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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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463 決して奪われぬ五人の意志

世界を憂い(ロストワールド)、無を望む(・アボトロジー)』。

 それは必中必殺の、正真正銘ヴェールヌイの切り札。

 その結界内でヴェールヌイ以外の者は五感を失い、さらに野性的な第六感すら効かなくなる。

 一面は闇。前後左右の感覚も、自分が今倒れているのか立っているのかも、生きているのか死んでいるのかも分からない。

『力』の発動も感じず、まさに成す術の無い状況。

 けれど別々の同じ結界の中で、五人の意志は奪われていなかった。





 暗闇の中で、近衛(このえ)結祈(ゆき)はさらに暗くて深い自身の心の内に意識を向けた。

 誰も見ていないなら好都合と言わんばかりに、彼女は感覚が無いはずなのに指を弾いた。

 自分には聞こえない甲高い音に合わせて、結界内で結祈にトドメを刺そうとするヴェールヌイの体から突然発火した。それと同時に結界が解除され、結祈は自由を取り戻す。

無間(むげん)』をすり抜けた攻撃に、ヴェールヌイは絶叫してのたうち回っていた。それを結祈は見下ろしながら、今にも泣き出しそうな顔だった。


「『義憤の炎(アドラステイア)』。消えない炎だよ……この手は使いたくなかったんだけどね」


 でも他に方法が無かった。

 勝つ為に命を奪った。

 英雄(ヒーロー)ではない復讐者(アベンジャー)だから。

 そんな言い訳だけを並べて、結祈はヴェールヌイが絶命して炎が塵まで焼き尽くすまで立ち尽くしていた。





 野性的な第六感を失い、本格的に追い込まれていたサラ。

 しかし彼女にはまだ『オルトリン(姉の愛)デ』が残っていた。動物の感覚器官を封じるこの結界は、機械的な動きについては無力だ。だから『オルトリンデ』はサラの身に起こった異常を感知し、敵を倒すために彼女の体を強引に動かす。

 その動きをサラは感じる取る事が出来ない。けれど彼女は信じていた。セラに贈られ、リアスが改良してくれた鎧の事を。

 だから氣力を発動するタイミングだけは分かっていた。


(何も分からなくても、この『翼拳(ウィング)』は必ずヴェールヌイに向かってる!!)


 感じない『力』を見えもしない『翼拳』に流し、サラは心の中で叫ぶ。


(全部砕け―――『虎王破葬拳・(コオウシャクライグ・)機鋼撃』(エクスマキナ)ッ!!)


 放たれた前よりも巨大な虎のオーラは、正確に『天征(てんせい)』を放とうとしていたヴェールヌイに襲い掛かり、『無間』を破ってトドメの一撃となった。

 サラがその事に気付いたのは、結界が砕けて仰向けに倒れたヴェールヌイの姿を見てからだった。


「……流石にもう動けないようね」

「ぐっ……こんな、敗けるなんて……!!」

「まあ、()対一だから対等じゃなかったのは認めるけどね。でもあたし達はチームで戦ってるから卑怯とは言わせないわよ」


 サラのその言葉に、仰向けに倒れるヴェールヌイは塔の方に目を向けながら答える。


「問題ありません。あそこにいる私が全てを終わらせますから」

「いいえ、勝つのはアーサーよ。世界を終わらせたりなんかしないわ」


 どちらにせよ、ここにいる二人にはもう介入する時間は残されていない。

 出来るのは、互いに勝利を祈る事だけだった。





 もはや動かない音無(おとなし)透夜(とうや)に確実なトドメを刺す為に、ヴェールヌイは確実な一手を打った。それほどまでに『影の巨人』の力を脅威と感じていたのだ。

 さらに警戒して距離は取ったまま『天征(てんせい)』を用意する。そして放つ直後、展開したばかりの結界が唐突に砕け散った。理由は考えるまでもなく影でできた斧を振るう『影の巨人』だ。


(馬鹿な……っ!?)


 あまりの状況にヴェールヌイは言葉を失った。

 結界術。使う『力』や能力、規模や使用用途が違っても共通するルールがある。リディの『倏忽凶撃百折不撓』しゅっこつきょうげきひゃくせつふとうのような例外もあるが、基本的に結界とは内と外を隔絶する。そして閉じ込める結界は内から外への耐性が強くなる分、外からの侵入は容易となる。逆に侵入を防ぐ結界であれば、内側からの脱出は容易となる。

 そして今回、ヴェールヌイは本来なら閉じ込める事に特化した『世界を憂い、無を望む』を侵入を阻む仕様にして構築していた。それも『無間』を破れる威力の攻撃でも砕けないほどの強度で。それなのにたった一撃で結界を破壊された。


(ああ……この巨人の能力を見誤っていましたね)


