446 それぞれの前夜 -作戦会議-
あれから一時間。
みんな、それぞれの時間を過ごして研究室に再集合していた。アーサーが戻って来た時にはほとんど全員揃っており、アーサーの後にユリとユウナとリザ、結祈と六花と紬、そしてリディが入って来ると全員が揃う。今回は先の話合いには参加していなかった者達も含めて、医務室にいるネミリア以外の全員が揃った事になる。
「全員揃いましたね。では私の方から明日の動きを説明します」
具体的な作戦については全て『未来』を観測できるラプラスが考えていた。エリザベスやリアスとも話し合っていたみたいだが、『ディッパーズ』にいる者達の中で彼女が立案する作戦に異議を唱える者はいない。彼女が言うなら間違いない道だという確信がある。
「『オライオン級』を降した今、敵の戦力はヴェールヌイ一人と言っても過言ではありません。ですが彼女一人で十分に戦局は揺らぎます。油断はできません。それに皆さんも察しているかと思いますが、『バアル』の再封印の為に五本の柱を守らなければなりません。危険は増えますが明日はチームを分けます」
彼女の言う通り、それはみんなも想定していた内容だった。
問題なのは誰とどこで戦うかという事だ。
「第一柱に結祈さん、ソーマさん、私。第二柱にサラさん、リディさん、紗世さん。第三柱に透夜さん、スノーさん、リーゼさん。第四柱に六花さん、レミニアさん、クロノ。第五柱にフィリアさん、エリナさん、カヴァスさん、イリスさん、ジュディさん」
これで五本の柱を守るメンバーは決まった。
まだ名前を呼ばれていないメンバーにより一層の緊張が走る。
「リアスさんはここで全体のモニターを。ユリさんとユウナさんはここでチャリティーライブ、ミオさんとリザさんもここで避難誘導に専念して下さい」
非戦闘メンバーの割り振りも終わり、残りは三人。ここまで来れば言われなくても自分達の役割は分かっていた。
「そして一番重要な『バアル』起動阻止の為のキャラルさんの救出に、アーサー、紬さん、メアさんの三人で向かって下さい。おそらくヴェールヌイが立ち塞がるのはここだと思われるので準備をお願いします」
「わたしもそこに付いて行きます」
三人が返答する前に入口に現れた新たな来訪者が言葉を発した。
ネミリア=N=オライオン。彼女の登場にはその場にいた全員が驚いた。薬を打ったといってもすぐに全快とはいかないはずなのに、今は前と同じように元気な姿でそこに立っていた。
「ネム!? 体はもう大丈夫なのか!?」
「はい、皆さんのおかげで。だから明日はわたしも戦います。これはわたし達の問題ですから」
「……危険です。キャラルさんを救えても、ヴェールヌイはネムさんを狙うかもしれません」
「承知の上です。ですがわたしを守ってくれたキャラルさんを、今度はわたしが助けます。……レンさん、お願いです。何があってもわたしが未来を変えますから」
どう答えるべきかアーサーは少し悩んだ。けれど、もし自分が彼女の立場ならどう思うだろうかと考えれば、その答えに迷う事は無かった。
「……分かった。ただし無茶はするなよ」
「それをレンさんが言いますか?」
「ああ、言う。お前の分まで無茶する。だから絶対に無茶はしないって約束してくれ」
「……なんだかレンさんとの約束ばかりが増えていっているような気がしますね」
失われてしまった記憶を取り戻す。
手立てが無くなったら、アーサーの右手で殺し、一人では死なせない。
そして、今が三つ目。
「無茶はしません。約束します」
「なら一緒に行こう」
明日のチームはこれで決まった。細かい動きは各々後で決めるとして、あと出来るのは心構えくらいだ。
敵はヴェールヌイだけではない。それよりもずっと強大な確定された未来が相手だ。何が起きるか分からないが、確実にこちらに牙を向いて来るのは間違いない。
その後も明日の動きについて細かい部分も確認した後、リザやユリ達は明日の動きの打ち合わせの為に別室に移動して行き、他のみんなもそれぞれの時間を過ごす為に散り散りに出て行った。
「お兄ちゃん、アーサーくん」
アーサーもそろそろラプラスと話をしに行こうとすると、透夜と共にミオに呼び止められた。振り返ると彼女は頭を深く下げた姿勢を取っていた。
「迷惑をかけてばかりでごめん。でもお兄ちゃん達しか頼れないから頼らせて。二人ならきっと未来を変えられるって信じてる。だからお願い。この世界を『たすけて』」
近くにはこちらの様子を見守っているレミニアの姿があった。罪も責任も全て一人で抱えようとするミオが、こうして目の前で素直な気持ちを吐き出した辺り、きっと二人で何かを話していたのだろうと推察できる。
お兄ちゃん同士はお互いの顔を見る。彼らの答えはずっと昔から決まっていた。
「ああ、任せてくれ」
「みんなと一緒に、未来は必ず変えてみせる。……未来のミオとも約束したから」
そう言って透夜はミオに近寄って彼女の頭に手を置いて撫でた。顔を上げた彼女は柔らかい笑みを浮かべてされるがままの状態だった。兄妹仲が良くてなによりだ。
「やっぱり兄さん達には素直にお願いするのが一番効きますね」
アーサーの妹レミニアは、そんな攻略法を口にしながらアーサーの隣に並んだ。相手も相手なので、アーサーは溜め息をつく気すら起きない。
「ミオと話してくれたんだな。ありがとう」
「いえ、わたしも気になってましたから。兄さんは話したい人が多いと思いましたし。この後も話しに行くんですよね?」
やはり何でもお見通しのようだった。むしろ背中を押される形で、今度こそアーサーは研究室の外に出た。
彼の足がすぐに向いたのはラプラスがいる部屋だ。そろそろ話をしなければならない。