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478 大聖堂にて



 はい。というわけで、本日は教皇様にお呼ばれして大聖堂へとやって参りました。

 ある意味はシェンロウ聖国の核となる場所らしく、始まりの勇者誕生の地として代々マーレ教の大司教が治めているそうである。


「うっひゃー、こりゃすげえな。城もこのくらい立派なのか?」


「まさか。お城の方が全然大きいわよ」


「まじでか!?」


 巨大な建造の中を歩く狼少女は僧侶に言われ、その高い吹き抜けを見上げながら、ははあと文化的衝撃に浸る。まぁ気持ちは分かる。俺も初めてランデレシアで城を見た時はデカイとしか感想が言えなかったものだ。


 リュカも大きなだけの建造物であれば、浮遊島の軍事基地に入っている。けれど、アソコとは比べものにならぬ程に装飾は凝り。何度か城へ足を運ぶ俺ですら溜息が出るほどに美しい。

 

 確かにお金の掛かっていそうな場所。フェヌア教など教会とは名ばかりで、道場かと思うくらいに見栄が無いから少々意外ではあった。これも王が聖職者である影響だろうか。


「こら君たち、観光に来たんじゃないんだぞ」


「そうですね。この先に猊下も居らっしゃるんだし、もう少し気を引き締めてください」


 余所見をしていると、リュカ共々にお叱りされてしまう。

 その辺り、他の勇者一行は慣れたもので。案内される道中も豪奢な建物に気圧されることなく胸を張って歩いていた。


「勇者御一行様、ご到着です」


 長い廊下の果てに辿り着く大扉。両脇には剣を差した人が待機していて、扉はガゴンと重そうな音を立てて開かれていく。建物の入り口にも警備の姿があった。流石に魔王軍の出現情報があっては、厳重にならざるを得ないのだろう。


「こりゃまた壮観ね」


 珍しくカノンさんの声に緊張がみてとれる。祭壇のある部屋の内部は、むしろ歴史を感じるシンプルなもので。では何にと青髪ポニテのお姉さんの視線を追う。


 目が向かう先は、すでに集う参列者たちであった。

 ひときわ大きいざんばら髪の女性に、背高のっぽな仮面の男性。見覚えのある姿も混じるだけに、その集団がなんなのかは一目で分かる。


(三柱教の司教共か)


 そう。急段に至り、神に近づく者たち。スヴァルさんの隔絶たる実力を知っているので、同レベルの猛者が肩を並べる姿はまさに圧巻だ。


「5人か。流石にシェンロウ聖国。ずいぶん数が多いわ」


「そうなんだ」


「ええ。一般的には国に2~3人と言われているのだわ。それも謁見に行ったのが一昨日の話。恐らく近場から呼んだだけでこの人数なのでしょうね」


 雪女も感心の溜息を溢していた。まぁ司教の数は信仰の厚さのようなものだろう。一応、他の国にも存在はするようで、シュバールで勇者一行を癒したのも司教だと聞かせてくれて。


「おお、無事に到着してなにより。戦装束もまた勇ましいな勇者殿」


「これは猊下。本日はお招き頂きありがとうございます」


 お喋りの時間は終わりか。教皇が周りにゾロゾロと騎士を引き連れて挨拶に来てくれる。

 言葉の通り、俺たちは不作法にも武装をしていた。迎えの提案を断り、自力で来たからだ。そりゃ魔王軍が怖くて出歩けないなんて、情けなくて言えないよね。


「調査の進展は如何でしょう?」


「うむ。其方の進言通り、モアらしき存在を確認したと報告があった。誠に助かっておる」


 教皇は後手に回らなくて良かったと豊かな髭を擦った。そして近衛兵から資料を渡され、詳しい事情を聞かせてくれる。


 やはりあの鎧姿は目立つようで、街中で歩く所を兵に発見されたらしい。その後、尾行して隠れ家を発見。ただし使い捨て前提だったのか、冒険者の使う安宿で。上級騎士が包囲して突入するも、すでにもぬけの殻であったと。


「鎧一式を押収したそうだが、聞き取りをしても誰も素顔を知らんので、そこから捜査は難航しておるようだな」


「……ジグ、どう思う?」


(オホン。では言わせて貰いましょう。バッカモーン、そいつがモアじゃー!)


