表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
523/579

433 『シークレット・ディッパーズ』_V.S._『ノアシリーズ』

 守備チームの結祈(ゆき)、リディ、ラプラス、紗世(さよ)、ネミリアは既に場所が割れている洋館に戻って来ていた。色んな場所に魔術を設置して備えながら、結祈は通信機を通じて他のみんなと会話していた。


「おさらいしておこう。敵の主力は『オライオン級』の『ノアシリーズ』。一人はアーサーが倒したから残りは二人。そこにヴェールヌイを足した三人が脅威って事で間違いは無い?」

『二人についてはサラさんと透夜(とうや)さんに聞いてます。ヤーヴィス=(ノア)=コンカラーは「死せる従僕共(リビングデッド)」という死者を操る力を持っており、「無間(むげん)」はオートで発動するため不意打ちは効きません。リーゼロッテ=N=サンダラーは爆発する稲妻を操る能力で、好戦的な性格だそうです。ヴェールヌイ=N=デカブリストは言うまでもなく最強で「無間」も強く、引き付ける、弾く、押し潰す、そして謎のエネルギーを飛ばして来るなどあらゆる状況に対応できる力を持っています』

『その三人が来るの? 他にも「ノアシリーズ」はいるんだよね?』


 ラプラスがまとめて説明した後、そこに疑問を上げたのは救出チームのフィリアだった。それに答えるのはキャラルだ。


『ヴェールヌイの目的はもう最終段階に来てる。今まで隠れてたソーマの結界が無くても気にしてなかったし、ここから先はあの三人がメインで動くはず。ネミリアは絶対に必要だしヴェールヌイ自身が動くはず』

「そもそも向こうがネミリアを狙う理由は何?」

『ネミリアは「バアル」を動かすのに絶対に必要だから。ヴェールヌイも同調しかけてたし、もしかしたら動かせるのかもしれないけど、彼女には「無限の世界」インフィニット・ユニバースを繋げる役割があるから』

「ならヴェールヌイはこっちに来そうだね。あと二人がそっちの方に……」


 言いかけている途中で結祈は言葉を止めた。そして続きとして『天衣無縫(てんいむほう)・極夜(・きょくや)』を発動させて代わりに言う。


「そっちで待ってるのは『オライオン級』一人だよ。二人がこっちに来た」


 結祈の視線の先。そこにいたのは『次元門(ゲート)』によって移動してきた少女と少年だった。あらかじめ容姿については共有していたので、一目でヴェールヌイとヤ―ヴィスだと分かる。

 正直、こっちに来るのはヴェールヌイだけだと思っていた。それが二人となるとアーサー達が帰って来るまでの足止めが成功するかどうか怪しくなって来る。

 結祈は背後にいる三人と目配せをして、単身で二人の前まで歩いて行く。そして数メートルの間を残して同時に足を止めた。


「話は聞いてるよ。ヴェールヌイ=N=デカブリストとヤーヴィス=N=コンカラーだね」

近衛(このえ)結祈ですね? ええ、お前の事も知っています。『ディッパーズ』最強候補の一人」

「それはちょっと買いかぶり過ぎかも」

「過去も少し知っています。『魔族信者』という人類の悪性を見て来て、一時は復讐にも走った。そんなお前なら私の言い分も理解できるんじゃないですか?」

「それって『無限の世界』丸ごと心中計画の事? それは流石に勘弁かな。確かに今でも殺したいほど憎い人達はいるけど、同時に命に代えても守りたいって思える人達も沢山いるから。……まあ、こんな偉そうなこと言ってても、あと一年でも早くアナタに出会ってたらワタシはきっと首を縦に振ってたんだろうけどね」


 確信がある。

 あの時出会い、救ってくれたのがアーサーだったから今の自分がある。紛いなりにもヒーローとして、『ディッパーズ』の一員として世界を守る立場に立てている。全てはあの日、アーサーが命懸けで止めてくれたから。踏み込んで来てくれて、ちゃんと向き合ってくれたから。

 だからもし、あの時出会っていたのがアーサー以外の人物で、お前の復讐は正しいものだからと肯定され、背中を押されていたら全く違う自分になっていたはずだ。何かの因果が繋がって、本当にヴェールヌイの手を取っていた可能性すらある。


