表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
482/602

482 お世話になります



 悪魔にアサギリさんだけは助けてくれと乞われた俺たち。だが、3人の意見は一致し、まるごと救うことを宣言する。


「大丈夫です。俺たちで必ずウィッキーさんも助けます」


「違う。それでは意味が無い!」


 男は反論をした。狙われるのは自分だけだから、アサギリさんの核を引き取って欲しいと言うのだ。


 理解は出来る。仮にウィッキーさんが襲われた場合、その場から動けないギャル幽霊には逃げる手段も存在しない。だからこそ、自身が悪魔であると晒してまでスマホを託そうとしたのだろう。


「けど!」


 それが最善の手であろうと、理屈ではないと感じる。

 二人の関係性は俺とジグに似ていて。どちらにも欠けて欲しく無いと思ったのだ。上手く言語化出来ぬ感情に、言葉尻だけ荒げれば。熱くなるなとばかり、魔女が手で遮ってきて。


「実は感情論じゃないんだよ。貴方に死なれると転移の儀式が出来ない。だから守り抜く必要があるんだ」


「むっ……」


 イグニスに、アサギリさんを日本へ帰すのだろうと詰められれば、仮面の男も首を縦に振るしかなかった。


 存在を魔力に依存する幽霊ギャルにはタイムリミットがある。彼は徐々に薄れゆく彼女を助ける為に、異世界転移などという大それた事を計画するのだから。


 けど、そうか。ウィッキーさんの存在は、俺にも直接的に関係をしていた。そう考えると警護は最重要ミッションとも言えるのだ。


「ほらぁ!」


(おっ援護射撃で急に強気に)


「考え直した方がいい。状況は最悪だ。私の味方をするということは、聖国と三大天を敵に回すということだよ」


 ならばと仮面の男が提案するのは、儀式の引継ぎだった。いまの内にイグニスへ、全ての資料を開示すると言うのだ。


 赤髪の少女は興味はあり気に話題に食いつき。後学のために教えて欲しいと受け入れる姿勢を見せるが。


「神聖術ほど不可能ではないが、それでも私では難しいな。ただでさえ星辰魔法は、地脈魔法の上にある。理論だけでなく、正確な星の巡りに、土地勘すら必要だろ」


 慣れない魔法の流派と異世界転移という未知の技術。今から学んでも、時間足りず実行には不安が残る。魔女にすら、そう言わせるほどの難度らしい。


 いや、それもそうか。ダングス教の司教の知識を引き継ぐ男が、ただ一度の魔法のために半年以上の準備を重ねているのだった。


「むう。儀式の日程が動かせないのは困ったものだな。なんとしても日食の日までは生き延びなければならないか」


「謝ったら許してくれませんかね」


 俺はガリガリと頭を掻きむしる悪魔に言う。

 天啓の件で国がピリピリしているのは確かだが、相手は聖職者。ごめんで許してくれないかなと思っていたら、考えが甘いと怒らせてしまう。イグニスやフィーネちゃんまで呆れ気味だ。


「身分の偽りは大罪なの。悪魔が司教に成りすましていたとバレたら、平時でも即処刑だと思うな」

 

「そもそも、バレないものなのか? 神聖術が使えないなら、式典とかどうしていたんだよ」


 20年も隠し通したのだから、最後まで隠せと魔女は無茶を言う。

 出来れば苦労しないと、声に若干のイラつきを見せるウィッキーさん。落ち着こうと思ったのか、手が机上を彷徨うが、そこにはまだ茶も置かれていない事に気が付いた。


 これは失礼と、手早く台所からお盆を持って戻ってくる彼。

 目の前でカップにお茶を注いでくれるのだが、湯気を立てる液体はドギツイ紫をしていた。ハーブティーだそうだ。そういえば庭に鉢植えが沢山あったな。


(うわっ不味そ)

 

「にょわ」


 口を付けた勇者が眉間に皺を作っている。どうやら、かなり苦かったようだ。

 俺も覚悟を決めて飲んでみるが、うん。草だね。青汁を飲み慣れているので、このくらいなら平気だけど。

 

「枢機卿という立場的に組織運営の仕事が主なんだ。それに魔石症は魔力で悪化するからと、周りも手を貸してくれる。私が生きていられるのは、この体の人徳だよ」


 病気の件は生前の時から周知の事実だったようだ。そんな恵まれた環境だったからこそ、ウィッキーさんも期待に応える為に仮面生活をしていたのではないか。


 しかし、悪魔を炙り出すとなれば話も変わる。率先して神聖術を浴びて、身の潔白を証明する必要があるのだと。一般人にはノーリスクな判別法だが、本人にはまさしく死活問題だった。


