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ニーズヘッグ

ユニコーンを見送ったあと、神官たちからたくさん質問をされてしまいました。

知らない方としゃべるのは、疲れるので帰りたいのですが。

とりあえず、偶然であったことと、ユニコーン様がお優しいのでと、答えておきました。


ようやく解放されて学舎に戻ると、すぐさま教員に捕まり、学長のところまで連れて行かれました。

学長にも、神官と同じ説明をしましたが、学長の方が理解が早かったですね。

ユニコーンのことをあれやこれやと(さぐ)るのは、神獣に対して失礼ですから。

見ず知らずの人が、自分の友人のことを聞いてきたら、普通は警戒しますよね?

私は、恩を仇で返すようなことはいたしません。


学長からは、別で戦闘訓練を受けてもらいますと言われてしまったのですが、さすがに免除にはなりませんでしたか。

まぁ、一人の方が思い切りやれるので、よかったと思うことにしましょう。


翌日の学舎は、ユニコーンの話で持ちきりでした。

どこから聞いてきたのか、私がユニコーンを神殿に連れて行ったことまで知られています。

見ず知らずの学生に何度も話しかけられましたが、何も語らず、挨拶だけして離れます。

しつこい方もいましたが、さすがに教員室までは追いかけてきませんでした。


いつもでしたら、食堂で昼食をいただくのですが、今日は無理そうです。

食堂の方にお願いして、パンだけをもらい、裏庭で食べることにしましょう。

裏庭にある四阿に向かうと、先客がいました。

あまりお近づきにはなりたくない方たちばかりです。

見つかる前に移動しましょう!

そういえば、裏庭には庭師が使う小屋がありましたね。

そこならば、人が来ることもないでしょう。


裏庭の木々の中に、ひっそりと佇む小屋には、庭師のこだわりなのか、周囲に溶け込むように工夫がされていました。

大きな木と木の間に小屋があり、外には野ざらしのテーブルとベンチが。

ちゃんと手入れがされているようなので、問題はなさそうです。

ベンチにハンカチを敷き、テーブルにはパンが入った包みを広げます。

学舎の絶え間ない喧騒は届かず、私一人だけの世界みたい。

やっぱり、一人は落ち着くわ。

柔らかな風が吹くたびに、木々は枝を揺らし葉擦れが耳に優しいですね。

生まれ育った土地を思い出させる、ゆっくりとした時間を過ごすことができました。

強めに風が吹いたとき、上から落ちてきたものがありました。

ボトッと鈍い音がしましたが、重たいものなのでしょうか?

落ちたものに目をやると、それと目が合いました。

無視してもいいかしら?


「………」


黙っていると、それは食べかけのパンに(かぶ)りつきました。

しかし、噛みちぎれないようです。

大きく口を開いたまま動けない姿に、つい笑いがこみあげました。


「動かないでくださいね」


パンをいくつかに千切り、刺さったままの牙をゆっくりと引き抜き、改めて一口の大きさにしたパンを与えます。

それは大人しくパンを丸飲みしましたが、もっと欲しいと視線で訴えてきました。

千切っては与えを繰り返していると、雛に餌を与える親鳥はこんな気持ちなのだろうかと思ってしまい、また笑みを浮かべてしまいます。


それにしても、黒いにもかかわらず、宝石のように煌めく鱗といい、可愛らしい大きさなのに美しい艶を持つ翼があるということは、あの神獣ですわよね?

しかし、おとぎ話のいたずらニーズヘッグでは、大木よりも大きな蛇だと書いてありましたが…。


『もっと食い物を寄こせ』


「申し訳ございません。今はご用意がないのです」


『ふむ。ならば、食い物がある場所に連れていけ』


いたずらニーズヘッグではなく、わがままニーズヘッグだったのですね。

どうしましょう?

食堂はもう使えない時間帯になりますし、町に買い物に行くのは避けたいですし。

狩りに行ってもいいですが、授業を欠席するのもよくありませんし、困りましたね。

狩りをしたとしても、鹿一頭食べられるかしら?

兎くらい小さい獲物の方がいいかもしれませんね。

それでしたら、夜に狩りに行けばいいですし。


「夜までお待ちいただければ、兎を狩ってきますわ」


『兎を狩る!?お前がか!!』


なぜか驚いているようですが、私が狩りをしたらおかしいですか?


