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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:昊編 いつかきっと未来の先で Life_is_a_Series_of_Choices.
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429 全てはこの一刀の為に

「―――これが、俺が別の『ユニバース』で経験して来た事だ」


 戻って来た翌朝。

 アーサーにとっては事件が始まってから一ヶ月以上。他のみんなにとっては五日目の朝。

 昨夜話を聞いたサラ、ラプラス、ネミリア。

 元から共に来た透夜(とうや)、ユリ、リディ。

 協力者のエリザベス、ユウナ。

 治療が終わり生身にしか見えない義椀を付けたリアス。

 そして『ピスケス王国』から駆けつけてくれた結祈(ゆき)、レミニア、クロノ、フィリア、エリナ、カヴァス、紗世(さよ)、ミオ。

 (つむぎ)とメアはいないが、とりあえずこれで今動ける『シークレット・ディッパーズ』勢揃いだ。


「……正直複雑すぎて頭が追いつかないけど話は分かった。とりあえず無事に戻って来て良かったってのと、今は『ノアシリーズ』への対処に集中するって事で良い?」


 まとめるように結祈が言うと、アーサーも含めてみんなが同意するように頷く。

 昨夜話してまとめられた事もあり、そこまで長くはならなかったが混乱するに決まっている話だ。『何か』の事もあるし、なにより紬は別の『ユニバース』の人間だったという話にはみんな驚きを隠せていなかった。特にフィリアは思う所があるのか表情が特に暗かった。


「……アリア=(ノア)=イラストリアスって名乗ってる人がいるんだよね? その人が本当に紬なら連れ戻したい」

「勿論だ。もしあいつが『ドッペルゲンガー』だとしても話を聞きに行く。それからもう一つ、俺は『仙術』を学びに行こうと思う」


 その発言はラプラス以外にはまだしていなかったのだが、氣力の事と『仙術』や六花(りっか)の事も伝えているので、合流した面々からも疑問の声は無かった。


「みんなと離れた一ヶ月で少しは強くなれた。でもまだ足りない。時間が無いのは理解してるけど、今のままじゃヴェールヌイには勝てないと思う」

「それ、僕も付き合って良いか?」

「あたしも」


 アーサー以上に突然そう言ったのは透夜とサラだった。


「『オライオン級』と直接戦ってるから分かるわ。今のままじゃ絶対に勝てないって」

「同意見だ。それに僕はメアを止めたい。その為にも力がいる。人数が増えれば手間が増えて時間が余計にかかるのは分かってるけど頼む」

「なら私とレミニアが同行しよう。レミニアの『無限(パンドラ)』の魔力を私が使い簡易的な『断開結界(だんがいけっかい)』を展開する。そうすれば時間の流れを現実時間とズラし、より多くの時間が使えるようになる」

「どれくらい増える?」

「お前も知っての通り、今の私は能力を制限されている状態だからな。何度か『断開結界』を展開し直す事になると思うが、調子が最悪で三〇倍、絶好調なら一〇〇〇倍といった所だろう。つまりお前達は最低でも現実の一日で三〇日分の修行時間を得られる」


 そして最高なら一日は九〇秒弱にまで縮められる。考えるまでもなくパフォーマンスは最高だ。


「決まりだ。俺とサラは仙術を学ぶ。その間の指揮は結祈に任せる。ラプラス、それにみんなもフォロー頼んだ」


 みんなが頷いて今後の方針が決まると、頭上から光り輝く何かが降って来た。

 ここは地下だからいくつもの通路を突き破って落ちてきたのだ。単なる偶然とは思えず、その場にいた全員が瞬時に臨戦態勢で構える。


「っ……みんな待て!」


 落ちてきたのは人間だった。それを見てアーサーは全員に制止を呼びかける。

 それはアーサーは一度見た事がある、赤い特殊な軍服を身にまとった金髪の少女だった。そして名前もすでに六花から聞いている。


「……キャラルか?」

「……アーサー・レンフィールド。アリアから何度も聞いた。あなたならきっとみんなを助けてくれるって」


 そう言って、顔を上げた彼女のブルーアイズは涙で潤んでいた。


「……何があった? どうしてここに?」

「この日の為に頑張って来た……ずっと計画してて、周到に準備してきたっ。特にアリアは何年もこの日の一瞬の為に頑張ってたのに……ッ」


 動揺しているのかアーサーの問い掛けには答えず、近付いたアーサーの両肩を縋り付くように掴んだ。


「お願いっ……みんなをたすけて」


 彼女……いや、彼女達に何があったのか。

 それは少しだけ時間を遡る。





    ◇◇◇◇◇◇◇





『ノアシリーズ』の隠れ家は、毎度お馴染みの地下は地下でも一味違う次元の狭間だった。

 それを生み出しているのは『ドレッドノート級』のソーマ=(ノア)=ベレロフォン。彼が持つ能力は『四次元立方(テッセラクト)体』と言い、戦闘時は掌の上に出したキューブから好きな効果を付与した弾丸を放てる技を使う。それを応用した内と外を隔絶する結界を作れ、『ノアシリーズ』は地下に作ったその結界の内側に隠れていたのだ。

