388 解き放たれるもの
全身の至る所が切り裂け、大量の血を流して倒れたクラーク。それは誰から見ても致命的で、彼が死んだ事を疑う者は誰もいなかった。
「クラークさん……クラークさん!! 返事をして下さい、クラークさんッ!!」
「無駄ですよ。もう死んでいる」
忌々し気に舌打ちをしながら、ゲイリーは頭を掻きむしって地面に抑えつけられているアイリスの方に向かう。そして上げた足を振り下ろしてアイリスの頭を踏みつけた。
「クラーク様が亡くなったのは残念ですが、彼はアンソニー様にも煙たがられていたので大丈夫でしょう。……まったく、こんなものに執着して命を捨てるとは理解しがたい」
「ぐっ……アナタに、彼の何が……ッ」
「ええ、だから理解できないと言っているでしょう? これだから獣の理解力は……」
やれやれ、と頭を振るゲイリーは圧倒的優位に立っているつもりだったのだろう。
けれどそんな彼の肩に背後から手がかかる。
「おい」
低い男性の声だった。
肩の骨が砕けそうなほどの力で掴むその手の主は続けて言う。
「一度しか言わないぞ。その足を退けろ」
ゲイリーが振り返ろうとした直後、その顔面に向かって拳が飛んだ。咄嗟に左腕を差し込まなければ、骨が砕けるのはゲイリーの前腕ではなく頭蓋骨になっていただろう。
パンチ一発で吹き飛ばされたゲイリーは呻き声を漏らす事もなく、動かなくなった腕をぶらぶらと振りながら、
「……驚きました。一発で腕の骨が粉々です。血清に適合したんですね。一体、どんな方法を?」
「どうでも良い」
そこにいたのは間違いなく、クラーク・ウォードだった。
きっと、今度こそキャンサーという殻を脱ぎ去った少年だった。
元々貧相な体つきという訳ではなかったが、今は明らかに体つきが良くなっている。アンソニー・ウォード=キャンサーとは違う、完璧な形で『獣人血清』が適合した姿。常人を超えた身体能力を持ち、獣人と同じ第六感、さらに代謝機能も上がっている。
父親とは違う、善良な心を持った超人だ。
「僕が生き残った理由なんか知らない。ただ賭けに勝った。これで僕はみんなを救える」
「……あなたの血を使えば、より安全で確実な血清を作れそうですね」
こんな時までそういう事しか考えられないゲイリーの言葉には興味も示さず、クラークはアイリスを取り押さえている獣人達を見て静かに口を開く。
「退いてくれないか?」
クラーク自身はそこまで強い口調で言ったつもりはない。彼女達もまた、自身の父親やゲイリーに無理強いをされて従っているに過ぎない被害者だからだ。獣人側の立ち位置にいるクラークにとって、彼女達は庇護に対象であって敵ではない。
けれどクラークを見ていた彼女達の反応は全く違うものだった。怯え切った様子で三人はアイリスの上から飛び退いた。体を小刻みに震わせ、恐怖に満ちた眼差しをクラークに向けている。
見た目の変化に驚いている訳ではない。彼女達はクラークが自分達を超える生物になった事を野生の本能で理解したのだ。
「……ちょっと傷つく」
「クラークさんは優しい方なんですけどね」
アイリスはクラークが差し出した手を取って立ち上がる。そして二人は揃ってゲイリーの方を睨むと、彼が何か行動を起こす前に地面を蹴った。今やクラークとアイリスは同じ速度だ。
いくらゲイリーが常人よりは動けると言っても、それはあくまで人間の範疇での話だ。人間以上の力を持つ二人の攻撃は躱せず、まずはクラークが殴り飛ばし、立ち上がろうとした彼の首筋にアイリスが剣を当てた。それによりゲイリーは膝立ちの姿勢のまま固まった。
「さて、状況をおさらいしよう」
改めて追いついて来たクラークはアイリスから剣を借りて位置を変わる。もしゲイリーの命を奪うとしても、その重荷は自分が背負うべきだという判断だった。
