表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リンゴの小話

作者: くろかぜ

天下の台所。

ではなく私の家の台所。15時少し前、おやつタイムだ。

まな板の上にリンゴが乗っている。これから包丁で8等分するところだ。

ザク、とリンゴの頭から尻へ包丁が通る。半分リンゴをうつ伏せにして更に切っていく。皮は剥がない。そういう主義だ。

8等分できたらリンゴの芯を除去する。

ここで忘れてはいけないのが種だ。これは芯から外しキープする。後で食べるのだ。

これがチョコチップみたいで意外にうまい。おすすめだ。嘘だと思うだろうがやってみると良い。

後悔すること請け合いである。

座布団に座り、皿に盛った8等分リンゴを食べる。

どれも断面にTシャツをデフォルメした記号のようなキズがあるが……。

(まあ、大丈夫だろう)

齧る。シャコッという小気味良い音をたてるリンゴ。甘酸っぱくてうまい。歯応えもよい。

10分後。

リンゴを全部平らげ、皿を洗っている時だった。

(何これ?)

着ているTシャツがリンゴ柄になっている。小さなリンゴが重なりあった柄。

元は白地に『I am biginer』という英文がプリントされていたはずだが……。

触ってみると、さらさらだ。シャツの質感は変わっていないように思える。

だが────

ペラッ。

リンゴ柄がはがれた。薄っぺらい。裏もリンゴ。

乱雑に重なりあったリンゴ柄。そこからシールみたいにリンゴをいくつでも剥がせる。

どうなっているのか怪奇だが、試しに舐めてみた。

海苔の味。味付けしてないヤツだ。

海苔は好きだ。低カロリーで飽きも来ない。ペラッと捲っては食べ捲っては食べる。

うまい。「うまいうまい」と貪欲に食べ進める。

(うぇっ、苦い)

不意に強い苦味を感じた。

口内に腐ったザリガニのような臭いが広がる。

口から出して見てみると『はずれ』と書かれていた。

(そんなのあるのかよ)

抗議したい気持ちに駆られ、食欲も失せた。

着替えようかとTシャツを脱ぐ。

脱いだが、もう一枚着ていた。

おかしい。1枚しか着ていないはずだが……。

もう一度脱いでみる。が、やはり着ている。

つまり、脱げない。無限に湧いてくるのだ。

ハサミで切ってみた。腹の方から喉の方へと。

着ている。

ガスコンロで火をつけてみた。

燃えない。

(どうすればいいんだ)

苛立ち紛れに海苔を剥がして食べる。

(苦い。はずれかよ)

ため息をつく。臭い。

呆然とする。一生これを着たままなのか。

その時Tシャツの右胸に『OFF』と書かれたリンゴがあるのが目に留まった。

(これだ! スイッチがあったのか)

やっと脱げると思い嬉々として『OFF』を押す。

バッという音を発し黒い微粒子群と化したTシャツは空中の一点に集合し、黒い8つ切りの海苔になった。

脱げなければ呪われたようなものだが、自在に着脱できるなら優れもの。海苔が無限に湧いてくるのだ。

8ツ切り海苔をテーブルの上にゆっくりと着地。

私は着替えTシャツを服が詰まった5段ボックスから取り出して着る。ひんやりしている。

すったもんだで疲れたので、その場で横になり一眠りすることにした。

数時間後。

目を覚まして時計を見る。17時半といったところか。

海苔と化したシャツを見る。

(何だあれは!?)

ライオンがいた。海苔になったシャツがなくなっている。

(こいつ、食いやがったのか? 横取りしおって!)

私はライオンを睨む。

ライオンは私と目が合うと「ガウウ」と吠え、そして人の言葉で私に尋ねた。

「俺を呼び出したのはお前か?」

私は黙って睨んでいた。

ライオンは再度同じことを尋ねたが、やはり私は答えない。

「なぜ答えぬ?」

ライオンは問うた。

私はライオンを無視し、再び横になる。

「答えよ!」ライオンは語気を強める。

だが私は泰然と答えない。

「ちぇっ」ライオンはつまらなそうに呟くと海苔になった。

(何だ、あいつがシャツ海苔だったのか)

「無視しちゃってごめんね」

海苔を横取りされたかと思って無視したことを詫びる。

その刹那────

「いいよ」と返事が聞こえた。

シャツ海苔はライオンになっていた。

こうして仲直りした私たちは親友となり、なかよく暮らし始めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