 結界を破ってすぐ、地を蹴ってヴェールヌイに肉薄しながら結界を破った斧を握る手とは逆の手に握った棍棒を振るう巨人を見て、遅れながら答えに至る。

 この『影の巨人』の正体は、死に瀕した音無透夜の強い想いに呼応した事で発動した無意識の『訣魁(けっかい)』。それは『感知した敵の攻撃、防御に応じて一撃で打ち破る能力を付与した武具を生み出す』という完璧な対応能力を持った夜叉。だから『影の巨人』は結界破壊に特化した斧を精製し、それを以て砕いたのだ。

 そして今振るう棍棒には先刻精製した『無間』を破る能力が備わっている。


 ゴッッッ!!!!!! と。

 空を裂く一撃がヴェールヌイに叩き込まれた。


 抗う術もなく彼女はビルを何棟も貫いて吹き飛ばされて動かなくなった。そして『影の巨人』は黒い液体のように全身が崩れて地面に吸い込まれるように消えて行った。





 全ての感覚を失うはずの結界。そのはずなのに、六花(りっか)の動きは平常時と同じで淀みが無かった。

 そして対象の腕を交差させるように六本の腕を構えると、彼女の体から大量の氣力と神力が混じり合って膨張し、そのオーラが結界を吹き飛ばした。


「悪いな。『無限の世界』インフィニット・ユニバースには感覚器官を奪うヤツや、結界術を使うヤツは珍しくないんだ。経験値の差だな」


 ただの力技で結界を破壊し、氣力と神力の『太極法(インヤン)』を発動している六花は、そのまま交差した腕を一気に開いて解き放つ。


「―――『世界割絶つ六花の(ワールド・エンド)終剣』ッ!!」


 三本の線を合わせたような、アスタリスクの形で突き進む集束魔力砲六発分の威力を軽く凌駕する一撃。それは『無間』だけでなく、逃げる為に発動した『次元門(ゲート)』すら破壊してヴェールヌイを飲み込んだ。

 一部の隙も無い完璧な勝利。しかし六花の表情は浮かなかった。


「……マズい。調子に乗ってやりすぎた。大地(だいち)と『ウォッチャー』に何を言われるか……」


 どれだけ強大な力を持っていようと、頭が上がらない人もいる。

 やろうと思えば今からでもアーサーの戦いに介入は出来るが、流石に自重した彼女は刀を仕舞って眼帯を付け直した。





 一〇〇年間、『担ぎし者』として戦って来た(つむぎ)は、この場にいる誰よりも戦闘経験が豊富だった。

 確かに一度目は成す術なくやられた。しかし同じ技で二度もやられるほどヤワな鍛え方はしていないし、甘い世界で生きて来た訳じゃない。

 この結界のネタは感覚器官を封じるだけで、実際に『力』の放出を抑制されている訳ではない。そしてどこにヴェールヌイがいるのか分からないのなら、全方位に攻撃すれば良い。

 三つの『力』の比率を完璧に合わせなければ発動しない『虚式の太極法』。しかしアリアは一〇〇年の研鑽ですでに完璧に体得している。

 感覚が無い中で『虚式の太極法』を扱って覇力を精製し、感触が無い中で最後まで握り締めていた剣を、自身の体を信じて全力で振るう。


(―――『覇刃(はじん・)・桜華翔嵐』(おうかしょうらん)ッ!!)


 赤黒い稲妻を纏う桜の花弁のような炎の嵐が、紬の体を中心に渦を描くように広がって行く。

 防御不能の必殺の一撃。それが勝利を確信していたヴェールヌイを飲み込んで全身を焼きながら削っていく。そして結界の縁まで広がって行くと『太極虚法(インヤン)』の力で破壊し、彼女は自由の感覚を取り戻す。そして倒れているヴェールヌイに近寄った。


「今回はあたしの勝ちだね」

「……お前なら、私の言い分が……」

「理解はできるよ。でも同調はできない。あたしだってありのままを受け入れる訳じゃないし、抗う事だってするけど、たとえどんな世界だろうと歯を食いしばって生きて行く。そう決めたからあたしはここにいる」


 その言葉に対する反応はなかった。すぐに意識を失ったヴェールヌイはもう動かず、紬はフィリア達の方に戻る。


「フィリア。みんなも、大丈夫?」


 幸い疲労は見えるが酷い怪我をしている者はいなかった。

 強引に『ロード』を行使して動けないほど疲弊していたフィリアは紬の問いかけに頷きつつ、小さく口を開く。


「行って……レンを(たす)けて」


 たしかに『魔装騎兵』の破壊にはメアの他に、クロウやキャラルも加わっている。今から紬が加わらなくても問題はないだろう。

 となれば紬自身がヴェールヌイと決着をつけなければならない。別の時間軸の存在ではなく、この時間軸のヴェールヌイと。


「……うん。行って来る」


 その言葉に背中を押され、紬は『アスモデウス=ラスト』を再び呼び出して塔の方に向かって行く。

 自身が最も信じる、アーサーの元へ駆けつける為に。

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