「現存する『獣人血清』は全て押収済みだ。一本は僕が使ったが、残り二本の内どちらかを『W.A.N.D.』に渡せばこの施設は正当な理由で潰せる。また首輪の遠隔起動は解除されてるから、後は破壊するだけで獣人達は外に出られる。そうなれば獣人達を作っていた事が露見して、やっぱりこの施設は潰せる。クソ親父の場合は捕まっても命までは取られないだろうけど、君の場合は確実に死罪だ。あわよくば全責任を負う羽目になるかもしれない。だからクソ親父を裏切って僕らの側に付け。魔力使用を抑制してるアンテナの破壊に協力し、従属状態にある獣人達を解放しろ。そしたら君の身柄が『W.A.N.D.』に移された後、少なくとも命だけは保障して貰えるように掛け合う」
クラークは家族と反りが合わない。そもそもの性格や倫理観が違い過ぎて馴染めないというのが理由だが、それはキャンサー家に仕えているゲイリーに対しても同じように苦手意識を持っていた。
だからといって殺したいかと言われたら答えはノーだ。それに性根から他人の命を何とも思っていないアンソニーとは違い、ゲイリーはそれに付き従っているだけだ。説得できる可能性があると思っていた。
けれど彼の目を見て、自分の目論見の甘さを思い知った。その奥には揺るぎない決意があり、自分の言葉が全く響いていない事を告げている。
「……なあ、本当に良いのか? このままじゃ君は散々利用された挙句、切り捨てられて惨めに死ぬんだぞ? どうしてそこまでクソ親父に忠誠を誓えるんだ」
「……クラーク様は幸せ者です。誰かを助けたいと思うのは、誰かを助けられる余裕があるからです」
こちらの問いかけに対する答えでは無かったが、ひょっとしたら初めて語られたかもしれないゲイリーの本音の言葉に少し聞く耳を持ってしまった。
「私にはそんな余裕はありませんでしたよ。アンソニー様にはスラム街で拾って頂いた恩があります」
「だからクソ親父は裏切れないし、獣人を虐げても良いと? そんな話じゃ僕の同情は誘えないぞ」
「そんなつもりはありません。これは宣言ですよ。私がアンソニー様に仕えているのは、他のでもない私自身の目的の為です!!」
そこでゲイリーは信じられない行動に出た。なんと首筋に当てられていた剣の刃に自ら首を押し付けたのだ。そして折れていない右の拳を硬く握り締める。
「血清があれば、この国が『人間領』の覇権を握ればっ、私のような者を生まなれなくて済む国になる! そんな権利が無い事など重々承知、それでも私は悪魔に魂を売ってでも実現する!! 例え利用されるだけだったとしてもッ!!」
叫ぶと同時にゲイリーは右の拳を地面に叩きつけた。その衝撃がゲイリーの首から剣を通じてクラークの体にまで届いた。その衝撃にクラークの体の動きが完全に停止する。
何が起きたのか、クラークには理解できなかった。
それは遠当てと呼ばれる技術。だが命の取り合いの最中に攻撃のネタなど関係ない。
「ふんッ!!」
すかさず立ち上がったゲイリーは躊躇も見せずにクラークの鳩尾に拳を叩き込んだ。その一撃は魔力が無いというのに、先程と同じように体の芯まで響いて鈍い痛みが全身に広がる。
少し後ろに下がったクラークが見た光景は、ゲイリーが続け様にアイリスに襲い掛かろうとしている姿だった。
ぐっ、と奥歯を噛みしめたクラークの思考が回る。
このままだとアイリスがゲイリーにやられる。だけど自分の手には剣が握られており、今の身体能力なら一足で反撃できるだろう。
クラークは迷った。
ごく普通の思考として、迷ってしまった。
その上で決断した彼は、力強く地面を蹴った。
「ッ―――ァァァあああああああああああああああ!!!!!!」
叫んで思考を止めたクラークは、真っ直ぐ伸ばした剣をゲイリーの右肩に突き刺して直進し、建物の壁に縫い留めるように剣を突き刺した。
致命傷ではない。けれど左上腕の粉砕骨折、首筋からの出血、さらに右肩からも流血が止まらない。おそらく骨も折れている。
