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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:漸編 世界に仇なす者、世界を憂える者 Starved_Person_and_Inheritor.
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427 まだ始まったばかりの戦い

 超スピードで移動したアーサーは反撃の隙を与えず『ホロコーストボール』の装甲に張り付いた。ちなみにラプラスが懸念していたように近付いただけで大爆発、という事態は避けられた。『炎龍王の赫鎧』ヴァーミリオン・フレイムのオーラはあくまで炎のように揺らめいているだけで炎ではない。ただし鎧の力が影響する何かしらの技を発動すれば即爆発は避けられないだろう。

 だから今のアーサーの目的は攻撃ではない。目と耳に意識を集中させて特殊ガスの噴出孔を見つける事だ。


(あるはずなんだ……間違いなく! 特殊ガスって仮説がどこまで正しいのか分からないけど、これがアダマンタイトなら穴は確実にあるはずなんだ!!)


 アダマンタイトは電気を通さない。さらに電波や魔力もシャットアウトしている。

 そもそもの疑問だ。この『ホロコーストボール』は誰が動かしている? もしヴェールヌイが外側から動かしているとして、電波や魔力を繋ぐ為の隙間があるはずなのだ。

 しかし耳を澄ませてもガスが噴出しているような音は聞こえてこない。ひょっとすると今はガスの噴出を止めているのではないかという疑問が浮かぶ。


(……いっそ、一度爆発させてみるか?)


 それから再度噴出孔を探した方が効率的な気がしてきた。だがいざその策を実行しようとすると、ポケットの中のマナフォンが震えた。アーサーのものではなく、フューリーから渡された血塗れの方だ。すぐに出ると想像通り相手はリアスだった。


『……良かっタ。出ないかと思ってたヨ。ちなみに聞かれる前に答えるけド、両手が無くても通話の操作くらいできル』

「じゃあ話を進める。このタイミングでの連絡って事は何かあるんだよな?」

『仮に「ホロコーストボール」を破壊できるとしても破壊したらダメって伝えたくテ』

「……どういう事だ?」

『そもそもあれはF・Fが「封印球」を改造したものだからただの兵器じゃないんだヨ。「封印球」は「バアル」の周囲を特殊なエネルギーシールドで覆ってるんだけド、出力を上げる為にかなり不安定な状態になっててネ。下手するとこの国を簡単に消し飛ばせる爆発が起きル。ある程度の衝撃くらいなら大丈夫だけど、もし「ホロコーストボール」を破壊して「封印球」が地面に着けば、自重がエネルギーシールドの刺激になってこの国を吹き飛ばすヨ。そもそも空中で制止させて保管してたものだしネ』


 最悪な状況をスラスラと淀みなく言えるのは、彼女自身が自分の命に頓着が無いからか。しかしその問題は彼女だけじゃない、この国にいる全ての命が危険に晒されるものだ。

 アーサーは自分の右手に視線を向けて、向こう側にいるリアスへと言葉を放つ。


「……そんなエネルギーを中に入れてるのに『ホロコーストボール』は大丈夫なのか?」

『おそらく「封印球」は浮かせていテ、外側のアダマンタイトの装甲まで常に空間があるはずだヨ。それにアダマンタイトの硬度なら仮に内部で爆発しても被害は最小限で留められるだろうシ』

「アダマンタイト……」

(……見えないし匂わない特殊ガス。見つからない噴出孔。『キラーレイン』。『封印球』。刺激で爆発するエネルギーシールド。そして封印されている『バアル』……)


 アーサーは目を閉じて、しばしの間思考に没頭する。

 得られた情報、今ある手札を考えて倒す為の方法を確立していく。そして数秒でその作業を終わらせると目を開いて行動に移す。


『纏装』(ギアチェンジ)―――『龍星の重装甲』テラロバスト・アーマー


 その言葉に呼応するように、アーサーが纏う鎧のオーラが変化していく。速度特化の状態では全身のオーラが少なくなっていたが、この防御特化の状態は一転して全身のオーラの量が跳ね上がる。それは通常の『炎龍王の赫鎧』よりも遥かにだ。

