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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第n章 終わりの果ての世界 Road_to_the_End.
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(無題)Strong_Enemy.

 彼らが消えたのと、褐色の肌を持つ異星人が部屋の中に入って来たのは同時だった。筋骨隆々で身長は二メートル以上ある大男だ。背中には鬼が持っているような『金砕棒(かなさいぼう)』を背負っていて、さらに骸骨のようなフォルムの機械の兵士を二機連れていた。


「おうおう、こりゃ酷え有り様だな。その壁どうした、一三番」


 相手は翻訳機を使っているので言葉は分かる。低い声に身が縮こまる。

 一三番というのはジェームズに与えられた奴隷としての番号だ。ジェームズは震えを堪え、他のみんなを守るように前へ出て答える。


「ランチャー……感激だね。丁度出て行こうと思っていたところだ。見送りに来てくれたのか?」

「ハッ! 相変わらず人間ってのはジョークが上手えな。だが今は求めてねえ。早く答えろ。まだ死にたくねえだろ?」


 彼の言葉に反応して機械兵が銃口をジェームズに向けた。


「瓦礫が部屋の方に飛んでる。それは誰かが外から破壊した証拠だ。それに強者の残り香がプンプンしてやがる。仲間はどこへ行った?」

「知らん。何の話か分からない」

「なら死ね」


 あくまで白を切るジェームズにランチャーはすぐに痺れを切らした。命令に従って機械兵が銃口を引こうとした、その直後だった。


「―――って、見捨てられる訳ないだろうがァァァああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ジェームズの両隣。少年と少女がそれぞれ凄まじい速度で通り抜け、機械兵を一体ずつ破壊したのだ。


「おい……おいおいおいおい! 冗談だろおい!! まさかお前だったとはなァ!!」


 妙な歓喜の言葉を上げるランチャーに構わず、彼の左側からアーサーが殴りかかり、右側からエリナが斬りかかる。魔力を掌握する右手と、魔力を斬り裂き無効化する剣。ランチャーはその両方を腕で受け止めた。魔力を掌握される事もなく、腕を斬られる事もなく、難なく受け止めて弾き返したのだ。


「ちょっ、おかしいよ王様! この人の皮膚、まるで鋼みたい……ッ!!」


 それだけではない。アーサーが右手で殴ったのに魔力を掌握できていない。つまり素の皮膚の硬さだけでエリナの剣を防いだのだ。魔力を斬れる特徴を抜きにしても凄まじい切れ味がある『断魔黒剣(アロンダイト)』を防いだのだとしたら、それはほぼ全ての攻撃が通らない事を意味している。


「思った以上に強敵だな……ラプラス、スゥ! みんなの避難誘導は任せたぞ!!」

「おいおい。俺を前に他に注意を割くなんざ妬けるじゃねえか」


 嬉しそうに笑って拳を構えるランチャーに、アーサーは『愚かなるその身に祈(シャスティフォル)りを宿して(・フォース)』を発動させると腕を十字に交差させて受け止めようとする。


「どうして戻って来たんだ!? 逃げろ、そいつは……ランチャーはッ」


 その寸前で、ジェームズの声が耳に突き刺さる。


()()()()()()()()()()!!」

「ッ……!?」


 ゴッッッ!!!!!! という重い衝撃が両腕に襲い掛かり、アーサーの体は吹き飛ばされて硬い壁に衝突した。背中から思いっきり打ち付けられ、肺の中の空気が全て吐き出される。


「王様!? この……ッ!!」


 再びエリナが斬りかかるが、それも腕で受け止められる。両手で掴んで押し込んでも刃は一ミリも食い込まない。


「悪いが、俺にその類いの攻撃は効かねえ!!」

「くっ……『平等とは是、この重グラビティ・コントロールみ』!!」


 剣での攻撃で致命傷を与える事を断念したエリナは新たに得た魔術を早速行使した。体の表面に黒い魔力を纏うと、彼女は続けて叫ぶ。


「『重力操(シフト)作』―――『衝波(スライド)』!!」


 ぐんっ、とランチャーの体が後方へ吹き飛んで行くように落ちていく。しかしそれも数メートルほどで、彼は床を殴って穴を開けると縁を掴んで横への落下を止めた。


「『重力操(シフト)作』―――『超荷重(プレス)』!!」


 それを見たエリナは、今度は真上から押し潰すように重力をかけた。本来の一〇倍の重力を掛けたはずだが、まったく意に介していないようにランチャーは動く。


「本当に化け物……っ、王様!!」

「分かっ……てる!!」


 ようやくダメージから回復したアーサーは立ち上がるとすぐにランチャーに突っ込んだ。四肢の魔力を全て右の拳に集め、無防備な胴体に『灰熊天衝拳』グリズリー・スマッシュを撃ち込む。

