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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第三章 竜臨闘技場解放戦線
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42 竜臨祭の真実

 こちらも二人から四人に増え、結祈を先頭にして進む。

 結祈の魔力感知のおかげもあるが、アーサー達が防衛システムのほとんどを引き付けてくれているおかげで、魔力の消えた場所まで何事もなく辿り着いた。


「ここで間違い無いのか?」

「間違いないよ」


 目の前の扉はここまでも何度も見たものと同じようなものだった。


「この中にお姫様への手掛かりが……」

「待って」


 扉に手をかけようとするミランダの腕を、結祈が掴んで止めさせる。


「もしここが捕まえた人達を確保しておく施設なんだとしたら、警備はどこよりも厳重だと思う。せめて脅威の確認をしてからじゃないと危険だよ。ワタシが確認するから少し待って」

「あっ、僕も確認します」


 そうして、結祈とマルコが今まで以上に警戒して扉に隠されているかもしれない罠を探る。

 物理的に確認作業をしているマルコの方はあまり問題がない見たいだが、魔力的に確認をしている結祈の方は芳しくなかった。やはり魔力遮断が影響しているのだろう。


「何かあったか?」

「いえ、ここまでレナートのハッキングは届いてるみたいですね。開けても問題ありません」

「扉については同じく問題ないよ。でも中の様子はやっぱり分からない」


 ミランダの確認にマルコは安心したように言い、結祈はまだ不安を残しているようだった。


「まあ中については入ってみるまで分からないのが普通だからな。とりあえず開けてみよう。そうしないと始まらない」


 そう言ってミランダが今度こそ扉に手をかけ、アレックスは剣を、マルコは短機関銃を構える。

 扉に異常がないからといって、開けた瞬間に中で警備ロボが待ち構えている可能性もある。むやみに警戒は解くほど四人は馬鹿ではない。

 そして結祈が扉を開け放ち、四人は中になだれ込む。

 中で待っていたのは警備ロボでも、捕まっている大勢の選手達でもなかった。


「……んだよ、これ……」


 中は横幅が二○○メートル以上、奥行きは数キロはある。反対側の壁は見えにくいほど遠く、地下にある施設の中でも最大級の大きさだろう。

 そしてもっとも目を引くのは、その広大な施設に敷き詰められるように並べられた棺桶のようなカプセルだ。


「まさか……」


 おそらく、それを目の前にした四人が考えた事は同じ事だっただろう。

 それを代弁するかのように、アレックスは言う。


「まさかこれ全部に人が入ってるのか!?」

「判断するのは早い。マルコ、見てくれ」

「はい」


 ミランダに言われて、マルコは数あるカプセルの一つに近付き、アレックス達にはよく分からない手際で何かを調べていく。


「マルコは機械に強い。少し見れば用途は分かるさ」

「……」


 とはいえ気が気ではなかった。それにもしこの数の人が捕まってるとして、どうやって助け出したものか見当もつかなかった。


(こんなのどうしろってんだよ、アーサー)

「分かりましたよ」


 アレックスが歯噛みしていると、マルコから声が上がった。


「カプセルの中には間違いなく人が入っています。仕組みは生命維持装置に似てますね。どうしてこんな事をしてるのかは分かりませんが、中で眠らされたまま魔力の搾取と回復が延々と続けられています。こうしている今も」