 さらにアーサーの行動は終わらない。掌にほんの少し、小さな炎を作り出した―――瞬間だった。


 ゴッバアァァァッッッン!!!!!! と。

 その炎を火種に特殊ガスが引火して予定通りの大爆発が起こった。


 その爆発で装甲に張り付いていたアーサーの体が宙に舞った。しかし綺麗に放物線を描いて落ちていくちっぽけな人間の体は傷を負っていなかった。オーラによって身が守られたからだ。


「……『纏装』(ギアチェンジ)―――『龍星の天衝拳』メテオブラスト・スマッシュ


 静かに呟いたアーサーの纏うオーラの量が再び変化する。今度は四肢のオーラの量が多く、それ以外は速度特化の状態と同じくらいにオーラが薄い攻撃特化の状態だ。

 そんな彼が地面に足を着けた瞬間、一気に地面を駆けて『ホロコーストボール』に肉薄した。そして『最奥の希望をそ(インフィニティ)の身に宿(・フォース)して』を重ねて発動し、四肢に紫色の魔力を重ねて纏う。


(噴出孔が見つからないなら、それはそれで良い。重要なのは俺が傍にいれば『キラーレイン』の射程からは外れるし、炎を使っている間は特殊ガスの噴出が止まるって事だ)


 腰を低く落としたアーサーは両手に紅蓮の炎を纏い引き絞る。さらに『無限(パンドラ)』の魔力と朱色の氣力を『太極法(インヤン)』で合わせて練り込んで行く。

 二つの『力』を練り合わせて威力を底上げする『太極法』。強い踏み込みで足元から回転の『力』を加える『廻天(かいてん)』。そして打撃と『力』の移動のタイミングを合わせる事で攻撃力を最大にする『珂流(かりゅう)』。

 少し前のアーサーなら『ホロコーストボール』相手に知恵と爆弾しか武器が無かったが、今の彼はもう違う。ここまで積み上げて来た力の全てを込めて、アーサーは虎爪の構えの両手を一気に突き出した。


「―――『古代虎王双掌砲』スミロドン・ロードインパクトッッッ!!!!!!」


 間違いなく、今のアーサーが撃てる最大の一撃の一つ。

『ホロコーストボール』の巨体が浮くんじゃないかというほどの一撃だが、実際はアダマンタイトの装甲を少しへこませた程度だ。金属最高強度を誇るアダマンタイトをへこませただけでも凄いが、破壊に至らなかった時点でアーサーの負けが決定付けされてしまったものだ。


 しかし、アーサーの顔には笑みがあった。

 直後、『ホロコーストボール』の内側から異音が響く。


『古代虎王双掌砲』。それは掌底を撃ち出す事で、外傷を負わせるのではなく内部の破壊を目的とした攻撃だ。

 アダマンタイトをへこませたのは、この技の本質ではない。むしろそれ以上の威力はアダマンタイトの装甲を超えて内部へと浸透している。

 そして『ホロコーストボール』の中には何があった?


「俺のありったけの攻撃だ。衝撃っていうには十分なはずだろ?」


 挑発的な笑みを浮かべたアーサーが再びオーラを防御特化の『龍星の重装甲』に切り替えた直後、先程よりも大きな爆破の音を撒き散らして『ホロコーストボール』が内側から砕け散った。アダマンタイトの装甲で多少は内側に威力を押し留められたが、それでも本来は国一つを吹き飛ばせる威力だ。辺り一帯が爆発に飲み込まれ、至近で受けたアーサーも当然のように吹き飛ばされる。

