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 ある世界で、ある女と男が結婚しました。

 男は子供を欲しがっておりましたが、女は表面上は賛成しつつもまだ2人で過ごしたいと思っていました。

 男が避妊をせずに身体を重ねていく内に、女の身体には子が宿りました。

 それを女が男に報告した時、男はとてもとても喜びました。

 その異常とも取れる喜びを見て、女は男から愛されていると感じて妊娠して良かったと思いました。

 それから2人は田舎に引っ越しました。

 男が子育てをするには穏やかで広い場所がいいだろうと言ったからです。

 しかし、女は引っ越してすぐに不安になりました。

 男に任せていたとは言え、隣の民家は歩いても2時間はかかる場所にあり、救急車もすぐには来れない場所に引っ越すなんて予想もしていなかったからです。

 しかし、医者も助産師も定期的に診断に来てくれることになっていて、一先ずの不安は無くなってしまいました。

 もうすぐで産まれるそうだ、という時でした。

 女は男に頼みました。

 医者のいる医院に入院したい、と。

 男は了承しました。

 すぐに電話してくると、女に白湯を持ってきて飲ませました。

 しかし、その夜に陣痛が来てしまい、予想以上に早いことに女は驚きながらも男に医者と助産師を呼んでほしいと痛みに耐えながら頼みました。

 男は言いました。

 連絡したが、付近で土砂崩れがあって道が塞がれており、いつ着けるかわからないらしいと。

 女は一瞬絶望に近い感情になりましたが、1人でも出産は出来ること、いざとなった時の対処法を医者と助産師から男とともに教わっていたので、ここが踏ん張りどころだと気を強く持っていました。

