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200 冒険準備





「おっはよーございまーす! 朝ですよー!」


「ふぁい!」


 カノンさんの元気な声で朝を迎えた。なんだか久し振りのやり取りに懐かしさを覚えつつ、飛び起きると目に入る光景は凄惨なものであった。


 どうやら全員で寝落ちしたらしく、ソファーでは未だ勇者と魔女と雪女の3人がぐでりと横たわっている。ヴァンなんて寝相が悪かったのか床に落ちている。


 机の上には大量の酒瓶と料理の空き皿が。昨日の馬鹿騒ぎの名残があって、いち早く目覚めた僧侶が片付けに取り掛かっていた。


 昨日は、そうだ。勇者一行と合流して、酒盛りがてらに道中の思い出を語り合ったのだ。

 そして、俺が正式に勇者一行として認められた日でもあった。夢で無い事を確認すべく首飾りに手を伸ばすと、ちゃんと証は首にある。


「カノンさん、ごめんさない。一緒にやりますよ」


「おはよー。こっちは大丈夫だから、他の子を起こしてあげてくれる?」


 与えられた任務に俺は了解と頷き、手始めに床で大の字に広がる薄緑髪の少年を踏んずけた。

 ぶげと汚い悲鳴が上がり、恨みがましい視線が向けられる。だがカノンさんの鉄拳よりはましだと思って貰いたい。


「ほら、イグニス、朝だよ起きてー」


「俺と随分扱いが違うなおい!」


「なんで一緒だと思うんだよ、起こしてやっただけ感謝しろ」


(カカカ、そりゃそうじゃ!) 


 女の子達は普通に肩を揺すって起こしたよ。

 そして、さて俺も顔でも洗いにと思った時、気付いてしまった。洗面所はおろか、自分の部屋すら把握していない事実に。


 俺は大使館に着いて早々にロビーで飲んだくれて居たのだった。こんな調子では地球に帰った時に日常生活に戻れるのかと不安になる。20歳まで後5年もあるんだよなぁ。



「ツカサくんの攻撃は鋭いんだけど攻めが力任せなんだよね。もう少し当てる工夫をした方が良いと思うな」


「ああ。ほんとキレだけは寒気がするほど鋭いし、実際一撃の威力は大したもんだよ。でも戦いが下手くそすぎるぜ」


「はぁ、ぜい。く、くそぅ」


(やはり免許皆伝は遠いのう)


 その後はみんなで一緒に訓練だ。深酒の後とはいえ酔いを残す集団では無かった。

 武術大会も終わったのでヴァンも意気揚々と訓練に混じってくる。俺は闘気の扱いにも馴染んできたし雪辱を果たせるかと思ったのだが、まだ背中は遠いようだ。


 超強化のネタが知れてしまえば打ち合ってくれないんだよね。戦闘における駆け引きでは到底に及ばないと思い知る。


「おーい生きてますかー」


「待てカノン。あ、謝るからさ、もう許してよぉ」


「まだ行けるわね。その根性叩き直してやるわ!」


「哀れだわねイグニス」


 イグニスは僧侶に鍛錬をサボっているのがバレて地獄を見ていた。

 まあ体力を付けるには日々の積み重ねが大事なので、見る人から見れば一目瞭然だろう。だって進歩が無いんだもん。


「筋肉は裏切らないわ。鍛えれば鍛えるほど強くなるのよ。虐めぬきなさい、鍛えぬきなさい。限界を超えた先に成長という喜びが見えるから」


「やだー! ツカサー助けてくれー!」


「無理だ成仏してくれ」


 意外と思えるのは雪女ことスティーリアさん。イグニスと同じで魔法使いだし身体付きが華奢なので、勝手に運動は苦手だと思っていた。けれどこれが存外動けるのだ。少なくとも魔女とは比べ物にならない体力である。


「スティーリアさんは運動も得意なんて凄いですね」


「あの子が苦手過ぎるのよ。騎士団程でないにしろ、今は魔導師団だって身体能力は求められる時代だわ」


 さすが魔法科主席の優等生だ。模範解答を返してくる。イグニスの様に魔法と知識に能力を全振りするではなく、体作りもコツコツと地道にも行ってきたのであろう。カノンさんではないが、筋肉は一日してならずなのだ。


「……でもね」


 運動しやすい様に白藍の髪を束ねた雪女は俺に振り返り、切な気な顔で語る。

 道中、一行から様々な質問を受けた。知識を試されているのかと感じる程に、多種多様な事を聞かれた。違った。


「あの人達は、イグニスならば答えられると思っているから聞いてくるのよね」


 ああと頷いた。俺を含め、困ったら魔女に聞いておけという風潮は確かにある。

 何気ない事なのだろうけれど、やはり勇者一行の魔法使いの基準はイグニスであり、それに及ばないのが悔しいと。雪女は複雑な顔でへばる魔女を眺めていた。


「生意気かもですけど、それは勘違いですよ。フィーネちゃんはちゃんとスティーリアさんを求めていると思います」


「……。ふふ、本当に生意気なのだわ」


 雪女の苦悩は良く分かる。実は俺も剣士枠として二刀流剣士と役割が被っている身なのだ。でも剣で勝ちたいとは思うけど、ヴァンに成りたいとは思わない。俺には俺に求められる役目があるはずだからだ。でもヴァンは死ね。


(格好良い事言ったが、本音はどうなんじゃ?)


