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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第四章 アリエス王国防衛戦
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71 図書館での出会い

 七日間の準備期間の間、彼らにはそれぞれやる事があった。

 サラは結祈とブローと魔術の特訓、アレックスは新しい剣に慣れるために素振り。そしてアーサーはというと。


「ここがヴェロニカさんの言ってた図書館か……」


 アーサーはとある目的のために図書館へと来ていた。他の部屋とも変わらない扉を開けて中に入ると、二階分はある天井の高さギリギリまである本棚にいっぱいの本が敷き詰められていた。本が好きな人間にとってはたまらない光景だ。


「いやーロマンがあるなあ。戦争なんて物騒な事じゃなくて、こういう所に寝泊まりしながら一日中のんびり読書でもしてたいよ。……さて、と。それにしてもヴェロニカさんが言ってた司書の人はどこだ?」


 とりあえず司書の人を探しながら、本棚と本棚の間を進む。いくつか気になるタイトルの本があったが、最優先は他にあるので手に取るのは我慢する。

 そして何列目かを覗いた時に、それは姿を現した。

 本棚から落ちたであろう大量の本の下から、誰かの一対の足が覗いていた。


「……し、死んでないよな?」


 若干引き気味にアーサーが呟くと、その声に反応したように足がピクリと動いた。


「……すみません、そこにどなたかいらっしゃいますか?」

「ああ、はい。ヴェロニカさんに紹介されて来ました。アーサー・レンフィールドっていいます」

「そうですか……。ではアーサー様、いきなりで悪いのですが上の本を退けてくれませんか? というか端的に言って助けて欲しい。あとご飯の用意とお風呂に連れて行って欲しい」

「後半はともかく本はすぐに退かすんで、自分の事は自分でやって下さい」


 アーサーはその言葉通り丁寧に本を退けていく。変な場所を動かして、また本の山が崩壊しないように慎重にやっていたら、思いのほか時間がかかった。けれど腰の辺りまで退かすと体の自由を取り戻したのか、下敷きになっていた彼女はもぞもぞと動きながら自力で這い出て来た。


「ぷはぁ! 死ぬかと思いましたっ! アーサー様、感謝します」

「それは良いんだけど、あんたが司書のニーナさんで良いんですか?」

「ええ、その認識で間違いありません」


 ようやく本題に入れる事に安堵の息を漏らすと、ニーナは床に散らばった本を本棚に戻し始めた。


「ではアーサー様、片付けを手伝って下さい。さすがに大事な本がこのままというのは忍びありません」

「それについては一〇〇パーセント同意するけど、なんであたかも当然のように俺も片付けする事になってるんですか!?」

「あなたは見た所メイドでは無いようですし、見たい本があるからここに来たのですよね? これが終わらないと探せませんよ?」

「……手伝います」


 まったく本題に入れなかった。

 大量の本をニーナに指示されるままに、ジャンルを分けて著作者のあいうえお順に本棚に収めていく。それが全て終わった頃には、高かった日が沈みかかっていた。


「手伝って頂いてすみません。それで、アーサー様がお探しの本は何でしょうか?」

「やっと本題か……。とりあえず『アリエス王国』の森まで網羅してる地図を一つ。それから『担ぎし者』についての記載がある本を全てお願いします」


 アーサーが気になっていたのは正にそれだった。婆様に訊いた『担ぎし者』についての詳細を知りたくてここに来たのだ。

 けれどその注文を聴いたニーナはひどく申し訳なさそうに、


「すみません。地図に関してはすぐに用意できますが、『担ぎし者』について記載されている本には閲覧規制がかかっています。アーサー様には開示できません」

「じゃあ誰ならできるんですか? フェルトさんに頼めば読めるんですか?」

「閲覧規制を解除できるのは、先代のネスト・フィンブル=アリエス様だけです。現在の『アリエス王国』には『担ぎし者』の本について閲覧できる者も、閲覧規制を解ける者もいません。何故かは分かりませんが、そのワード関連の本は禁書扱いです」

「なんで……」


 アーサーは思わず漏れた声で訊き返したが、ニーナは首を横に振るだけだった。その理由は司書であるニーナにも分からないらしい。

 ともすれば、これ以上の追及は無意味だった。アーサーは諦めて別の本を要求する。


「……とりあえず地図はよろしくお願いします。それから何か暇を潰せる科学関連の本をお願いします」

「……なるほど、ではこれなんてどうでしょうか」


 ニーナは注文してすぐに、迷う事なく本棚から本を抜き取った。

 もしかしたら彼女はこの部屋にある本の場所を全て覚えているのかもしれない。というか、だからこそたった一人で司書を任されているのだろう。

 そんなニーナが差し出してきた本を、アーサーはその場でパラパラとめくる。


「えーっと、なになに。『集束魔力砲』『電磁加速砲(レールガン)』『ポイズンスカンクの催涙弾』『自動感知狙撃銃』『防御壁展開電波塔』『対魔族殲滅鎧装』『高性能対物感知機』『サテライトキャノン』『自動機械兵』……なにこれ?」

「近年話題になっている兵器全集です。……まあ、実在するかどうかは分かりませんが」

「……この『ポイズンスカンクの催涙弾』とか、実在したらヤバいだろ。催涙どころか失明するよな?」

「ですから都市伝説みたいな眉唾ものの話ですよ。暇つぶしには良いでしょう?」

「……まあ、確かに。じゃあ借りていくよ。ありがとう、ニーナさん」


 本来なら数分で終わる用事を数時間かけて終わらせ、アーサーはこれ以上ここにいたらまた面倒事を押し付けられそうな気がしたので、なるべく速足で入って来た扉に向かう。


「わっ!」


 するとアーサーが踵を返した瞬間、背後から短い悲鳴と共にガラガラと高い場所から大量の物が落ちる音が聞こえてきた。

 アーサーは嫌な予感を覚えながら後ろを振り返ると、そこには案の定、入って来た時と同じように本の山に下敷きなっているニーナがいた。


「……あの、ニーナさん?」

「……アーサー様、私の言いたい事は分かりますね?」

「俺からすればなんでこの状況でそんな強気に出れるのかが不思議だよ!?」


 結局、再び救出活動と落ちた本の整理をしていたら、日は完全に沈んでしまっていた。

 目的の本は手に入らなかったが、地図も暇潰しの本も手に入ったので、アーサーは収穫有りという事にしておいた。そうしないと、この重要な期間の時間の使い方としてはさすがに空し過ぎたからだ。

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