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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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443 それぞれの前夜 -伍-

「レン!」


 リディとの話が終わり、ひとまず中に戻ろうとしていたアーサーを呼び止める声が後ろからかかった。そこにはこちらに駆けて来るフィリアの姿があり、振り返った時にはすでに目の前にいてこちらに飛び込んで来ていた。

 突然の事で驚いたが、なんとか反応してフィリアを抱き留める。すると彼女はアーサーの首の後ろに手を回して、そのまま唇を重ねてきた。


「んぐっ……!?」


 飛びつくようなキスはフィリアの足が着く頃には離れていた。しかしフィリアは満足そうに自分の唇に触れて頬を朱に染めていた。


「ん、成功」

「ふぃ、フィリア……?」

「突然ごめん。でも(つむぎ)もエリナもソラもしてるのにわたしだけしてなかったし」


 そんな理由で思い切ったのか、というアーサーの感情が顔に出ていたのだろう。フィリアは少しだけ気まずそうに視線を逸らしてから再度言葉を続ける。


「ごめん嘘……照れ隠し。本当は気付いたんだ。わたしも同じだって。仲間や家族としてだけじゃない。特別な存在としてレンの事が好きなんだって」

「ぇ……」

「まあびっくりするよね。会った時は子供だったし」

「いや……歳は別に気にしてないけど……そっか。そうだったんだな……」


 家族としての好意を向けられているのは自覚していた。彼女はとても家族思いで、きっと誰よりも仲間の事を大切に思っている。一〇年前の世界でも佐けてくれて、ずっと信頼している相手だ。

 好意を伝えられて嬉しくない訳がない。けれどスゥの時と同じように、呪いの事が頭を過ってしまう。


「……フィリア。俺は……」

「返事は良い。レンが色々抱えてて拗らせてるのは知ってるし。ただ明日の為に悔いを残しておきたくなかったのと、ただ知っておいて欲しかったんだ。わたしもみんなと同じでそうなんだって」


 本当は返事を聞きたいと思っている事くらい、アーサーにだって分かった。

 フィリアは優しくて、こちらの事情を慮ってくれて、弱いアーサーはそれに縋るしかなかった。


「……ありがとう。フィリアの気持ち、受け取った。今はまだ無理だけど、いつか答えを伝えるって約束するよ」

「ん……待ってる」


 一通りの話が終わると、少し離れた位置で待っていたエリナとカヴァスが近づいてきた。フィリアはエリナの方に向かってなにやら話し始め、カヴァスはフィリアと入れ替わるようにアーサーの方に近づいてきた。

 そして見上げるように細い目を向けたまま、


「……サクラは一途だった」

「それはもう分かってるって!!」


 明日の為に悔いを残さない。もしかしたら失敗する事を考えれば当然の行動だろう。こうして歩き回ってみんなと話しているアーサーだって同じ気持ちだ。

 でも、誰もが明日を最後にするつもりは無い。フィリアの言葉を受けて、アーサーは改めてそう思った。





 ◇◇◇◇◇◇◇





 三人と別れたアーサーは基地内に戻って来ていた。会議までの三〇分ほどだが、まだ話したい人達がいるので休んでいる暇は無い。

 次に通路でバッタリ出くわしたのはユリとユウナだった。目が合ったユリは早足でアーサーに近づくと、突然胸倉を掴んで来た。


「丁度良いわ。アーサー、アンタちょっと相談に乗りなさい」

「良いけど……なんで喧嘩腰な訳?」

「ユリなりの照れ隠しじゃないかな? 話も話だったし」


 そんなこんなで、ユウナとユリからエリザベスから話された事を伝えられ、アーサーは少し考えた後にこう答えた。


「良いんじゃないか? 別に常に一緒にいなくても俺達が仲間で家族だってのは変わらないだろ」

「……私、相談する人間違えたかしら?」

「むしろ最適だったんじゃないの?」

「ユウナはコイツの評価が甘すぎよ。絶対深いこと考えてないから」

「そうかな……?」


 二人で評価が分かれる事になったが、アーサーは思った事を言っただけだ。エリザベスの考えは至極真っ当だと思えたし、ユウナとユリなら問題なく熟せると思ったからだ。


「……正直、俺は歌を聞いても特に何も感じない。そもそも娯楽とかに興味がない人間だ。読書とか風呂とか好きなものは当然あるけど、最悪無くても不自由なく生きていけると思ってる。俺が心底頑張れるのは……」

「人助け、なんだよね?」


 話を遮ってしまったのは無意識だったのか、ハッとしたユウナは口元を抑えた。思わず漏れてしまったユウナの確認するような言葉に、アーサーは小さく笑って頷いた。


「どこまで行っても俺って人間は狂ってるんだよ。でもそんな俺でも、あの路上で聞いたユウナの歌には惹かれた。初めて歌が良いものだと思えたんだ。何万人とファンがいるユウナには今更かもしれないけど、俺もユリと同じでユウナの歌が好きだ」


 多分、これから先の人生でもこれほど惹かれる歌は無いだろうと。

 そう断言できるくらいには、彼女の歌は魅力的だった。


「だから明日は二人でみんなにその歌を届けてくれ。もしかしたら挫けそうになるかもしれない明日の俺を奮い立たせてくれるくらいに」

「……なんか上手く丸め込まれてるみたいで癪だけど、それでアンタらの力になれるなら良いわ。今からリザに話して来る」


 ちゃんと相談に乗れたかは分からないが、ひとまず答えを出す手伝いくらいは出来たみたいだ。

 二人が去っていく途中、振り返ったユウナはユリに聞かれないようにする為か、口の動きだけで『ありがとう』と伝えてきた。もしかすると彼女も彼女でユリと組みたかったのかもしれない。

 また一つ、敗けられない理由が出来た。

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