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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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451 塔内の決戦

 アーサーが内部に飛び込んでから数分、外で待っている(つむぎ)とメアは気が気じゃなかった。『魔装騎兵』の自動修復機能により、『バアル』の胸の傷が少しずつ塞がっているのだ。おそらく『虚式の太極法』を使ったので通常よりも修復速度は遅いはずだが、それでもあと数十秒もてば良い方だった。

 早く、早く、と願っても彼らは出て来ない。それどころか『バアル』の方に嫌な変化があった。縛っていた巨大な鎖が発光したかと思うと、一斉に弾け飛んで塵になって消えてしまった。どう考えても良い展開とは思えない。


「っ……アーサーくん、急いで!!」


 聞こえるともしれない声で紬が叫ぶ。

 今まさに、『バアル』が交差した腕を開こうと動き出そうとしている時だった。


『……ォォォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 その雄叫びは『バアル』の中から轟いた。

 直後、塞がりかけていた胸のヒビが再び広がる。


『―――「天絶黒閃衝」クリティカル・スマッシュ!!』


 今度は内側から胸部の球体がガラスのように砕け、中から意識の無いキャラルを脇に抱えて拳を突き出したアーサーが飛び出して来た。メアがすぐにワイヤーを引っ張って再び掌の上に乗る。


「アーサーくん。『太極法(インヤン)』を使っちゃったけど、今は一日何回使えるの?」

「仙術の修行中に一回増えて、今は一日五回だ」

「ならあと四回か……無駄打ちはもうできないね」


 贅沢を言うならヒビが修復される前に出て来たかった所だが、想像以上に中と外で時間のズレがあった。ここはむしろ一発で済んで良かったと思うしかない。


『レンくんっていつもギリギリだよね。その内、間に合わなくなるんじゃない?』

「あはは……そろそろ特技はしぶとく生き残る事ですって言っても間違いじゃない気がして来たよ」


『バルバトス』の中から聞こえて来るメアの声には苦笑でそう返した。とにかくキャラルの救出は達成できたので、三人は揃って『キングスウィング』に戻って来る。

 本来であれば邪魔して来るであろうヴェールヌイと戦う予定だったが、どういう訳かキャラルを救出するまで妨害は一切無かった。次にどう動くべきか簡単に話し合って、一旦ネミリアとキャラルを基地に戻ってリアスに任せてから戻って来ようという結論になった。

 この中では最もキャラルと関係の深い紬は、調子を確かめるようにキャラルの額に手を当てながらアーサーに尋ねる。


「……キャラル、目を覚ますよね?」

「中では話せたし『力』の流れも問題無い。多分、しばらくすれば目を覚ますはずだ」

「わたしが力を使って起こしましょうか?」

「いや、ネムは力を使うな。安静にしててくれ」


 キャラルを囲むように三人が会話をし、メアが『キングスウィング』を『バルゴパーク』の基地に向かって自動操縦を設定していた時だった。

 突如、『キングスウィング』が吹っ飛ばされた。まるでトラックに撥ね飛ばされた車に乗っているように、機体は回転しながら吹き飛びまともに身動きも取れない。

 何度も機内に打ちつけられていると、ネミリアが白い光を纏った両手を左右に突き出す。すると『キングスウィング』と五人の体が停止した。


「ぐっ……ネム、悪い。助かった!」

「これくらい平気です。それより何があったんですか!?」

「氣力感知にようやく引っ掛かった! ヴェールヌイだよ。『天弾(てんだん)』で吹っ飛ばされた!!」


 何故今になって、という疑問が脳内に過る。だが今はその疑問を頭の隅に追いやり、やるべき事に意識を割く。


「メア! 自動操縦はまだ行けるか!?」

「ちょっと待って……ううん、ダメみたい。今の衝撃で壊れてる。手動なら問題ないけど……」

「それならわたしが操縦します。レンさん達はヴェールヌイの相手をして下さい」

「っ……でも」

「操縦くらいなら問題ありません。それに今はわたしよりも考えるべき事があるはずです」


 ネミリアの言っている事の方が正しい。頭ではそれを理解していたが、頷くのは中々に難しい。しかしアーサーのそんな悩みを看破したのか、メアは後ろのハッチを開けて、紬は手を重ねて来た。