「魔力の搾取……だと!?」


 パッと見ただけでもカプセルの数は数千はあるだろう。全てのカプセルに人が入ってるとも限らないが、これだけの人数の魔力が何に使われているのか想像もつかない。

 ただ分かったのは、タウロス王国』が地下で秘密裏に行っているのは奴隷商業なんてものではなく、無差別な魔力の搾取だったのだ。

 アレックスはこの事実をアーサーに伝えるべく、マナフォンを取り出す。





    ◇◇◇◇◇◇◇





「この国の真実……?」


 アリシアが言った真実とは、『タウロス王国』が裏でやっている奴隷商業の事だろう。

 となると聞く事はほとんど無いのだが、それとドラゴンとでは話が繋がらない。だから続くアリシアの言葉に注目していたのだが、次の台詞は予想外のものだった。


「皆さんはこの国の現状をどこまで掴んでいますか?」

「……?」


 今更の質問に、アーサーは逆に疑問符を浮かべてしまう。

 ただアリシアからすれば話をする上で、どこから話せば良いかの基準になるのだろう。だからアーサーは簡単にまとめて言う。


「そりゃあ、奴隷商業に手を出してるんだろ? 『竜臨祭』でサポーターのいない敗けた選手を地下に運んで、他国に売る事で利益を得ているんじゃないのか?」

「人を捕まえる手順はそれで概ね間違いありません。ですが、目的が違います」

「目的が違う……? それはどういう……」

「そもそも『タウロス王国』は奴隷商業なんてものに手を出していません」


 は? と思わず間抜けな声が出た。

 奴隷商業をしていないのに拉致はしている。それが本当だとしたら疑問が残る。


「それなら、捕まえた人達をどうしてるんだ?」


 ヴィィィ、と。

 アーサーの疑問に帰って来たのはアリシアの言葉ではなく、ポケットからの振動音だった。

 無視しようかとも思ったが、マナフォンに登録されているのは別行動をしているアレックスと結祈だけだ。何か新しい情報を得たのだとしたら無視はできない。

 アーサーはアリシアから目を離さず、マナフォンを取り出して耳に当てる。


「どうしたんだアレックス。こっちは今大事な話を……」

『やべえぞアーサー! この国は奴隷商業なんかしてなかった!!』


 アーサーの言葉を聞かず、アレックスは叫ぶように言った。

 アーサーはその声から逃れるように一度マナフォンを耳から離し、一息ついてからもう一度耳に当てる。


「ああ、こっちも丁度今その話を」

『奴隷商業じゃない、ある意味ではそれより酷え! 捕まった人達は変なカプセルに入れられて、最低限の生命維持だけされて意識も無いまま魔力だけを搾取されてんだ!!』

「……なんだって?」

『でっけえ施設いっぱいにカプセルがあるんだ。正直、どうやって全員を地上に戻すか見当もつかねえ。つーかこれだけの魔力が何に使われてんのか想像するだけでおかしくなりそうだ』

「……後でかけ直す。ちょっと待ってろ」


 その場にいる誰にでも分かるくらい、声のトーンが低くなった。そして鋭い眼光でアリシアを見据える。


「……アリシア、こっちも余裕が無くなった。これから訊く事に簡潔に答えてくれ」

「……はい」


 その様子にアリシアも何か感じたのだろう。先程まであった余裕が少し無くなっていた。

 それを感じながら、アーサーは問う。


「今、俺の仲間から捕まえた人達は奴隷じゃなくて、ただ魔力を搾取される奴隷以下の扱いを受けてるって聞いたけど、それは本当なのか?」

「……はい、その通りです」


 ここまでは改めて問わなくても分かっていた部分。だがこの先はアーサーにもアレックスにも想像すらできなかった部分だ。

 つまり。


「じゃあ『タウロス王国』は集めた魔力を何に使ってるんだ!?」


 アリシアはその質問に言葉で答えなかった。代わりに視線を例のドラゴンの方へと向ける。

 それでアーサーにも答えが分かった。信じられないといった感じで確認するように言う。


「まさか……あれがそうなのか? 集めた魔力は、あのドラゴンの動力源になってるのか!?」


 アリシアはアーサーの言葉に、目をつぶって頷いた。そしてとうとうと語り始める。


「全ての始まりは三年前、地下施設の開発途中にドラゴンの死骸を見つけた所からでした。物語の中では強大な魔術を受けて地の底に眠った事になっていましたが、どうやら地中深くで氷漬けになっていたようですね」

「それは正真正銘、あの『英雄譚』のドラゴンって認識で良いのか?」

「間違いないと思います。少なくとも、この国はそう判断したようです」

「そしてそれを蘇らせようとした……って訳か」

「私には魔術の才能はありませんでしたが、常人の数十倍の魔力がありました。だから一年がかりで解凍したドラゴンに、私は毎日魔力を与える事になりました」

「待って下さい、それは違うでしょう。あなたは脅されていただけだ」


 と。

 そこで初めてニックが不穏な単語とともに口を挟む。それは無視できる言葉では無かった。


「どういう事なんだニック? 脅されていたって……」

「姫様は外出と引き換えに魔力を搾取されていたんだよ。最初に魔力の供給を拒否した時は一週間飯を抜かれて監禁された。一週間だぞ一週間。飯を抜かれた人間が一体どれだけ生きられるか知ってるか?」