 爆発の後、不気味な静寂が辺りを包み込んだ。

 瓦礫の山の下からアーサーがなんとか這い出して来ると、他に何よりもまずそれが目に飛び込んで来た。額から流れて来る血を手の甲で拭って、それを強い目付きで睨みつける。

 空中に光を放つ何かがいた。膝を抱え込んだ姿勢で、全身に鎖が巻かれた白い鎧を着た人間のような姿だった。

 始まりの『魔装騎兵』『バアル=アバドン』。

 あわよくば爆発で諸共消し飛んでくれればと思っていたが、流石にそこまで上手くはいかなかったらしい。

 まだ戦いは終わっていない。むしろここからが本番だ。


「……来たな」


 まず変化が起きたのは『バアル』だ。『ホロコーストボール』の時と同じように巨大な『次元門(ゲート)』によってどこかへと消えてしまった。

 次にアーサーの視線のすぐ先に別の『次元門』が現れ、そこから透明な白い長髪をなびかせて一人の少女がこちら側に来た。そして彼女とアーサーの視線がぶつかる。


「運命は私に試練と贈り物をくれました。……いえ、正しくはどちらもお前が運んで来たと言うべきですね、アーサー・レンフィールド」

「ヴェールヌイ……!!」


 彼女の名を激情を乗せて叫びながら、同時に頭は冷静に『炎龍王の(ヴァーミリオン・F)三叉纏装』(・トリアイナギア)を解いてフラットな『炎龍王の赫鎧』の状態に戻した。

三叉纏装(トリアイナ)』は攻撃、防御、速度の特化した状態になれる強力な力だが、同時に体力の消費が半端じゃない。それも切り替える度により消耗していく。そして二つの『力』を練り合わせて強力な一撃にする『太極法』の使用も疲労を蓄積する上に、特殊な事情で今のアーサーには一日に四回の使用が限度だ。『三叉纏装』は発動も含めて四回切り替え、『太極法』もすでに三回使った。負傷はほとんど無いが、仲間を襲っていた四人の『ノアシリーズ』の打倒と『ホロコーストボール』を破壊するのに全力を尽くした事で、もうほとんど余力は残っていないのだ。

 しかしそれを悟られる訳にはいかない。まだやれると示さなければ、今は警戒しているヴェールヌイは本気でこちらを殺しに来るだろう。そうなれば今の状態では勝ち目がない。


「そこまで期待していた訳ではありませんが、『ホロコーストボール』を破壊して『バアル』を私にもたらした事、素直に感謝しておきましょう。そして同時に認めます。お前を別の『ユニバース』に追放したのは失策だったと。やはりお前は逆境で強くなるのですね」


 言いながら、彼女は手の甲を下にしてゆっくりと前に出した。デコピンをするように人差し指を親指に引っ掛けて抑えると、彼女の目の前に未知のエネルギーが集束されていくのを感じる。アーサーが知るどの『力』とも違う何かだ。


「ですが私は乗り越えます。お前という障害も、このクソッたれな世界の秩序も。この運命を昇りきってみせます」

「……俺がそれを全力で阻止するってのも分かってるんだよな?」


 アーサーは『廻天』を発動させて右手に先刻投げたものと同じ『紅蓮弾(ぐれんだん)』を発動させる。しかしそれだけでは終わらない。今度はありったけの魔力を使って『颶風掌底(ぐふうしょうてい)』を発動させる。正真正銘、氣力と魔力を練り合わせた最後の『太極法』を使った一撃だ。

『廻天』に『颶風掌底』の回転が加わり、その凄まじい回転速度によりキィィィィィンという空を裂くような高音が鳴り響く。アーサーがその右手を頭上に掲げると、少し大きめの恒星のような『紅蓮弾』の周りに原始惑星系円盤のような円盤が広がった。

 まるでガンマンのように互いに武器を構えて睨み合う。

 動いたのは同時だった。



「―――『天征(てんせい)』」

「―――『超新星紅蓮弾』ちょうしんせいぐれんだん!!」



 ヴェールヌイは人差し指を軽く弾いて集束させたエネルギー弾を飛ばし、アーサーは腕を思いっきり振り下ろして炎球を投げた。

 二つの弾が中心で激突し、混じり合って爆裂する。生まれた衝撃をヴェールヌイは『無間(むげん)』で涼しく防ぎ切り、アーサーは普通に後方に吹っ飛ばされて地面をゴロゴロと転がって行った。

 収まった土煙の後、アーサーが顔を上げるとヴェールヌイの姿はどこにも無かった。おそらく目的の物を手に入れた事で一旦退いたのだろう。アーサーとしては限界だったので、ギリギリ助かったという印象を受けた。

 ヒビキを倒し、『ホロコーストボール』を破壊した。

 だがまだ終わらない。『バアル』を破壊し、ヴェールヌイを止めなくてはならない。そして他にも問題が山積みだ。

 本当に本当に、まだまだ始まったばかりだ。

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