「常識的に考えてイグニスは二人も要らないよね」


(カカカ。そんな事じゃろうと思ったわ)



 そしてみんなで朝食を取り、勇者に今日の、というか今後の予定を聞くとフィーネちゃんは碧の瞳をいたずらっ子の様に輝かせて言う。


「うん。やっと顔ぶれも揃ったし、今日は全員で買い出しに行こうと思うんだけど」


 遅れていた俺達に対する皮肉だろう。やっと予定が立てられると言った。

 けれど実質は観光のお誘いであり、俺もイグニスも皆で一緒に行きたいと思っていたので勿論賛成だ。


「わあ、フィーネちゃんはワンピース姿も綺麗だね。白がとっても似合っているよ」


 街着に着替えた勇者達を見て俺は褒め称えた。何気に女の子らしい恰好をしている姿を見たのは初めてだったので心からの賞賛である。


 誉め言葉を当然とばかりに受け入れるイグニスと違い、そうかなぁとモジモジと身を捩らせる姿は本当に新鮮なものだ。


「それで、買いに行くのは食料や消耗品だけなのかい?」


 今回の冒険では水精の元に訪れる。だから何か特別な物は要らないのかと魔女が訪ねた。

 道を歩きながら勇者は雪女に振り向き、どう思うと、スティーリアさんに意見を求める。


「そうね。やはり水場になるだろうから、着替えやタオルは多めに用意しても良いと思うわ」


「うん賛成。泳ぐ事もあるかもだから、装備もそれ前提の方が良いかもね」


 早く到着した勇者一行も遊んでいた訳ではなく情報収集をしていた様だ。目的地は湖に浮かぶ離島らしく、足も船を用いるのだと教えてくれた。


「へえ船。それは面白そうだけど、肝心の船はどうするの?」


「大丈夫。殿下に相談して用意して貰ったし、操作方法もばっちしだよ」


「アンタ達が来るまで暇だったから川の民から3日くらい講習受けたのよ」


(次は船旅か。良いのう)


 大変だったわと、後ろからポニーテールのお姉さんに襲われた。ツカサはちゃんと鍛えていたようねと身体をペタペタと触られるのだけど、最終的には匂いが気になったのか、首筋をクンカクンカと嗅いでくる。この人、聖職者なはずなのだけど絵面が変態チックだ。


「なにアンタ。香水なんて付けて色気付いてるわね。イグニスの趣味?」


「貰い物なんですよ。クーダオレでシャルラさんに頂いたので町では割と付けてますね」


 旅の最中だと匂いによっては虫や獣が寄ってくるので町中だけのお洒落である。

 カノンさんはへえーと相槌を打ちながらも香水の匂いを気に入った様で埋めた顔をなかなか放してはくれなかった。


「じゃあまずは衣類を探しに行こうか。足元もツカサくん達みたいにサンダルの方がいいかもね」


「ああ、それが賢いな。ブーツだと大変な目に合うよ」


 川下りで酷い目にあったイグニスは勇者の意見に賛同し、まずは装備から整えるという話に落ち着く。水路の多い町ではあるが、どうやら陸路を行くらしい。風景を楽しみながら向かったのは貴族街から少し離れた場所で、多分兵士や護衛職向けの店である。


 初めて来るタイプの店に俺は目が輝く。街着や正装とも違った、皮製の頑丈な品が数多く並んでいるのだ。中でも鉄鋼付きの指抜き厨二グローブを見つけ、俺は買わなければと義務感で商品を手に取った。


「だからそういうのを止めろって話だろうがよ!」


「お前、男なのにこの良さが分かんねのか! 見損なったぞ!」


 女の子が集まってわいのわいのと装備を選ぶ中、俺もヴァンと二人で装備を見繕う。

 籠手や胸当て等の防具も良いなぁとは思ったのだが、今回は見送りだ。足首で固定出来るブーツ風のサンダルや、裾に紐が付いていて丈を調節出来るズボンと実用性重視な物を選んだ。


「カノンの分は私が買うから気に入ったのあったら持って来てね」


「くぅーん」


 しょんぼりするカノンさん。何事だとヴァンに事情を聞くと、どうにも僧侶はお金を持たない主義なので、お金はもうフィーネちゃんが管理をしているらしい。とうとうお小遣い制になったのかあの人。


