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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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452 無限にあるだろ

「……今の打撃。魔力を流してるのか?」


 仙術の修行中の合間、虚空に突きを放ちながら『珂流(かりゅう)』の練習をしていると、その様子をずっと眺めていた大地(だいち)は突然そう言い放った。


「ん? ああ。『珂流』っていうんだけどまだ完璧じゃなくて、少しでもタイミングが狂うと威力は乗らないんだ。実際に戦ってる時はもう少し成功率が上がるんだけど、こうして練習してる時は五割って所かな」

「実戦の方が精度が上がるか……なるほどな。問題点は分かった。ちょっと力を貸してやる」

「えっ……もう分かったのか?」

「カケルや俺も似たような技を使ってた。まあ見てろ」


 そう言って大地が手を床に着けると、突然せり上がるように鋼鉄の壁が出来上がった。


「まず実戦の方が精度が上がるって話だが、それはお前の集中力の問題だ。力ってのは良くも悪くも心次第で増減する。特にお前みたいな人種はそれが顕著だ」


 大地は自身が生み出した鋼鉄の壁に掌を当てる。そしてゆっくりと拳を引き絞りながら説明を続ける。


「まずは頭を空っぽに。それから自分が大切だと思う人々の顔、敗けた時の悔しさ、託された想い……そういった自分にとって欠かせない感情を思い起こす。そして―――」


 ふっ、と。

 風を斬り裂くような正拳突きが、鋼鉄の壁の前で寸止めするように軽く放たれる。すると見るからに硬そうな壁が轟音と共に大きく凹んだ。


(は……? 触れてないのに壁が凹んだ!?)


『珂流』の手本という話だったのに、アーサーの『珂流』では決して出来ない芸当だった。あくまでインパクトの瞬間に流した魔力を合わせる技術だと思っていたのだが、改めて考えれば『投擲槍(ジャベリン)』を撃つ時はあまり意識せずとも成功率が高かった事を思い出し、そもそもの考え方が違ったことに気付かされる。


「……それらの想いで心を満たし、拳に乗せて相手に放つ。慣れて行けばこの工程を一瞬で出来るようになるし、集中力と精密さが上がるから全てのパフォーマンスが上がる。お前の『珂流』も完璧に使えるようになるはずだ。『仙術』と並行して鍛錬してみろ」

「……そうか。まだ俺は強くなれるんだな」

「そうだ。それにお前こんな小手先のテクニックよりも重要な事はカケルから教わってるはずだ。俺達の戦いに必要なのは腕力じゃないって事を。これ以上は言う必要はないよな?」

「ああ……大丈夫。カケルさんの教えは全部、頭じゃなくて心に刻まれてるから」


 たとえこれから先、『ピスケス王国』の時のように記憶を失うような事があったとしても、きっと彼の教えだけは忘れない。思い出せなくても自分なら教えに従って動いてくれる。そんな妙に確信じみた事を思った。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 今、自分がここにいる意味をアーサーは考える。

 ミオが確定させられた未来を覆す。ネミリアの体を治す。エリザベスの力になる。リアスの行動が無駄じゃなかったと証明する。『無限の世界』インフィニット・ユニバースを守る。ヴェールヌイを止める。

 他にも色々な事情が絡み合っていて、目的は決して一つじゃない。

 ただ確かに言える事もある。それは今の自分が、敵を打ち倒す為だけに戦ってる訳じゃないという事。

 それが『LESSON7』。師から与えられた、一番大事な教え。


(ああ、分かってる―――心で戦う)


 大空(おおぞら)カケルと伏見(ふしみ)大地(だいち)

 彼らに鍛えられて得た力。その経験、その想いを全身から拳に流して真下に突き出す。



「―――『業炎天衝拳(ロック・スマッシュ)』ッ!!」



 今度は右腕一つに集束させた魔力と一緒に炎の氣力を纏った拳を一気に解き放った。

 先程の『髭鷲天衝拳』とは比べ物にならない大きさと威力の飛ぶ炎の拳。さらに三人の攻撃を一度に食らっては『無間』も意味を成さない。流石にそれを分かっているヴェールヌイは急いで両手を左右に伸ばす。