「ああ、主要人に混じって会議に参加していたんだものな。国の動きは筒抜けっていうわけだ」


「事実だから否定はしないが、棘のある言い方をしてくれるね」


 まさしく情報を悪用しているわけで、もはや立派なスパイだなと仮面の男は鼻で笑った。

 初期は城や大聖堂などの重要拠点を中心に、ローラー作戦で判別を行うらしい。そして最終的には、広範囲に及ぶ儀式で一気に浄化する方針のようだ。


「各教会への伝達もあるから、後者は時間が掛かる。とはいえ、悪魔は霊脈に寄生する魔力だ。神力を流されれば必ず反応があるだろう」


「流石に的確な動きだな。逃げられないという意味は分かったよ」


「聖職者の数が多いからこその作戦。聖国の面目躍如って感じですね」


 素直に褒め称えるイグニスとフィーネちゃん。そうだろうと頷く仮面の男は、発案者は私だと言って、見事に二人を固まらせる。引き攣る笑みの彼女たちに代わり、俺がバカかと突っ込んでやった。


「自分で首絞めてるんじゃん!」


「しかしだね。逃がしたら大変なことになるだろう。確実性を考えるならば、このくらいの規模でやらなければ意味が無いのだ」


(カカカ。面倒くさい奴じゃなコイツ)


 聖職者として的確に悪魔が嫌がることを計画した結果、自分の逃げ場も亡くしたらしい。

 理念に従い職務を果たしたのだろうが、自殺願望でもあるのかと思うくらい間抜けな話である。


 そして一番の不安要素はと切り出すウィッキーさんだったが、無事に再起動した魔女に台詞を横から奪われていた。


「モアだな。この国の領土はたいして広くないとはいえ、一人で全てを探せるとも思えない。ならば情報か、独自に悪魔を見つける術を持っていると考えるべきだ」


 近くに現れたのは偶然ではないのかもと、恐怖を煽る様に言われる。

 行方を暗ませた魔王軍幹部。国一つをひっくり返す戦力が、今も己の首を狙って彷徨っていると考えれば冷静でいられなくなる気持ちも分かった。


「一体どうすれば……」


 右も左も敵だらけ。それでも生きろと言われ、途方に暮れるような声がする。これには、さしものイグニスも明確な答えをすぐには出せない。


 会話が切れて、ズズリと茶を啜る音だけが響く居間。俺は机に置かれたスマホを見ながら、一応アサギリさんも家から出れるんだよなと考えて。


「とりあえず、二人とも館に来たらどうですか?」


「ツカサにしては良い案だね。纏まっていた方が守るのは楽だな」


 いいのだろうかと悩んでいるウィッキーさんは、勇者の後押しを受けてギャルに相談をする。当初は俺との同行を拒んだ彼女だが、仮面の男も一緒となれば心変わりをしてくれるようだ。


「美咲。司くんが、私にも避難をしろと言ってくれている。しばし家を出るが、構わないね?」


(もちOKだって。も~最初から素直にそうしてよね~)


(カカカ。喧しくなりそうじゃな)


 善は急げ。ウィッキーさんは、トランクケースに荷物を詰め込んで。夜逃げさながらに家を出た。雨はいまだシトシトと続くがピークは越えたようで、ぬかるむ地面に出来た水たまりを馬車の車輪が切り裂き進む。


 すっかり話し込み、館に着く頃には深夜になってしまっていた。

 それでも大聖堂での不穏な事件の後。居間の暖炉には火が残り、みんなが起きて待っていてくれたようだ。


「ああ、やっと戻ってきたのね。ご飯は食べてきたのかしら?」


(これからお世話になりまーす。シクヨロー!)


 代表して迎えに出てきた雪女は、フィーネちゃんのお腹を通り抜けヌゥと現れる幽霊に黄色い瞳を真ん丸にして固まった。キャーとつんざく悲鳴。何事だとすぐさまに武装して現れる勇者一行。


 枢機卿は説明をする間もなく、謝り倒し。なんで君はそうなんだと幽霊に説教を始める。

 ギャルは怒られているというに、微かに口の両端を釣り上げていた。もしや彼女がふざけるのは、お小言さえ嬉しいのだろうか。


 どう思うと、魔王様を探すが。定位置の頭上にはおらず。ここじゃよ、と声がしたのは俺の腹からであった。真似するな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お茶目な魔王様に、つい吹き出してしまいました。カカカ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