449 約束された破滅の日
ついにこの日が来た。
開園した『バルゴパーク』の方もごたついている中、起きてから各々準備を整えているとそれは起きた。
最初にあったのは大きな地震。次の街を囲んでいた五本の柱の中央、つまり街の中心部の地面からとてつもない大きさの塔がせりあがって来た。直径は二〇〇メートル近く、高さは三〇〇メートル以上はあるだろう。真ん中の一〇〇メートルだけ開いていて、壁ではなく柱で囲まれている部分が見える。しかしそれよりも特徴的なのは塔の屋上だ。高い塔から少し浮いた位置に、腕を胸の前で交差させて鎖でグルグル巻きになっている巨大な『魔装騎兵』の姿があった。
『バアル=アバドン』。他の『魔装騎兵』と比べてもあり得ないほどの大きさだ。
「行動開始だ。それぞれの持ち場にはソーマが運んでくれるんだよな?」
流石にずっとごたついていたこの数日でレミニアが街中を回るのは不可能だったが、幸い今は疑似的に転移を使えるソーマがいる。移動自体は一瞬で終わる。
ただし問題もあった。
「柱に飛ばすのは問題無いけど、現れたあの塔は無理だ。『バアル』の影響かあれの周りは空間が歪んでる。無理にやれば正確な位置に飛ばせずに地面や床にめり込んじゃうかも」
「それなら俺達はみんなが乗って来た『キングスウィング』で行こう。あれなら問題無く近づけるはずだ。それから予定が狂って混乱しそうだけどリザ達はここを頼む」
ここに残るエリザベス、ユウナ、ユリ、リアスの方を見て言うと、エリザベスは頷きながら言葉を返して来る。
「こっちは避難誘導が主な動きになるだろうが心配はない。それよりそなたらも気を付けろ。敵は『ノアシリーズ』だけではない。この国の人々は皆、そなたらを犯罪者として見て来る。守ろうとするのは分かるが、不用意に関わらぬ事だ」
「分かった。気を付ける」
新たな問題もすぐに解決し、すぐにでも動ける体勢になる。
みんなの顔を見ると緊張しているのが窺えた。今回の戦いは今までのどれとも違い、しくじった先を見て来た戦いだ。アーサーだって全く気負わずにいられる訳ではない。
「……今回、運命は向こうに味方してる。『あいつ』の力は強大だ。全力で未来を変えようとする俺達を阻止しに来るはずだ」
偶発的に起こす不条理。それが『あいつ』の売りだ。これまで何度も何度も目の前に立ち塞がり、その度に吼えながら前に進んで来た。
「でも黙って享受する謂れはない。俺達は何度も『あいつ』を超えて来た。だから今回も超えよう。例え多くの人に後ろ指をさされようと、大切なものを踏みにじらせない為に選択して来た事は間違いじゃなかったって、世界に証明する為に」
『協定』に違反して、ミオとネミリアを救えた事で知った未来。
その全てに意味はあったのだと思えるように。
誰も引け目を感じないように。
「……だね。気合、入れ直そうか」
言いながら、握った拳を前に突き出したのは結祈だった。
彼女に続くように円陣を組んだみんなは拳を前に突き出していく。
「じゃ、アーサー。もう一言よろしく」
「そうだな……じゃあ一つ、今回の件で分かった事がある」
思えば今回はいつも以上に滅茶苦茶な事件だった。
この国に来て、今日で六日目。けれどアーサーはすでに事件に関わってから二ヶ月経っている。別の世界、そして彼らの仲間。自分達が大いなるものの一部なのだと気付かされた。
「今のこの世界があるのは俺達だけの力じゃない。きっとどこかの世界でも『無限の世界』への脅威はあって、でもその世界に生きている誰かが、この世界も含めた見た事もない数多の世界の為に戦っている。その事実が、俺に独りじゃないって教えてくれるんだ」
円を組む二六人。そしてこの場にはいないキャラルや、命を捨ててみんなを助けたソラ。未来の世界で出会った『ラプラス』や『ミオ』達。
この戦いは、これから先の一〇年を背負った戦いだ。失敗は許されない。ここに辿り着いた彼らには、全ての意志を背負って戦う義務がある。
「戦う場所が違くても俺達は一つだ。お互いに支え合って、いつも通りの明日へ行こう。俺達は未来を取り戻す」
そして始まる。
無限に広がる世界と、これから先の未来。
多くのものが懸かった全面戦争が。