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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一九章:漸編 世界に仇なす者、世界を憂える者 Starved_Person_and_Inheritor.
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412 前へ進み続ける者達

 一夜明け、テラスが無くなった洋館。そこには重苦しい空気が漂っていた。

 ソラの死亡。まだ『ディッパーズ』が一つだった頃にアンナが犠牲になったが、彼女の場合は意識が不明なだけで死んでいない。しかし今回のソラは確実な死だ。命の危険がある仕事なのは理解していたが、実際に直面すると誰もショックを隠せなかった。


「……アーサーは?」

「ラプラスとリザが見てるわ。みんなでぞろぞろ押しかけるよりもそっちの方が良いと思って」


 静かに発した透夜(とうや)の言葉にサラが答えた。アーサーとラプラスがいない今の部屋の中では、必然的にサラが頼られる立場になっていた。一応はオリジナルメンバーの七人の一人だから仕方ないが、あまりこういった立場は得意ではないので妙な気分だ。


「……レンさんは大丈夫ですか?」

「アーサーはソラと関りが深かったわ。目の前で失ったショックは計り知れない。……ここにフィリアやエリナがいなくて良かったわ。少なくともあたし達よりショックを受けるだろうし、どんな行動を起こすか分からないから」


 ここまで事態が大きくなった事、そしてソラが死んだ事。それらの事情からすでに『ピスケス王国』に連絡をしており、『シークレット・ディッパーズ』の他のメンバーも『バルゴ王国』に向かって来ているはずだ。ただソラの死の事は伝えていないので、後で伝えなければならない事に少し気が重くなるが。


「で、これからボク達はどう動くんだ?」

「……『ノアシリーズ』を殺す」


 リディの全体への問い掛けに、低い声で唸るように答えたのはメアだった。

 初めての仲間の死に困惑しているほとんどの者達。どこか一線を引いているのでショックが少ないユリとも違う、多くの死に溢れた世界で生きて来た彼女だが、今は最も冷静さを失っていた。


「……ラプラスの話聞いてた? 襲撃者は全員、ソラの力で消し飛ばされたわ。復讐する相手なんてどこにもいないのよ」

「まだ全ての人を引いてる『ノアシリーズ』が残ってるんでしょ? だったら私が全員殺す。殺して事態を収束させる。私と『バルバトス』ならそれができる。みんなと違ってそういう経験豊富だしね」

「……メア、あたし達は……」

「言わなくて良いよ、サラ。言いたい事は分かってるし。でも結局、私はこういう人間なんだ」


 説得を試みようとしたサラの言葉を制し、メアは部屋を出て行ってしまった。それを無理に止めるような事はせずサラは透夜の方を見た。その意図を察した彼は最初からそうするつもりだったようで、すぐにメアの後を追った。


「メア! ちょっと待ってくれ!!」

「止めないで透夜くん。これは他のみんなにはやらせられない、私がやらなくちゃいけない事だから」

「だから待てって!!」


 早足で歩くメアに追いついた透夜は彼女の手を掴んで動きを止めた。するとキッと振り返った彼女の鋭い視線とぶつかる。


「……透夜くんは仲間を殺されて悔しくないの!?」

「悔しいよ。許せないし、殺したいって気持ちだって分かる。でも僕らは誰かを殺して解決する道を選んだらダメなんだ」

「……そうやって綺麗事を並べた善人がどうなって来たか、私は嫌っていうほど見て来た。そういった人達を私は殺して来た。その時は馬鹿だなって思ってただけだけど、アーサーくんの事を知って感じるようになった。それからは透夜くんも知ってるように、善人になれるように努力をして来たけど……また失った。昨夜の戦いで分かってた事だけど『ノアシリーズ』は強い。手段なんか選んでられないよ」

