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お礼と水浴び

 森の中に、小さな池がある場所へ三人は飛び出た。少し開けたところで、周囲には害獣の気配も感じない。魔族が追ってくる様子もないため、休憩も兼ねて一晩過ごすことにした。


 完全に日が落ちた今、森を動くには危険すぎる。

 魔族も城を守るために兵は動いているだろうが、遠くまで遠征することはないだろうとイグナーツは考えていた。


 こちらには魔族を殺せるほどの力がある。となれば、下手に分散して捜索すれば、コンラーディンのように殺されると考えるだろう。たった一人の天族のために、そこまでリスクを侵すとは思えない。


「俺は少し離れた川下で水浴びしてくる」


 森の中を一日中走り回り、汗もかいた。イグナーツは一刻も早く水を浴びてすっきりしたかった。


「はーい! わかったよ!」


 ティネの返事を聞き、イグナーツは体を吹くための布を手に川下へと向かった。流れが穏やかな場所を見つけ、服を脱ぎ、イグナーツは川へと入る。


 冷たさが全身へ突き刺さり、段々と心地よさへと変わっていく。右の手のひらを開けると、先程の戦いでついた血が段々と流されていく。


 先程の戦い、そして、ティネの言葉が脳裏へと思い浮かぶ。


「……あいつ、お人好しすぎるだろ」


 イグナーツにとっては、命を狙ってきた相手をタダ倒したにすぎない。殺す直前に正体を教えたのは、イグナーツに呪いをかけた犯人を知るためであった。


 コンラーディンの反応を見る限り、彼はまだイグナーツを慕っていた。演技をできるような性格でもないため、彼は反イグナーツの魔族ではなかった。だからといって生かせば、新しい魔王の命令により、厄介な敵として存在していただろう。


 犯人までは推測できないおそらくイグナーツは死んだことになっている。そして、全員が反イグナーツではないことである。


「やろうと思えば、反逆することもできるが……魔術がな」


 イグナーツは個人単体で魔術が使えない。先程、リリアーヌの体を介して発動することは出来たが、検証を積み課さなければ実戦で使えるか分からない。


「ま、今はのんびりライフに身を浸けながら、生命創造術の完成を待つか」


 イグナーツは川の脇に生えている茂みへと目を向ける。

 不自然に草が揺れていたのを視界が捉えた。

 獣避けの薬はまだ切れていない。魔族や人間である可能性も極めて低い。となれば……


「イグ! 一緒に入ろ!」

「ちょちょ、ティネちゃん!」


 一糸纏わず両腕を上げながらティネが走ってくる。そして川へと飛び込んだ。


「うっひゃ! 冷たい!」

「お前なぁ……せっかく俺が離れたところに移動したっていうのに、意味無いだろ」

「だってさ、家族って一緒に入るものでしょ?」


 何言ってるのと言わんばかりのティネに、イグナーツは頭を抑えた。


「家族じゃねぇし。それに限度はあるだろ」

「むう……」


 イグナーツはただ常識を言ったつもりだったが、ティネは頬を膨らませてしまった。


「分かった。ティネが気にしないなら構わない」

「ほんと! ありがとう!」


 羞恥心もなくいられるなど、普通ではない。

 まだ体に布をしっかり巻いて、顔を真っ赤にしているリリアーヌの方が常識がある。


「……やっぱり出ようか?」

「いいんです! その……魔術を使えたお礼ということもしたほうがいいと、ティネちゃんが……」


 イグナーツの横へゆっくりと浸かるリリアーヌ。冷水に浸かっている筈なのに、熱湯でのぼせたような顔をしていた。


 そのようなことを言われると、自然とリリアーヌの豊満な躰へと目が移ってしまう。白く透明な肌が、水に濡れただけで艷やかさが増している。布に水が含み、体のラインがより鮮明になる。


 美しい清らかな水色の髪は、彼女の顔の赤さや体つきをより強調させている要素になっている。


「み、見ないでください!」


 ぎゅっと自分の体を抱きしめるが、その所作も危ういことに彼女は気付いてないだろう。


 こほんと咳払いし、イグナーツは視線を反らした。


「ま、俺の元の体を凝視してたからお互い様だな」

「あ、あれは……たまたま見ちゃっただけなんです! ほら、天族の性ってやつで……敵意的なものが反応しちゃうわけなんですよ」

「もしかして、時々見てたりするのか?」

「そそそ、そんなわけないじゃないですか!」


 リリアーヌの狼狽っぷりは嗜虐心を激しく揺さぶられる。


「なんか二人だけ楽しそう……」

「楽しくないですっ! ティネちゃんもあの大人びた下着を見せればいいじゃないですか!」

「でもおっぱいにはかなわないし……」


 なぜか不貞腐れているティネに、必死で反論するリリアーヌ。


読んでいただきありがとうございます!

次は2019年10月4日の更新です

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