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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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455 第四柱と第五柱

「他の所は派手にやってるなぁ……」


 他の柱の方を見ながら、六花(りっか)は呑気にそんな感想を漏らした。

 そして視線を前にいるヴェールヌイの方に戻す。


「一つ聞きたいんだけど、全員お前と同じ強さなのか?」

「ええ、勿論。全員が私ですから」

「重畳」


 右の腰から闇を纏う神刀『閻魔(えんま)』。

 左の腰から光を纏う神刀『天帝(てんてい)』。

 それぞれ構え、六花はその表情に笑みを浮かべる。


「じゃ、やろうか。クロノとレミニアは柱を頼む。流石にそっちまで守りながらは戦えそうにない」


 六花から放たれる凄まじい氣力に、クロノとレミニアは何も言わずに後ろに下がった。


「……凄まじい力ですね。流石、この時間軸の私が四人の警戒戦力の一人に数えただけあります」

「へえ……ちなみにオレ以外は誰だ? アーサーと紬ってのは分かるが、あとは誰だ? 五人なら仙術を覚えてるサラと透夜(とうや)だと思うんだが」

「教える必要はありません―――『天弾(てんだん)』」


 不可視の弾く攻撃。だが氣力を感知する六花は例外だ。刀を横に振るい難なく『天弾』を消し飛ばす。


「……なるほど。お前には小手先の技は効かないようですね」

「容赦なく行くぞ。一刀流『開闢』(かいびゃく)!!」


 振り下ろした右の刀から光の斬撃が飛び、ヴェールヌイの『無間』と衝突する。


「やっぱりこっちも生半可な攻撃は効かないな」

「ええ、お互い様です」


 中距離タイプのヴェールヌイに近距離タイプの六花が離れて良い所はないので、すぐに距離を詰めた。


「一刀流―――『劫末(ごうまつ)』!!」


 振るった左手の『閻魔』から闇の斬撃が飛ぶ。同じように『無間』で防ぐが、斬撃が消えた時にはヴェールヌイの視界から六花が消えていた。

 飛び上がっていた六花は両手の刀を水を纏う『時雨(しぐれ)』と雷を纏う『雷冥(らいめい)』に変えており、彼女の頭上から虚をついて落ちる。


「二刀流―――『斬雨(きりさめ)』!!」


 振り下ろした二刀はヴェールヌイの頭上で弾かれ、それに合わせて彼女は上を向いた。


「やっぱりオートか。不意を突いた程度じゃ意味が無さそうだ」


 あくまで再確認の攻撃だったので、防がれたこと自体には拘泥しない。すぐに二刀を左の腰の鞘に仕舞うと、今度は右の腰の鞘から先程と同じ『閻魔』と火を纏う『炎鬼(えんき)』を引き抜いた。


「じゃ、威力で行く」


 そこから繰り広げられた剣劇をヴェールヌイは視認できなかった。その動きは早く、滑らかで、『天弾』を放っても即座に斬られて全く効かない。やがて『無間』にヒビが入ると六花は動きを止めた。


「なんだ、この程度か? もっと楽しめると思ってたんだけどな」

「くっ……」


 忌々しげな表情は、そのままヴェールヌイが追い込まれている事を表している。

 そして六花は『閻魔』を肩に担ぎ、『炎鬼』はその下に腕を通して横に構える。


「二刀流―――『煉獄(れんごく)』!!」


 突進技。そして構えから軌道を予測。

 ほぼ勘任せでヴェールヌイは剣の軌道に合わせて『次元門(ゲート)』を開き、何とか横の斬撃だけは別の場所に飛ばし、縦からの斬撃はその身に受けた。肩からバッサリ斬られて鮮血が舞うが、彼女は怯まず前に出て掌を六花の胸に押し付ける。


「……お前の弱点はただ一つ。戦いを楽しみ過ぎです」


『無間』すら切って、一度に放出できるエネルギーの全てを注ぎこんだ『天弾』。その攻撃をまともに食らった六花は遥か彼方へと吹き飛んで行った。

 肉を切らせて骨を断つ。その執念は彼女の圧倒的なまでの飢えから来ている。


「……さて。戻る前に済ませましょうか」


 彼女の時間軸で『フェネクス』から抽出した自動治癒で肩の傷を癒しながら振り返る。そこには六花に言われて柱の前で待機していたクロノとレミニアの姿があった。

 ここの戦いが一番心配のいらない戦場だと誰もが思っていた中で、この予想外の展開にレミニアは息を呑み、クロノは溜め息をついて臨戦態勢を整える。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 第五柱。

 おそらくここが『シークレット・ディッパーズ』側にとって最も弱所になっていた。

 フィリア、エリナ、カヴァス、イリス、ジュディ。最も多い人数を配置していたが、それでも他の柱には結祈(ゆき)、サラ、透夜(とうや)六花(りっか)など飛びぬけた戦闘力を持っている者達がいる中で、ここは安定はしているが特出する点が無いのが実際の所だ。

 他の柱と同じように、ヴェールヌイが現れてからフィリアとエリナとカヴァス、イリスとジュディのそれぞれ古い付き合い同士の連携を存分に発揮して攻撃を繰り出していたが、どれも『無間』を破るには至らず、どの方向から攻めても『天散(てんざん)』で全員吹き飛ばされるという、まさに手も足も出ない状況だった。


