表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空白  作者: 香菜
1/1

29歳/会社員/桜木敦人

 最近、胸のあたりがざわざわしたり目の裏に黒い影が映ることがある。飲みに行った友達にその話をすると、「病院に行ったほうがいいよ、そろそろ体にガタがくる歳だし」と言われた。


 それもそうだなぁと思い、仕事の合間を縫って内科を受診した。桜木さーん、と看護師さんに呼ばれ診察室に入る。中には私より少し年上くらいのお医者さんが座っていた。症状を伝えると、彼はちょっと渋い顔と何か思い当たる節を見せ、「胸のレントゲン撮りましょうか」と言った。

 看護師さんに連れられて、レントゲンを撮った。再び待合室で名前を呼ばれるのを待ちながら、私は考えていた。軽い疾患か、それとも何か重い病気の兆候か。でも他に慢性的な症状があるわけでもないし、おそらく仕事のストレスか何かだろう。。。


 桜木さーん、と女性の声に呼ばれ、再び診察室に入る。椅子に座ると、先ほど撮ったレントゲンの写真が貼られていた。

 「ここ、白くなってるの分かります?」先生に指されたあたりを見ると、心臓の端の方に10円玉ほどの白い影が映っているのが分かった。

「もしかして腫瘍とかですか」

「いえ、これは『心欠陥疾患』という病気です。別名『空白症』ですね」


「くう、はく、しょう」

「最近日本全体で患者さんが増えつつあるんですよね、大丈夫、治らない病気ではないです」


 先生によると、身体的疾患というよりは精神的なものが大きいらしい。よくドラマなんかで“胸にぽっかりと穴が開いた状態”という感情の表現があるが、それで本当に穴が開いてしまっているのがこの病気で、日常生活の何らかの出来事や、日々のちょっとしたことの積み重ねが影響しているという。


 「心当たりありませんか」と言われ思い返してみたが、あるといえばあるが一体何によるものなのか…

30手前で付き合っている彼女との連絡が途絶えがちになっているだとか、仕事は毎日同じことの繰り返しだとか。まだ効果のある薬は発見されていないそうで、月に一回でいいので通院してください、様子を見ますので、と言われた。


 帰りの電車の中で、先生に言われたことを思い出してみたが、正直あまり理解できていなかった。薬はないが治す方法はある。というのも空いた穴が埋まれば、元に戻ればいい。過去の患者さんは没頭できる趣味や、新たな人間関係、1か月間遊びに遊んで治った人もいるらしい。治療法は完全に個人によるもので、治るまでの時期もバラバラなのでいろいろ試してみてほしいとのことだった。


 そんなこと言われてもな…

 自分の今までのパッとしない過去と、現在の生活を頭に巡らせて、私は「これは長い付き合いになる、もしかしたら一生ものかもなぁ」と深いため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