「……」


 アーサー自身、それを知識として知ってはいた。

 確か人は水だけで一週間は生きられると何かの本で読んだ記憶がある。けれどそれはギリギリだったはずだ。一週間後には栄養失調などになっているし、ほとんど死にかけているはずだ。それに、実際に死んでしまう事だってあったはずだ。


「それを三回繰り返した後に、外出券をチラつかせて来やがった。だからアリシア様は悪くない、全ては『タウロス王国』を止められなかった我々の責任だ」

「いいえ、それでも最後に応じたのは私です。ニック達に罪はありません」

「……」


 その場にいなかった部外者のアーサーには、どちらも悪いようには思えなかった。どう考えても、一番悪いのは『タウロス王国』だと思ったのだ。

 ただ一つ、気になったのは、


「……そうまでして、その後起きる事も全部理解した上で、それでも外に出たかったのか?」


 何となく、アーサーには割に合っているようには思えなかったのだ。


「……そうですね、籠の鳥になった事が無い人には分からないかもしれないですね」

「……」


 そう言われてしまうとアーサーには何も言えなかった。アーサーどころか、ほとんどの人は籠の鳥になった経験なんてないのが普通なのだ。

 アーサーは少し居心地が悪い気分になったが、アリシアの方はさして気にもしていないようで話を続ける。


「続きを話しますね。そんな生活が一年ほど続いた頃、当時の国王、つまり私の父が逝去しました。王位を継いだ兄は私一人の魔力供給では時間がかかり過ぎると判断し、一般市民を使う事にしました。それが『竜臨祭』の始まりです」

「……そんな政策が、他の人達に許されたのか?」

「当然、私を含めて多くは反対しました。けれど兄は考えを変える事なく、私をドラゴンのいるこの地下に閉じ込めたんです。それから今日まで、私と捕まった人達は魔力を搾取され続けました」

「今日まで……?」


 それは引っ掛かる物言いだった。まるで今日が何かのターニングポイントのような、そんな意図を感じる言い方だった。


「……そういえばアンタ、地下に閉じ込められたって言うけど、どうして自由に出歩いてるんだ?」

「あなた達のおかげですよ。レナートのハッキングで監視カメラは全て偽造映像にすり替えられ、第一防衛システムであるパワードスーツを破壊した事により監視の目は私から離れました。だからあなた達に伝えたかった」

「伝えたかった……?」


 アリシアが何を伝えようとしているのか、それはニックにも分からない。けれど嫌な気配というのは伝わって来た。

 それはアリシアも同じなのだろう。

 意を決したように、それを言う。


「逃げて下さい、今すぐに。この国はもう手遅れです」

「なに、を……?」


 その時。

 ズズンッ!! と施設全体が震えた。

 アーサー達が思わず立っていられず、片足を付いてしまうほどの揺れだった。


「なん、だ……今の揺れ……!?」

「……間に合いませんでしたか」


 アリシアはそうなるのを知っていたかのように、今の揺れにも少しふらつくだけで立っていた。そして再びドラゴンの方を向く。

 今度もその動作だけで揺れの正体は分かったが、それでも半信半疑でドラゴンの方を向く。

 結論から言えば、ドラゴン自体が動いている訳ではなかった。水槽の中にある羊水のようなものが徐々に排出されているのだ。さっきの揺れは排出口を開けた衝撃だったのだろう。これが全て抜けた時を考えると背筋が凍る。


「なんで今ドラゴンが動き出すんだ!? 一体何の目的で!?」


 アーサーはドラゴンもパワードスーツのような防衛システムの一環だと思っていた。『ジェミニ公国』のように、自国が魔族に襲われた時にのみ起動するようなものだと勝手に思っていた。


「アリシア! このドラゴンは何のために作られたんだ!!」


 アーサーの切羽詰まった質問に、アリシアは酷く申し訳なさそうに、


「……魔族を滅ぼすためです」

「……ッ!?」


 それは到底看過できるような言葉ではなかった。

 魔族と敵対している人間が、それを滅ぼそうとするのは分かる。でもそれに賛同できる訳ではない。特に『タウロス王国』から『魔族領』に向かうという事は、ビビが来たであろう村だって含まれるかもしれないのだから。


「これを止める方法は!?」

「……止める気ですか?」


 信じられない、といった感じのアリシアにアーサーは拳を強く握りしめて、怒りの感情に任せるまま語気を荒げて、


「当たり前だろ、そんなの!!」

ありがとうございます。

次回はいよいよ黒幕の登場です。

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