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315 馬鹿な奴ら



 ベルモアには地獄がある。ジグルベインにそう言われはするけれど、いまいちピンと来ない俺。魔王の居る世界だし、そこでは魔族でも暮らしているのだろうか。どうあれリュカを送り届け次第、急いでエルフの町に帰らなければならないので、今回は縁が無い話だと思った。


「あ、でも」


 けれども罰を甘んじて受けてもいい理由が一つだけある。もし地獄とやらが俺の想像通りの場所であり、何か手掛かりの一つでもあるならば。


「地獄に行けば、ジグを蘇らせたり出来るかな?」


(いや、出来ん。お前さんの想像する様な悪人の魂が落ちる場所では無いよ)


「じゃあいいです」


(別に行けとは言っとらんしな。それより儂が地獄確定なの酷くない?)


「お前に天国は無理だろ」


 魔王はその通りだと笑い飛ばした。自覚あるんじゃん。そして文字通りに地の檻こそ、この世界の地獄なのだと教えてくれる。


「どうしたんだ?」


「別に、景色に驚いていただけだよ」


 はて、では一体何を閉じ込めていたのか。そんな疑問が頭を掠めるも、狼少女が独り言を呟く俺を訝しむ様に眺めていたので、先を急ごうと川まで戻ろうとした。 


「おーい、そこの人達ー!」


 その時だった。何処からか人の声が響く。でも木に反響したので正確な位置は分からない。警戒をしながら声の出所を探すと、近くの丘の上から叫びながら手を振っている人影が見えた。


 荷車を牽いているようなので商人だろうか。安心した俺は、オーイと同じ様に手を振りながら叫び返した。


「お前さぁちょっと無警戒過ぎねえか?」


「そう? 商人ならリュカの町を知ってるんじゃないかと思ったんだけど」


「そりゃそうかも知れねーけどぉ」


 山賊だったらどうするんだとぶつくさ文句を言う少女。居るんだ山賊。しかし完璧に位置が割れてしまったので、時既に遅く。よっこらよっこらと坂道を降りてくる馬車を眺めていた。


(あ、あれは。カカカのカー!)


「わ、笑うなバカ」


 隣でジグが大爆笑するもので、俺は釣られて噴出さない様に腹筋に力を込めて下唇を噛む。何せ、大きな犬に荷車を牽かせるのは、頭に角を生やした鹿の獣人であり。隣を歩く護衛らしき獣人は馬なのであった。まさに馬鹿の組み合わせだ。


「おや、エルフかと思えば人間ですか。なら見た目通りの子供ですね。こんな場所でどうかしましたか?」


 どうやら俺たちをエルフと勘違いしたらしい。けれど鹿さんは子供だけじゃ危ないだろうと紳士的な態度で接してくれる。普通に話しの通じそうな相手だったので、こちらの事情を聞いて貰う事にした。


「この子が迷子なんです。ゴルベ村って場所を知りませんか?」


「なんと、それは災難でしたね。ゴルベ村なら知ってますよ。良ければ一緒に乗って行き来ませんか」


 瞬間、リュカが俺を睨んでくる。大丈夫だよ伝わった。鹿男は声は柔らかく話すも、目つきが完全に獲物を見る目だった。迷っていると話したリュカには目もくれず、俺の方を頭から爪先まで舐める様な視線で眺めるのだ。


 理由は明白。装備である。手ぶらな少女と違い、俺は鞄を背負っていて。腰には財布や魔道具のランタンまで持っていた。要するに値踏みされたのだろう。


「それは助かりますね。小金貨1枚でお願い出来ませんか」


「……おや、お礼なんてそんな」


 言葉で言いながら、鹿男は頭上の耳をピクリと動かす。分かりやすい事だ。

 商人ならば商売になれば裏切らないのでは無いか。安易な考えで交渉に出たのだけど、残念ながら彼らにはそうは聞こえなかったらしい。


「よせよせボガ。たかが人間のガキ二人だぞ。謝礼目当てで送るくらいなら、奪って埋めた方が早えぇよう」


「だー、どうしてお前はそう手が早いんだ。そっちの男は身なりが良い。金ヅルになるかもしれんのに」


「言わんこっちゃねえ」


 やれやれと呆れながら腰を落とすリュカ。どうやら護衛の男には俺が金を持っていると聞こえたらしく、坊や良い子だ金出しなと黒光りする棍棒を担ぎ上げた。


「一応聞くけど、お兄さん達は商人じゃないの?」


「私は商人だ。だから無理やり奪うなんて野蛮な事はしないよ。けれどまぁ、人間相手なら護衛の小遣い稼ぎくらいは見逃そうかな」


「うふふ。イグニスが近寄るなって言うわけだ」


 流石獣人の国。弱肉強食の世界である。或いは街中ならここまで堂々とカツアゲはしないのかも知れないが、人目が無ければ法も無いというわけだ。


 この商人にしても、奪う気は無くても騙す気はあったと。俺は不用心でごめんねとリュカに片手を上げて謝って。


「じゃあ遠慮はいらねーな!」


 問答無用で巨大な棍棒が振りかぶられていた。頭蓋に当たればホームランになりそうな、明確な殺意の籠った一撃だ。だが空振りをする。先に黒剣を抜き放ち獲物を両断したのだ。


