09 復帰:リコメンデーション
「【エクスプロージョン】!」
ドゴオオオオオオオッ
ぎゃー
ぐへっ
ぎぎ…
「よし、ゴブリンの群れの討伐終わり!」
「あ、相変わらず、あっさりと…」
いやいや、同行した騎士団の方々も頑張ってたよ!あちこちに散らばって村人襲ってるゴブリンを、組織的かつ丁寧に潰してくれた。おかげで、中央に残った大多数を爆裂スキルで殲滅できたんだからね!お肉は要らないし!
「さて、ファニールさん、ついでに北の辺境も一掃しちゃいましょうか!」
「いえ、あちらは被害が出ていませんし、このまま王都に戻りましょう。縁談のお話を進めないと」
「(´・ω・`)」
ごまかせなかったか…。
◇◇◇
王都への帰路。
馬車でガタゴト。
あー、いい天気だわー。
「私は、いいお話だと思うのですが…」
「言ったじゃないですか、そういう話が来たの初めてだから、正直困るって」
「それがまず信じられないのですが…。そちらの世界では、それが普通なのですか?」
普通か普通じゃないかと聞かれれば、普通じゃないかもしれない。
いやでもね、元の世界だと『結婚とか興味ないわあ』ってなんとなく思っていると、縁談とかいう未知の物体が襲来することはほとんどないのですよ、案外。
要するに、こういうのは多くの人にとって個人の問題なのだ。少なくとも、数十年ほど前からの日本では。
「当面は月交替とはいえ、エリカ様は主にこちらの世界で過ごされる予定なのでしょう?」
「まあ、そうですが」
「カズキ様も、元の世界で自立できる御年齢かと」
「法令上は未成年ですが、まあ、実質的には」
でも、縁談の話が来た理由って、それがメインじゃないよね。
「そしてなんといっても、エリカ様はいつまでも若く美しくいられるではないですか」
「そこが一番引っかかるんですが…。実年齢は関係ないんですか?」
「関係ありません。丈夫な子供をたくさん産んで育てることができれば、なんの問題もありません」
ぶっちゃけだわー。
ああうん、確かに、その辺全く問題ないことは確認してあるけどね。
え?どうやって確認したかって?いやほら、こないだカズキと『1か月ほど』こちらの世界にいたじゃーないですか、再生スキルかけ続けて。そこから察してほしい。うん。
「もちろん、異世界から召喚された勇者という立場ですから、縁談がまとまって婚約しても、魔物討伐が落ちついてから結婚ということも…」
「くはっ」
「ど、どうしました、エリカ様!?」
「い、いやその、『縁談』とかいう言葉でさえWeb小説の事象と思ってたのに、『婚約』とか『結婚』とか『出産』とかなにそれおいしいのっていうか。『子育て』はよくわかるんだけど」
「エリカ様、意味がわかりません」
なんというかね、私の頭の中では、そういう一連のあれやこれやは30年ほど前から止まっているのよ。社会人的な意味での冠婚葬祭への参加はともかく。別名、ヒトゴト。
「とりあえず、お会いするだけでもよろしいのでは。合わないということでしたら、お断りしても」
「でも、公爵家の方ですよね?王族ゆかりの血筋で、無下にすることもできないのでは」
「主要貴族は、エリカ様の事情をよくご存じです。その上での縁談ですから」
でもなー、最低限、カズキには相談したいなあ。
いや、カズキなら『いいんじゃね?異世界で増殖だ!』とか超有名ネタを引っ張り出して終わるような気がしないでもないけど。
だからまあ、相談したいってのは、私の方の気持ちなのだ。カズキに何かアドバイスしてほしいとか、そういうんじゃなくってだな。
「はー、元の世界と通信する方法があればなあ」
「『通信』というのがよくわかりませんが、メッセージなどをやりとりすることは難しいですね」
「全ては、星の巡り合わせ、か…」
同じ世界の中では、遷移スキルのような空間転移は可能なのだが、世界そのものを超えるとなると、モノだろうが情報だろうが、スキルとは異なる次元の現象となるらしい。召喚魔法や送還魔法は、世界そのものに対して、魔力によってトリガーを引くだけなのである。
「会うなら再来月に、とかダメですかね」
「先月から出ていたお話ですからね。非公式にでも、お会いした方が」
むー。
そういうことなら、一度だけでも会ってみるかなあ。
しかしなんだろう、この憂鬱な気持ち。
はあ…。
◇◇◇
王宮に到着して、部屋に向かう。
そしてお風呂だ!マリエルちゃーん!
