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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第n章 終わりの果ての世界 Road_to_the_End.
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(無題)The_Last_Day.

 透夜(とうや)達がミオ達が待つ場所に戻った時、すでに手遅れと言っても過言ではない状況に陥っていた。甲高いアラートが鳴り響き、警告を示す赤い光が点滅してフロアを照らしている。


「ミオは!?」

「あそこです! 先程もいた管制室に……っ!?」


『共鳴』の力で真っ先に感知したネミリアの言葉の途中、人類の切り札である『対惑星集束魔力砲』の根元が爆発した。咄嗟の事で三人とも防御できず、爆風に叩かれて後ろに吹き飛ばされた。

 このビルの壁が強固で穴が開かなかった事が唯一の救いだ。しかし爆破のダメージで耳と平衡感覚がやられた。キーン、という甲高い音しか聞こえないし立ち上がる事もできない。

 そんな中で最も早く動き出したのはメアだった。右手から大量のワイヤーを放出し、できるだけフロアの中に張り巡らせる。


「くっ……透夜くん! 私の声が聞こえる!?」

「えっ!? ああ、なんとか!!」

「なら鎖を出して!! 私のワイヤーだけだとフロアを塞ぎきれない!!」

「っ!? なるほど……任せろ!!」


 互いに耳がやられているので会話は大声だ。メアが話している作戦は相手にも筒抜けだが問題無い。知られても構わない作戦だからだ。

 メアの意図を理解した透夜は手を前に出す。するとフロア中に無数の光り輝く魔法陣が浮かび上がり、大量の鎖がワイヤーの網の穴を埋め尽くすように放出される。これで透夜達も移動できないが、相手も同じように移動ができない。もし動けばメアのワイヤーか透夜の鎖が揺れて居場所がバレてしまうからだ。


「極細のワイヤーと鎖による結界ですか……」

「これで空間は掌握した! 次はネミリアちゃんの番!!」


 この膠着状態の優位性は透夜達にある。敵の強みは不可視なのに対して、こちらにはネミリアの生態感知があるのだ。見えない事に意味は無い。


「っ……いました! あそこです!!」

「オッケー!!」

「了解!!」


 ネミリアの指示にメアと透夜は応じた。

 まず部屋中に張り巡らされたワイヤーが一ヵ所に集まると、目には見えない敵の体に巻き付いた。そして漆黒のワイヤーが真っ赤に染まる。


排莢(バースト)―――『紅蓮界断糸(ぐれんかいだんし)』!!」


 メアが右腕を引き、巻き付いたワイヤーが収縮する。本来ならそれで全身がバラバラになるはずだが、今回は少し毛色が違った。表皮がそれほど硬いのか、どんなに力を入れても斬り裂けない。

 だが問題は無い。この場に他の仲間がいる今なら、メアが敵の動きを止めるだけでも十分な意味がある。

 彼女の隣で透夜も攻撃に移る。天に手を掲げると彼の足元に巨大な魔法陣が展開され、そこから大量の鎖が絡み合い、一つの巨大な鎖に変化すると敵の頭上から落ちる。


「ビルの底まで落ちろ!! 『天地覆う連環の(ヴリトラ)鎖』ッ!!」


 ドッッッ!!!!!! と。

 大量の鎖がメアのワイヤーごと敵を呑み込み、床を砕いて底へ落ちていく。体をバラバラに切削する感触は確かにあった。

 下で戦う紬も、そしてこちらも、侵入者の排除には成功した。しかし勝者はどちらかと訊かれれば自分達とは言い難い。透夜が床を破壊するまでもなく、このフロアの状況は壊滅的だ。追い打ちをかけるように『対惑星集束魔力砲』の所々から小さな爆発が連続で起きる。