 しかし、女は初産で、しかも難産だったのでしょう。

 男が女の手を強く握りしめて呼び掛けていましたが、次第に女からの反応も薄くなっていきましま。

 女が意識を失って、意識を取り戻した時には女は1人で布団に寝かされていました。

 汗でべっとりしているはずの身体は綺麗に拭かれて服も新しいものに着替えさせられており、男がやってくれたのだと女は嬉しくなりました。

 やがて男が女が起きたことに気付き、涙ながらにありがとうと言って、女に温かいスープを与えてくれました。

 赤子はどこ?、と女は尋ねました。

 腹を痛めて産んだ赤子に女は早く会いたかったのです。

 男は言いました。


 僕らはもうすぐ同じ世界で生きることができるね。





 ある世界で、幼なじみの男と女がいました。

 女は男が好きでした。

 しかし、男は大人になると別の女と恋仲になって結婚してしまいました。

 女の初恋は幼なじみの男で、ずっと仲が良かったのでこれからもずっとその男と一緒にいるものだと信じていました。

 裏切られたような気分でした。

 その上、幼なじみの男は、幼なじみの女に婚姻届の証人になってほしいと頼んできました。

 女は哀しみでいっぱいになり、心臓が押し潰されそうでした。

 女は言いました。

 ならば心臓を返してほしい、と。

 男は言いました。


 絶対に嫌だ。





 ある世界で、ある女とある男は同級生でした。

 途中で男が女のいるクラスに引っ越してきたのです。

 男はかっこよく、明るく、運動が出来たのでクラスの女子がすぐに夢中になってしまいました。

 女は男に惹かれつつも距離を取って過ごしていました。

 そんな時に、男が交通事故に遭ってしまいました。

 男は意識不明の重体になってしまいました。

 クラスの誰もが哀しみ、女もまた初恋の男が死んでしまうと恐怖に戦いていました。

 その時に、女は死神と契約しました。

 そして女は死神に対価を渡し、男を死の淵から呼び戻すことができました。

 女は男のお見舞いに行きました。

 あまり関わりの無かった女の訪問に男は不思議に思いながらも、同級生として世間話をしていました。

 最後に女は男に頼みました。

 言ってほしいことがある、と。

 男は何だろう?と驚きながらも、女が絶対言ってねと念を押すと絶対言うと答えてくれました。

 女は安堵しました。


 これで、終われる。


 心臓を返す、そう言ってほしいと女は頼みました。

 男は驚いて、どうしてそんなことを?と聞きました。

 意味なんてないからどうしても言ってほしいと、女は再度頼みました。

 男は腕を組んで考えていた。

 そして、不安そうにしていた女に安堵させるように笑みを浮かべた。


 そんなことを言ったら貴女はまたいなくなる。





 ある世界で、ある女がある男を愛していました。

 その世界ではその男とは何の接点も無かったけれど、女は男を愛していました。

 男が産まれる前からずっと待ち続けて、産まれてからもずっと見守り続けて、女は男が幸せであることを祈っていました。

 女はずっと男を遠くから見守り続けていました。

 争いが絶えない世界でした。

 ある時、男がお姫様を助けました。

 森の片隅で、何処からか逃げてきたお姫様一行を男は自分の家に招きました。

 そして、その夜、お姫様一行を追いかけてきた暗殺者に皆殺しにされました。

 女は血塗れになった男の亡骸を抱きながら泣きました。

 そして心は絶望と怒りに染まりました。

 女はその世界のありとあらゆる生き物の命を奪い、その世界を終わらせてしまいました。





 ある世界で、ある男が理不尽に虐げられながら生きていました。

 毎日泥水を啜るような生活、主人からの鞭打ちに耐えながら日々の暮らしをなんとかやり過ごしていました。

 男は思いました。

 いずれこの主人を亡き者にして一族郎党皆殺しにしてやる、と。

 男は密かに毒を買い、効能を確かめ、少しずつ少しずつ主人に毒を漏って心臓発作と偽って殺しました。

 主人の養子だった男には多額の遺産が運び込まれ、男は巨万の富を得ました。

 賭博で借金が嵩んでいた親族たちがわんさかやって来ましたが、男は一円だって貸すことすらしませんでした。

 その代わりに、もっといい商売があるのだと唆し、親族を悪徳な高利貸しと契約させて悲惨な末路を辿らせました。

 男はやがて酒と女に溺れ始め、生き残った親族の子供に刺されて殺されてしまいました。





 ある世界で、ある男が占い師に出会いました。

 占い師は男に言いました。

 お前には呪いがかかっている、と。

 男はそれを聞いてペテンのようだと鼻で笑い飛ばそうとしましたが、占い師は力強い声で続けました。


 お前には呪いがかかっている。

 それはお前自身がかけたものであり、お前が終わらせぬ限り永遠に続くものであろう。

 これから出会う女みんなに言いなさい。

 貴女の心臓を返す、と。


 訝しく思いながらも男は占い師の迫力に押されて、その言葉を信じ始めていました。

 けれども、その占い師は1週間後にはいなくなっていました。

 近くにいたホームレスに訳を聞くと、インチキで稼いでいたから逆上した客から暴行を受けたのだと言われました。

 やはりあれはインチキだったのだと男は思いました。

 しかし、男はそれから出会った女には全員その言葉を言いました。

 反応は様々で、占い師の話までするとみんなそれはインチキだと笑いました。

 しかし、1人だけ、その言葉を言えなかった女がいました。

 それは、男が病院に入院した時に出会った女でした。

 女は男と目が合うと、いつも照れくさそうに目を伏せて微笑んでくれました。

 女は永くない命でした。

 どうやら心臓が弱いようで、幼い頃から病院で生活をしているようでした。

 ある日、女が約束の時間に待ち合わせ場所に来ないので、男は女の病室を訪ねました。

 女は眠っていて、看護師が麻酔が効いていてしばらく起きないと教えてくれました。

 男は占い師の言葉を思い出しました。

 この女にも言ってみようと思いました。

 これまで1度も握ったことのない手を握って。

 口から零れ出たのは。


 まだ貴女の心臓は返したくない。




 

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