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205 スティーリア探検隊



 天井の低い小さな部屋で膝を抱えながら俺たちは今後の方針を打ち立てていた。

 なんだか屋根裏部屋での密会を思い出すが、あの時とは状況もメンバーもまるで違う。


 不慮の事故により俺達は勇者一行と逸れてしまったのだ。いや、荷物も無く正確な位置も分からぬ状況ではもはや遭難か。一緒にいるのは魔法使いのスティーリアさんと僧侶のカノンさんで。今は部屋に有った椅子を壊して薪とし、火を3人で囲んでいた。


「ウィンデーネを目指しましょう。なんかイグニスならそこに居る気がして」 


 俺の発言を聞いた雪女は黄色の瞳を真ん丸にしていた。一体どうしてそんな結論になるのかと言わんばかりだ。まあ俺でも無茶を言っている自覚があるので仕方ないだろう。


「そう。ツカサはそう思うのね。何故そうなるのかしら?」


 けれどカノンさんは意見を否定する事なく、何故そう考えたのかと理由を求めた。

 意外だがこの僧侶は話を纏めるのが上手い。ヴァンとかイグニスが一緒に居ると非常に役立つお姉ちゃんスキルである。


「ええとですね」


 たぶんですけどと前置きをして、ずっと一緒に行動をしてきた魔女の思考を読み取る。

 今頃地上では、それこそ狼煙を上げたりして俺達の事をとっくに捜索しているはずだった。それでも見つからない。だって俺達は此処にいて、返事の狼煙を上げる事も出来ないのだから。


「まあそうね。だからこそ早く地上に出て……」


「ですけどね。地上に出た頃、まだ俺達を捜索しているかなと」


 イグニスならば、三人の誰からも目印が上がらない事に必ず疑問を覚える。そして時間掛からず俺達が地下に迷い込んだ事を察するはずだった。


 ならば奴は地下への入り口を探すだろうか。いやいや。お互いに居場所が分からないならば、目的地を目指すだろう。特に今回はゴールであるウィンデーネが何処に居るのか不明なのだ。きっと途中で合流出来ればラッキーくらいに考え冒険を続けると思う。


「嘘でしょ。仲間と逸れて合流を第一に考えないなんて、そんな馬鹿な」


 非常識よと叫ぶスティーリアさん。やっぱりそうですかねと言いつつ、俺は半ば予想を確信していた。それを感じたのかカノンさんは意見がぶつかる前に先もってハイハイと手を叩き、俺と雪女の言葉を制す。


「つまり、まずは地上へ。それでも合流出来なかったらウィンデーネを目指す。此処で救助を待とうなんて意見は無くて、前進あるのみと。そうね?」


 これには二人ではハイと頷くしか無かった。場所が水没を免れた鉱山なのだ。食糧も無いのに籠る意味は無い。それは全員で意見が一致である。


「よし。じゃあどうしましょ。早速移動してみる?」


「そうですね。体力がある内に行動はしておくべきだと思うのだけど……」


 そう言って雪女は俺を見た。一番消耗の激しい俺を気遣っての事だろう。俺は問題無しと腕を回しヘラリと笑い立ち上がる。臨時パーティー、スティーリア探検隊の結成だ。



 雪女は右手で【灯り】の魔法を使う。野球のボールくらいの灯火がボウと浮かび上がり、通路に伸びる闇を僅かに跳ねのけた。行きますねとスティーリアさんはゆっくりと慎重に歩を進め始めて。その小さな背中を俺とカノンさんで追う。


「ね、ねえ。ちゃんと傍に居るわよね。二人とも離れないでよね」


「はいはい居るわよ。にしても灯り一つじゃ流石に暗いわね」


「ですね。真っ暗だー」


 漂う空気はヒンヤリと冷たい。真っ暗な道には何処からともなくピチョンピチョンと水音が反響している。そんな洞窟独特な雰囲気が雪女は怖いのだろう。火を持つ右手を目一杯に伸ばしながらも、身体を縮こまらせ、なるべく闇から顔を離そうと及び腰だった。


 俺もカノンさんもただの暗闇だけならばさほど気にしない。どちらかというと、足場の方が心配である。なので初々しい反応だなぁと思うと同時、これがイグニスならば驚かせてやるのになと悪戯心を覚える。


 そして思い出したのだ。「ツカサってさ、なんか私達と距離感無い?」というカノンさんの言葉。そうか、これが距離感なのだなと一人納得し、俺は仕掛ける事にした。


 華奢な雪女の身体にそうっと手を伸ばし、「わっ!」と掛け声と同時、肩を叩く。

 「きゃー!!」と気持ちの良い悲鳴が上がり、後ろで満足気にニンマリとしていると、馬鹿な事するなと僧侶の拳骨が頭に落ちてきた。痛い。

 