「『天散』ッ!!」


 危惧していた全方位への弾く力に、攻撃していた三人は吹き飛ばされる。しかし三人ともこれは予期していた事なので対応が早かった。メアと紬は吹き飛ばされた勢いを利用して柱を足場に着地し、アーサーも空中で体勢を整える。


「二人とも畳みかけるぞ!! 三人で攻撃すれば『無間』を破れる!!」

「うん! 拾弐ノ型―――『常夜桜・花吹雪とこよざくら・はなふぶき』!!」

「任せて―――『裂熱鋼鞭(レッドウィップ)』!!」

「行くぞ―――『髭鷲天衝連拳(イーグル・ラッシュ)』!!」


 一振りで無数の斬撃が飛ぶ(つむぎ)の剣技。先程のように一つではなく無数に分けてワイヤーを鞭のように振るうメアの一撃。そして頭上から両拳を交互に絶え間なく打ち出して『髭鷲天衝拳』を放つアーサーの連撃。

 凄まじい攻撃の連続に防戦一方のヴェールヌイだが、彼女がこれで終わる訳が無かった。


「っ……鬱陶しいですね!」


 そしてヴェールヌイは紬の方に手を向ける。しかし今度は『天弾』でも『天散』でも無かった。彼女の掌にエネルギーが集まって行き、それを砲撃として放ったのだ。突然の予期しない攻撃に紬は直撃を避けられず、さらにそのまま手を移動させてメアも砲撃に飲み込まれる。そして次は頭上にアーサーに指を弾く構えから放たれる『天征』を撃って迎撃した。せめてもの抵抗にアーサーは攻撃の手を緩めなかったが、それでも直撃は免れなかった。弾かれた体は紬がキャッチしてくれたので打ち付けられる事は無かったが、どうにも状況が変わって来た。


「これは参ったにゃ……『アガレス』から抽出したのは『次元門(ゲート)』だけじゃなくて『炮閃(シャスト)』もだったんだね」


 集束魔力砲に似た力。威力も遜色は無かった。もし苦し紛れの一撃ではなく、万全の体勢で放たれていたら致命的なダメージは避けられなかったはずだ。

 さらにヴェールヌイの体から炎が熾ると、彼女の傷ついた体がみるみる内に回復している。まるでサラの不死鳥の治癒能力みたいだ。


「『フェネクス』から抽出した自動治癒まで……」

「回復は厄介だな……」

「でも相当体力を食うから乱用は出来ないはず」


 そしてヴェールヌイもそれを分かっている。だから躊躇せず有効な攻撃手段を取る。改めて掌にエネルギーを集めると、今度は完全な形でアーサーと紬に向かって『炮閃』を放って来た。


「下がれ紬! 『聖光煌く円卓の盾(ラウンド・グローリー)』!!」


 再び放たれた熱線を、アーサーは最強の防御技で迎え撃つ。流石にすぐ破壊されるような事は無かったが、長時間放射され続ければ破られる予感がある。


「アーサーくん! カケルさんとの模擬戦、『盾と剣』は覚えてる!?」


 歯を食いしばって耐えていると、背後で紬がそう叫んだ。それは二対一でカケルと手合わせしている時、どうにかして一本取れないかと二人で話し合って決めた作戦の一つだ。


「っ……覚えてる! 俺が盾で良いか!?」

「ううん、剣をお願い! 盾はあたしがやる!!」


逢魔の剣(トワイライト)』を構え直した紬はすぐに光速で駆けた。そして彼女が盾から出た瞬間、ヴェールヌイはそれを待っていたかのように『炮閃』の放射を止めた。そして手を前に向けて『天征(てんせい)』による迎撃を行う。

 何の『力』かも分からない攻撃は回避するに限るが、彼女はご丁寧に射線をアーサーに重ねている。本来ならアーサーも避ければ良いが、『盾と剣』の作戦の性質上アーサーが動けば失敗だ。紬もそれが分かっているから回避の選択肢は無い。変わりに黒い稲妻をスパークする『逢魔の剣』を振るう。