「あぁ……そんな、これは本当にマズいよ! あの砲身が破壊されたら異星を破壊できない!!」

「分かってる。でも今はそれよりミオだ!」


 叫びながら透夜は管制室の中へ駆け込んだ。ここも酷い惨状だが、幸いミオの姿はすぐに発見できた。車椅子から投げ出され、床に倒れている彼女の元に駆け寄って抱き起こす。

 そしてすぐに異変に気付いた。彼女の体に触れた掌にぬめりとした嫌な感触があった。見ると血で真っ赤に染まっている。


「透夜くん! ミオちゃんは……っ」


 遅れて駆け込んで来たメアとネミリアも、二人の様子を見て言葉を失った。

 ミオの腹は真っ赤に染まっていた。出血が酷すぎる。

 幸いミオにはまだ意識があった。彼女は三人の不安そうな顔を見て、乾いた笑みを浮かべる。


「言ったでしょ……? 今日が……最後の日、だって……」


 咳き込み、一緒に血を吐き出した。

 見て分かるが容体はかなり悪い。


「メア! 傷の治療はできないか!?」

「待って。ネミリアちゃん!!」


 二人もミオに駆け寄り、まずネミリアが『共鳴』の力で傷口の様子を確かめる。


「治せるか?」

「……傷口が深すぎます。わたしの力は本来治療の為に使うものではないので、その……」

「治せないのか……!?」


 ネミリアはハッキリと答えなかったが、表情が歪んだのを見てすぐに分かった。


「とにかくネミリアちゃんはミオちゃんの痛覚を切って。私がワイヤーで傷口を縫うから」

「ううん……無駄、だから……温存して」


 ワイヤーを吐き出そうとしたメアの右手を押さえて止めて、ミオは弱々しい声で呟いた。

 それで透夜にもようやく分かった。分かってしまった。


「ミオ……お前、自分が死ぬ事まで分かってたのか……」

「二〇年前から……うん、全部……分かってた」


 最後の日。

 彼女が何度か言っていたその意味は、つまり自分の命日という意味だったのだ。

 それは透夜には想像を絶する人生だ。自分が辿る道筋も、自分が何時どう死ぬのかも、全てが分かっている人生。とてもじゃないが耐えられる気がしない。


「……僕にはまた、お前を助ける事ができないのか……?」

「ううん……違う。だから……あとは、お願い……おにぃ……」


 ミオは最後に透夜に向けて笑みを浮かべていた。二〇年の時が経って自分より一回り以上も年上なのに、その笑みはやはり妹のものだ。

 かつて()を失った時にも感じた事がある無力感が透夜の体にまとわりつく。しかしこのクソッたれの世界は家族の死を悲しむ暇も与えてくれないらしい。

 地震とは違う断続的で低く体の芯に響く振動が襲って来た。ミオの体を慎重に床に寝かせて、治療を続けるネミリアとメアを置いて窓に近寄る。異変は目に見えるものだった。長方形の巨大な機械の柱が天から大地に突き刺さるように落ちてきたのだ。それも一つではなく何個も。

 そしてすぐに、それが柱などではない事が分かる。下の方の壁が開くと骸骨を模した機械兵が大量に出て来る。そしてバケツの水をぶちまけたかのように一気に地面を埋め尽くす。

 アレは柱などではなく宇宙船だったのだ。こちらが異星に潜入を試みたように、向こうもこちらに攻撃を仕掛けてきたのだろう。それも今日、確実にこちらを制圧する為の総力戦をだ。


「敵だ……アーサー達は失敗したみたいだな」

「敵ってどれくらい?」

「律儀に数える気も起きないくらい大量だ」

「あー……それは本当にマズいね」


 ネミリアとメアは治療にかかりっきり。紬の無事は分からず、こちらの施設は壊滅的でまともな戦力が残っているとは思えない。そして透夜一人ではどう考えたって太刀打ちできないだろう。


「……助っ人が欲しいな。それも沢山」

「呼んだ?」


 絶望的な呟きに軽い調子で応じたのは、いつの間にか入口に立っていた紬だった。


「……無事だったのは嬉しいけど、僕は沢山って言ったんだけど?」


 確かに助っ人として申し分ないが、それでも透夜と合わせて二人しかいない。これであの大勢の軍隊を相手に出来るとは思えない。

 しかし紬の方は相変わらず平静としており、透夜の方に歩いて来た。


「勿論聞いてたよ。実は下で戦い終わってから少し動けなくて休んでたんだけど、意外な出会いがあってね。さっき光速で宇宙服代わりの端末を取りに来たんだけど気付かなかった?」


 言われて見ると鍵のかかった棚が破壊されていた。ミオの方にばかり気を取られて破壊の音にも気づかなかったのだ。いくつ取り出したか分からないが、流石に一つという事はないだろう。


「出会いって、誰の事なんだ……?」

「外を見て。そこに仲間がいる」


 紬も横に並び、今度は一緒に下を見る。

 先程までと何も変わっていない進軍の図。しかし新たな変化があった。ここから見ると小さな魔法陣が突如現れて光を放つと、そこから数人の見知った顔の人物がどこからともなく出て来たのだ。


「あれは……一緒に来なかったみんなか!? どうして今になって……」

「聞いてないし分からない。でも今は関係無いよ。あたし達も行こう―――『ディッパーズ』として」


 こんなものが『ディッパーズ』の日常なのかと思うと眩暈がしてきた。

 困難な状況で、馬鹿げた相手を敵に、まともとは思えない作戦を強行し、窮地に何度も心が折れそうになる。

 それでもアーサー達が今まで戦って来れたのは、きっとこの瞬間のような事があるからだろう。全く都合の良いタイミングだとも思うが、絶対に裏切らず助けてくれる仲間の存在とは思っていた以上に感動的で高揚する。

 だからこんな状況でも透夜が前向きに応じられたのは、テンションが上がっていたからだ。


「ああ……行こう。今日が最後の日だ」

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