの天啓を下しておびき寄せること。

 けれど相手を誘導するのは受け身の作戦だ。イグニスは失敗を見越し、もう一押し何かあると考えていたらしい。


 その答えが隠し通路。ああ、近くに伏せて聖女を攫う算段だったと。建物の間取り図など何に使うのかと思えば、ソレを探っていたのか。


「奇襲じたいが読まれていたか。流石はエルツィオーネの血筋だな。私は君らが本当に苦手だよ」


「それはどうも」


(おっ、さては被害者か?)


 モアは確かに伏兵が居たと、隠し通路を使ったことを認める。どうやら、城に荷物として運ばれた時に偶々存在を知ったらしい。


 なので町で悪魔が暴れ始めたこのタイミングにショートカットとして利用したようだが。分からないのが目的だった。悪魔を狩ると言っていった男が、なぜ聖遺物を狙うのやら。


 イグニスも疑問に感じたようで、声を強めて何故だと問う。モアは片手でポンポンとドクロをお手玉しながら答えた。


「簡単なことだ。悪魔の目的を押さえてしまえば、むこうから私の前に現れるだろう」


「確かに効率は良いな……」


 以前、モアはどうやって悪魔を探すのかと考えたことはあった。その時は、独自の判別法でもあるのかと思ったけれど。ゴールに立っていれば、追う必要も無いというわけか。どいつもこいつも冴えていやがるね。


「勝手なことを言わないでもらいたい。それは我が国の宝だ。貴殿が誰あれ、渡すわけにはいかぬな!」 


「本当は、少し借りるだけのつもりだった。しかし、聖遺物とやらの正体が座標0であるならば話は別だ。これは神聖とはかけ離れた物体。こちらから繋がるという事は、むこうからも繋がるという事なんだぞ!」


(その骸骨が座標0じゃと!?)


 返すわけにはいかない。モアの発言は交渉の決裂となり、即座に戦いの火蓋が切って落とされる。鎧を漆黒に染めていたのは奴の魔力か。彼の体表が白銀に戻ると同時、手には黒い大剣が握られていた。


 無造作に振るわれる横一閃。それは3人を同時に切り伏せる恐ろしい太刀筋で。

 させるかよ。俺は攻撃に飛び込み、渾身の力を込めて刃を合わせる。黒と黒の激しい衝突は、光も生まずにただ鈍い音を響かせた。


「ほう。私の剣を逸らすとは見事。しかしキトから聞いた通りだな。ヴァニタスと闘気なんて、誰かを思い出して吐き気がするよ」


「化け物が」


 なんて剛腕だ。奴は軽く振っただけなのに、剣を通して手が痺れるほどの衝撃がやって来た。俺たちの頭上を走った刃は、放つ剣圧だけで壁に深い亀裂まで刻み込むではないか。


「ウィッキー、合わせろ!」


 生まれた僅かな隙を逃す二人ではない。

 モアの空振りに合わせて火炎槍が振り回された。イグニスの突きは、破壊力あれどキレがいまいちで。

 

 ヌルイと剣を振るまでもなく見切ってみせる鎧の男。だが、そんな余裕の態度も長くは続かなかった。足取りが目に見えて鈍る。ウィッキーさんが風魔法の風圧で拘束したのである。


「なるほど、【軍勢】の最大戦力か。滅茶苦茶な存在だ」


 あわよくば決まれと願うのだけど。この程度で倒れるのであれば、奴は三大天を名乗れはしまい。


 仮面の男は、その力量を初めて目の辺りにして舌を巻く。力任せに拘束を引き千切り、灼熱の矛を斬り飛ばして見せたのだ。


「まさか、これっぽっちで私を倒せるとは思っていまいな?」 


「当然だろ」 


 とはいえ、奴は左手に金属ドクロを抱えている。片手を使わないハンデを貰いながら、この差とは。少しばかり悲しくなるね。



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