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281 キトの影響



 お粥を食べきり、ふいーと一息吐く。寝たきりで胃が縮んだか少量でも食べきるのがやっとであった。俺は膨らむお腹を撫で回しながら五日ぶりの食事に大満足だとお米料理を用意してくれたイグニスとドジ子さんに感謝を告げる。


「そうか、それは良かった。でも食事は毎日させていたよ。栄養は必要だし、胃から食事を取るのは腸が活発になったり健康に良いからね」


「はい。流動食を流し込んでお世話させて頂いてましたわ」


「あ、そうなんだ」


 俺はみんなに面倒を掛けていた事を知る。しかし同時におやと疑問を感じた。食べたら出るのが自然の摂理ではないか。ならば排泄の方はどうしていたのだろうと。


 やや確信的な閃きがあり、女性が多い空間で失礼かと思いながらもそうっとズボンの中を覗き込んで見る。やはりというか下半身には布のオムツが巻かれていた。新しい所を見るにきっと今朝も交換してくれたのだろう。俺は顔を両手で覆いながら、本当にご迷惑をお掛けしましたと謝った。


「気にする事ないわよ。こういう時こそ助け合わないとね」


「え?」


 部屋付きメイドとして世話をしてくれるドジ子さんに言ったつもりだったのだが、何故か隣に座るカノンさんがバシバシと背中を叩いてきた。俺はまさかと思いながらテーブルに座る面々を見渡す。視線の意図を察したのか女子達は見てない見てないと慌てて手を振った。一人を除いて。


「大丈夫。私は教会で赤ちゃんのおしめをよく交換していたわ。慣れたもんよ」


(赤ちゃんの頃と比べると本当に立派になったのう)


「だいたいお前、今さらだろう。ムカデ事件やサウナ事件を思い出せよ、この下半身丸出し野郎」


「うるせえヴァン、ぶっ殺すぞ!」


 その原因になった奴が何を言うのか。フォローというより追い打ちをかけてきた少年に八つ当たり気味に当たった。そしてウフフと生暖かい視線を寄越す僧侶と魔王から目を逸らすべく、俺は感情を殺し下を向いた。


「ツーくんの下半身の話はそこまでにしましょう」


「自分から振ってきたんだがな」


「イグニス、うるさい」


 ティアからオホンと咳払いが一つ。もうその話題止めようねと話を強引に本筋に戻してくれる。頼りになる子だ。ドジ子さんが呆れ笑いを浮かべながら食後のお茶を淹れてくれたので気分転換にと口に運び、ええと何を話していたかと思考を戻した。


「ツ、ツカサくんの……あうあう」


「フィーネ、その話は終わったの。キトの起こした行動が政権争いにも大きな影響を与えたってところなのだわ」


「そうそう、王様が決まったって話だっけ」


 調子を戻したのか、うんと頷くフィーネちゃん。魔獣のスタンピードとキトの襲撃の後、一番に政界を揺るがしたのはライエンの電撃辞任だったとか。


 ライエンと言えば宰相。王の右腕として手腕を振るう国のナンバー2だ。新たに王が変わるかも知れないという時によもや揃って交代するとは誰も考えなかったらしい。


「あの人なりのケジメという事なんだろうね。キトの存在自体は王も知る所だったけど、実力を見誤り国を存続の危機にまで追い込んだって責任感じてるみたい」


「……そう」


 それに伴い実質的に反勇者派は解体されたそうだ。もう存在が無意味なのである。特異点の破壊を拒み、今の水浸しの国を維持するだけでは駄目だ。国をより強固な形に変えなければならない時が来たのだと。


 先の言葉を使うならばライエンは。いやシュバール国は見事にキトの暴力に分からされてしまったという事だった。


「後は支持者が居なくなって存在が維持出来なくなったのもある。彼の大きな支援者は騎士団や魔導士団の上層部だ。けれど今のままでは戦力が足りない事を痛感し、一緒に戦ったアルス様や勇者の事を高く評価してくれているんだ」


「フィーネちゃんの正義を分かってくれたんだね」


「みんなが付いてきてくれたお陰だよ」


 勇者の行いがライエン達にも認められて俺は本当に嬉しかった。勇者だなんて肩書を背負わされてしまったばかりに傷つき藻掻く少女の苦悩。それが少しでも報われたならば良いなと表情が綻ぶ。