積み重なれば十分に命に関わる傷だ。
「……お見事です、クラーク様……」
「……見事なものか、こんなの」
両手に伝わるのは肉を突き刺した嫌な感触だ。いくら嫌いとはいえ、見知った相手を死に追い込んで気分が良い訳がない。
「……元々はクソ親父みたいに倫理観が無い訳じゃなかったんだろ? 魔力無しでも獣人と渡り合えるほど自分を鍛えて……どこかで止まれなかったのか!?」
「ええ……アンソニー様に、拾われ……作法を学び、学を身に着け……よく、鍛えました……全ては、普通を享受、できる……ように……最後の、問い掛けが……それで良いん、ですか……?」
「ッ……」
最後。
これでもう、二度と口を利く事はない。
清々すると思っていたが、全くそんな事は無い。むしろ晴れない気分が嫌に渦巻いている。
聞きたかった事に嘘はない。だけど最後に聞きたい事はそれではない。
「……どうして、僕を殺さなかったんだ? チャンスなら今までいくらでもあったのに……」
アンソニーからは殺しても良いと言われていたはずだろうに、やろうと思えば不意打ちで殺す事もできたはずなのに、ゲイリーはいつも会話から始めていた。
特段、聞かなくても良かったのかもしれない。
でも、聞いておかなければならないと思った。
それがせめてもの責任だと思ったから。
「生まれた、時から……見ています……から」
それこそクラークには分からなかった。
嫌いではなかったのか?
目障りではなかったのか?
問いかけようにもゲイリーはすでに意識を失っていた。
「クラークさん……」
「……行こう」
心配して声をかけてくれたアイリスに、クラークは冷血とも取れる言葉を返した。そしてゲイリーの体から剣を引き抜くと軽く振って血を落とす。合わせるようにゲイリーの体も地面に倒れた。
そのままアンテナの方に向かおうとすると、剣を持つ手をアイリスが握った。
「ワタシが持ちます」
「だけど……」
「ワ・タ・シ、が持ちます」
「あ、はい……」
強い語気で言われて断り切れなかった。反射的に剣を差し出してしまうと、引っ込める暇もなく取られて鞘に仕舞われた。アイリスなりの気遣いなのは分かっていたが、どうも尻に敷かれている未来が容易に想像できるのが何とも言えない気分になる。
とにかく足を止めている暇は無い。後悔はあとからいくらでもできる。今は魔力が使えない中で戦っている者達の為にアンテナを破壊しなければならない。
ただ『獣人血清』を打って力が増した事もあり、先程までよりも焦りはなかった。ゲイリーも排除したので、直接邪魔をして来るような存在は他にないと思っていた。
あくまで視界の端に、背中に珊瑚のように骨のクレストを生やした二足歩行のトカゲのような不格好な生物が映るまでの話だったが。
それと目が合うと、向こうは身を低く構えた。
「なんだ……?」
「っ……」
クラークが疑問を漏らしている間に、傍らにいたアイリスが謎の生物と一瞬で距離を詰めて両断していた。感覚が鋭くなったばかりで処理できていないクラークとは違い、明確な殺意をアイリスは感じ取っていたからこその行動だった。やらなければやられる。彼女の獣人としての本能がそう告げていたのだ。
けれど本当の恐怖はここからだった。真っ二つに分かれたその生物は、それぞれ無くなった部位を再生し始めて蠢いていたのだ。さらに気付くと周囲に同じ生物が集まって来ていた。
「なっ……逃げるぞ!!」
ただならぬ状況にクラークは逃走を決断した。仮に死なない上に増殖するとしたら、そんな大群を相手にするのは自殺行為だ。一難去ってまた一難という言葉が脳裏を過る。もしこれが施設中に放たれてるとしたら、魔力を使えない自分達の方が圧倒的に不利だ。
