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411 別行動



「行けばいいんでしょう、行けば!」


 やけくそ気味に宣言したフェミナさん。決意を新たにし、彼女は勢いのままにこう言った。「それで、どうやって手帳の古代文字を解読するの」と。


 うん。当然の疑問だろう。

 文字が読めれば、そもそも困っていない。もはや扱われぬ言語だからこそ内容は謎に包まれているのだ。


 期待の眼差しが魔女に集まる。赤髪の少女はそんなことかと肩を竦め、分かれば苦労しないだろと開き直っていた。オラァとリュカの頭突きが炸裂する。致し方なし。


「うう、痛い。いちおう解読は進んではいるんだ。フェミナが簡単な文字を読めるのは大きいね」


「まぁイグニスが無策なはずないか」


 俺はなんだと胸を撫で下ろす。暗号ではなくれっきとした言語なので、パターンさえ理解出来れば読めるだろうとのことだ。


 額を撫でるイグニスは、ただしと注釈をする。文字の解読が終われば、次は文章の解読になる。どう考えても時間が足りないから、もう一人知恵者が欲しいねと。


「おっと俺の出番のようだ」


(しゃーないのう。知恵、貸したるかぁ)


「黙りなさい」


 せっかく協力を申し出たのにバサリと一刀両断されてしまう。悲しい。けれどリュカとフェミナさんは当然とばかりの反応で、誰も励ましてはくれずに話が進んでいく。俺はいじけて地面にのを書くののの。


「そこでレルトン教授に協力を頼もうと思っているんだが。彼に手帳の存在を明かしてもいいだろうか」


「あの軽い男ね。まぁ知識は本物みたいだし、別にいいんじゃないの~」


 冒険家のレルトンさんは歴史学を専攻している教授である。言わば歴史のプロで、深い知識を披露してくれたものだ。確かにこれ以上は無い人選かもしれない。そう考えていると、リュカがいや待てと話を遮る。


「人手が欲しいなら、調査隊のやつらにも協力して貰えばいいんじゃねえか」


「そうね。あの金髪の子達もいるじゃない」


 フェミナさんは本当に開き直ったようで、過去を知れるなら手帳を公開して構わないとまで言う。二人の意見は正論だと思ったのだが、魔女は止めておこうと首を横に振った。


「この国は禁忌に触れすぎている。明かすなら手帳の内容が解読出来てからのほうが無難だよ」


「……全部、明らかになればいいのだけど」


 フェミナさんは帽子の下に隠す小さな角を撫でていた。確かに何が書かれているか分からないのだから、あまり公にしない方がいいのだろう。


 調査隊には騎士団や魔導士団が居る。正義を担う立場故に、見過ごせない悪もあると思うのだ。


 イグニスが会議の場所にわざわざ狭いカマクラを選んだのは、プライベートな話だからだと思ったけれど、外部に漏れて欲しくない話だったのである。


 そして、ふと顔ぶれを見渡して気がついた。魔王、人狼、淫魔に魔女。

 なんだこれ。俺たちは勇者一行どころか、まるで魔王軍のような面子なのであった。ここは悪の秘密基地かな。

 

「となると明日から調査隊とは別行動か」


(金髪ドリルさんと別れるのは寂しいのう)


「ああ。教授が合流するまでは、私たちも独自に神殿の地下を捜索しよう。出来ることはやらないとね」


 まぁぞろぞろと団体で行動するよりも効率は良いのだろう。昼は遺跡の捜索、夜は手帳の解読と、作業が山積みなのだけど、イグニスの声はどことなく弾んでいる。


「でもオッチャン達さ、来るの少し遅くないか?」


「言われてみれば……」


 待つ側なのがすでにおかしい。こちらは金髪ドリルさんを拾った一連の流れで、かなり時間を浪費しているのだ。それでもなお、俺たちが先に到着した事実。今のところ、思い当たる節があるとすれば一つか。


 砂漠で見つけた足跡は三つ。金髪ドリルさんとメイドちゃん以外にも、誰かが浮遊島に来ているのだ。その謎の人物がレルトンさんと一緒に居る可能性は高いと思う。


 なにせ足跡は西に向かっていたはずだが、まだこの町に到着していない。俺たちが着いた時、積もる雪に痕跡が無かったからだ。


 俺は確認を求めるように魔女をちらりと見る。同意するように、細い顎がわずかに引かれた。


「向こうにも何かあったのは間違いないだろう。それが幸か不幸かは分からないがね。だから今出来るのは、到着を待つくらいだよ」


 時間が経てば、もう一組の冒険家もじきに町に到着するだろうと。なかば忘れていたけれど、そんな人達も居たな。


 とにかく、情報はまだ追加でやってくる。浮遊島が山脈から離れるまでに、なんとか歴史を解き明かそうと意気込みを見せていた。


 イグニスの言葉に応と答える俺とフェミナさん。けれどリュカの返事がない。見れば、狼少女は熱に浮かされたようにボーっとし、息遣いが荒かった。


「おいリュカ、どうした?」


「ハァ……ハァ……。いや、なんかさ」


 灰褐色の髪の少女はボソリと告げた。この中、臭いと。敏感な鼻を持つ者の言葉に、全員がドキリとした。


 しょうがないのだ。ずっと野営しているんだもん。そりゃ毎日拭いているけれど、お風呂には入れないし、体臭を誤魔化す香水もつけられないし。その、ごめん。

 

「ツカサ、ちゃんと清潔にしないとダメだぞ?」


「ぐぬぬ。自分は綺麗です、みたいな顔しやがって。足嗅がせてみろよ」


(そこで足にいくな!) 


