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02 爆裂:エクスプロージョン

 召喚場所は、王宮の地下だった。だから、国王―――ホルスト12世―――にはすぐに謁見できた。


「そなたが、勇者となるというのか?」

「はい、エリカと申します。以後、お見知りおきを」

「ふうむ、古からの伝承を覆すというのか…」


 まあ、いきなりは難しいよね。


「エリカ様、再生スキル(リーインカネーション)を解除されては?」

「ああ、そうですね。陛下、失礼いたします」

「む?」


 ファニールさんの提案に乗って、再生スキルを解除した。


 ぱあああああっ


「こ、これは…!?」

「これが、私の本来の姿です。こちらにいる、勇者として召喚された、し…カズキ(・・・)の母にございます」

「なんと、余よりも年上であったか!…いや、すまん」


 ん?私は微笑んだだけだよ?目以外で。


「エリカ様、陛下に向けての威圧スキル(エンフォースメント)発動は控えていただきたいのですが…」


 いやあ、そんなつもりはなかったよ?なかったんだけどね?

 くそう、私がこの場で最年長かよ!ファニールさんも三十路だって言うし!なんてこったい。


 なんかくやしいから、また再生スキルをかけて若返る。お肌つやつや。


「陛下、エリカ様は再生スキルの常時発動が可能です。事実、発動中も魔力保有量に変化がありません」

「なんと!?発動魔力よりもマナ吸収の方が多いというのか!?では、この者は…」

「はい、この世界にいる限り、不老不死を保てます」


 不老不死!何度聞いてもいい言葉だね!


「ということですので、少なくとも、魔力量には自信がございます」

「ううむ…」


 うん、納得してくれそうだ。


「やべえ…やべえよ…。『余』とか言っちゃってるし…。酷使…用済み…人外扱い…捕縛…地下牢…!」


 カズキはいったいどんなWeb小説を参考にしてるのやら。ファニールさんはもちろん、国王もいい人そうじゃない。ていうか、国王や皇帝が『余』って言うの普通じゃん。


 でもまあ、保険はかけておこう。


「陛下、失礼いたします。【トランジッション】」


 ひゅんっ


「き、消えた!?」

「陛下、こちらでございます」

「うお!?」


 私は遷移スキル(トランジッション)を使って、国王の座る玉座の後ろに瞬間移動した。去年流行ったアニメで、塔に閉じ込められた公爵令嬢が脱出に使っていたスキルだね!


 ひゅんっ


「このように、私は目視範囲の瞬間移動が可能です。なお、やはり魔力量の変化は感じません」

「そ、そうか、頼もしいな…!」


 ほら、素直に喜んでくれてるじゃない。


「全神官による封印魔法…魔力の鎖で捕縛…りょ、陵辱…!」


 まだ言うか。


 ◇◇◇


 王国の魔導士団と騎士団が装備を提供するというので、ファニールさんの案内で、王宮内のそれぞれの施設を順に回っていくことになった。


「母さんは魔導士タイプだろ。なんで騎士団にも?」

「何言ってんの、カズキの装備が必要じゃない。剣士タイプなんだし」

「俺は勇者やらねえって言ってるじゃんかよ!」

「自衛用に必要でしょうが。それとも、その格好でこの1か月を過ごすつもり?」


 ジャージx2である。

 繰り返す。

 ジャージx2である。


 私もずっとジャージだったんだよ!深夜アニメ視聴モードのままだったんだよ!

 だから、魔導士装備以外の、普段着もほしい。それも、後でもらえるようだ。


 まずは、魔導士団。


「くっ、似合いやがる…」

「んふふふ、ありがとー」


 女性向けのローブがシックでカッコいいのよ!ちゃんとロングスカート!

 女性魔導士、結構いるのかな?着替える小部屋もちゃんとあったし。後で女子会してみよう。


「とりあえず、いくつか装備をお選び下さい。あと、エリカ様なら収納スキル(ストレージ)もありますから、服を収納されて、【ストレージアウト】で着替えることも容易でしょう」

「え、ホント?よーし、じゃあ、このデザインを…【ストレージイン】!」


 しゅんっ


「おお!…うん、頭の中で確認できるね。【ストレージアウト】!」


 しゅぱっ


「よし、ピッタリ!いいねいいね、変身少女っぽいよ!」

「実際、化けてるからな…ごへっ」


 ったく、カズキったら、スキあらばバカにしてー!ほれ、回復スキル(ヒール)


「あ、そういえば、この世界で私達のような黒髪黒目って珍しいんですか?」

「珍しいというか、あなた方しかおりません。異世界から召喚された者と、すぐわかるでしょう」


 そっか、どうしよっかな。


「黒髪黒目は呪いの証!今は良くても、魔物が少なくなったら、必ずそう思われる!」

「またカズキの謎ルール?どこのWeb小説よ」

「先月連載が始まった、期待の異世界転生モノだ!プロローグで赤ん坊の主人公が黒髪を理由に捨てられてた!」


 さよか。


「でもまあ、ここまでやったんだから…【カムフラージュ】!」


 さあああああっ…


「ああっ、去年コミカライズされた転移冒険者モノのヒロイン!くそう、日本人顔なのに銀髪&青目が似合うし!これだから美少女は!」


 そうよ、もっとほめて!バカにするだけじゃなく!