「えぇ。それとも、何かお召し上がりたいものがありましたか?」


『いや、お前のような若い娘に、狩りができるとは思えん』


そういうことでしたのね。


「普通のご令嬢とは違う育てられ方をしておりますので。我が領地では、幼い頃から狩りと戦い方を学ぶのです」


隣国と面している領地の中でも、幾度となく戦地となった我が領地ならでは慣わしです。


『変わっているな…』


まぁ、そうでしょうね。

でも、その代わりに、食べることには困りませんよ。


『よし!その狩りに俺様も連れていけ!』


「急にどうされたのですか?」


『兎ならば、新鮮なうちが一番だからな!ついでに、お前がへまをしないよう見張っている』


一応、狩りの腕はいい方だと自負しているのですが…。

ひょっとして、心配なさってくれているのでしょうか?


「それでは、授業が終わりましたら、お迎えにあがりますね」


少しでもお腹の足しにと、飴玉を渡しました。

ニーズヘッグは器用に尻尾で受け取ると、興味深そうに見つめます。


「飴といって、舐めるととても甘いのですよ」


ニーズヘッグは尻尾で掴んだ飴を頭の方まで持ってくると、チロチロと細長い舌を出して舐めました。


『これは…美味いな!』


変化に乏しい顔ですが、どうやら飴をお気に召してくれたようです。

私がベンチを立っても、ニーズヘッグは夢中になって飴を舐めていました。


授業が終わり、一旦寮に戻り、狩りに必要なものを持って、ニーズヘッグを迎えにいきます。


「ニーズヘッグ様?」


『なんだ、俺様のことを知っていたのか』


突然、声がして辺りを見回しますが、姿は見えません。


『ここだ、ここ』


近くの木の上から、これまた器用にぶら下がったニーズヘッグに気づきました。

全身が黒いので、まったくわかりませんでしたよ。

手を差し出して、ニーズヘッグに下りてきてもらいます。


「いたずらが大好きなニーズヘッグ様でしょう?女神様の(しとね)にいたずらをして怒られたという」


おとぎ話として伝わっているいたずらニーズヘッグというお話は、女神様がお休みになられる褥に、ニーズヘッグがいたずらをします。

しかし、それを見ていた別の神獣が女神様にニーズヘッグがやったと言います。

女神様はニーズヘッグを捕まえて、お仕置きをしたというお話です。

幼い子供らに親が聞かせ、悪いことをしたら相応の罰があるのだということを教えるために、昔から親しまれております。


「いたずらが好きなわけじゃない。あれはたまたまってやつだ。それなのに、フレースヴェルグが嘘つきやがって!』


怒りのためか、小さな翼をバタバタさせます。

フレースヴェルグという神獣は、人の世界での目撃情報はありませんが、楽園にある大きな木の上に住むという巨大な鳥であると授業で習いましたね。


一番近い狩場である、学舎の後ろに広がる丘の方まで向かっています。

ここは小動物が多く生息していて、他の肉食動物にとってもいい狩場なのです。

道すがら、ニーズヘッグからいろいろな話を聞きました。


「どうして、人の世界に?」


『フレースヴェルグが人の世界に行ったからな。野たれ死んでいるところを楽しもうと思ったんだよ』


素直ではないですが、フレースヴェルグを心配して探しに来たということでしょう。


『人の世界も来てみれば面白くてな、あちこち見て回るうちに、こんな姿だ』


「本当はもっと大きいのですか?」


『当たり前だろ!俺様は楽園に住まう蛇の王だぞ!!』


それは初耳です。

蛇に近い神獣は多いですが、有名なのはシーサーペントでしょうか?