『天絶黒閃衝』てんぜつこくせんしょう!!」


 何ものをも破れる絶対の矛。それは同時に、どんな攻撃でも弾ける最強の盾でもある。

 しかしこれで紬は三回目だ。ちんたらしている暇は無い。ヴェールヌイの正面に立った紬は、再度『虚式の太極法』を発動させて下段から剣を振り上げる。


「『天絶黒閃衝』―――『輝炎・昇陽(きえん・しょうよう)』!!」


 『天桜流』(てんおうりゅう)の型と合わせたその防御不能の一撃で、ヴェールヌイの『無間』は問答無用で破られる。


「今のヴェールヌイなら『無間(むげん)』再展開まで一秒ってところかな? でもそれだけあれば十分」


 そう呟いた紬は地面を蹴って宙に跳んだ。すると今まで彼女の背に隠れて見えていなかった、円盤を纏った『紅蓮弾(ぐれんだん)』がヴェールヌイの目前に迫っていた。

『盾』が敵の体勢を崩しながら『剣』の遠距離攻撃を隠し、寸前で躱して対処の隙を与えない。それが『盾と剣』の概要。作戦通りアーサーの『太極法(インヤン)『超新星紅蓮弾』ちょうしんせいぐれんだんがヴェールヌイに迫る。

 回避する時間が無いヴェールヌイが取った行動は、手を前に突き出して『天弾(てんだん)』で迎撃する事だった。しかし彼女が手を前に突き出そうとするのを妨害するように、突然現れたワイヤーが彼女の両手にまとわりついて後ろに引っ張ると固定した。『炮閃』のダメージから復帰したメアの、最高のタイミングでのサポートだ。

 ドッッッ!!!!!! と『超新星紅蓮弾』が直撃し、ヴェールヌイの体は炎が渦巻く爆炎に飲み込まれる。それが晴れた後に出て来たのは、もはや動けないほどにボロボロになったヴェールヌイだった。


(終わり、か……?)


 唐突な結末に釈然としない気分になった。

 悪い癖なのだろう。まだ何かあるのではないかと疑ってしまう。何より戦いの前から感じている疑問に答えが出ていない。いっそヴェールヌイに聞いてみようと近付いた時だった。

 塔の屋上、『バアル』が突然動き出して立ち上がったのだ。そして頭上から抑えつけられるような重いエネルギーが放たれる。アーサーや紬でさえ立っていられず、その場に膝をついてしまうほどの重圧。同時に新たな疑問が頭を埋め尽くす。


(キャラルを助けたのに、どうして『バアル』が停まってないんだ!?)

「……危な、()()()……」


 その答えは、仰向けで倒れているヴェールヌイの不穏な言葉で語られた。


「敗けはしましたが時間は稼げました。『この時間軸』の私が目的を達するには十分ですね……」

「なに……? お前、何を言って……」

「私は『()()()()()()()』のヴェールヌイですよ。この時間軸の私が過去に跳んで自分自身に助力を頼んだんです。頼まれた私は未来となるここに来て、お前と戦った訳です」


 理解が追い付かなかった。

 別の時間軸の自分を呼び寄せる。過去にアーサーは同時間軸に複数人存在した事で、その時間軸を『ウォッチャー』によって破壊されかけた。もしその危険性を知ってて行っているのだとしたら正気とは思えなかった。


「この戦法の肝は、私がここへ来た時点で私が本来いるべき時間軸は分岐しているという事です。つまり『直列次元』ではないので、私自身が死んだとしてもこの世界の私には影響が無い」

「お前は……時間軸の危険性を分かっててそんな手段に出たのか!?」

「当然織り込み済みです。ですから無限に呼び寄せるという訳にはいきませんでした。私を含めて六人といった所ですかね。ですが全員、昨日の私です。『バアル』の力は抽出しているので悪しからず」


 すると彼女の体がエネルギーで発光する。

 何か嫌な予感がして右手を伸ばしたが、この重圧のせいで素早く動けなかった事もあり、彼の手が触れる前にヴェールヌイは行動を終えていた。


「―――『天爆(てんばく)』」


 直後、彼女の体がエネルギーに包まれて爆発した。

 命を犠牲にした衝撃に吹き飛ばされながら、アーサーは混乱していた。


(ここまでやるのかッ!?)