「カズキにも偽装スキル(カムフラージュ)かけてあげよっか?」

「俺は王宮にこもるからいい」

「あなた、国王を疑ってたんじゃないの?」

「1か月逃げきる!ヤバくなったら、王都ギルドで冒険者登録して自活する!」


 なんだかなあ。


「ファニールさん、この国に冒険者ギルドってあるんですか?」

「ギルド、ですか?職人で作る組織はありますが…」

「カズキ、冒険者ギルドないってよ」

「なんでだよ!」


 ファニールさん曰く、一般市民が魔物を討伐するなら勝手に討伐して、素材とかはそういうのを扱う店や市場で売るんだそうな。この辺はテンプレではなかったらしい。


「じゃあ、次は騎士団ね」

「だから、俺は…」


 カズキがまた何かを繰り返そうとした時、


 バタンッ


「王都の西門に魔物の大群が襲来しました!巡回していた騎士達が応戦していますが、いつまでもつか…!」


 来た、最初のクエスト!


「ファニールさん、行きましょう!早速討伐しますよ!」

「は、はい!」

「カズキは騎士団に!装備をゲットしたら、そのまま王宮で待機!自衛に専念して!」

「お、おう。…気をつけてな、母さん」


 任せなさい!私は勇者なんだから!


「あ、『やったか!?』は禁句な」

「わかってる!」


 ◇◇◇


「やった!?」

『くげー!』

「きゃー!言っちゃった!?」


 西門に到着早々炎弾スキル(ファイアボール)撃ちまくって、ウルフやらホーンラビットやらゴブリンやらオークやら…って、なんでこんなに種類がいるのよ!

 とりあえず、そいつらの群れを半減できたけど、西門周囲が酷いことになって手加減してたら、攻撃をすり抜ける魔物がわらわらわら。


「もう少し押せば荒野に追い込めます!そこで一気に殲滅できれば…」

「定番のアレね!」

「アレ、とは?」


 広い大地で放つ殲滅魔法といったら、アレしかない!


「【ファイアボール】!…とにかく、もっと魔物を…きゃっ!?」


 炎弾スキルを数体のオークに放ったら、1体だけ燃えずに抜けてきた!?


「母さん、あぶねえ!」


 ざしゅっ


『きぎゃー!』


 どさっ


「カズキ!?来てくれたの?」

「し、しかたねえだろ、着替えに時間がかかっちまった!」


 いや、そういう話はしていない。でもカズキ、収納魔法使えないのか。今の剣技スキルはカッコ良かったのに!


「とにかく、他の騎士団の連中と一緒に来た!どうすればいい?」

「この先の荒野に、魔物を全部追い込んで!そこで一気にカタをつける!」

「アレだな!ぶっ倒れるなよ!」

「しないよ!私のMPなめるな!」


 そこはテンプレ外すからね!


「エリカ様!騎士団の牽制と魔導士団の遠距離攻撃で、全て追い込みました!」

「よーし、全員、防御スキル(シールド)発動!」

「俺は!?」

「ファニールさんにしがみついてなさい!」


 いっくよー!


「終わりなき悪夢に終止符を!【エンドレス・ブレイカー】!!!」

「【エクスプロージョン】じゃねえ!?」


 キラッ


 ドゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオ!


 オオオオン…


 …

 ……

 ………


 よし!天空からの光の柱が、ほとんどの魔物を消滅させたよ!


「…なあ、母さん、今の、何?」

「え?こないだ書籍化されたWeb小説知らない?婚約破棄の時間ループを脱出する殲滅魔法だよ!」

「ああ、敵国のスパイだった第三王女を侵攻軍もろとも葬り去ったっていう…」


 ぐげっ

 ぎぎっ


「あ、まだちょっと魔物が残ってた。【エクスプロージョン(小)】」


 どごんっ


 ぎぎゃー!


「お約束も守ったか…」

「さ、帰りましょ」


 騎士団も魔導士団もファニールさんも、ボロボロだ。でも、誰も大怪我してないし、死んでもいない。良かった良かった。


「終わりなき、悪夢…。勇者エリカ様、あなたはこの国の、この世界の悪夢を、終わらせてくれるのでしょうか…」


 どうかなー。魔物が激増する理由がわからないことには。


「精一杯、がんばりますよ。なにしろ、息子の代わりに勇者に志願しましたから!」

「俺をダシにしないでくれ…」


 いやだって、本来の召喚勇者は、カズキじゃない。


「でも、来てくれたんでしょ?一緒にやらない?勇者」

「俺にはできねえよ、この国の勇者なんて。できるのは…」


 カズキが、私の方に向き直る。


「母さんの、息子ってことだけだよ」

「…そっか」


 そうはいっても。


「ひとつだけ、カズキにお願い」

「なんだよ?」

「私がこの姿の時は、私を『エリカ』と呼ぶこと!」

「なんでだよ!?」


 いいじゃない、私は『勇者エリカ』なんだから!

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