「素敵なお話じゃないですか!…って、きゃっ!」
ぶるーたす、おまえもか。
元の世界から持ち込んだ石鹸で、あわあわの刑に処す。うりゃうりゃ。
「マリエルちゃんは、縁談とか来たことあるの?」
「えっと…実は、婚約者が、います…」
「嘘!?」
「エルフでも、20歳を超えれば普通ですが…」
ああうん、マリエルちゃん、25歳だったね。見た目、小学校高学年って感じだけど。
「わー、ごめんねー!前にカズキがどうとか言っちゃって!」
「い、いえ、私もはっきりと言わなかったので…」
「ねえねえ、婚約者って、どんな人?」
「幼馴染なんですよ。同じ集落の生き残りで、同い年で…」
…
「どうしました?エリカ様」
「え、あ、うん、なんでもないよ?それで、性格とかは?」
「性格ですか?えっと、真面目で、大人しくて…」
うん、カズキとは正反対だわ。
「あと、優しくて…」
うん、カズキとは…あれ、どうなのかな。私とは親子漫才の関係だからよーわからん。人によって態度を変える子じゃないとは思うけど。
「その婚約者くん、王都に住んでいるの?」
「いえ、集落があった地域から最寄りの街に住んでいます。私は、出稼ぎのようなものでしょうか…」
「王宮で働けるならいいわよねー。たまには会いに行くんでしょ?」
「ええ。といいますか、エリカ様が元の世界に戻られていた先月に」
なるほど、カズキから開放された後か。しかし、婚約者がいる娘を若い男の部屋のお付きにするとは…。でも、どのメイドさんも、誰かしら恋人とかいても不思議じゃないか。
「あの、本当に良いお話だと思いますよ、エリカ様の御縁談。カミル様ですよね?」
「あれ、もしかして、相手の人のこと知ってるの?」
「ええ。ストラドル公爵家の御嫡男といえば、温和な方で有名で、女性の方々にも人気で」
うお、モテモテくんかあ。
「なら、ぽっと出の私がかっさらったら、嫉妬の嵐なんじゃあ」
「いえ、エリカ様がお相手なら、皆様納得されるでしょう。噂の的という感じで」
「そんなものなの?」
わからん。
「そういえば、カミル様ならカズキ様が一度お会いになっています。剣を交えたいと言って」
「なんですと!?」
「エリカ様が遠征に行っておられる間でしたね。もっとも、カズキ様は他にもたくさんの方と模擬試合をされていました。剣技スキルが上級ということで」
「初耳だわー」
さてはカズキ、わざと私に黙ってたな?活躍してると知ったら、残れー残れーと騒ぐと思って。うん、絶対騒いでたね!
「少なくとも、カズキ様はカミル様に悪い印象をもたれていませんでした」
「ふむ…。じゃあ、まあ、やっぱり、一度軽く会うだけはするかー」
「それがいいですよ!お会いになったら、お話聞かせて下さいね!」
あらら、マリエルちゃんも『女性の方々』のひとりだったか。アイドル扱いってやつかなあ、カミル様とやら。
「よし!いろいろと教えてくれたお礼に、マリエルちゃんには私の昔の服をプレゼントしちゃうよ!」
「え!?それって、向こうの世界の服ですか?」
「そうだよ!部屋で着て見せてね!」
◇◇◇
ということで、お風呂の後は、部屋でマリエルちゃんのファッションショーを楽しんだ。私が中学の時の制服が一番似合ってた。若いっていいわー。
「でも、エリカ様は魔法スキルでもっと年下にもなれるのですよね?」
「…初々しさはね、精神的なものなの。若返ってもね、取り戻せないの。どうしようもないの。ははは」
「はあ…」
大丈夫かね、私?
「あの、これはなんですか?」
「ああ、これはポテチ!保存スキルかけといたから、新鮮だよ!」
コンビニで買ったポテチに新鮮も何もないが、そこはそれ。
ばりっ
がさがさ
ぽりぽり
「おいしいです!似たような料理はありますけど、味が複雑ですね」
じゃがいもチートならず。芽とかが毒なのは、こちらの世界でも周知の事実だった。化学調味料チートなんてWeb小説は見たことないよ!
「じゃあ、これは?」
「これは…初めての食感です!パンケーキに近いですけど、中にある、この程良い甘さの詰め物が…」
饅頭チートは成功!マリエルちゃんが食レポになったよ!でもこれ、欧米人に和菓子って感じだよね。文化の違いってだけか。
「これは…?」
「ああ、これは一応持ってきたけど、使わないよね」
ぱっ
「きゃっ!点灯スキル…ですか?でも、向こうの世界にはマナがないんですよね?」
「だから、マナの代わりに電気ってのを使っているのよ。こう、回してね…」
じーこー、じーこー
うう、ハンドルが重い。災害時用の手回し発電機付き懐中電灯兼FMラジオっていう。ラジオはまるで意味がないが。
「それで、『でんき』というものが溜まるのですか?」
「そうなんだけど…これはまあ、少しでも携帯…スマホに充電できればと思って持ってきたんだよね」
「すまほ?」
ごそごそ
ぴぽっ
「あっ、画面に模様のようなものが…」
「これが、向こうの世界の様子」
「うわあ…」
よし、携帯端末ノルマはクリアできた。念のため、自宅周辺地図の写真や動画を撮っておいたのだ。結局、回線電波届かないから、大したことはできないけど。
「電子書籍は見せても意味ないから…あとは、これくらいか」
ぽちぽち
〜♪
「オルゴールにもなるんですか!」
「こっちにもオルゴールあるのね」
「ええ。私がもっているのを後でお見せしますね」
やはり文明度は高いね、この世界。カズキの好きな成り上がりは厳しそうだ。私は婚約破棄できるかもだけど。って、誰かツッコミぷりーず。