「なっ、魔力使いですか。子供だけで山を歩くわけだ」


「騒ぐな。俺だって魔力くらい使える。人間のガキなんかに負けるわけがねーだろ!」


 馬はすっかり短くなった棍棒をポイと放り投げる。そして力の差を見せてやると言わんばかりに上着を脱ぎ棄て、筋肉逞しい肉体を見せつけた。獣人の魔力使いとなれば手強い相手だ。リュカは掛かってこいと喧嘩腰だが、武器も持っていないので下がっていろと手で制す。


「ひっひーん! 見ろ、この俺の俊足をー!」


「うわっ、キモ」


 思わず口からそう出てしまう。馬の獣人は、人馬族の様に四足の下半身を持つわけではない。外見は直立した馬の姿だ。足先こそ蹄だが、手は五本指。なんというか、筋肉マッチョが馬のマスクを被っている姿に近い。


 そんな生物が鼻息荒く全力疾走をしだした。腕をクロスチョップの様に交差させて体当たりしてくる。しかもそれが滅茶苦茶速いのだ。


 俺はあまりの迫力にひぃと悲鳴を上げて回避に専念してしまった。このキモさはゴキブリが速く動く不快感に似ていると思う。


「ふはは。あまりの速さに怖気づいたようだなー!」


「いや、まぁそうなんだけどさ……」


 脇を駆け抜けた馬面が大きくUターンをして戻って来る。助走がついた分か、先ほどよりも速度が乗っていた。今度はラリアットでもするつもりなのか、太い腕を大鎌の様に構えている。

 

 ふざけてはいるが威力を考えると脅威なのも事実。間合いが離れている隙に、喰らえと黒剣を投げつけた。風を切り空を走る漆黒の凶器。土埃舞わせ大地を蹴る馬。どちらも高速だからこそ距離は一瞬で埋まる。


「剣を、投げ!?」


 が、俺も当たるとは思っていない。姿勢を崩した後での魔銃が本命だ。さぁどちらに避けると反応を伺っていると、馬男はまさかに上に跳躍をして見せた。


 苦し紛れだが、戦い慣れを感じる選択だ。まだ10メートル以上は距離があろうに、速度と脚力に自信があるからこそ、飛び蹴りが届くと確信しているのである。


「ジグ!」


(あいあい)


「【闇の輝き光を照らす】【白に眩み、黒に潰れろ】」


 敵は自身を矢に変えドロップキックを放つ。なんだコイツは。プロレスラーか。迫りくる巨体に頬を引き攣らせながら魔銃の詠唱を終えた。幾ら速くても直線的な動き、まして空中ならいい的だ。そう思い俺は左手を突き出す。


「ぐぼっ!?」


「え?」


 まだ撃っていない。あろう事か馬面は高く飛びすぎて木の枝に顔面を強打したのだ。

 するとどうだろう。足裏をこちらに向けて飛んでいた相手は、空中で姿勢を崩し、尻を突き出す様に落ちて来た。


 対して俺はアレだ。左手の人差し指と中指をピンと立てていて。それは綺麗に。まるで指に座る様にズボリと。否。けん玉のけん先に玉の穴が戻って来るかの如く自然に収まった。


「ひ……ひひっ!?」


 既にご愁傷様という心境なのだが、未だ悲劇は終わらない。何せこっちは魔銃を放つつもりでいたのだ。幾ら止めようと思おうと、引き金を引き終わった後では全てが遅く。ズドンと黒い光が奔った。


「ヒヒ~ン!!」


「な、なんて惨い事を!?」


 衝撃で俺の指先に止まっていた馬が落ちる。もはや声にも成らぬのか、尻を抑えて本物の馬の様に嘶き地面を転がっていた。仲間がやられ鹿面は今度は自分の番かもと尻を隠してガクブルと震えている。


(うむ、命名しよう。名付けて魔銃肛殺法(まがんこうさっぽう)でどうだ)


「名付けるな名付けるな。もう金輪際使わんわ」


(えー折角の必殺技じゃぞ。ちなみ効果は黒き光が輝くとき相手(けつ)は死ぬ)


「俺、どうせならもう少し格好いい必殺技を開眼したいよ」


 ともあれ勝敗は決したようだ。俺はくるりと踵を返し、鹿に二本の指を見せつけながら、交渉の続きをしようと笑顔を見せた。


「で、小金貨1枚でいいかな。ちなみに村を知ってるって言うのが嘘だったら、分かるね」


「やだなー。友達を送るのにお金なんて取りませんよー!」


「調子の良い奴だぜ」


 とりあえず目的地までの足ゲット。やったなとリュカに手を伸ばしたら、汚いから洗えと真剣な顔で避けられた。……そうだね。俺もそう思う。



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[良い点] 魔銃肛殺法!(っ'-')』=͟͟͞͞========>
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