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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第n章 終わりの果ての世界 Road_to_the_End.
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(無題)Half-Blood_Girl.

 あいにくラプラスが監禁されていた場所からジェームズの娘が監禁されている場所まではそれなりに距離があった。幸いなのは敵側も避難に忙しくて妨害が無かったことか。一〇分ほど走り続けてようやく辿り着いた。

 彼女は鉄格子の向こう側で壁に寄り掛かって座っていた。首にはラプラスと同じように鎖で繋がった首輪をしている。

 黒いシャツとショートパンツにブーツという軽装だが、上着の赤いマントのフードを深く被っていて顔がよく分からない。


「……誰だ?」


 こちらの気配に気付いた彼女が顔を上げてフードを取った。褐色の肌に白い長髪の色は同じだが、今まで見た者達とは違って紅の瞳が暗闇の中で光っていた。


「俺はアーサー・S・(スプリング)レンフィールド。彼女はラプラス。あんたの父親に頼まれて助けに来た」

「父親だと? 産まれてから一八年、嫌になるほど散々言われた。お前には穢れた血が流れていると。そんなヤツを父親だと認めると思うか?」

「ハーフだからか? それを言ったヤツらは馬鹿げてる」

「知ったような口を利くな。殺すぞ?」


 直接的な言葉と共に睨まれた瞬間、アーサーは彼女から本物の殺意を感じ取った。

 紅の瞳の中に金色の六芒星が輝くのを捉えた瞬間、異星人の技は右手の力で打ち消せないと知っていながら、ほとんど反射的に右手を前に出すと今回だけはどんな攻撃かは分からなかったが打ち消せた。その事にアーサー自身が一番驚く。


「魔力の攻撃……」

「ええ、そのようですね……」


 驚きはしたが、よく考えれば彼女の半分は人間だ。他の異星人と違って魔力を用いた攻撃をしてきても不思議ではない。


「……その右手、魔力を打ち消せるのか。どうりでそこだけ死が視れない訳だ」

「死が視れない?」

「ふん……」


 彼女が鼻を鳴らして一度閉じた目を再び開くと、先程まで鮮やかな紅だった瞳は黒いものへと変わっていた。

 それを見て合点がいったようにラプラスは口を開く。


「なるほど。あなたは『魔眼』を持っているんですね」


 一人だけ納得しているラプラスだが、アーサーは初めて聞く単語だ。予想はできるが確実な事は何も分からない。


「悪いけどラプラス、いつも通り説明を頼む」

「『魔眼』とは持って生まれた魔力を持つ眼の事です。今の世界では発現自体が珍しいですが、かつては『魔眼』を遺伝する家系もありました。おそらく彼女は異星人の母を持った事で突然変異を起こしたんでしょう。基本的には魔力を流して意識すれば力を発動できますが、その能力はそれぞれ違い、魔法と同等の力を発揮するものも少なくありません。おそらく彼女は死を視れる『魔眼』を持っています」

「……リディだ」


 ラプラスが滔々と説明していると、不機嫌な声色で牢屋の中から口を挟んで来た。


「実験動物みたいにあんたや彼女と呼ばれるのは嫌いだ。馴れ馴れしく呼ばれるのも嫌だけど、その方が幾分かマシだ。名前で呼べ」

「つまりアンタのフルネームはリディ・フォルトか」

「ただのリディだ。フォルトなんか知らない」


 まあ、親と産まれた時から会っていないのなら彼女の対応も頷ける。アーサーも父であるアインザームの姓は一度も名乗っていないのだ。気持ちは分かる。


「第一、今更父親面されてもイライラするだけだ。ボクがどんな目に遭っていたかそのフォルトは知っているのか? 魔力を使えるボクは御覧の通り実験動物扱いだ。兵士としての訓練は受けたが期待されている役割はサンドバックだった。退屈な日々の憂さ晴らしに何度も何度もボロボロになるまで嬲られる。その気分が分かるか?」

「……すまない。正直、俺にはリディの気持ちを理解してやる事はできないと思う」


 申し訳なさそうに答えながら、アーサーは鉄格子の錠前を『珂流(かりゅう)』を使って握り潰して開けると、ラプラスと共にリディの傍まで寄って腰を下ろした。


「でも辛い立場にいる気持ちは分かる。俺は変な呪いのせいで誰かに好意も伝えられないし、親しくなった人が死に近づく。しかも戦いから逃れられずいつも命懸けで戦ってる。多分、呪いが解けるか死ぬまで」

「私なんて五〇〇年近くも幽閉されて、ようやく外に出たと思ったら一年足らずでまた二〇年監禁されて殺される運命を知りました。不幸自慢を続けますか?」

「俺は遠慮しておく。リディは?」

「……、」


 返答は無かった。

 アーサーは慎重にリディの首輪を掴む。その時、首に手が触れるとリディは体をビクッと震わせた。


「悪い。痛かったか?」

「……お前、ボクに触れて怖くないのか?」

「なんだ、そんな事か。言っておくけど人間以外とのハーフなんて珍しくないし、目が赤くなる知り合いだって大勢いる。俺だってその一人だ」

「ボクはお前を殺そうと『魔眼』を向けたんだぞ? 正気とは思えない」

「でも何も無かっただろ?」


 相変わらずの甘すぎる言動にラプラスは嘆息していたが、初めて見るリディは心底驚いた表情を浮かべていた。しかしアーサーは構わず錠前と同じように『珂流』を使って首輪を握り潰す。

 リディは自身の首に触れて感触を確かめながら、信じられないといった表情をアーサーに向ける。


「……ボクの鎖を外すなんて本当に正気なのか?」

「この施設の崩壊まであと二〇分ちょっとしかない。本当はあんたを連れて行きたいけど、留まりたいって言うなら止めはしない。でもこれだけは言っておくぞ。あんたはあんただ。血に穢れなんてない、問題なのは自分がどう選択して生きるのかだ」

「……ボクの半分は人間じゃない。敵になるかもしれないんだぞ?」

「他の誰が何て言うのかは知らない。でも少なくとも俺はあんたの選択を尊重するよ。あんたが俺達の側に付くのか、それとも敵として戦うのかは自由だ。できれば友人になりたいと思うけど」


 とりあえずジェームズとの約束は果たした。あとはリディ自身の意志の問題だ。流石にそこまでは知り合ったばかりの自分達が介入する事はできない。

 アーサーとラプラスもまだ仕事が残っている。いつまでもここに長居する訳にはいかない。腰を上げて一足先に二人で牢屋の外側に出る。そして一歩出た所でアーサーは足を止めた。


「……俺も自分が産まれた後の両親には会った事がない。でも少なくともあんたの父親はまだ生きてる。こんな世界だけど、話せる内に話しておいた方が良い」

「ふん……今度は説教か」

「アドバイスだ。……じゃあ、会えたらまた」


 伝えたい事も、やるべき事もやった。

 アーサーは振り返らずラプラスの手を掴み、彼女の指示通りに『幾重にも重ねた(ワンヤードステップ)小さな一歩(・カルンウェナン)』でみんなが待つ『ジェット』の方向に転移した。

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