足を動かしながらクラークは顔を上げると、すでにアンテナは視界に入る位置にある。この施設で一番高い一〇階の建物の屋上、その端に設置されたそれを早急に破壊する必要があるが、設置してある屋上まで登っている時間があるかどうか分からない。最悪待ち伏せされている可能性だってある。さくっと飛んで行ければ良いのだが、今は空を飛べないし強化された脚力でも飛んで行くのは無理だろう。
「っ……アイリス、僕を剣で飛ばしてくれ!!」
「く、クラークさん!? そんなっ、突然何を……!?」
「今の僕の脚力に君の力が加われば、きっとあの高さまでジャンプできる! 破壊できれば僕は飛べるから落下しない!!」
ようは野球のバッティングのようなものだ。剣をバットに見立てて、クラークはボールの役割を担えば、二人の力を足してギリギリ届くかもしれないという希望的観測込み込みの賭け。いくら外の世界に疎いといっても、それが無謀な策な事くらいアイリスにもすぐに分かった。
「もし破壊できなかったらどうするつもりですか!? いくら血清を投与したと言っても、あの高さから地面に叩きつけられて生き残るかどうかは賭けですよ!?」
「他に手が無いんだ! ここでアンテナを破壊できなければ全員殺される!! 頼むからやってくれ、アイリス!!」
今まで見た事のないクラークの必死の表情にアイリスは少し面食らった。勿論、今までだってクラークはずっと必死だったが、そのベクトルが少し変わっているのだ。
これまではずっと、ただ生き残る為に見せていた必死さだった。どうしようもなくても、なるべく多くの獣人を助けられるように苦渋の決断をして来たその必死さにはいつも痛みが伴っていた。
けれど今は違う。その目の奥にはか細いながらも未来への希望がある。この難局さえ乗り切れば全てを救えるという確信があるのだ。
「っっっ~~~分かりました、分かりましたから! ですが絶対に成功させて下さいね!?」
アイリスの了承を得たクラークは地面から足を離して少しだけ飛んだ。その傍でアイリスが剣を横薙ぎに振るい、クラークは両足をその剣の腹に着け、二人は呼吸を合わせてボールの役割を担っているクラークの体がアンテナに向かって一直線に飛んで行った。
拳を硬く握りしめて、アンテナに衝突するタイミングに合わせて突き出す。
けれどクラークの拳がアンテナに直撃する事は無かった。その寸前、目には見えない壁に阻まれたのだ。
(エネルギーシールド!? こんなのがあるなんて聞いてないぞ!!)
おそらく強度はそこまで強くない。その証拠に今の攻撃で一時的にエネルギーシールドが解除された。もう一撃加えればアンテナを破壊できるが、クラークが浮遊していられる時間は残されていなかった。エネルギーシールドに阻まれたせいで勢いを完全に失ってしまったのだ。
当然のように重力に従って落下が始まる。それでもクラークは諦めず、拳銃を取り出すとアンテナを狙って何度も発砲する。もう破壊する手立てはこれしか無いが、その肝心の弾丸が当たらない。そもそもクラークは銃を使えても名手という訳ではない。しかも今は空中を落下しながら発砲しているのだ。重心は安定しないわ腕はブレるわで狙いは一向に定まらない。
最初から分の悪い賭けという事は分かっていた。その上でアイリスに頼んで強行した策で、だからこれは当然の帰結。奇蹟なんてそう簡単には起きない。
やがて弾を撃ち尽くしてマガジンが空っぽになった。アンテナは壊れていない。その結果にクラークは表情を歪ませて歯を食いしばった。
(届かない……っ)
必死に手を伸ばしても、魔術を使えない無力な少年が掴むのは空だけ。数秒後には地面に叩きつけられて死ぬ運命が待っている。
けれどクラークの脳内を埋め尽くしていたのは、迫る自身の死への恐怖では無かった。獣人達を救う最初で最後のチャンスを自分の不甲斐なさのせいで逃してしまう後悔だけだった。
(アイリスを……みんなを救えるチャンスがようやく来たのに、あと少しがどうしても届かないっっっ!!!!!!)