 いくら時間軸が異なるとはいえ、正史の自分の為に命すら投げ出す。狂気すら覚えるその行動にアーサーは戦慄していた。

 圧倒的なまでの飢え。これがヴェールヌイの答えだとでもいうみたいだ。

 救えなかった事実がアーサーに重く圧し掛かる。けれど今は後悔よりも目を向けなければならない事がある。

 その時、五本の柱が発光したかと思うと『バアル』に向かって光を放った。その光に包まれた途端、アーサー達が感じていた重圧が消え去った。おそらくこれが封印の役割の一旦なのだろう。『バアル』の力を封じてくれたのだ。その隙にアーサーは耳の通信機に意識を向けて叫ぶ。


「みんな、マズいぞ!! ヴェールヌイが別の『時間軸』から自分自身を連れて来てる!! 敵はヴェールヌイ達だ!!」


 彼女は六人といった。つまりこの時間軸のヴェールヌイを除いて残り五人。丁度柱の数と同じだ。それぞれに一人ずつ行くとして、もし柱を破壊されれば確実に終わりだ。今の重圧を感じればそれくらい想像がつく。

 しかし今度は『バアル』とは違うプレッシャーが上の方に現れた。弾けるように見上げた先、それは『バアル』の方から降りて来るヴェールヌイの姿だった。アーサーと紬とメアは改めて固まって備えていると、ほんの瞬き一回の隙に彼女の姿がそこから消えていた。


「……彼女は役目を果たしてくれたようですね」


 ぞわっ、と。

 凄まじい寒気が背中に走る。その声が聞こえて来るまで、誰一人彼女が背後に移動していた事に気付かなかったのだ。


(来る……っ!!)


 紬もメアも、そしてアーサーも最大限の警戒をしていた。彼女の一挙手一投足を見逃さぬように、特に攻撃の基点となる手の動きに注視していた。

 しかし彼女がこちらに視線を向けた瞬間、一切の前触れなくメアが『天弾』によって吹き飛ばされた。


「なっ……メア!?」


 今まで何度も窮地を救ってくれた戦闘勘も、彼女が攻撃を放つ時のエネルギーを感じる暇もなかった。正確にはそれらを感じた時にはすでに手遅れだった。

 さらにアーサーと紬は頭上から凄まじい圧力を受けて地面に伏せる事になった。こちらも対処する間もなく放たれた『天圧(てんあつ)』だ。


「……お返しだよっ!!」


 なんとか右手を動かして状況から逃れようとしていると、外に吹き飛んだメアはワイヤーを柱に巻き付けて、勢いをつけて戻って来た。そのままヴェールヌイに向かって飛び蹴りを放つが、届く事は無く彼女の『天弾』によって再び弾かれて二人と同じように『天圧』の餌食となってしまう。。


「ぐっ……この、感じ……まさか『バアル』の起動者に……!?」

「正解ですアリア。そもそも『キャプテン』の役割は封印の鎖を弾く所までです。その後に同調するのは当然私の予定でした」

「だからっ……邪魔をしなかったのか!?」

「ええ、無意味でしたし油断すると思いましたから。むしろ引っ張り出す手間が省けましたし、お陰様で『分岐した時間軸』の私が注意を引いてくれている間に同調を済ませるだけで済みました。柱のせいでまだ『バアル』は動かせませんが、その力を振るう事は出来ます。たとえばこんな風に」


