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06 奔走:リアクション

『全くお前は、いい年して相変わらずだな…』

「相変わらずじゃないよー、一大決心だよ!」

『はあ…。まあ、わかった。捜索願はこちらから取り下げておく」

「ありがとう、兄さん!」

『その国に引っ越す前に、一度カズキくんと一緒にウチに来い。いろいろと話すこともあるだろう』


 2歳上の兄に、電話連絡する。両親は亡くなっているので、今回の場合の実家といえば、兄夫婦の家となる。ただし、私達兄妹の両親が住んでいた家は、今、私とカズキが住んでいる家である。結果的にではあるが、私が両親の家を相続したのである。


 兄さんは(誰かと違って)20歳になる前に結婚してさっさと家を出た。高校の時に付き合ってた将来の嫁さんというのが、その高校の先生だったっていう。当時読みふけってた小説と同じ展開を身内から聞かされた時の私の心情を5文字以内で述べなさい。マジかよ。


『ああ、そうだ。いずれにしても、そちらの地元の警察にはお前から話をしておいてくれ。事件性も考慮していたそうだからな』

「えー、めんどー」

『お前達が、リビングの電気をつけっ放しにして行方不明になるからだろう…』


 むう。


「わかった…。うん、それじゃあ」


 ぴっ


「おじさん、なんだって?」

「捜索願は取り下げるけど、地元の警察には自分で行けって」

「いってらー」

「だから、あなたも行くの!」

「録画、いつ観れるんだ…」


 カズキはこれからいつでも観れるでしょ。何か月後でも!


 ◇◇◇


 地元の警察署。


「【ミラージュ】!」

「…?」

「ですので、証拠は示せませんが、問題ありません」

「…ソウデスカ。ワカリマシタ」

「やべえ、やべえよこれ…」


 うん、うまく行き過ぎて、これは怖いわ。


 かけた直後の数秒間に術者が行ったり話したりしたことを、『そういうもの』だと思い込ませて心に定着させる、幻惑スキル(ミラージュ)。とんでもないスキルだが、複数の事柄を思い込ませることはできない。もう一度かけると、その前に思い込ませたことが解除されてしまう。


「あんまり使いたくないね、これ」

「心や記憶を操作するのは、夢オチにも似た理不尽さがあるからな」

「言いたいことはわかるけど」


 警察署からの帰り道、カズキととぼとぼ歩きながら、そんな会話をする。


「…異世界に行って来たのは、全部夢でした!」

「でも、あの戸籍を見たらなあ」

「そーね、それ話したの、向こうでだもんね」

「しかも、母さんが若返ってる時にな」


 警察署の近くに市役所があるので、念のため、カズキのパスポートの申請をしたのだ。その申請で用いた戸籍抄本(・・)に書かれているあれやこれや。少し前に、別件で取り寄せたものの予備を使った次第である。


「父親が『斉藤さいとう(はじめ)』だっけ。よくある名前だけど、新撰組にもいたよな」

「…そうね」


 戸籍筆頭は、カズキの本当の母親である東雲(しののめ)由美(ゆみ)。カズキの父親の名前は記載されているものの、その父親自体は、戸籍に入っていない。抄本ではそれがわからないわけだが…まあ、謄本を見る機会があったらあらためて話すことにしよう。できれば、あの男(斉藤 一)には一生会わせたくない。


「そういや、ついでに母さんの戸籍も見たけど、母さんが戸籍筆頭じゃないんだな。じいちゃんの名前だった」

「そりゃあ、結婚したことないから。両親が亡くなっても、分籍する必要ないし」

「…俺を引き取ったから、婚期を逃したとかじゃないよな?」

「カズキを引き取った時は30過ぎだって言ったじゃない。婚期を逃したから引き取ったって感じ?」

「ひでえ」


 かわいかったのは本当だよ!今はともかく。


「なあ、殴られることを覚悟で聞くけど、なんで婚期逃したんだ?」

「別に、殴らないわよ。結婚に興味がなかっただけ。子供は欲しかったけど」

「わからん…。って、母さん、まさか、男と付き合ったことないとか?それはさすがに…」


 …

 ……

 ………


「…え、マジ?」


 …


 スタスタスタ


「あ、おい、待ってくれよ!」


 …


 ◇◇◇


 ついにやってきた、我が職場!


 自宅から路線バスを使って数十分のところにある、商社の地方事務所。そこで、文字通りOL(レベルお局)やってたわけだけど、入りにくい…。当たり前か。


 上司(課長)には事前に電話したんだけど、謝るとかする前に『とにかく、すぐ来てくれ!』だったもんなあ。


「おひさしぶり、です…」

「「「「「と、藤堂(とうどう)(さん|くん)!?」」」」」

「はいぃ!?」


 いやまあ、ある意味当然の反応だけど、あまりの勢いに、入口で仰け反ってしまった。


「こ、これ!この書類!どうやってまとめればいいんですかぁ!?」

「え、そ、それは、◯◯ソフトの✕✕機能で…」

「藤堂くん!この件はどれを参照するべきかね!?」

「その項目は、3年前のファイルをそのまま利用すれば…」


 わいわいがやがや


 うーん、おかしいなあ。いくら急にいなくなったとしても、私が1か月いないだけでこんなことになるはずないんだけど。


「と、藤堂さん!本社への出張手続きはどうすればいいのかね!?」

「課長!そんなの、財務に聞いた方が早いじゃないですか!」

「その財務が、季節外れのインフルエンザで全滅なのだよ!」


 あ、そゆこと。人手が足りなくなってるだけか。


 勤務歴20年以上だけあって、私はいろんな部署を担当してきた。基本的には総務関係なんだけど、財務やら用度やら施設やら人事やら、あれやこれやと。長という名が付く役職についたことはないが、細々とした資格や検定を受けつつ、様々な雑務もこなしてきた。