創国(そうこく)のヤマタノオロチが出てくるおとぎ話も最近人気がありましたね。


どうやら、ニーズヘッグとフレースヴェルグは喧嘩友達みたいな関係のようです。

その喧嘩友達がいなくなって、寂しかったのでしょう。


そうこうしているうちに、目的の丘へと到着しました。

ここでの狩りは初めてではないので、野うさぎがいそうな場所はだいたいわかっています。

ニーズヘッグを地面に下ろし、私は弓矢の用意をします。

連射もできるように矢を三本持ち、一本をつがえます。

音を立てず、気配を殺し、全神経を周囲に集中させます。

わずかな気配を察知し、弓を絞り、狙いを定めて放ちます。

すぐに次の矢をつがえ、先ほどよりやや右に放つと、獲物に当たった感触がありました。


『見事だな』


ニーズヘッグはそう言ってくれましたが、私自身は納得いきませんでした。

腕が鈍っています。

次に帰省したら、鍛えなおさないといけませんね。


獲物を確認すると、狙っていた野うさぎでした。

すぐに下処理をしてしまいましょう。

血抜きと内臓を取るために、短剣を当てます。


(はらわた)を捨てるのか?』


「えぇ。食べるのには適さないですし、肉の味が落ちてしまいますもの」


『不要だ』


そういうと、ニーズヘッグは取り出そうとしていた内臓に頭を突っ込んだのです。

ニーズヘッグのために捕ったものですから、どのように食べても構わないのですが…。

血まみれのニーズヘッグを連れて帰るのは私なんですけど。


しばらく、ニーズヘッグの好きなようにさせていました。

すると、ニーズヘッグの体が輝きだしたのです。


「まぁ!」


淡い輝きは、ニーズヘッグの黒い鱗に合わせて煌めいてもいます。

そして、ニーズヘッグの体が少しずつ大きくなっていきました。

両手に乗る大きさだったものが、私の腕くらいの太さがありそうなほど大きくなってしまいました。

最後には、野うさぎを丸飲みにして、満足そうに尻尾を揺らします。


『まだまだ足りぬが、人の世界では仕方ないか』


「やはり、満腹になるには楽園へお戻りになられた方がよいのでは?」


ニーズヘッグが満足するには、山一つ分を食べつくしたところで足りないかもしれません。

それでは、人間が困ってしまいます。


『俺様の大きな体を作っていたのは、神樹(しんじゅ)の樹液だからな。人の世界のものを食べたところで、その場しのぎにしかならん』


「神樹ですか?」


『あぁ。お前たちが女神の褥と呼んでいるものだ。神樹はその根に世界を抱え支えている。以前、楽園への扉が一つだったのは、神樹の幹に作られていたからだ』


そのようなお話を、私にしてもいいのでしょうか?

ニーズヘッグが言うには、神獣たちが逃げ出したあと、根の方にも無数の扉を作り、そのいくつかを神殿と繋げたそうです。

女神様のなさることなので、なんとも言えませけれども。


「それよりも、その血まみれのお姿、どうにかなりませんか?」


大きくなったニーズヘッグをどうやって連れて帰るかよりも、血まみれの方が問題です。


『あぁ』


今気づいたというように、ニーズヘッグは大きく翼をはためかせました。

ただそれだけでしたのに、全身が綺麗になっているのは、さすが神獣です。


「ありがとうございます。それで、楽園へお戻りにならないのには理由があるのですか?」


その神樹の樹液があれば、元の姿に戻れるにもかかわらず、人の世界に残る理由とはなんなのでしょう?


『…フレースヴェルグが…』


「お友達が心配なのですか?」


『っな!あんなやつ、友達などではない!!』


本当に素直ではありませんね。


「ですが、そのお姿ではフレースヴェルグ様もニーズヘッグ様を見つけられないのでは?楽園で元のお姿に戻られた方が、ニーズヘッグ様にとってもよいことだと思いますよ」


このまま人の世界にいては、小さくなりすぎて消えてしまうかもしれません。

そういった事例は聞いたことありませんが、神獣に何が起こってもおかしくはないのです。


「それに、女神様も心配なさっていることでしょう」


『ふん。あの暴力女が心配なんぞするものか』


女神様を暴力女ですか…。

そういえば、ユニコーンもわがままだと言っていましたね。

女神様、楽園で何をなさっているのですか?