「……僕もそうだった。他の方法は無いと思い込んで後悔した。だからメアにも後悔して欲しくないんだ」

「でも透夜くんはネミリアちゃんを見殺しにするんでしょ? あの未来にしない為に」

「それは……」


 すぐに否定できなかったのは、透夜自身がどうすべきか答えを出せないでいたからだろう。そして一瞬の迷いをメアは見逃さなかった。メアの権幕が明らかに変わる。


「透夜くんだって自分の手を汚さないだけで見殺しするんだから一緒でしょ? 私にだけ説教しないで!!」


 激情に任せた彼女によって、透夜が掴んでいた手は振り解かれた。

 透夜の驚いた顔を見てメアも冷静さを取り戻したのか、はっとするとバツが悪い表情のまま顔を背けた。

 透夜から見てもメアの状態は普通じゃなかった。長い間一緒にいた訳でもないし、サラ達が邪推するような深い関係という訳でもないが、ここまで感情的で何かを焦っている彼女は見た事がない。


「言い過ぎてごめん……でも、透夜くんも自分の事を見つめ直した方が良いよ」

「……、」


 去っていくメアの背中を追いかける事も、何か声をかける事もできなかった。

 今の状態でメアにどんな言葉をかけたとしても、迷いを孕んだ自分の言葉は何も届かないと思ったからだった。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 すっかり日も暮れて、『バルゴ王国』での二度目の夜にアーサーは目を覚ました。彼が今の状況を確認するよりも前に、横から声が飛び込んでくる。


「っ……アーサー!」

「……ラプラス?」


 外とラプラスの様子から、自分がすぐに目覚めた訳ではなく丸一日は寝ていたとすぐに理解できた。目覚めた瞬間に気付いた事からも、ラプラスは自分が目覚めるまでずっと傍にいてくれたのだろう。そんな恋人の健気さがいじらしくて、アーサーはラプラスの頬に手を伸ばした。


「……心配かけてごめん」

「……ネムさんは大丈夫だと言っていましたし、私の能力を使っても問題無いのは分かっていましたが、無事に目が覚めて良かったです。……ですが、大丈夫ですか?」


 頬に添えられた手に自身の手を重ねたラプラスはアーサーに問い掛ける。

 アーサーはその問いの意味を察し、張り付けたような笑みを浮かべて答える。


「ああ……大丈夫。今はやるべき事をやる」

「……無理、しないで下さいね?」


 それには答えなかった。アーサーが停滞する事を拒み、無理をしてでも前に進み続けようとしている事など全て筒抜けなのだろう。

 意識を失う前の事は鮮明に覚えている。ソラが消滅した事も、彼女が遺したものに拒絶された事も、そして最後に現れた人物の声も……。

 それら全てを飲み込んで、今やるべき事をやる為に部屋の中を見回す。そこにはラプラス以外にエリザベスとルイーゼの姿もあった。


「二人もいたんだな」

「う、うむ……丁度見舞いに来ていたのだが、出直した方が良いか?」


 アーサーとラプラスのやり取りに気まずそうだが、どうやらそれだけが理由ではないようだった。テラスでの対話に誘い、そこで襲撃された。因果関係なんて無いはずだが、エリザベスはその事に責任を感じているのだろう。


「いや、二人がいて良かった。丁度、話したい事があったんだ」


 けれどアーサーはあのタイミングでの襲撃に関して、どうしても確認しておかなければならない事があった。そんな気持ちでアーサーは体を起こすと足を床に下ろし、ベッドの脇に座ったままの姿勢でエリザベスからルイーゼの方に視線を移す。


「……ルイーゼさん。『ノアシリーズ』に情報を流したのはアンタだな?」

「……、」


 ルイーゼは表情も変えず何も答えない。代わりにエリザベスが動揺していた。


「……な、何を言っておるのだ? ルイーゼに限ってそんな事があるはず……」

「昨夜の襲撃の時にルイーゼさんはリザを抱えて逃げたけど……流石に反応が速すぎたよ。俺より早いだけならともかく、ラプラスよりも早く気付くなんて有り得ない」


 彼女は未来を観測して危機を察知できる。特に自分自身と回路(パス)を繋いでいるアーサーの命の危険に関しては機敏に反応し、ラプラス自身が能力を発動しようとしていなくとも自動で察知できる。『魔神石』由来のそんな芸当を普通の人間にできる訳がない。『勘が鋭い』では流せない話なのだ。

