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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第四章 アリエス王国防衛戦
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57 エルフの国

 自分達が今『アリエス王国』のどこにいるのかも分からなくなるくらい森の中を進み、ようやくそれが僅かだが見えてきた。

 訊かなくても見ただけで分かる、白い城壁で構成された巨大な城、あれが『アリエス王国』の宮廷なのだろう。

 やがて森の中を抜け、城下町が見えてくる。当然そこは多くのエルフで賑わっていた。


「……なんか、『タウロス王国』とは違う感じの賑わいだな」


 アーサーが見て感じたのは『タウロス王国』のような多くの人で賑わっているのとは違い、全てのエルフが近所付き合いをしているかのようなフレンドリーさだった。


「エルフは数が少なく寿命が長いですから、国民の全員が家族のようなものなんです」

「なるほど……」


 簡単に呟くが、それは人間ではなくエルフだからこその国風なのだろう。現に住んでいる人達が少なかった『ジェミニ公国』の辺境の村でも、ここまで全ての人が関わり合っている訳ではなかった。


「あ、お姉ちゃんだー!」


 大声で言いながら近づいて来たのは小さい少女だった。ダッシュのまま速度を緩めずシルフィーに向かって飛び込む。


「リーズ、今日も元気ですね」

「えへへっ」


 シルフィーに頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めるリーズ。しかし後ろにいるアーサー達を見ると疑問顔になる。


「お姉ちゃん、この人達は誰ー?」

「私のお客人です。リーズも礼儀良くしなくてはダメですよ?」

「うん、わかった。じゃあみんなで遊ぼう!」


 アーサーはコロコロ表情の変わる子だなー、と思って見ていると、シルフィーは少し悲しそうな表情を浮かべて、


「ごめんなさい。私はこれから宮廷に戻らなくてはならないので、今日は遊べません」

「えー……。後ろのお兄ちゃんとお姉ちゃん達も?」

「……はい」

「えー……」


 心底落胆した声を上げるリーズを抱きとめているシルフィーが、困った顔をしてアーサーの方を見てくる。


(お姫様って言っても子供には弱いのか……)


 一国のお姫様としてはおかしいのかもしれないが、その困った顔にシルフィーの人柄が現れているようで、アーサーは少し嬉しい気持ちになった。

 そしてリーズと目線の高さを合わせるために片膝を折って地面につけると、優しい笑みを浮かべながらリーズの頭の上に手を乗せて言う。


「ごめんな。用事が終わったら付き合うからさ、今は許してくれな」


 リーズは少しの間唸ったが、


「……わかった。約束だよ?」

「ああ、約束だ」


 リーズはアーサーの差し出した小指に自らの小指を絡ませて軽く振ると、指を切って元気に駆けて行った。


「じゃーねー! お姉ちゃん、お兄ちゃん!」

「元気だなあ」


 何だかんだ言いつつ、アーサーはリーズが見えなくなるまで手を振っていた。


「リーズを説得してくれて助かりました、アーサーさん」

「シルフィーも小さい子には弱いんだな」

「……恥ずかしい所を見られました。お姫様らしくないですよね?」

「まあ、それがシルフィーらしさなら良いんじゃないか?」


 アーサーは思った通りの事を口にした。

 その場はそれで終わったが、その後もシルフィーは色々な人達に話しかけられた。


「フィー姉! あっそぼーうぜー!!」


 リーズと同じくらいの年の子供。


「お疲れ様です、シルフィール様。丁度森でブラックボアを狩って来ました。お肉をお裾分けするのでどうぞ持って行って下さい」


 狩りに行っていたであろう大きな猪を担いでいた四人の弓使い。


「お姫様、綺麗なアンティーク家具が入りましたが、良かったら見ていきませんか?」


 アンティーク専門の雑貨屋のおばあさん。


「おや? 姫さん、今日は人間の男連れかい? お客人ならこの野菜を持ってけ。さっき入ったばっかりだから新鮮だぜ」


 食材を取り扱っている店のオヤジ。

 それ以外にも、シルフィーが歩くだけで道行く人達が足を止めて声をかける。そしてシルフィーもシルフィーで一人一人丁寧に対応するせいで一向に前に進まない。


「……これいつになったら宮廷に着くんだ?」


 その状況にアレックスが疲弊の込もった声を漏らす。


「まあ良いんじゃないか? そこまで急いでる訳でもないし、こうして見てるとアリシアとかもこんな感じだったのかなって感慨深くもなるし」

「どうでも良いがテメェどんどん老けてねえか?」


 いつも通りにくだらない会話をしていると、両手を荷物でいっぱいにしたシルフィーが会話に割り込んで来た。


「付き合わせてしまってすみません。もうすぐで最初の目的地に着きますから、頑張って下さい」

「ん? 城まではまだ距離がある気がするけど……」

「ですから最初の目的地は城ではなく、婆様の所です」

「婆様?」

「はい。未来を占う『固有魔術』を持っている、この国で一番の高齢の方です。せっかくなので皆さんも占って貰ってはどうかと思いまして」

「占いか……」


 正直アーサーはそういったものを信じていなかった。けれど他の三人を見ると、特に結祈とサラが興味を持っていた。やはりこういうのは男よりも女の方が興味をそそられるらしい。


「……まあ、やってみるだけなら良いかもな」

「ではこちらです。付いて来て下さい」

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