 ヴェールヌイが手を振るうと、柱の周りにいくつもの巨大な『次元門(ゲート)』が開いた。そしてその中から続々と『魔装騎兵』が現れると散り散りに飛んで行く。


「起動者のいない『魔装騎兵』を操る力です。残り五人の私と大量の『魔装騎兵』。お前達は柱を守りながら、一体何人救えるんでしょうね?」

「くっ……させるか!! 『カルンウェナン』!!」


『天圧』の『力』を掌握して立ち上がると、すぐさま『業炎天衝拳』で攻撃する。しかし先程までの『バアル』の力の一部しか抽出していなかったヴェールヌイとは違い、完全な起動者となった彼女の『無間』は桁違いに硬くなっていた。


「無駄です。私とお前達の力には、すでにかなりの隔たりがあります」


 彼女の言葉には驕りも誇張も無い。単なる事実だ。

 ここでアーサーは『紅蓮龍王(ぐれんりゅうおう)』の状態を解いて『最奥の希望をそ(インフィニティ)の身に宿(・フォース)して』を発動させる。特に打開策があっての行動ではない。ただ『模倣仙人』は発動しているだけで氣力を大量に消費し続けてしまうので、『最奥の希望をその身に宿して』と交互に発動して温存する作戦だ。


「……紬、メア。二人は『魔装騎兵』を破壊して回ってくれ。ヴェールヌイとは俺が一人でやる」

「レンくん!? いくらなんでもそれは無謀じゃ……」

「待ってメア。……任せて良いんだね?」

「ああ。みんなの方を頼む」


 ヴェールヌイから視線を外す訳にはいかないので、目で意志を伝える事はできない。けれど紬はアーサーの言葉の機微や状況から考えを把握したのか、メアとは違って無謀とも言えるアーサーの言葉に反対しようとしなかった。


「分かった。行こう、メア」

「でも……ッ」

「理由は説明する。だから今は早く『魔装騎兵』を破壊しに行くよ」


 アーサーの意図を正確に受け取った紬は、半ばメアを引っ張るようにしてこの場から離れて行った。本来の作戦とは違うが、すでに想定していた状況が破綻している。臨機応変に対応するならこれしか手はない。


「良いんですか? いくらお前とはいえ、今の私に確実に勝つなら三人がかりの方が良いと思いますが?」


 どうやら今のアーサーの行動はヴェールヌイにとっても奇妙に映ったらしい。しかしアーサーにはアーサーなりの考えがあっての行動だった。


「お前を倒せても『バルゴ王国』が壊滅したら意味が無い。逆にお前から離れたら、お前はこの世界を終わらせる。だから俺がお前を止めて、後の事は仲間に任せる。それが今の状況での最適解だ」

「なるほど。そしてアリアはすぐにその考えを察した訳ですか。やはりお前達を引き離せたのは僥倖ですね」


 瞬間、彼女の敵意が向けられるのを感じたアーサーは全力で横に跳んだ。『廻天』と無限の魔力にものをいわせた連続高速移動で的を絞らせないように動き、隙を見て矢のようにヴェールヌイに向かって跳ぶ。

『無限』の魔力を流した完璧な『珂流』の絶大な一撃と『無間』が衝突し、触れ合う事のない二人の間から凄まじい衝撃が周囲に轟く。


「まだ私を倒せる可能性があると思っているんですか?」

「俺が諦めない限り、無限にあるだろ!!」


 世界は無限に分岐する。それを信じるならば、アーサーの言い分は決して間違いではない。ただしそれは、二人の力量が未来の行方を左右できるほど拮抗している場合に限る。つまり今、可能性を掴み取るのは至難だ。

 それでも、もし無限の可能性の一つを拾えるなら、どれだけ辛くても頑張れるから。死ぬ気でやって未来を変えられる可能性があるなら、たとえすり潰れても体を動かし続ける原動力になる。


「でしたら絶望を教えて上げます」

「やってみろ! そんなもん、いくらだって乗り越えて来た!!」


 指を弾いて『天征』を放つヴェールヌイと、入れ替えたアーサーの拳が衝突する。

 再び衝撃が撒き散らされ、二人の戦いはその苛烈さを増していく。

 間違いなく未来の行方は彼らの戦いの結果に委ねられている。それと同時に『バルゴ王国』中で繰り広げられる彼らの戦いにも懸かっている。

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