「私、ツカサはもう少し賢い子だと思っていたわ」


「ごめんなさい。俺なりに場の空気を緩めようと……」


「本当に止めて! も……心臓飛び出るかと思ったのだから!」


 半べそのスティーリアさんに詰め寄られ、つくづく距離感とは難しいものだと実感をする。ちなみに魔女ならば「ぬお!」とか汚い声を上げた後にノータイムで燃やしに来たのだろうなと思う。


(なあお前さん。儂は今こそ特訓の成果を見せる時だと思うのじゃが……)


 ジグの言葉に俺はああと悲鳴の様な声が漏れた。すっかり信用を落とした俺は今度はなんだと女子二人に睨まれるのだけど、まあまあ見ていてくれと右手をかざす。


「【手の内の煌めき】【光を掴み今束ねる】」


「……え!!」 


 初級魔法の【光球】だ。ただの明かりにしかならない魔法だけど懐中電灯の無いこの世界では存外に役に立つ。火で照らす微かな視界から一転、光の球は周囲を強く照らし、闇に紛れていた景色を明らかにした。


「へぇやるじゃない。ツカサったらとうとう魔法も覚えたのね」


 カノンさんが大したものだとバシバシと背中を叩いてくる。褒めてもらい嬉しいのだけど痛いので止めてほしい。スティーリアさんはそんな事出来るなら早く使えよとばかりにジト目で恨みがましく見てきた。ごめんね、忘れてたんだ。


 さてとと周囲を見渡す。ここやはりドワーフの作った場所で間違いは無いのだろう。横の面積はそれなりにあるのだけど、天井が低いだけで凄く狭く感じた。どうやら洞窟でも通路でもあるらしいけれど、住居の中らしい。


 枝分かれする道を覗き込めば別の部屋があった。荒れた部屋だ。慌てて逃げ出したのか、それとも火事場泥棒か。家具はなぎ倒され、タンスの引き出しなどは全てが開け放たれている。


「こんな場所だったの。これは酷いわね」


 何か使えそう物は無いかとキョロキョロと見分を始めるスティーリアさんとカノンさん。

 けれど俺が不思議に思ったのは部屋の構造だった。壁が自然の岩なのである。話の流れからこの場所が山の中という事は理解していたが、ここは結局なんなのだろうか。


「住まいと作業場の両方よ。ドワーフは鉱山に部屋を作って住んでるの。山の側面に住居があって、内側で金属を採掘している訳ね」


「へーそうなんですね」


 俺はははあと感心した。魔法使いというのは誰もがこう博識なものなのか。住まいの構造が分かるのならば脱出も簡単そうだと光明が見えた気分だ。


「そう簡単に行けばいいのだけどね」


 スティーリアさんは言う。山が水没した場合、まず何処から水が入るかと。

 俺もカノンさんも迷わずに低い所と答えた。スティーリアさんは良く出来ましたとばかりにそうねと頷く。


「ありゃ、そうか。簡単に上を目指すと言っても、坑道の入り口はそりゃ下よね」


 そう。間違いなく水没しているのであった。そして構造を考えると上に向かえば出口があるというものでも無いわけだ。最悪は外に出て泳いで浮上する事になるだろうか。


「それを含めての調査ね。案外あっさり出れるかも知れないし、ツカサのおかげで探索も捗りそうだしね」


「まあ空気があるのだから、何処かに通じてる可能性は十分にあるのだわ」


 ここはそもそもが古いのだろう。残っている家具にしても朽ち果てている物が多く、使える物はなさそうだと早めに見切りをつけた。


 それじゃあと、今度は俺が先頭に立ち探索を進める。

 お邪魔していた家を出て、俺はなるほどと、改めてこの鉱山の形状を理解した。

 中で繋がっている洞窟住居だ。天然の岩を柱に加工したり、煉瓦や組石で補強されて出来た半自然の洞窟である。


 俺の素直に思った感想を言うならば、豪華なアリの巣か。

 それほどにドワーフは山の中を自分たちの好きな様に魔改造していたのであった。


「こりゃあまた一筋縄じゃいかなそうね」


 カノンさんは繰り返し増築されすっかり横穴だらけになった洞窟を見てうんざりとした顔で言う。けれども俺は、不謹慎ながら少しワクワクしてきた所である。




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