「だからこそ、アナタもきっと間に合う。ワタシが変われたように、アナタだってこれから自由に変わって行けるんだよ、ヴェールヌイ」

「……残念ですが、そんな道はすでに断たれました」


 しかしそれらは全て『もしも(IF)』の話。

 今確かな事実は、互いの道を歩いて来た結祈とヴェールヌイはこうして向かい合っているという事。

 奇しくも結祈は指パッチン、ヴェールヌイはデコピンと両者は指先だけの構えを取る。


「では行きますよ」

「うん、こっちも行くよ!!」


 瞬間、ヴェールヌイの目の前から結祈の姿が消えた。それは後方にいるリディの魔眼の能力だった。

 反応が遅れたヴェールヌイよりも早く、十分に離れた位置で結祈が指を弾く。それが設置した魔術が発動する合図だった。二人の足元から岩の槍が突然突き出して来る。結祈が一人でヴェールヌイの方に歩いて行ったのは、彼女を罠のポイントで止める為だったのだ。


「ヤ―ヴィス。お前はお前で対処しなさい」

「言われなくてもやっていますよ」


 二人は『無間』で岩の槍を防ぐが、その間に結祈が再び指を弾いた。すると今度は周囲の地面から火の弾が射出され、一度上空に向かってから折り返して雨のように降り注ぐ。二人はそれも『無間』で防ぐが、結祈はさらに指を弾いた。

 続けて彼らの四方に現れたのは『火』『水』『風』『土』の『偽法・元素精霊(エレメンタルズ)』だ。


「―――『四大元素縛禁(しだいげんそばくきん)』!!」


 四体の『偽法・元素精霊』による拘束術。あのリーヴァの身動きすら封じた強力な術だ。現にヤ―ヴィスは完全に捕えている。しかし問題はヴェールヌイの方だ。


「良い術です。『バアル』から力を抽出する前の私なら完璧に捕えられていましたね」


 あくまで冷静に分析して告げながら、『無間』の内側でヴェールヌイは両手を左右に広げて唱える。


「『天散(てんざん)』」


 ヴェールヌイを中心に発散する力。それによって辺り一面、四体の『偽法・元素精霊』ごと吹き飛ばしてさらに被害が拡大していく。


「っ……いけない!? 紗世さんは尾で全員を囲んで、ネムさんが補強して下さい!!」


 もはや考えている暇は無かった。言われた通り紗世は四本の尾で自分も含めた全員を囲み、ネミリアは内側から尾を強化していく。

 いくら内側に籠もっていると言っても無害では無かった。中でシャッフルされるように吹き飛ばされて、完全に止まった後に紗世が尾を開くと辺りの景色が一変していた。周りにあった木々や洋館は完全に吹き飛び、一面が更地になっている。


「……想像以上ですね。おそらく以前会った時よりもはるかに強くなっています」

「キャラルが言ってた『バアル』ってのに関係してるのかもね。それに加えて『オライオン級』がもう一人。厄介すぎる」

「ボクの魔眼の力で分断するか?」


 ベストは今の『四大元素縛禁』で封じ込める事だった。他にも作戦はあるが、おそらく効果が無いと悟ってしまった。

 どう動くべきか悩んでいると、すぐ傍でドサッという音が鳴った。


「ネムさん……? ネムさん!!」


 すぐにラプラスが駆け寄って呼びかけるが、ネミリアからの反応は無い。完全に意識を失っている。

 四人の間に動揺が走るが、最も立ち直りが早かったのは結祈だった。ネミリアと関係が深いラプラスはしばらく冷静にはなれないだろう。そう分かったからこそ一早く自分の役割を自覚できた。


「紗世、リディ。二人をお願い!」


 一方的に告げて結祈は仲間がいる方とは正反対の方に向かって駆けた。

 彼女だけは仲間の心配よりもヴェールヌイとヤ―ヴィスの打倒を優先した。自分の役割は彼らの足止めで、アーサー達が仙術の修行を終えて戻って来るまで耐え忍ぶことだと自覚していたからこその行動だった。

 同時に向こう側でも動きがあった。上空に無数に開いた『次元門』から大勢の人が溢れ出して来る。すでに生気がなく、聞いていたヤ―ヴィスの能力で操られているのだろうとすぐに悟った。