 だからまあ、各部署で人手不足が起これば助っ人してきたわけだ。別に、ブラックな職場というわけではない。ただ、私が長いこといろんな種類のデスクワークをしてきただけだ。今思うと、これが異世界で魔法スキルが充実した要因なのかもしれない。


「はあ、やっと落ち着いた…」

「それで、どうしていたんだね。心配していたのだよ?」

「申し訳ありませんでした、課長。実は…」


 浩人くんの母親や兄さんに話した設定をかくかくしかじかする。


「そ、そうか、4月いっぱいでやめるのか…」

「ダメでしょうか…」

「い、いや、中途採用のアテはあるが、引き継ぎがしやすいよう、5月まではいてほしいのだが」

「すみません、向こうの国に住むために必要な準備を、5月にしなければならないので…」

「むう、困ったな…」


 うーん。


「課長、4月で通常業務もこなしつつ、引き継ぎもしっかりしますから!」

「しかし…」

「【ミラージュ】!」

「…?今、何を…」

「課長、4月いっぱいで大丈夫です。業務も引き継ぎも」

「…ソウ、カ…」


 うん、まあ、こういう使い方なら後ろめたさは感じないな、あんまり。


 ◇◇◇


 夕方。

 いろいろ走り回って、疲れたよ!


「なんとかなったよー。いやあ、私達の失踪がマスメディアに垂れ流されてたらヤバかったね!」

「でも、大丈夫なのかよ?特にその、会社とか」

「ああうん、事務処理に便利なスキルもあるからね、なんとかなるよ!」

「まさかの魔法頼み!?」


 いやあ、いろいろ試してみたら、速記スキルだの演算スキルだの発動してさあ。やっぱチートだわ、私のステータス。


「俺にもスキル名教えてくれよ!試験が楽になるぜ!」

「ズルはダメよ?っていうか、魔力結構食うわよ」

「がっくし。いやでも、それなら母さんだってマズいじゃねえか。1週間くらいしか使えないんだろ?」


 ああ、それは、【リーインカネーション】を発動し続けている場合だね。


「つまり?」

「今みたいに発動していない時間が多ければ、1週間以上は他のスキルが使えるってこと。再生スキル(リーインカネーション)って、スキルの中でも最大級の魔力消費量だから」

殲滅スキルエンドレス・ブレイカーにたとえると?」

「1日1回殲滅するみたいな?」

「うん、やっぱり母さんは向こうにずっといた方がいいわ」


 何言ってるの、月交代で行ったり来たりすることにしたじゃない。


「とにかく、会社は次の連休までにがんばって引き継ぎして、それから退職の予定。退職金が結構出るよ!カズキが好きなように使いなさい!」

「そうか、母さんがあの世界に戻ったら、俺は基本的にひとり暮らしか…」

「嬉しい?寂しい?」

「…ノーコメントで」


 どちらも、ってところだね。わかるわかる。

 私も、そうだから。


「でさあ、母さんの今後について、ちょっと整理させてくれよ。皆藤のことを含めると、こんがらがってよ」

「ああ、確かにねえ。えっと、紙とボールペンはっと…」


 かきかき


【事実】偶数月は元の世界、奇数月は異世界で魔物討伐を含むあれこれ

【皆藤】母親は退職してずっと異世界、魔導士エリカが偶数月に元の世界に出没

【世間】母親は退職して海外に引っ越し、たまに息子の様子を見に帰国


「最初に、皆藤に若返った母さんを見られたのはイタかったなあ」

「しょうがないよ。それに、これからいろいろと協力してくれそうじゃない。信頼できる友達ができたら、皆藤くんと同じような対応にするよ!」

「犠牲者は少ない方が…イタい、イタいからっ」


 ぐりぐり


「なによ、犠牲者って。別に爆裂スキル(エクスプロージョン)とか使うわけじゃないんだから」

「撃つなよ?フリじゃないぞ?殲滅スキルエンドレス・ブレイカーは使っていいとかいう話じゃないからな?」


 いやでも、私達の秘密を嗅ぎつけた各国諜報員が攻め込んできたら!


「魔物討伐と一緒にするなよ…」

「でも、気をつけた方がいいのは確かね。異世界やマナのことが知られたらパニックよ!」

「でも、こっちの世界でスキル使いこなせるのって母さんくらいじゃね?」


 そうかもね。召喚条件を満たしたカズキでさえ、カンストした私とは魔力量が数桁規模で小さいらしいし。


「つまり、私が実験サンプルに!きゃー」

「はいはい。でも、皆藤の家族とおじさん辺りには、いずれ話すことになるかもな」

「そうね。あ、浩人くんのお母さんには全部話そうかなあ。んでもって、【リーインカネーション】をかけてあげて…」

「皆藤と親父さんが倒れるからやめろ」


 ぶー。

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