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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一八章 たとえ間違いだらけだったとしても The_Multiverse_Door_Was_Opened.
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行間二:ヒーローの本質

 飛び込んで来たアレックスは宙に浮いたまま手に握る漆黒のユーティリウム製の剣ではなく、反対の手を前に突き出した。すると上腕にぐるりと一周砲身が突き出るように現れ、発射された小型のミサイルが武装した者達だけを正確に撃ち抜いて行動不能にした。

 突然の事に驚きつつ、ピーターは下へ降りた。


「アレックスさん!」

「大声で叫ぶな。お前がいる事は知ってた」


 声をかけるとアレックスは地上に降りて来た。そして足を着けると全身のスーツのナノテクが右手の剣に流れていき、刃を覆う刃の無い剣へと変わった。ピーターにはそれが剣と棍棒の中間のような武器に見えた。ナノテクの特殊スーツが解けたアレックスは黒とグレーの迷彩柄の衣服に肩にはY字のバックルをかけており、剣を背中に回すとくっつけて手を離した。

 ピーターはすぐに駆け寄ろうとしたが、アレックスはそれを片手で制すると見向きもせず人質達の方に近づき、四方に三角の小型機器を投げると四角錐の電磁バリアで覆った。それから『リブラ王国』の機動隊が入って来ると四角錐の一面だけバリアを解き、人質達を順に外へと連れ出していく。

 全員の救出が終わるまで見守って、残ったのが二人になったのを確認してからピーターは満を持してアレックスに話しかける。


「とくかくこれで解決だね。突然の共同作業だったけどハイタッチしようよ」


 片手を挙げてそれを求める。けれどアレックスから返って来たのは落胆の溜め息だった。


「気楽で良いな。まだ終わってねえどころか悪化してるってのによ」

「悪化……?」

「お前の無茶な突入のせいだ」

「僕の……?」

「本来は機動隊と連携して一気に一網打尽にする算段だった。それがお前の突入で全部パーだ。残党がまた残ってる」

「……なら連絡してくれれば良かったのに」

「確かにな。それくらい判断してくれると思った俺のミスだ」


 ピーターが溢した不満の言葉に同調してはいるものの、アレックスはあくまでピーターが悪いという姿勢は崩していなかった。


「突入前に内部スキャンはしたか?」

「うん……」

「じゃあ地下が解析不能だったはずだよな。それを分かった上で突入してるから無茶だって言うんだ。それともそれくらい何とかなると思ってたか?」

「それは……」

「良いか。俺達は一つの判断ミスで多くの命を危険に晒す。そもそも今回の事件はお前一人に任せられるほど小さい問題じゃねえんだよ。あくまで裏側の話だが、この会社はタキオンエネルギーの抽出と保存に成功したんだ」

「タキオンって……たしか光速を超える仮想物質だよね? えっ、存在するの!?」

「らしいな。とにかくその実物が地下に保管されてる。使いようによっては時を超える事すら出来るかもって代物だ。悪人の手には渡せねえ」

「時を超える……もしかしてタイムトラベルも可能なの? パラドックスとかどうなるんだろう???」

「さあな。……まあ、俺の知ってるヤツは時間移動した事あるし不可能じゃねえんだろ」


 後半は投げやりな口調でそう言うと、アレックスは踵を返して建物の奥へと進んで行く。


「お前はもう帰れ。ここから先は俺が一人でやる」

「ちょ……待ってよ! 僕はもっとやれるよ!! アレックスさんだって『ディッパーズ』に誘ったんだから力は認めてくれてるんでしょ!?」


 去っていくアレックスの背中にピーターは言葉を投げかける。物理的な距離がそこまで開いている訳ではない。能力を使えば、いや例え使わなかったとしても普通に走って近寄れば追いつけたはずだ。

 だけど、ピーターの足は前に出なかった。

 その間にもアレックスは先に進んで行く。そしてこちらを振り返る事はせず、言葉だけは続ける。


「第一にお前は『ディッパーズ』じゃねえ。あの時はただ協力を頼んだだけだ。第二にお前はまだガキだ。この仕事の本質が分かってねえ」

「そんな事……」

「なら答えてみろ」

「そりゃ……ヒーローでしょ? 世界を守ってる」

「ハズレだ。正解は『犠牲を払い続ける者』だ」


 と。

 一度だけ足を止めて、アレックスは続ける。


「正義を実行する立場になれば大なり小なり抱えてる問題だ。俺達は正しいと思う理屈を証明する為に何かを失ってる。それは平穏だったり、自由だったり、自分や誰かの命だったり……。お前はヒーローが表に出してる部分に憧れてるだけなんだよ。裏側はもっと悲惨で陰鬱だ」

「……アレックスさん。僕はただ……」

「お前が善人なのは分かってる。だからあの時は協力を求めた。だがお前はこの国の小競り合いを止める程度に留めとけ。これは意地悪じゃなく、経験からのアドバイスだ。もし一度でもこっち側に来たら、二度と元には戻れねえ。全てを失う覚悟がねえなら止めとけ」


 そうして言うべき事は全て言ったアレックスは再び歩き始めた。

 ピーターはやはり動けなかった。物理的な距離ではなく、もっと違う届かない距離をアレックスの背中に感じたからだった。

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