「『風刃(ふうじん)()雷刃(らいじん)』―――『過剰神剣(オーバーエッジ)』!!」


 双剣を袖から取り出すと同時に風と雷の魔力でそれぞれ刃を拡張していく。人体のリミッターが外されている『死せる従僕共』の膂力は凄まじいが、同じ射程の殴り合うスタイルのサラとは違い、結祈は武器も使って軽々と戦うタイプだ。そこまで苦戦する事もなく倒していくが、問題はその数だった。いくら斬り捨てても数が減らない。


「『天引(てんいん)』」


 結祈が『死せる従僕共』に手こずっている間にヴェールヌイはネミリアに手を向けて引き寄せる力を使った。不意をつかれた三人が止める間もなくネミリアの体がヴェールヌイの方に向かって行くのを見て、両手の剣を空中に投げた結祈は空いた手を地面に付けた。するとせり上がるように地面から岩の壁がヴェールヌイとネミリアの間に現れ、ネミリアの体をそこで止める。

 その間、迫ってきた『死せる従僕共』には口から炎を噴き出して焼き、落ちてきた剣を握り直すとヴェールヌイに向かって一直線に駆ける。


「やはりお前が一番の障害ですね―――『天弾(てんだん)』」


 ネミリアから移した掌が向けられた途端、結祈は不可視の力によって吹き飛ばされたかと思ったら、今度は逆に上空に向かって引っ張られた。そして抗う術を模索する間もなく、今度は下方向に落とされて地面に叩きつけられる。


(ぐっ……これが言ってた力……っ!? 見えないし魔力ほどあんまり感じないし、本当にやりづらい……!!)


 凄まじい圧力に押し潰されそうになりながら、結祈はなんとか上げた拳を地面に叩きつけた。

 その瞬間、結祈の傍に七体の『偽法・元素精霊』が現れ、そのエネルギーが結祈の正面に集まって行く。


「ッ……『アガレス=レックス』!! 『炮閃(シャスト)』!!」


 感じた魔力をマズいと判断したのか、今まで遠隔で『次元門』の力だけを使っていた『魔装騎兵』を呼び出して口にエネルギーを溜めさせると結祈に向かって飛ばした。そんなエネルギーの塊に向かって結祈も必殺の一撃を放つ。


「『元素飽和集(げんそほうわしゅう)束魔力砲(そくまりょくほう)』!!」


 そして二つのエネルギーがぶつかり合い、凄まじい爆発が周囲にばら撒かれた。





 ◇◇◇◇◇◇◇





 結祈達守備チームが戦っている中、救出チームの方でも動きがあった。

 こちらに襲い掛かって来たのは『オライオン級』のリーゼロッテ=N=サンダラー。彼女の攻撃はとてもシンプルなのに、五人は攻めあぐねていた。

 理由は一つ。リーゼロッテの攻撃があまりにも過激で手を出せないという事だ。


「あっははははははははは!!」


 高らかに笑いながら絶え間なく稲妻を放つリーゼロッテは爆発の中心にいた。輻射熱や爆風は『無間』で防いでいるのだろう。他の『ノアシリーズ』とは違う使い方だ。

 その光景はまるで絨毯爆撃であった。カヴァスとユリも同じように電撃を使えるが全く相手にならない。電撃同士をぶつけてもリーゼロッテの方が強力なので勝ち目がない。近接型のエリナは近づけないのでどうにもならないし、忍術によって周囲の風を操るフィリアも絶え間ない爆風が吹き荒れるこの場では上手く力を使えない。

 稲妻の速さで迫り、着弾すれば爆発する『爆裂の稲妻(エクスブリッツ)』は近・中距離戦において、シンプル故に対処が難しい理想的とも言える能力だ。現に救出チームで相性の良い者はいない。単純にリーゼロッテを倒すのなら爆炎の中を突き進む事ができる防御力か、長距離から有効な攻撃をできる手段が必要だ。


「フィリア! ちょっと聞いて!!」


 破壊されたビルの壁面に各々隠れていると、フィリアの傍に隠れながらエリナが近づいてきた。


「もう最短で飛び込んで倒すしかない! エリナが重力も使って突っ込むから、出来るだけ風で押してくれない!?」

「……ダメ。多分、あの人に近づくほどわたしの力が及ばなくなる。それじゃ意味ない」

「だったら……っ」

「だからわたしが行く。風と違ってエリナの重力操作は爆炎の影響は受けないからそれが最善。タイミングを合わせてみんなに陽動して貰おう」


 無策の特攻としか思えないが、正直な所それくらいしか手が無かった。こっちのチームの全員、決して弱くはないがこの手の攻撃に対して相性が悪すぎるのだ。

 例えばフィリアにどんな状況でも風を操れる技量があれば。

 例えばエリナに稲妻も爆炎も斬り捨てられる技量があれば。

 そんなありもしない今の技術にすがっていたら間違いなく死ぬ。結局、いつだって今ある力でなんとかするしかないのだ。


(つむぎ)、結祈……力を借りる)


