474 『ポラリス王国』へ行け
『ポラリス王国』と『W.A.N.D.』で動きがあった三日後の夜。
アーサー・レンフィールド。ラプラス。紬・A・G・N・S・イラストリアス。水無月紗世。
出国しようとしていた四人はクロノによって拘束されていた。
「絶対にお前を『ポラリス王国』には行かせん」
クロノの決意は言葉で覆るほど安いものではなかった。さらに攻撃されるとも思っていなかったので、成す術もなく拘束されてしまった。
「ぐっ……ヴェルター!! 出れないか!?」
『無理だ!! そもそもオマエが氣力を練れないんじゃワシは表に出られねぇ!!』
最悪の状況だった。アーサー以外の三人も成す術なく、クロノにされるがままの状態だ。
「別に傷つけるつもりはない。少々閉じ込めさせて貰うだけだ。次の瞬間には一週間ほど飛んでいるがな。『断絶結界』―――」
それはクロウ・サーティーンが扱っている、結界内に閉じ込めるのではなく相手の内側に結界を展開する絶技。
しかしそれが放たれる直前、両者の中央に何かが降って来た。
「『風刃・雷刃』―――『過剰神剣』!!」
「『オルトリンデ・アルター』―――『破葬拳・機鋼撃』!!」
それぞれ技を放ちながら降って来た二人によって、クロノが出していた鎖が断ち切られてアーサー達は自由を取り戻した。アーサーはもう二度と捕まらないように警戒心を強めながら二人の方を見る。
「結祈!? サラ!? お前らどうしてここに!?」
「胸騒ぎがしたのよ。それで結祈に頼んで感知して貰ったら予定に無いクロノがいたからどうしたのかと思ったけど、どうやら来て正解だったようね」
「まったく。アーサーって黙って出て行っても言ってから出て行っても、結局問題に巻き込まれるんだね。これはもう、そういう星の下に生まれて来たと諦めるしかないのかな?」
最高の援軍に苦笑いを返しつつ『炎龍王の赫鎧』を発動させたアーサーは構える。クロノは動きを見せないがノータイムで時間を停められる化物だ。その時は停止中も動けるアーサーがなんとかしなければならない。
「お前らか。来るとは思っていたが早かったな」
「一応聞くけど何やってるの? アーサー達が行かないとネミリアが死ぬんだよ?」
「分かっている。だがそれでもアーサーを行かせる訳にはいかない」
「理由は?」
「言えん」
「なら戦うしかないわね。あんたが強いのは知ってるけど、足止めくらいはさせて貰うわよ」
動かないクロノに対して結祈は双剣を振るって風と雷の斬撃を飛ばし、サラは腕を振るって爪の斬撃を飛ばす。しかしそれはクロノの目前で制止し、彼女はゆっくりと斬撃を回り込んで避けた。そして結祈とサラを鋭い眼光で睨む。
「良いだろう。少し遊んでやる、小娘共」
「っ……アーサー!! レミニアが待ってる。すぐに行って!!」
「ここは受け持つわ。ネミリアの事、ちゃんと助けなさいよ!?」
「結祈、サラ……ありがとう。紬、紗世を頼む」
二人の想いに応える為にも、一刻も早くレミニアの元へ行く為に紬に紗世を任せ、アーサー自身はラプラスをお姫様抱っこで抱えてすぐに地面を蹴った。『飛焔』による高速移動で一気にクロノと距離を離したが油断はできない。時を止められる彼女に物理的距離はあまり関係無い。
「……アーサー。クロノは……」
「分からない。でも理由があるにしろ『ポラリス王国』に行かない訳にはいかない。ネムを救う為に絶対に行かないと」
「……はい」
腕の中で心配そうにしているラプラスの懸念は、やはりクロノの行動の理由だろう。今の情報から未来を観測するラプラスとは違い、時を駆けて直接未来を見れる彼女の事だ。やっている事には意味がある。それは間違いないが、ネミリアの命を犠牲にしてでも止めたいとなると賛同はできない。
「とにかく早くレミニアと……」
「……? どうしたんですか、アーサー……」
回路を辿って辿り着いたのは王宮のテラス。だがそこにいたのはいつの間にかアーサー達を追い抜いていたクロノと、彼女の鎖によって全身を拘束されて完全に時を止められているレミニアの姿だった。