460 廻り出す一つの歯車
アーサーを下したヴェールヌイは表情一つ変えず、さらに少し浮くと街の隅の五柱をぐるりと見渡した。そしてゆっくりと手を前に出して人差し指を親指で抑えると、自身の周囲の五ヵ所にいつもより長く『天弾』と『天引』を発動し、これまでよりずっと巨大な『天征』を指を弾くと一気に放った。
凄まじい速度で、とてつもない威力の攻撃。ただでさえ魔力感知に引っ掛からないそれを止める手立てなど誰にも無かった。
数秒後、五つの柱は半ばから粉々に砕け散った。
同時に柱から照射されていた光が消え、『バアル』は遂に自由を取り戻す。
「『アガレス』。お前の力、使わせて貰いますよ」
次に天に手を掲げると、『バアル』の頭上に巨大な『次元門』が際限なく現れ、それらは現れる度に重なって一つになる。
それが数多の『無限の世界』に繋がる扉で、『バアル』の惑星を破壊する力を伝播させるのに必要な彼女の要だ。
「さあ、終わらせましょう。『バアル=アバ―――」
ようやく、彼女はその目的を果たせる所に来た。あとは『バアル』にその一撃を放たせるだけで済む。
だがその寸前、青白く光る飛翔体がヴェールヌイに向かって突っ込んだ。『無間』によって突き出された拳が当たる事は無いが、その襲撃者にはヴェールヌイも驚いた。
「っ……キャラル=N=ドレッドノート!!」
「ヴェールヌイ! 今度こそ力尽くであなたを止める―――『炮閃』!!」
突き出したキャラルの拳からヴェールヌイと同じエネルギー砲が放たれる。そんなものはヴェールヌイに効かないが、彼女の表情は険しかった。
「……その力、紛いなりにも『バアル』と同調した影響ですか?」
「妹の愛って言って欲しい。……ネミリアの覚悟が、私をこうさせた」
「なるほど……やはり善人は長生きできないですね」
本当に悲しそうに、ヴェールヌイはそう言った。
それこそが行動原理なのだと示すように。
「だから私は世界を終わらせる」
「ううん。この世界は守るよ」
ヴェールヌイは開いた手を、キャラルは握った拳を。
それぞれ突き出して『炮閃』を放つ。
積み上げた力と、得たばかりの力。その勝敗は明らかだったにも関わらず。
◇◇◇◇◇◇◇
それぞれの五柱。
塔の屋上でこの時間軸のヴェールヌイが勝利を確信していた時、他の五人は対照的に恐怖すら感じていた。
外法を使う近衛結祈。
機械鎧を身に纏うサラ・テトラーゼ=スコーピオン。
意識なんて無いはずなのに睨んで来る音無透夜。
時間軸の外側に巣食う怪物の神道六花。
別の世界で戦い続けて来た紬・A・G・N・S・イラストリアス。
彼ら彼女らは、柱を破壊されても一切の動揺を見せずに好戦的だった。
アーサーが敗けた事だって分かっているはずなのに、全く攻撃の手を緩めようとしていなかった。
それは狂気か、それとも信頼か。ヴェールヌイには判断できなかったが、一刻も早く心を折らなければならないというのは感じていた。だからこそ、五人のヴェールヌイはそれぞれの場所で用意していた必中必殺の技を発動する。
「「「「「『断界結界』―――『世界を憂い、無を望む』!!」」」」」