「でも、そう考えるとランデレシアの王様は先見の明があったよね。シエルさんと争わずに和解しようとしたんだから」


 三大天ならぬ四天王のシエルさん。あの人がもし本気で暴れていたら王都もこの有様だったのかと思うと肝が冷える話である。


 ラウトゥーラの森の探索で凱旋パレードは大袈裟だなと感じていたけれど、冒険から帰ったとか聖剣を持ち帰ったなんて功績より和平を結んだ事実の方が大きかったのかも知れない。


「当たり前だろ。この国にモアなんて伝説が残ってる様に、うちじゃあ【影縫い】は伝説だ。必要も無くそれと同格の奴を相手に出来るかよ」


「そうね。ラルキルド伯には土地を守り抜いた実績があるの。それに今回の件で誇張も無かったと証明されたみたいなものね」


 貴方はそんな伝説級に一人で挑んだのよと、遠い目をしたティアに言われた。それを言うなら知らずに挑んだ俺より、全部知ってて挑んだみんなの方が凄いと思うのだけど。


「話を戻すぞ。当然だが宰相の辞任は大きな波紋を生んだ」


 どうやらキトと戦った後にライエンに呼ばれ正式な謝罪を受け取ったらしい勇者一行。それで色々な情報を掴んでいるのだなと納得をするが、同時に情報を開示された人間が他にもいたそうだ。


 ズバリ息子であるディオンだ。彼はナハル王子の未来を考えて真剣に政権争いをしていた。そこに父親が反勇者派を組織し、今回の大事件を引き起こした犯人を匿っていたと明かされ、それはもうショックを受けたのだとか。


「どれ程かと言えば、国を混乱に貶めた責任を取って自害すると騒ぎだす程だ」


「ええ……大丈夫なのあの親子」


「大丈夫だ殿下が必死に止めたよ。それにこの話の面白の所はこの後さ」


 はっはっはと呑気に笑いながら語る魔女に、そうだね相槌を打つみんな。なんと政権争いをしていたディオンとナハル王子は、互いを王に推薦しだしたらしい。両者ともアイツの方が良く国を導けるだろうと。その話を聞いて仲良しだなと俺まで笑いが零れてしまった。


 ディオンの言い分はこう。今は政権争いなんてしている場合ではない。正統なる血筋のフルフィウス家に従い一刻でも早くラメールの都市を復旧するのだ、だって。


 自分が政権争いを始めた負い目があるのだろう。国が纏まる様に率先してナハル王子を立てたという。


 ナハル王子の言い分はこう。先を見て動いていたのはディオンのほう。これから先、国を発展させていくのであれば陸地の整備が急務になる。砦を築きランデレシアと連携を取るにはディオン主導であるべきだろう、と。


 自分が王に成れなくなるというのに、立場には固執せずディオンの功績を褒め称えたという。


 勇者一行の目標は反勇者派を倒して政権争いを清いものにするまでだった。ある意味は目標を達したのだけど、こんな結果になると誰が想像出来よう。


「これもキトの影響か」


「まぁ、そういう事だね」


 シュバール国に三大天が潜んでいる可能性が浮上した時にイグニスは言った。政権争いを早く終わらせて、国が一丸となり戦わなければと。しかしキトのあまりに早すぎる襲撃は順序を逆にしたのである。


 首都である町が半壊し、魔王軍の脅威が知れ渡った。今は割れている時ではないと、結果的に国が纏まろうとしていた。


「それで、どっちが勝ったの?」


「それはね……」


 俺の予想ではナハル王子が正式に継ぐのではないかと考えた。そして勇者が答えを発表しようとした所で意地悪魔女が待ったを掛けてくる。


「なあ、フィーネ。どうせなら教えない方が面白そうじゃないか?」


「んふふ。そうかも。じゃあ秘密」


「ええ~!? ここまで来てそりゃないよー」


 とか口では言ってみるが正直あまり興味は無かった。どっちが王様になろうとも、良い王様になるんだろうなって思ったから。




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