 とはいえ、アーサーがルイーゼを疑う根拠はこれだけだ。言い逃れされれば問い詰める方法は無い。僅かな疑念を残せる程度だろう。


「……流石に貴方の目は誤魔化せませんか」


 しかし意外にもルイーゼはあっさりと認めた。

 ずっと裏切っていた、と。その事実にエリザベスは狼狽する。


「……何故、なのだ……? そなたはずっと余を支えてくれていたのに……何故だ、ルイーゼ!! そなたの裏切りで人が死んだのだぞ!? そなただけは味方だと信じていたのにっ!!」

「……、」

「黙っていないで答えよ、ルイーゼ!!」

「リザの為だろ?」


 ルイーゼは何も答えず、おそらく沈黙を通し続けるだろうと悟ったアーサーは彼女の代わりに答えた。もう状況に困惑するしかないエリザベスは弱ったような様子だ。

 だけどアーサーは構わずエリザベスに向かって言葉を続ける。


「リザ、あんたと同じだ。あんたの父親と『ノアシリーズ』は相手の弱みを利用する。リザがユウナの存在で脅されていたように、ルイーゼさんはリザの存在で利用されてたんだ」


 こちらに関しては証拠はどこにもない。ただアーサーは彼女の目を見てそう感じた。その核心を得る為に今度こそ腰を起こすとルイーゼの前に移動する。至近で視線を交わし、彼女の目の奥にある揺らぎを見ると予想が確信に変わる。


「……リザの事は俺達が必ず守る。だからルイーゼさん、お願いだ。『ノアシリーズ』について知っている事を全て教えてくれ」

「……エリザベス様」


 しばらく互いに目の奥を射抜くように見つめ合うと、先に目を逸らしたルイーゼはエリザベスの方を向いて頭を下げた。


「今日までお世話になりました。本日限りで辞めさせて頂きます」

「ルイーゼ……」

「それからアーサー様、こちらを」


 ポケットから取り出したメモ帳に何かを書いたルイーゼは、それを千切ってアーサーに手渡した。


「そこへ行って下さい。『ノアシリーズ』が生まれる切っ掛けを作った者がいます。彼女自身は『ノアシリーズ』の味方という訳ではないので、すぐに話を聞けるはずです」

「……ありがとう」

「感謝は不要です。……ただ、貴方が言った事を違えないで下さい」


 それがルイーゼが発した最後の言葉だった。最後に一礼だけして部屋を出て行くのを、茫然自失といった感じのエリザベスは止められなかった。

 アーサーはとりあえず渡された紙を確認しようとすると、その前にラプラスが控えめに袖を引いた。


「……今のアーサーに余裕が無いのは分かっています。その状態でやるべき事をやっている事も。……ですが、私が言いたい事は分かりますよね?」


 ラプラスが何を言っているのかアーサーにも分かっていた。

 情報を得る為に、そして裏切者を特定する為にルイーゼを糾弾した。でもアーサーだって人間だ。そこにソラが死んだ事に関する感情が含まれていなかったといえば嘘になる。進んでやった事ではないとはいえ、結果的にルイーゼが情報を漏らしたせいでソラが死んだ。そこへ怒りを抱くのは当然だろう。でもその感情のせいでエリザベスを傷つけた事は擁護できない。


「……リザ。ちょっと付き合ってくれ。話がある」

「……ああ、わかった」


 返答できただけエリザベスの胆力は大したものだった。信頼していた者に裏切られた直後で放心していたはずなのに、すぐにアーサーの言葉に反応したのだ。紛いなりにも王女として強い心を持っているという事なのだろう。

 外へ出て街の様子も見たかったがテラスは昨夜破壊されているので、アーサーはエリザベスに案内して貰って屋根の上に向かう。流石に危ないので手を繋いでアーサーが引っ張る形で外へ出た。屋根の上にエリザベスは座り込み、アーサーは立ったまま遠くを見据える。昨日のテラスより少し高い位置というだけだが、煌々と灯りがついている街の様子がよく見える。