「仕方ありません。今日はひとまず戻りましょう」


すると、ニーズヘッグは黙って私の腕に絡みついてきました。

驚いたことに、重さを感じません。


「ニーズヘッグ様、触ってもよろしくて?」


本当に実体なのか不思議に思い、触ってみたくなりました。


『俺様の鱗も翼も美しいからな!存分に楽しむがいい』


自慢したかったのですね。

しかし、美しいのは本当ですので、反論はできませんね。


両手に乗せたときも思いましたが、体温は感じられず、ひんやりとしています。

鱗は相変わらず、宝石のような輝きがあり、とても滑らかです。

翼はしっとりとした感じがあり、まるで朝露をまとった若葉のようです。


「素晴らしいです」


『そうだろう。こればかりは、あの暴力女も褒めていたからな!』


女神様は美しいものがお好きだと言われておりますが、やはり神獣が持つ美しさは別格なのでしょう。


「元のお姿が拝見できないのは残念です」


女神様が褒めるくらいですから、本来はもっと美しい鱗と翼なのだと思います。

それを拝見してみたかったです。


『…そうか?』


「はい。それに、元のお姿の方が格好いいと思います。今はとても可愛らしいですもの」


『か、可愛いいだと!?』


言葉では素直でなくとも、態度や声音に感情が現れていて、つい笑ってしまいます。


「神獣様がお健やかに過ごせるのは、楽園だけだと思うのです。だから、お戻りになりませんか?ニーズヘッグ様だって、小さいからとフレースヴェルグ様に相手にされなかったら、悔しいでしょう?」


フレースヴェルグがどんな性格をしているかわかりませんが、ニーズヘッグと喧嘩友達をしているくらいですから、素直な方ではないでしょう。


『本気で喰い殺してやる』


いきなり強い殺気を放ったので、近くにいた動物たちが怯えて逃げ出していきました。


「でしたら、なおさらお戻りになることをお勧めいたします」


『人の世界も気に入っているのだがな』


それでも、人の世界には神獣がいてはいけないのです。

神獣は人の世界に住めるようにはできていないのでしょう?

ニーズヘッグを見ていると、そう思ってしまいます。


「私が毎月祈りの日に、ニーズヘッグ様へ祈りますよ。私が見聞きした面白いことを一つつけて」


いつもは女神様に祈るのですが、神獣宛ての祈りも届きますよね?


『ほう、人が神獣に祈るか。それは、それで面白い!』


獣人は神獣にも祈りを捧げていましたね。


『我が名はヴァース。お前に名を呼ぶことを許そう』


「ニーズヘッグ様、それはなりません!」


神獣の名は、女神様が与えた神聖なものです。

それを軽々しく口にするなど、神罰が当たってもおかしくはないのですよ!


『構わん。名をつけて祈る方が確実に届く』


手紙と同じなのですか。そうですか。

ユニコーンのときといい、このニーズヘッグといい、私に名を教えるなど、少し軽率ではないでしょうか?


ようやく、学舎の裏庭に着き、テーブルにニーズヘッグを下ろします。


「明日のお昼頃に迎えに参りますね」


『わかった。そうだ、あの飴とやらを少しもらえるか?』


「気に入ってくださったのですね」


『あぁ。樹液よりも美味い!』


意外に甘いものが好きなのかもしれません。

紙包みから三つほど飴玉を出し、テーブルの上に置きます。


「それでは、お休みなさい」


飴玉に夢中になっているニーズヘッグから、返事はありませんでした。

やはり、可愛らしいと思いますよ。



翌朝、私は町に来ました。

相変わらず、人が多くて、もう帰りたいです。

帽子を深くかぶり、顔が見えないようにしていますが、それでも人の気配にうんざりです。

早く買い物を終わらせましょう。


目的のお店に着くと、店員がいぶかしむほど商品を買い込みます。

普段なら、こんな大量には買わないのですが、いいのです。

しばらくこのお店に来るつもりはありませんから!


急いで戻り、今度は裏庭へと向かいます。


「ニーズヘッグ様」


『名で呼べと言っただろう』


「誰かに聞かれるかもしれませんので、お祈りのときだけにします」


テーブルに籠を置き、その中に入るように言うと、ニーズヘッグが不機嫌になりました。


『このような狭いところに…』


「神獣様だとわかれば、騒ぎになってしまいます」


ユニコーンは大きかったので隠しようはないが、ニーズヘッグの大きさなら隠せます。

同じ轍は踏みませんよ。


『っち』


舌打ちとは下品ですね。

というか、その舌でよく舌打ちができますね。


さて、神殿に到着すると、またもや大騒ぎです。

ユニコーンから時間が経っていないのに、再び神獣が戻るというのですから、お気持ちは察します。

しかし、またお前か!?という態度を出してしまうのはいかがなものでしょう?