 どうやら物に擬態して逃げたらしい。確かに知らなければ中身が居ると思うだろう。けれど彼は伽藍の動く鎧なのだ。俺は上手くやりやがったなと目を覆った。


「なるほど。実はこちらもモアと接触した者が居まして」


 ツカサくん、と勇者の碧の瞳が俺を見る。説明を代われと言われて一瞬焦るが、意図はほんのりと伝わる。鎧さんは被害を出さなかった。だから渡す情報は俺が選んで良いという事だろう。


 教皇の前に出てランデレシア流の挨拶をする。正直なところ、これは時間稼ぎで。短い間でなにを話すかと必死に考えた。


「モアの目的は悪魔狩りと申しておりました。敵対勢力【深淵】の手勢が既に侵入しているので、ソレを討つと」


 やんわりと鎧さんの敵意が薄いこと。それより厄介な奴が潜伏していることを話す。俺に出来る義理はここまでだ。


 聖国に悪魔が居るという情報に、教皇は大いに嘆く。舐められているようなものだから当然だなと思うのだけど、彼にはどうにも心当たりがあるようだった。


「そうか。魔王軍がこの国を狙う理由など一つだ。問題はどこで漏れたかだと思うたが、とっくに探りが入っていたのだな……」


「猊下には思い当たる節があるのですね?」


 目敏くフィーネちゃんが質問をしてくれる。ある、とキッパリ宣言した教皇は、祭壇を見ながら跪き。今日俺たちをココに招いた理由もそれだと言った。


「大聖堂では聖遺物を保管している。一重に我が国が存続出来たのは、その物の存在が大きい」


(ほほう。聖遺物なぁ)


 イグニスからすらも息を漏らす音が聞こえた。それほど表には出ない極秘の話だったのだと思う。


 シェンロウ国の王が宗教に傾倒したのは、混沌の脅威から逃れられたからだと聞いたことはあるが。教皇の口から、それは全てでは無いと明かされた。


「我らは天啓と呼ぶがな。マーレ教の大司教は聖遺物を通すことで、僅かな時を遡って言葉を送れるのだよ」


「起こった事実を知れるならば、預言を通り越して、もはや未来予知。まさか本当に出来るとは……」


 前回、天啓と聞いた時点である程度の推測をしていた魔女。それでも改めて可能だと言われると驚愕をせずにはいられぬようだ。


 さすがに聖遺物が何か、とまでは教えてくれないのだけど。今日の趣旨は大司教に未来を訊ねてみようというものらしい。魔王軍幹部に悪魔の存在まで浮上して混乱気味な現状である。興味深い話ではあった。



「ははっ、未来と来たか。滅んじまったって言われたらどうするんだ?」


「そうならない様に動くんだろ。ちなみにお前は今死んだぜ」


 不謹慎なことを言ったヴァンは、ポンポンと僧侶に肩を叩かれて。えっと振り向くや決まる締め技。修行の成果か見知らぬ型だ。首をゴキュリと捻られ物言わぬ死体が出来上がる。南無。 


 挨拶もそこそこに、俺たちは長椅子に座って待機をしていた。マーレ教の大司教である聖女様とやらが儀式の準備を進めているらしいのだ。


 厳かな場だけに小声での会話も良く響く。極力音を立てずに静かに待ち。やがてリュカがカクンカクンと舟を漕ぎだす頃、祭壇へと華美な青い衣を纏った女性がのそのそ登っていく。俺はその姿に目を奪われながら思ったものだ。


「ババアじゃん」


(カカカ。お前さんも口が軽いのう)


 慌てて口を塞ぐが手遅れだったらしい。イグニスが首を掻き切る仕草をするや、ニッコリ笑顔のカノンさんがそっと顔へ手を回してきて。体の内側から鈍い音を聞いた。


 はっ、どうやら意識が飛んでいたようだ。気づけばババア、いや聖女様が祭壇で詠唱をしている姿が目に入った。


 あれも神聖術なのか、頭上に青く輝く魔法陣が展開している。そこから滴る微小に煌めく魔力を、雨でも浴びるように両手をかざす背があり。


 区切りは、ふぅと漏れる小さな溜息だった。今ので儀式は終わったのか、聖女様は祭壇に向けていた顔をクルリとこちらに向ける。すかさずに教皇が「それで」と結果を尋ね、果たしてどんなメッセージがと俺たちは固唾を飲んで見守った。


 何かを言うが、ああ言葉が違うのだ。会場にどよめきが走り、マルルさんが苦々しい表情で通訳をしてくる。


「天啓は、無いそうだ。意思を送る前に私は死ぬのだろうと……」



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