 アーサーは繋いだ手を意識しながら、前を向いて景色を眺めたまま言葉を出した。


「……ルイーゼさんの事、すまなかった。でも確認しない訳にはいかなかったんだ」

「分かっておる……そなたは正しい。ただ余にとってルイーゼは姉のような存在だったからな。正直言うとショックだ。父上に叛逆を決めた時も、ルイーゼにだけは打ち明けて付いて来て貰った。……母上が死んだ時もルイーゼだけは余の傍で支えてくれた。今の余にとって唯一と呼べる家族なのだ」

「……なんとなくだけど分かるよ。俺も血よりもずっと強いもので繋がってる家族がいるから」


 レインやビビの事は言うまでも無く、『ディッパーズ』もそれは同様だ。世間からは卓越した力を持つヒーローの集団という認識だが、そこへ属する者達にとって、特にオリジナルメンバーの七人にとっては家族という側面が大きい。今は色々あって分裂しているが、その思いは今も全く色褪せていない。


「……そなたも両親がいなかったのだな」

「その辺りは色々と複雑なんだけどね」

「余の方はシンプルだろうな。母上が何者かに殺され、余はしばらく立ち直れず引き籠り、優しかった父上はそれから今のようになってしまった。だがシンプルでもお主と抱いた気持ちは同じはずだ。だからこそ分からぬ」


 そう言ってエリザベスはアーサーの方に視線を向けた。それに合わせてアーサーもエリザベスの方を向くと、二人の視線が交差する。


「親しい者の死というのは誰にとってもショックなもののはずだ。それなのに何故だ? そなたが特殊な環境に身を置いているのは分かっておるが、どうしてまだ前を向ける? どうして必要な行動ができる? あんな事があったというのに……」

「……俺だってリザと同じだよ」


 エリザベスからの問い掛けにアーサーは曖昧な笑みを浮かべ、視線を外すと今度は遠い夜空を眺めた。


「……あの日もこんな雲一つ無い夜だった。友人が死んで停滞してた俺は、多くの人に支えられて、あの星の下で誓ったんだ。二度と停滞しない、誰もが頼れる救済手段になってやるって」


 ある意味では、あの時が本当の始まりだった。

 だから足を進める。前を見据えて、必要な行動を取る。それが異常だと見られても。全てはこの愛おしい星空の下の灯りを守る為に。


「世界にはここと同じような光景がいくつもあって、この灯りの一つ一つに人生があって、一つの幸せの形がある。俺達が守るべきなのはそれだ。たとえ何があろうと……命を懸けるだけの価値があると信じてる」

「……それで世界中から追われる犯罪者になったとしてもか?」

「それでもだ」


 一瞬の逡巡もなく答えたアーサーにエリザベスは曖昧な笑みを浮かべて、


「……そなたは狂っておるな」

「俺は平凡な人間だよ。ただ理不尽が見過ごせない、頑固で負けず嫌いなガキってだけだ」

「それは開き直っているだけではないのか?」

「それくらい神経が図太くないとやってられないからな」


 アーサーは冗談めかして言うとエリザベスは小さく笑った。その姿にアーサーは微笑むと目を閉じて何かに集中する。するとすぐにアーサーの体に変化が起き、全身に朱色の焔のようなオーラを身に纏った。しかし全身を包まれたアーサーに嫌な熱さはなく、それは手を繋いでいるエリザベスにも同様だった。


「その炎は……?」

『炎龍王の赫鎧』ヴァーミリオン・フレイムっていうらしい。ソラが最後に教えてくれたんだ。俺にはまだやるべき事があるって」

「……だから前に進むのか?」

「ソラの事が悲しくない訳じゃない。『協定』に背いて仲間達と決別した事だって、何も感じてない訳じゃない。いつだってたらればを考える。でもその時には他に選択肢なんて無い、いつだってそうだった。だから今もやるべき事をやらないと、この国も世界も終わりだ。託してくれた人達が守ろうとしたものを、託された側が守らない訳にはいかないだろ? そしてこの国を『ノアシリーズ』から取り戻す為にはリザの力が必要だ。だから最後まで力を貸してくれ」