自分が死んだ所で、血の繋がった肉親は悲しまない。むしろ邪魔者がいなくなって喜ぶ姿の方がしっくり来る。
物心がついた頃から、何かが違うと感じていた。家族のはずなのに、自分の価値観だけがどうしようもないほどにズレていると分かってしまった。
そこから先は地獄だった。血も涙もない肉親に囲まれた生活は、真っ当な神経を持ったクラークには悲惨としか言えないものだった。父親とよく似た兄のロンバートと比べられては叱責される毎日。兄へは期待と愛情の眼差しを向ける母親からは、まるでゴミを見るような目を向けられる始末。
だから、だったのだろう。
獣人達に肩入れしてしまったのは、そんな自分の境遇と彼女達の不遇を重ねてしまったからだろう。
肉親は全員、獣人の事を薬品から生まれた道具としか思っていないが、ただ一人、クラークにとっては違った。
初めての友人も、初めての恋も、全て獣人だった。お互いに慰め合ったり、時には口論になる事だってありながら今日まで一緒に生きて来た、血の繋がった肉親よりも家族と呼べる者達。
だから助けたいと思ってしまった。その為なら使えるものは全て使うと決めた。大嫌いな自分の身分も、『ディッパーズ』や『W.A.N.D.』のような外部の組織も。そして父親を殺す事でさえも躊躇わないと心に決めた。
けれど結局、勝てなかった。
「くっ……そォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
誰も助けられずに敗けて死ぬ。
その現実に打ちのめされて、クラークは喉の奥から叫んだ。
しかし、その直前の事だった。
『―――大丈夫。アンテナを破壊するから動かないで』
嘉恋が辛うじて取り戻した通信機能。そこから聞いた事の無い女性の声が聞こえて来た。すでに自分達の通信機も『W.A.N.D.』と『ディッパーズ』の物とチャンネルを合わせているので、聞いた事もない声が聞こえて来たのは不思議ではないが、その相手に一切の心当たりが無い。
その言葉の直後、一発の弾丸がアンテナの根元に直撃して小さな爆発を起こした。それが引き起こす結果は一つ。今度こそ本当の意味で魔力行使を取り戻し、クラークは飛行する魔術を使って空中で姿勢を直した。それから地上のアイリスの元に一直線に飛び、また謎の生物に襲われる前に彼女の体を抱えて再び空に舞い戻った。
「クラークさん……無事で良かったです。一時はどうなるかと……」
「僕もヒヤヒヤしたけどね。誰かに助けられた」
『どういたしまして。間一髪、助かったみたいだね』
ようやく一息つくと、再び聞き慣れない声が通信機から発せられた。どうやらこちらの声も聞こえているらしい。
少し警戒しつつも言葉を返す。
「ああ……助かった。素直に礼はするけど、どうやってアンテナを破壊したんだ?」
『普通に狙撃しただけだよ。動かない標的だったし楽だったね』
しれっと答えているが、それは有り得ないだろ、と思わず突っ込みそうになった。
今し方破壊されたアンテナはこの施設で最も高い位置にあるのだ。弾道からして同じ高さから放たれた弾丸だが、この高さと同じ建物は数キロ先にしかない。そこからここまで精密な射撃をしたなど信じられなかった。
「……君は一体何者だ?」
警戒心マックスで訊ねると、向こうは全く警戒していない様子で身分を明かす。
『私は「ナイトメア」のユキノ・トリガー。ところで「W.A.N.D.」の長官と「ディッパーズ」のボスはどこにいるか知ってる?』