神殿に入ると、ニーズヘッグは狭い場所は嫌だと、早々に出てしまいました。

そして、私の腕に巻きついています。


神殿の最奥にある荘厳な扉の前まで来ました。


『お前の名を聞いていなかったな』


私としたことが、ニーズヘッグが名乗ったときに名乗り返していませんでした。


「大変失礼いたしました。アティス・ホーナーと申します」


『アティスよ、約束を違えるなよ』


「もちろんでございます。わたくし、アティス・ホーナーは毎月祈りの日に、ニーズヘッグ様へのお祈りを欠かさずにいたします」


ニーズヘッグは満足したのか、何度も頷いています。


「フレースヴェルグ様がお戻りになられるまで、ニーズヘッグ様もゆっくりと養生なさってください。それと、こちらを」


ニーズヘッグに大きな袋を渡しました。


『これは?』


「飴玉だと、元のお姿に戻ったときに食べにくいと思い、棒がついた大きな飴です」


飴玉を気に入ったようなので、お土産にと思って買ってきたのです。


『おぉ!これは嬉しいな!』


上機嫌になったニーズヘッグは、尻尾をバンバンと打ちつけます。

…犬みたいだとは、言ってはいけませんね。


『アティス、お前にこれをやろう』


ニーズヘッグは自分の鱗を毟り取ると、私の手に落としました。

鱗だったはずなのに、手の中にあるのは小粒の美しい黒色の宝石です。


『一度だけだが、お前の身を守る。肌身離さず持っていろよ』


「まぁ!」


『じゃあな!』


お礼を伝える間もなく、ニーズヘッグは扉の向こうへと行ってしまいました。


去り際は…格好よかったですよ、ヴァース様。


(我らに慈愛と恵みを与えてくださるエティール様、ヴァース様が元のお姿に戻れるようご慈悲を与えくださいますよう)


私は祈ります。

きっと、女神様へと届いていると信じて。




♦︎♦︎♦︎


「ヴァース、ずいぶん可愛くなっちゃって!」


エティール様、それヴァースに喧嘩売っていますよ。


『出迎えとは…明日は嵐か』


貴方もです、ヴァース。


「あの子から贈り物されるなんて…憎たらしいわ!」


それが本音ですか、エティール様。


『あの子?あぁ、アティスのことか。どこかの暴力女と違って、何百倍もいい女だったな』


「ぬぁんですって!今度は解けないように結んであげてもいいのよ?」


「エティール様、落ち着いてください。ヴァースも余計なことは言わなくていいのです」


エティール様を落ち着かせようとしますが、あの子が絡むとまったく聞く耳を持ってくれません。


「何が一度だけ身を守るよ。一度言わず、鱗を全部あげるくらいしなさいよ!」


さすがにそれは、ヴァースが可哀想です。


『俺様は構わないけどな。でもいいのか?そうなると、アティスは俺様の(つがい)ってことになるが?』


「それは駄目!絶対に駄目!!何がなんでも許しません!!」


確かに、番であれば、神獣は命懸けで守ります。

それにしても、ヴァースが番にしてもいいと思うとは…。

エティール様の血の力があるとしても、凄いですね。

まさに、血のなせる業でしょうか。

ひょっとしたら、あの子にもこれから困難が降りかかるかもしれませんね。

エティール様の血のせいで…。


「それよりも、ヴァースを早く住処(すみか)に戻してあげませんと」


「…あの子に感謝しなさいよ!ヴァースが早く元の姿に戻れるようにと祈ったんだから!!」


『元の姿で迎えにいくのもありだな』


「だから!許さないってば!!」


はぁ。これでフレースヴェルグも戻ってきたら、もっと騒がしくなるんでしょうね。

でも、以前のような賑やかな楽園も、楽しくて好きですよ。


もふもふじゃなくてすみません(>人<;)

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