「……それは余の方から頼む事だ」


 すっと立ち上がったエリザベスの目には決意が戻っていた。あるいはそれは強がりなのかもしれないが、彼女も再び前を向く事ができるようになったのは僥倖だ。

 繋いでいた手を互いに強く握り締めて、改めて視線を交わす。


「余は今度こそ父上と決着をつける。……ルイーゼとも話さなくてはな」

「俺は『ノアシリーズ』を止めて世界を守る。そしてあんたに全てを取り戻させる。改めて約束するよ」


 きっとそれは簡単な事ではないだろう。

『ノアシリーズ』は強い。ワーテル・オルコット=バルゴを止めるのも容易ではないだろう。

 それでも彼らは立ち向かう。

 たとえどんな困難が待っていようと。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 エリザベスとの話が終わって部屋に戻ると、ラプラスがベッドの上に正座で座ったまま目を閉じていた。しかしアーサーの気配に気付いたのかすぐに目を開く。


「……お話は終わりましたか?」

「無事にね。『世界観測(ラプラス)』を使ってたのか?」

「ええ、来るべき戦いがもたらす可能性の未来を観測しました」

「結果は?」

「そうですね……一言で言うなら、相変わらず未来は強敵です」


 遠回しな言い方だが、つまり現状では変化無しという事だろう。ただラプラスの能力はあくまで現状知り得る情報から限りなく真実に近い未来を観測できるだけだ。もしかしたら彼女の知らない所で何かが動いていて、未来が変わっている可能性もある。

 それは彼女自身も自覚があるので、言葉の後に苦笑を浮かべる。


「もし私の力が制限されていなければ、確実な『未来』を観測できたんですけどね」

「制限?」

「ああ、そういえば言った事がありませんでしたね。私は『一二災の子供達ディザスターチルドレン』として生み出される時、『未来』の『魔神石』の力に制限をかけられたんです。ミオさんと原理は違いますが、本来は未来を観測するとそれで未来が確定してしまうんです。その危険性が分かっていたからこそ、他の『魔神石』と同時併用しない限りは本来の力を発揮できません」

「そうだったのか……まあ、それはそれで大変そうだし、ラプラスは今のままで十分素敵だから良いけど」


 ごく普通の事のように言うと、ラプラスは大きく目を見開いてすぐに頬を紅潮させた。


「……不意打ちとはやってくれますね」

「事実だからな」

「むぅー……このお返しはその内するとして、そろそろ寝ましょうか。明日も忙しくなりそうですし」

「俺はほんの少し前まで寝てたから眠くないんだけど……っていうかラプラス、もしかしてここで寝るつもりか?」

「流石に今日は隣で寝るだけです。……少なくとも今日はその方が良いと思いまして」

「……やっぱり敵わないな」


 ラプラスはアーサーが今、隠している事に気付いている。気付いている上で直接的な事は何も言わず、ただ傍で支えてくれているのだ。以前なら遠慮していたその優しさだが、今の二人の間にはそういった遠慮は必要ない。既に支え合う事に理由などいらない関係なのだから。

 とりあえず目を閉じて体を休めるだけでも良いか、とアーサーは考えて部屋の灯りを消してからラプラスがすでに入っているベッドに潜り込んだ。深く息を吐きながら横になると、すぐ横にラプラスがぴたりとくっ付いて来た。そして耳元で囁くように言う。


「……アーサーが気持ちを隠したいなら私は何も言いません。それに私だからこそ何を言ってもダメだとも思っていますから。……でも恋人ですから、いくらでも寄り掛かってくれて良いんですよ?」

「……まあ、その時が来たら甘えさせて貰うよ」

「ええ、楽しみにしてます」


 あれだけ眠くないと思っていたはずなのに、ラプラスが傍にいる事で安心したのか睡魔が襲って来た。

 何があっても腹は減るし眠くもなる。そんな人間らしさを複雑に感じながら、アーサーは静かに意識を手放した。

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