「ヒーロー……お前達はどの『ユニバース』でも変わらないですね」


 所々流血していたり、何度も吹き飛ばされてボロボロの五人に囲まれながら、ヴェールヌイは平坦な口調でそう言い放った。


「痛みも孤独も『闇』も知っている。そしてまともな家族を知らない者ばかり。……なのに不思議な話ですよね? 感じて来たものは私達『ノアシリーズ』と大した違いはないはずなのに世界を破壊する側と守る側、その対極に進むなんて」

「……そだね」


 武器であるはずの『双銃剣』を仕舞いながらフィリアはそう応じた。


「違いは誰に出会うかどうかだったと思う。わたしは親に捨てられたけど、そのおかげでレンと出会えて『希望』を見つけられた。もし出会えなかったらとっくに野垂れ死んでたか、親や世界の事を恨んでたかもしれない」

「逆にアーサー・レンフィールドと出会ったせいで、今みたいに痛い思いをする事になったとは思わないんですか?」

「うん。それでも世界を恨むよりずっと良かったって思えるから。―――だからわたしだって、レンに良い所を見せたい」


 その決意と共に、フィリアの全身から魔力が溢れる。『天衣無縫(てんいむほう)』も合わさって大量の自然魔力が天へと伸びていく。

 何をしているのか、すぐに気付いたのはカヴァスだった。


「おい馬鹿! ご主人の補助なしに使ったら潰れるぞ!?」

「でもこれしかない。後はよろしく」


 カヴァスは舌打ちをして説得は早々に諦めた。代わりに稲妻を放出して無駄だと知りながらヴェールヌイを攻撃する。


「おまえら聞け!! これから『無間』を破る、その隙に全員攻撃を叩き込め!!」


 エリナとイリスとジュディにも情報を共有し、少しでもヴェールヌイの動きを止められるように攻撃を続ける。

 そんな彼女の傍で、フィリアはゆっくりと手を上に挙げていく。


「……それは悲しみを奏で、愛は奏でる事のない竪琴。天壌無窮、必中不可避の魔弓」


 その詠唱に合わせてフィリアからさらに凄まじい魔力が溢れ出す。流石にそれでヴェールヌイも何かマズいと気づいたが、その時にはすでに遅かった。



「穿て―――『運命定める悲劇の琴ロード・フェイルノート弓』ッッッ!!!!!!」



 フィリアのありったけを込めた『ロード』の一撃。それがヴェールヌイの頭上に落ちた。

『無間』を破るのに十分な威力の攻撃に、エリナとイリスとジュディはそれぞれの武器を構えて土煙の中に飛び込んだ。

 しかし土煙が晴れた後にあったのは、それぞれの剣と槍と短剣をぶつけ合っている三人の姿だけだった。


「当たっていたらお前達の勝ちでした」

「っ……!?」


 もはや動く力すらなくうつ伏せに倒れているフィリアの横からその声は聞こえて来た。そしてヴェールヌイの背後には『次元門(ゲート)』があり、何をしたのかそれで全て分かった。彼女は直撃する前に移動して逃げていたのだ。

 決死の攻撃を避けられた挙句、自分はリタイヤしてお荷物になる。その悔しさに涙が出てくる。


「『絶望』しましたか? ですがそれが普通です。お前の言う『希望』など儚い幻想ですよ」

「―――あたしも『絶望』を知ってる」


 それはまるで、時間の隙間に滑り込ませるようなヴェールヌイへの言葉だった。


「でもそれ以上に『希望』を信じてる」


 ヴェールヌイが弾かれたように振り返った直後、黒い稲妻を迸らせる『逢魔の剣(トワイライト)』を振るう(つむぎ)の姿があった。彼女の攻撃は問答無用で『無間』を破り、ヴェールヌイの体を斬り裂く。しかし僅かに浅く決定打とはならず、ヴェールヌイは再び『次元門』を使って距離を取った。


「……紬。レンは……?」

「今は一人でヴェールヌイとの決戦に挑んでる。あたしは『魔装騎兵』を破壊して回ってたけど、ここがマズそうだったから来た感じかな。それに協力な助っ人も近くまで来てるしね。だから安心して」

「……じゃあ、不甲斐ないけどバトンタッチで良い……?」

「うん、任せて」


 桜色の炎のオーラを纏いながら応えた紬は、ヴェールヌイの方に視線を移す。すでに彼女は『フェネクス』から抽出した力で傷の治癒をしていた。


「イリス、ジュディ、エリナ、カヴァス。フィリアを連れて『魔装騎兵』から柱を守って。ヴェールヌイとはあたしが決着をつける」


 四人から異論の声は出なかった。一度共に戦って返り討ちになっているイリスとジュディは若干心配そうに見たが、今の迷いのない紬の様子を見て大丈夫だと判断した。


「……正直、私を倒すとしたらアーサー・レンフィールドかお前だと思っていました」

「奇遇だね。あたしもそう思ってたよ」


 そして紬も彼女自身の落とし前をつける為に決戦へと向かう。

太極砲(インヤン)』はすでに五回使っている。回数制限以上に問題なのが、精神力と体力を使う技法という事だ。だがヴェールヌイからすれば防御不能の攻撃ほど怖いものはない。

 お互いに戦いが長引く事はないし、そのつもりは無いと分かっている。

 だから二人は最初から様子見なく、全力でぶつかる。

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