『バアル』も今はそこにあった。縦に深い空間で少し浮遊した形で止まっており、相変わらず胸を交差させた状態で全身を鎖で拘束された姿だ。

 ヴェールヌイは丁度胸部から上が見える場所でその正面に立っていた。そして手を真っ直ぐ伸ばすと『バアル』とヴェールヌイの間でエネルギーのやり取りが行われる。『魔装騎兵(まそうきへい)』との外部からの同調だ。


「……何か用ですか? キャラル」

「話がある」


 アーサーがそうだったように、内部に入って直接同調する場合は時間はかからない。しかし無線と有線で通信速度が変わるように、外部からの同調はどうしても時間がかかる。

 この状態のヴェールヌイは動けない。それを狙い澄ましたかのようなタイミングだった。


「本当にこれを動かすつもり?」

「その為の今までです。キャラル=N=ドレッドノート、お前には感謝しています。アリアが『フューリアス級』として始まり、私達が『ノアシリーズ』として『無限の世界』インフィニット・ユニバースから集められ、お前が『ドレッドノート級』の始まりになってくれたおかげでネミリアが『オライオン級』として生まれ、ようやく私の目的は達せられます」

「……『多元宇宙』に存在する全てのこの星(アース)を滅ぼすなんて正気じゃない」

「私に言わせれば、こんな不完全で不条理な世界を違和感なく享受しているお前達の方が正気とは思えませんよ」


 どれだけ語り合おうと平行線。これまでの人生からその答えを得たヴェールヌイに、たった少しの言葉で考えを変えさせようというのが無理な話なのだ。言葉で止まるような脆弱な覚悟なら、そもそも初めから行動なんて起こしていない。


「記憶が無いネミリアはともかく、始まりとなったお前やアリアが罪悪感を感じている事は知っています。ですが罪悪感など感じる必要はありません。アリアも地獄を見てきたでしょうし、お前だって勝手に生み出された命に何も感じてないはずはないでしょう? 全て等しく塵になるんですから、お前達も解放されるんじゃないですか?」

「……確かに私は造られた命で親も兄弟もいない。でも私が『ドレッドノート』として生まれたせいで、ネミリアが『オライオン』として生まれた。……あの子には私と同じ思いはして欲しくないし、帰る場所があるならその人達ごと守る。世界を破壊する役割なんて担わせない」

「やはり知っているんですね? 『オライオン級』……というより、ネミリア=N=オライオンの役割を」

「『キャプテン』……『バアル』と同調できる可能性を持った『ノアシリーズ』」

「同時に『無限の世界』を破壊できる存在です」


 先に動いたのはキャラルだった。両手にエネルギーを集めると腰を低く落として構える。


「させない」

「いつかそう来ると思っていました。なら止めてみせなさい」


 言われなくてもキャラルは手を『バアル』の方に向けた。しかしそれはヴェールヌイの予想に反して攻撃の為ではなく『バアル』の方に向けられていた。そして『バアル』からエネルギーを吸収する。

 それがキャラルに備わった力。他のエネルギーを吸収し、自身のエネルギーに変換して使用できる。


「なっ……お前、どうして……まさか!?」

「何に驚いてるのかは知らないけど、余計な事を考えてたら綱引きに負けちゃうんじゃない?」

「くっ……」


 初めてというくらい動揺したヴェールヌイだが、すぐに冷静さを取り戻して同調に集中する。

 キャラルの能力は勿論知っていたし、ネミリアと同等に他の『ノアシリーズ』とは違って特別なのも知っていた。しかし『バアル』からエネルギーを奪うほどまでとは思っていなかった。

 それに注意を払うべきなのはキャラルだけではない。ここに至って行動を起こしたかと思えば直接攻撃ではなく妨害しかしない。つまりこの反乱には仲間がいる。


「近くにいるんでしょう? アリア!!」

「とうっぜん!!」


 応じて斬りかかったのは『逢魔の剣(トワイライト)』を握ったアリアだった。目にも止まらぬ速さだったが、来ると分かっていたヴェールヌイはすでに『無間(むげん)』を張っていたので難なく受け止める。だがアリアの攻撃は単なる陽動だったようで、いつの間にか近づいていた凝視しなければ捉えられないほど細いワイヤーが全身に巻き付いて拘束された。そしてアリアの後ろからイリスとジュディが現れ、それぞれ槍とナイフを持って襲い掛かって来る。

 ここまでやられると流石に迎撃に専念せざるを得なくなり、『バアル』との同調を一端切った。そして二人の攻撃を『無間』で防ぐ。


「捌ノ型―――『光刃乱舞(こうじんらんぶ)』!!」


 アリアが使ったのは全方位から叩き込まれる斬撃。ヴェールヌイでは目で追い切れない速度の攻撃だが、その斬撃は全方位に展開した『無間』によって防がれる。


(妨害と拘束に『無間』を削る為の連撃……ならまだ本命の攻撃があるはず!!)


 それは音も無く襲い掛かって来た。

 ヴェールヌイの背後。腰に差した刀に手を伸ばす白い刺客がそこにいた。

 彼女がアリアと手を組んだのはほんの数日前。他人を信用しない彼女がほぼ初対面のアリアと手を組んだのは、聞かされた境遇が少し似ていたからだった。

 妖しい桜色の刃を引き抜き、一気に振り抜く。

 アリア=N=イラストリアスがこの『世界』に来てからの全てはこの為だった。ここに至るまでの全てが必要な事で、無意味な事なんて一つも無かったのだ。

 そう、全てはこの一刀の為に。

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