「アーサーくん。あたし達は行くべきだよ」

「……ネム。キャラルの事、頼んだぞ」

「っ……はい! 任せて下さい!」


 嬉しそうに返事を返して来たネミリアから視線を切って、紬とメアとハッチのギリギリに並んで視線を遠くに向ける。すると塔の中部の柱の間にヴェールヌイの姿が見えた。追撃するつもりはないのか、それともこちらの動きを待っているのか、何故か動かずにこちらの方を見ていた。


「絶対誘ってるよ、あれ。あからさまに罠っぽいなぁ……」

「でも行くしかない。メア、もう一度頼めるか?」

「うん。『バルバトス』で運ぶよ」


 そして先程と同じように、三人は『バルバトス』で塔の方に戻って来た。飛んでいる間に攻撃されるかとも思ったが、特に何もなくヴェールヌイが見えた位置の反対側に辿り着いた。先にアーサーと紬が飛んで着地し、続いて『バルバトス』を消したメアも着地する。頭上は吹き抜けになっていて『バアル』が下から見上げる事ができる。こうしてみると煙突に近いフォルムの塔だと分かる。


「……やはりお前達は抵抗を選びましたね。では蹂躙するとしましょう」


 昨日と変わらないプレッシャー。戦いが避けられないのは分かっていたし、その事について迷いは無い。

 しかしこうして相対して、アーサーは一つ気になる事があった。


「……お前、本当にヴェールヌイか?」

「何言ってるの? 氣力は間違いなくヴェールヌイだよ。影武者なんかじゃない」

「……そうか。なら単なる気のせいかも」


 まだ引っ掛かるが、どちらにせよ目の前の彼女を倒さなければいけない事に変わりはない。思考を切り替えて掌を合わせると黄金の炎を纏う『紅蓮龍王(ぐれんりゅうおう)』を発動する。


「ヴェールヌイの手の方向に気を付けて。三人同時に別方向から責めれば『天弾』や『天征(てんせい)』で一気にやられる事は無いはずだよ」


 桜色の炎のオーラを纏う『炎龍王の桜鎧(コスモス・フレイム)』を発動させながら、紬はヴェールヌイの攻略法を話す。しかしそれでも『天圧(てんあつ)』や『天散(てんざん)』などの範囲技がある上に、その奥には『無間(むげん)』がある。どう足掻いても一筋縄ではいかない相手だ。


「……一つ、試したい事がある」

「えっ……アーサーくん!?」


 驚く紬を尻目に『飛焔(ひえん)』で高速移動したアーサーは、すでにヴェールヌイの目の前にいた。『無間』がある故の余裕か、ヴェールヌイは回避も防御の姿勢も取っていない。

 対するアーサーの様子もいつもとは違った。弓形に引き絞った拳を突き出す形ではない。

 左足を前に出した半身の構え。左手は左足に沿うように下げ、右手は腰に引いて構える。いつもとは違う『定まった構え』だ。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 それはアリスも交えた修行が始まって少し経った頃だった。

 別の『ユニバース』での生活にも慣れて来て、順調にレベルアップを実感していた時に、アーサーの様子を眺めていたカケルが唐突に言い出した。


「よしよし。『廻天(かいてん)』も身に付いて来たようだし、今日は一つ、とっておきのパンチの打ち方を教えてやる」


 それは丁度アリスの方が休憩に入った時で、一人で『LESSON』や『珂流(かりゅう)』の練習をしている時に言われ、疑問に思ったのを覚えている。


「パンチの打ち方って……俺、問題あるか?」

「まあ、覚えておいて損は無いって話だ。別に忘れてくれても良いぞ?」


 そう言われると逆に気になってしまうのが人間の悲しい性だ。それにカケルに教えられる事に無駄な事は無いと信頼しているので、当然集中して彼の動きを見る。

 左足を前に半身に構えると、左手は左足に添えるように下に降ろし、右手は腰に引いて握り締める。それが構えなのだろう。カケルは浅く息を吐いて集中力を高めていく。

 ゆっくりと目を開くと彼はすぐに動いた。左足で『廻天』を発動すると、右足を前に踏み出してさらに『廻天』を発動させた。二つの『廻天』の力を右の拳に集め、真っ直ぐ突き出すアッパーのような軌道から放たれる。