 そう念じて瞳を閉じたフィリアの呼吸が変わる。数回の呼吸を終えるとフィリアの体から僅かに稲妻が弾けた。

 仙術とは呼べない拙い技術。まだ『魔族領(ログレス)』にいた頃、紬に少しだけ教わって氣力を練る事はできるようになっていたが、それ以上は極めていなかったものだ。自分には仙術の才能があまり無かったようで、それよりも魔力運用を鍛えた方が良いと考えたからそうした。

 それなのに何故、今になって使おうと思ったのか。その理由としてはやはり、改めて紬の事を考えたからだ。


(……ごめん、紬)


 本当に久しぶりに氣力を練りながらフィリアは心の中で謝罪した。

 ほとんど話した事も無かったのに、いきなり仙術の使い方を教えてきた時は『急にどうしたんだろう』とか、『なんでわたしにこんな事を教えるんだろう』くらいにしか思っていなかったし、勘の鋭い紬なら自分が全く興味を持っていない事にも気づいていたのだろう。

 彼女と出会った当初は、一〇年という時に辟易していた事もあり荒んでいた。でも今は後悔しかない。こうなる前にもっと話しておけば、彼女を一人にする事もなかったのかもしれないのに、と。


(だから今度は話そう。今までの事と、これからの事を)


 魔力の風を右手、氣力の雷を左手へと、それぞれ握り締めている双銃剣の刃へと纏わせていく。それは結祈がよく使う『風刃(ふうじん)()雷刃(らいじん)』だ。


「行くよみんな。スリーカウント……二……一、ゴー!!」


 フィリアの合図と共にユリとカヴァスが電撃を飛ばし、キャラルがエネルギー砲を放つ。三方向からの攻撃に嫌でもリーゼロッテの意識が割かれている隙に、フィリアは物陰から身を出した。両手を交差させて構えると、足に魔力を集中させて風の力で一気に駆けた。そこでエリナの『平等とは是、この重グラビティ・コントロールみ』による横の重力でさらに加速する。

 衝突まで一秒無かった。一応、姿を見せた時点で『無間』を発動させていたのだろう。フィリアが振り抜いた双銃剣の刃はリーゼロッテには届かない。


(ここからが勝負―――『過剰神剣(オーバーエッジ)』!!)


 それも結祈と同じ『風刃・雷刃』の刀身の強化拡張。それによってリーゼロッテの『無間』を破った。

 複数の『無間』を展開できるリーゼロッテだが、その強度や特別製でいえば『ドレッドノート級』程度しかない。それだけ彼女の力は攻撃に特化しているのだ。


(ここしかない! 全魔力をこれにつぎ込む!!)


 つまり相手がリーゼロッテだからこそ苦戦を強いられたが、彼女だったからこそ『無間』を破って千載一遇のチャンスを見い出せた。


「わたしの家族を返せ―――『無窮琴弓(フェイルノート)』ッ!!」


 フィリアは残り全ての魔力を込めた渾身の風の矢を生成すると無防備になったリーゼロッテの腹に叩き込む。流石にモロに食らったリーゼロッテは吹き飛ばされるが、同時に反撃として出した『爆裂の稲妻』がフィリアに直撃して結局痛み分けとなってしまう。


「ッ……この、よくもやったわね!!」


 先に体勢を立て直したのはリーゼロッテの方だった。全く効いていない訳ではないが、『無間』を突破されると察した寸前に山勘で腹にエネルギーを集めていたのだ。それにより致命傷は避けた彼女は、フィリアへの追撃として複数の『爆裂の稲妻』を集中させて飛ばす。

 食らえばひとたまりも無い攻撃。しかし魔力を出しきったフィリアには防御どころか避ける力も残されていなかった。

 直後、『爆裂の稲妻』が直撃を示す大爆発を起こした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