 責任の擦り付け合いが始まるのだが、リュカが臭いと言いながらクンクンと鼻を押し付けてくるのは俺だった。ガビンとショックを受けると同時、無罪判決の女性陣は露骨に安堵の顔を浮かべる。くそぉ。


「いや、待て。それにしてはリュカの様子がおかしいな」


「ん?」


 イグニスは、まさか発情しているのではと、呆れた顔で言った。体調の変化を自覚しない少女は、目を潤ませながら首を捻るばかりだ。


「なんだ。フェミナさんのせいか」


「ちょっと、私の力は男にしか効かないわよ~」


「つまりそういうことだ。本当に発情してるのは君の方だろう、おおん!?」


 赤い瞳が蔑視を向けながら、ゴリゴリと頬に拳を当ててくる。やめろ、興奮しちゃうだろ。発情とまではいかないが少しだけムラムラしているのは事実だった。


 巨乳のお姉さんが目の前で前屈みに座っている。俺の視点では、どうぞ覗き込めとばかりに乳が放り出されているのだ。ガン見は失礼だと思い視線を外すのだけど、引力でも発しているのか、いつの間にか見ているのだった。


「ちなみに気付いていたからね~?」


「えっ!?」


「そんなだらしない顔してバレないと思っていたのか!」


 イグニスの見解だと、男の発情した匂いに発情。あるいは、淫魔のフェロモンが合わさった影響だろうとのことだ。どちらにせよ狭い閉鎖空間が良くなかったらしい。ちょうど話の切りもいいので、解散と手が叩かれた。



「オホホ。今日はそちらは別行動なのですって? 貴女に魔法錠を開けられるのかしら」


「朝から元気だな、お前」


 寂しいのか金髪ドリルさんが絡みに来ていた。神殿は地下への入り口が一番近いので、そこまで調査隊と一緒だったのだ。


 冷たくあしらわれる令嬢は、負けずと何個開けられるかと勝負を売る。その姿を見て、挑発するのは興味を引くための手段なのだなと。ツンデレの心境を察する。


「ヴィス嬢はああいいますが、こちらは壊せるならドンドン壊していこうと思います」


「ああ、セリューくん。昨日は葡萄酒ありがとうございました」


 調査隊も昨日の人体実験された遺体を重くみたらしい。いままでは素直に解錠を試みていたけれど、崩れそうにない場所はぶち破るのだとか。


 有言実行でドカンと衝撃音が響く。地下道を覗けば、さながら爆発物処理班のように土壁でバリケードを作る魔導士の姿。早くも今日一つ目の扉が開かれたらしい。


「最初からあれじゃ駄目だったのかな」


(であるなー。真面目に開けるのが馬鹿みたいじゃ)


「なんて事を言うのです。環境は残すに越したことはないでしょう。それに地下です、崩落を考えると、魔法を使える場所は限られますね。はい」


 愚痴を聞かれて学者に怒られてしまった。なので金髪ドリルさんの解錠仕事は変わらないようだ。また後でと、調査隊と別れ。俺たちも複製した地図で地下道を進んでいく。


 素晴らしい事にマッピングは完璧。直通で来ただけあり、合流するまでの時間で地下道の調査は終わらせてくれていた。地図には何処に出るかや、魔法錠の扉の位置まで記されている。


「あれ、この印はなんだろう?」


「そうだね。近いし行ってみようか」


 完全に勘なのだけど、俺たちは東の方向に向かっていた。理由をつけるなら、南の建物は倒壊していたので、それ以外という感じか。


 広い通路を4人横並びで歩いていると、階段でも無い魔法錠でも無い印が結構ある事に気が付いた。チェック済みなので新発見ではないけれど、興味が出て寄ってみることに。


「なんだよ。普通の扉じゃねえか」


「だからあまり気にしてなかったんだろうね」


 どう考えても魔法錠よりグレードの落ちる木製の扉だ。通路を調べる途中で確認はしたけれど、重要度は低いとみて後回しにしたのだろう。


 せっかく出し覗いていこうよと、俺はノブに手を掛ける。ぐぬ。回らない。こちらも生意気に鍵が掛かっているようだった。面倒くさいので蹴破ろうと思った矢先、待ってとフェミナさんが前に出て。


「そういえば言って無かったけど、私の特技はスリと鍵開けよ。こんな簡単な構造秒殺だわ~」


 ガコンと鍵が回る。おまわりさんこいつです。



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