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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第四章 アリエス王国防衛戦
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行間:シルフィーとフェルトの密談

 これはまだアーサーが目を覚ます前、戦争が終わって少し落ち着いた頃の話。

 シルフィーは夜中、部屋に一人のフェルトを訪ねていた。どうしても早めに話しておきたい事があったからだ。


「フェルト兄様」

「ん? シルフィーか。どうしたこんな遅くに」


 フェルトはシルフィーの存在に気づいて顔を上げる。そして何かの資料をまとめていた手を止める。


「大事な話があるんです」

「……ふむ。まあ丁度良い、私もお前に話があったんだ」


 真っ直ぐ見据えてくるフェルトにシルフィーは緊張した面持ちで、目をぎゅっと瞑りながら叫ぶように言う。


「アーサーさん達の旅に同行したいんですっ。その許可を下さい!」

「良いぞ」


 さらりと言うフェルトに、シルフィーは求めていた答えが言われたのにきょとんとした顔をしてしまう。フェルトは席を立ち、机の後ろに設置されている棚で何かをごそごそと探し始める。


「そ、そんな簡単に許可をくれるのですか……?」

「お前がそう言い出すのは分かっていたからな。それにお前はまだ一七歳だろ? 世界を見て回るのも良いだろうし、彼らと一緒なら私も安心できる。それに」


 探し物が見つかったのか、振り返ったフェルトの手には木箱が握られていた。そして他の者には見せない家族相手だからこその意地の悪い笑みを浮かべて、


「好きなんだろう? アーサー・レンフィールドの事が」

「……は、えっ……?」

「まあお前は何度も窮地を救って貰ったんだ。分からなくはないがな」


 ぼんっ! と爆発音が聞こえそうなほどシルフィーは顔を赤くする。しかしそれを誤魔化すように一度咳払いをすると、シルフィーは顔を真っ赤にしたままフェルトに詰め寄るようにして、


「……好きとは少し違うと思います。親愛、でしょうか? ただ、彼らとまだ一緒にいたいと思うんです。それに彼には結祈(ゆき)さんがいますし私なんかが出る幕はないと言いますかそもそも人間とエルフですよ!?」

「落ち着けシルフィー。全く冷静になれてないぞ」


 咳払いの意味はあまり無かった。言い訳をしているのは明白だが、もはや隠す気があるのかどうかさえ怪しくなってきている。

シルフィーは一度冷静になるために何度か深呼吸をし、それから改めてフェルトに向かう。


「……フェルト兄様はハーフエルフを生み出したいんですか?」

「まあお前とアーサー・レンフィールドの子供なら可愛いだろうな」

「茶化さないで下さい!」

「別に茶化していないさ。彼なら安心して任せられるし、この国に反対する者だっていないだろう」

「ですが……」

「近衛結祈の事が気になるなら、二人とも彼にもらってもらえば良い。別に『アリエス王国』は一夫多妻制がダメな訳ではないしな」

「……もう良いです」


 拗ねたように唇を尖らせるシルフィーにフェルトはくつくつと笑う。

 からかって悪かった、と謝罪の言葉を口にして持っていた木箱の蓋を開けて中身を取り出す。


「ではシルフィー。これをお前に渡しておく」


 そう言ってフェルトが机の上に出したのは、五人分の『ポラリス王国』への通行許可証と一つの指輪だった。シルフィーはその指輪を見て不機嫌だったのが嘘のように驚いた顔で、


「これは! もしかして異空間収納の魔法付与が付いてる指輪ですか!? 国宝じゃないですか!」

「彼らはそれだけの事をしてくれた。これからの旅路で荷物も増えるだろう。これで少しでも負担を減らせると良いがな。まあ国宝と言っても使う機会も無いし、お前が預かっておいてくれ」

「フェルト兄様……ありがとうございますっ」


 ぱあっと顔を輝かせてから、しかしシルフィーはふと思ったように、


「……フェルト兄様、もしかしてこれを出せば私が機嫌を直すと思って好き勝手言ってました?」

「はっはっは! バレたか。まあ久しぶりの家族の会話というやつだ。大目に見てくれ」

「フェルト兄様!」


 二人はきっと、こんな風に話せる機会は今後ほとんど訪れないと悟っているのだろう。

 そんな風にフェルトがシルフィーをからかうという家族の会話は、夜の宮廷内で遅くまで行われた。

ありがとうございます。

今回は本編が短いのであとがきを多めに。

第四章はあと二話で終わりの予定です。次回は『タウロス王国』で中断したアーサーと結祈のデートの続き、次々回は第五章への布石を含ませた話にしようと思っています。


それからこの場を借りて皆様に感謝を。

この【村人Aでも勇者を超えられる。】は第一章からこの第四章までがフェーズ1、アーサーが小さな村から世界に向けて旅立つ準備段階を描いて来ました。そして第五章からはフェーズ2、第ゼロ話から音沙汰の無い勇者も本編に合流して本当の意味での物語が始まります。

正直言うと私は飽き性なので、ここまで続けられると思っていませんでした。ですがいつも読んでくれる方々のおかげで今日まで頑張って来れました。本当にありがとうございます。

拙い文章ですが、第五章からも引き続きよろしくお願いします。

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