 しかし店内を見渡していると、どうにも皮製のものが多かった。イグニスを捕まえ何故かと聞いてみると、性能だと返ってくる。


 魔獣の皮は頑丈なものならば並みの刃物では通らないそうだ。

 俺は魔猪の皮が石のナイフで切れなかったり、四腕猿のマントで矢を防いだ経験があるので、なるほどと頷く。


「俺の鎧も表面は鉄だけどよ、正直かなり薄いぜ。見栄えの為に皮に鋼板貼り付けてんだ」


 会話を聞いていたヴァンが混じってきて、防具の事を色々と教えてくれた。他にも甲虫の殻などを使用した装備もあるらしいが、如何せん加工が難しいようだ。思えば鉄ではあるまいし、熱したり叩いた所で壊れるだけなのだろう。なんかまた一つ浪漫を失った気がする。

 

「うんうん。何件か回っちゃったけど、中々良い感じの物が集まったね」


「でも普段はあまり使わなそうね。ちょっと勿体なくない?」


「お金は使いましたけど、これで命を買えると思えば安いものですわ」


 良い買い物が出来たのか女子達もホクホク顔である。ちなみに水辺だろうと水着回は期待出来ないだろう。俺は彼女達が買った物を見ているので断言出来るのだ。無いよ。


 そして場所を市場に移した。橋を歩いても普通に移動は出来るのだけど、折角だし水上を行こうという事でカヌーに乗る。雪女が河馬に熱い視線を向けていたけれど、アイツは遅いと俺とイグニスで意見を両断した。


「なんで知ってるのよ! さては自分達だけ乗ったわね!」


「「乗った!!」」


「何が急いで来ただよ。お前らやっぱ満喫してるじゃねえか」


 市場に来ると人だかりが凄かった。船で貿易をしているだけあり、海外の品も多く扱っているのだろう。野菜や果物だけでもランデレシアでは見た事も無い品が沢山並んでいる。


 ドリアンの様にトゲトゲな物や、西瓜の様に縞々模様の物、同じ種類なのに色がバラバラなピーマンの様なもの、1メートルを超える大根らしき物など沢山で、見ているだけでも目が楽しい。


「わぁ!!」


 俺がそう声を上げるだけで何故かガシリと両手が掴まれた。実に既視感がある。

 見れば勇者と魔女が逃がしはせんと捕らえていて。俺は子供じゃあるまいしと弁明をするのに信じては貰えず、ヴァンが指して笑って来る。悲しい。


「俺はそこまで信用が無かったのか。大丈夫だって逸れやしないよ」


「嘘です」


「……ツカサは私と手を繋ごうな」


 イグニスに逮捕される。細くて白い指が恋人繋ぎで指に絡まってくるのだけど、メキメキとやたらと力が込められていてちっとも嬉しい気持ちにはなれなかった。


 見ればヴァンがスティーリアさんの手を狙っているのだけど、俺と同じ理由と思われたく無いのか迷っている様子であった。すまんな。


 ぞろぞろと皆で歩くのは楽しい。外国産の品は味も分からないので、お店の人に名前や調理法、賞味期限を聞きながら通りを練り歩いた。


「これ美味しいわねー。結構好きな味だわ」


「うーん。私はあまり食感が好きじゃないな」


「私も匂いがちょっと。あ、ツカサくんが食べてるのもちょっと頂戴!」


「いいよ。はい、どうぞ」


 昼食は食堂に入らずに屋台で買い食いだ。俺が昨日買ったお菓子が意外と美味しかったので、味覚の開拓をしようと初見の食べ物にチャレンジした。みんなで思い思いに料理を買い込んでシェアをする。


 俺もカノンさんの料理を貰ったが、魚肉ソーセージの様なものだった。そういうものだと思って食べれば美味しいけれど、肉だと思って食べると確かに味や匂いに違和感を感じるか。


「こっちのも中々美味しいぜ、なあティア」


「ええ、屋台も案外馬鹿に出来ないわね」


 貴族のスティーリアさんはあまり屋台を利用しないのか、庶民の味に関心している風だった。

 ただ、ヴァンの奴は雪女と同じ品を買ったらしい。好きな子と同じ物を食べた経験を共有したいのは分かるが、スティーリアさんは俺達の食べている料理にも興味深々の様子で。


「……食べます?」


「えへへ。一口だけ貰うわね」


「ぬぁああ! 俺も違うの買って来る!」


 色んな味を楽しもうって趣旨なんだから最初から買って来いよ馬鹿。

 その後これでどうだとばかりに両手一杯に料理を買って来るヴァンだが、残念ながら小食なスティーリアさんとイグニスはもうギブアップだ。


 代わりに俺と僧侶と勇者の3人で、おお追加が来たかと群がった。剣士はお前らの為に買って来たんじゃないと泣き言を言うが、知らんがな。


 みんなで一緒に回るラメールはとても楽しくて、朝から行動をしたと言うのに、日が暮れるまで一瞬だ。


「へぇ。それで私に挨拶もせずに食べ歩いていたと」


「「とても美味しかった!」」


 大使館に戻ると俺とイグニスを待っていた王女様が額に青筋を浮かべていた。




なんと200話まで来てしまいました。

読んでくれている人に感謝でいっぱいです。これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 200話到達おめでとうございますっ!!(この時点で最新話まで15話以上離れていますけれどもw) 記念すべき200回なのに水着回は来ないというお知らせですって?!w
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