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天族の抱える疾患

 イグナーツはわざとらしく咳払いを挟んだ。


「そうだ、リリアーヌの体質〝魔管軟質症〟について話しておこうか」

「え、私病気なのですか!」


 リリアーヌの顔がさっと青ざめる。赤くなったり青くなったり、リリアーヌの表情はころころと変わっていじりがいがある。


「いや、病気というより体質だ。体内にある魔力が通る管〝魔管〟は、本来ある程度の硬さがあり、安定した量の魔力を体に流すためのポンプの役割もある。だが、リリアーヌの場合は魔管が柔らかすぎて、不安定なんだ。だから魔術は使えるがどれも不完全になる」

「天族の魔力粒子は細かいから、余計に難しいとか?」

「ティネの言う通りだ。魔力を認識できるようになったとしても、不安定な流れまで把握するのは難しい。魔族なら別だがな」


 天族は魔力気配の察知には長けているが、魔力そのもの流れを把握できるわけではない。対して、魔族は魔力そのものを自在に操ることができる。


「さっきのコンラーディン戦では、リリアーヌの魔力の流れを把握、操作して流れを安定させた。そしたら魔術が無事完全な形で発動できたわけだ」

「じゃあ私は……その病気さえ治せば、魔術が使えるようになるってことですか?」

「そういうことだ。魔術の才能が無いわけじゃない。ただの体質ってだけだ」

「なるほど……って、」


 リリアーヌはむっとした顔をイグナーツに向けた。


「それって結局、今のままじゃ一人で発動できないってことでしょ? どうやって治せば――」

「魔管軟質症は俺が知る限り、治療法は見つかっていないはずだ。魔族の間でも、決して治ることのない先天性の体質とされているからな」


 イグナーツはティネに視線を向けるが、首を横に降った。


「私も魔管軟質症は詳しくなくって。あまり例のない体質みたいで」


 ティネの専門分野は魔草薬学であり、医学ではない。


「リリアーヌ、君は魔術が使えないわけじゃない。その不規則な流れを把握してしまいさえすればな」

「そんなこと私には……」

「出来ないじゃない。もうやるしかないんだ。本当に魔術が使いたいならな」

「……使いたい。どれだけ時間が掛かったとしても、私は諦めない」


 リリアーヌは覚悟を決めた目を空に向けた。故郷が浮いているであろう空に。


「今できることが無いことはない。俺は何度もリリアーヌの体を通して、魔術を使う。その感覚を覚えていくしかない」

「わかりました。私、頑張ります!」


 ティネは拳を握り、立ち上がった。

 同時にひらりとタオルが舞い落ちた。


「っ!」




「そういえば……ティネ」


 イグナーツは叩かれた頬を擦りながら、残ったティネに声をかける。


「どしたの?」

「魔草薬の魔術は見たことあるが……ティネの魔術を見たことない気がするな」


 それはイグナーツが前々から思っていた疑問である。ティネは魔草やイグナーツの魔力を使って魔術を発動することはあるが、自分の魔力を使ったところを見たことがない。すでに魔術陣が刻まれた剣や服などは見ても、それを刻んでいるところは見たことがない。


 使っていないからどうこうというわけではなく、単なる疑問である。ティネは腰に手を当て、無い胸を反らした。


「……ふふん。能ある鷹は爪を隠すってやつだよ。戦闘だって実験場なんだから、薬を試さないなんて勿体無いでしょ?」

「そりゃそうだ」


 ティネの言うことには一理ある。

 イグナーツは川岸に頭を乗せ、空を仰ぎ見る。浮かんでいるはずの月が雲に隠れ見えなくなっていた。


読んでいただきありがとうございます!

次は2019年10月7日の更新予定です。

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