 カケルは『廻天』しか使っていなかった。それなのにその一撃は正面の木々を吹き飛ばし、打ち方一つでどれだけ威力が変わるのか見せつけられた気分だ。


「まあ、ざっとこんなもんだ」

「……カケルさん。今のパンチは……」

「『断空拳(ストライク)』って技だ。お前の『廻天衝拳』(ドリル・スマッシュ)にちょっと似てるが、こっちは全身を使って打つ分、威力は上になる。まあ気が向いたら……」

「教えてくれ」


 今の威力を見て、その時のアーサーは瞬時に思った。

 この技なら、もしかすると『無間』を砕く良い手段になると。





    ◇◇◇◇◇◇◇





(あの時の勘を試す時だ!!)


 左足で『廻天』を発動。そして体を入れ替えるように右足を前に踏み出してさらに『廻天』を発動させ、右の拳をヴェールヌイに向かって突き出す。


「―――『断空天衝拳』ストライク・スマッシュ!!」


 炎の力は使っていない、純粋な氣力と『廻天』のみを使った一撃。その拳はあれだけ堅牢だった『無間』を突き破り、ヴェールヌイの腹部に叩き込んで柱まで吹き飛ばした。流石にこの一撃だけで終わるほど甘くはないが、殴られた腹部を抑えながら苦悶の表情を浮かべるヴェールヌイと、天空に掲げるように振り抜いた右手を降ろしたアーサーの視線がぶつかる。


「……やはり、いつもお前ですね。最後の壁は」

「ああ、俺がお前を止めてやる」

「良いですよ。できるものなら」


 今の一撃が入った一つの要因として、ヴェールヌイに『無間』は破られないという慢心が会った事は間違いない。つまりここから先は今のようにはいかない。あくまで破れる手札があるとチラつかせた上で戦略を組み立てなければならない。


「紬、メア、行くぞ!!」

「一人で先に突っ走った人に言われたくないにゃー」

「同感だね」


 小言を溢す紬とメアだったが、その表情には笑みがあった。それは『無間』を破れる手段を見せられた事で、正気が見えて来たからだった。

 しかしヴェールヌイの方もそれは分かっている。近づかれるよりも前に手を前に出してアーサーを『天弾』で弾き飛ばした。手の方向に気を付けるのは分かっているが、それが中々難しい。特に距離が開いていると手の方向から攻撃の軌道とタイミングを読んで避けるのは至難の業だ。

 弾き飛ばされたアーサーはバク転しながら体勢を立て直すと、今度は弓形に拳を引き絞る。これは仙術修行中の合間に特訓し、ようやく『珂流(かりゅう)』を完璧な形で発動できるようになった事で体得した技。


『髭鷲天衝拳』(イーグル・スマッシュ)!!」


 目にも止まらぬ速さで打ち出した拳から魔力弾を飛ばすこの技は『投擲槍(ジャベリン)』に似ているが、速度は劣る分、威力はずっと上だ。距離も離れているし『無間』を破るほど威力は高くないが、意識を削ぐ程度の役割は果たせる。


『開花・千本桜』かいか・せんぼんざくら―――拾壱ノ型!!」

集束魔力供給弾、点火カートリッジ・イグニッション!!」


 アーサーの意図を悟り、ヴェールヌイの左右から紬とメアが同時に襲い掛かる。


『天桜龍尾』(てんおうりゅうび)!!」

排莢(バースト)―――『裂熱鋼鞭(レッドウィップ)』!!」


 紬の炎の花弁によって凄まじい攻撃力と攻撃範囲を誇る剣技と、メアの熱を帯びたワイヤーを束ねた鋼鉄の鞭が『無間』とぶつかって凄まじい衝撃が生まれる。

 そしてヴェールヌイの頭上には、すでに『飛焔』で移動していたアーサーが拳を引き絞っていた。

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