 ゴッ!! という固い音が鳴った。自分が殴ったものが皮膚だとは思えない、まるで素手で鉄板を殴ったような感触が拳に伝わって来た。

 だがそれ以上の驚愕は渾身の一撃を食らったランチャーの反応だ。『愚かなるその身に祈りを宿して』の必殺の一撃を受けてなお、彼は微動だにせず笑みすら浮かべていたのだ。


(なっ……冗談だろ!? 『大地(ガイア)』の力を使ってたヨグ=ソトースとは違う、こいつは生身で耐えたっていうのか!?)

「退いて王様ッ!!」


 エリナの声でハッとしたアーサーはバックステップで後ろに跳んだ。そして飛び上がったエリナが上段から魔剣を振り下ろす。


「『重力操(シフト)作』―――『超荷重(プレス)』、一〇〇〇倍!!」


 剣を振るいながら刀身に掛かっている重力を跳ね上げ、半ば振るうというより叩きつけるような形でランチャーに打ちつける。しかし彼は左腕を頭上に構え、その一本だけで受け止めた。


「これで斬れないなんてッ……ホントにどうなってるの!?」

「まだまだ軽いんだよ」


 にやりと笑い、ランチャーは右の拳を握るとエリナの腹に向かって高速の突きを打ち出した。その寸前、エリナが自分に掛かっている重力を後方に操作していなかったら確実に死んでいただろうという確信があった。骨折や内臓破裂だけでは済まない、拳が当たった部分が消し飛んだと言われても不思議ではない。それくらいのプレッシャーはあった。


「上手く逃れたか。お前は逃げねえのか?」

「誰が逃げるかよ。お前を倒して、この星を破壊してっ、全員で脱出する! 犠牲者は一人も出す気は無い!!」

「よく吼えた!!」


 心底嬉しそうに応答し、ランチャーは拳を構えた。対してアーサーは足の爪先の一点のみに全魔力を集中させて足を振るう。


「潰れろ、アーサー・レンフィールドォ!!」

「―――『大獅子鋭足斬』レオファング・シュナイデンッッッ!!!!!!」


 振るわれた拳を横から蹴り飛ばす形で二人の攻撃は接触した。アーサーは踵から連続で『ジェット』を噴射し、腹の底から声を上げて必死の思いで拳の軌道を逸らした。代わりに床を撃ち抜いた拳の衝撃に叩かれ、アーサーの体は紙くずのように吹き飛んで行く。


(くっ……そ……!! 逸らすだけで何て労力だ! 異星人ってのはどいつもこいつもデタラメな戦闘力なのかよ!!)

「ハッ……やっぱお前との戦いは良いなァ」


 床から拳を引き抜いたランチャーは自分の腕の傷を見て笑っていた。丁度アーサーの爪先が当たった部分がほんの少しだけ切れ、そこから出血していたのだ。

 流れた血を舐めて、彼は獰猛な目をアーサーに向ける。


「俺に傷をつけられるのなんざお前くらいだぜ。だが奥の手を出してねえよな? あのとっておきの黒い炎、いつになったら出す気だ?」


 わざわざ言われなくても分かっている。こいつに勝つには、あの防御力を無視した『消滅』の力を使うしかないと。

 けれど懸念がある。おそらく未来で自分は『消滅』を使ってランチャーと戦ったはずなのに、その痕跡がどこにも見えないのだ。アレを使ったのだとしたら、右腕の一本くらいは消し飛ばせていないとおかしい。


(それでも使うか……?)


 おそらくランチャーは『消滅』への対処法を持っている。しかしアーサーにはそれ以外に勝てる手段が無い。


「……この身は」

「ダメ、王様! それを使っちゃダメだよ!!」


 ランチャーの向こう側で剣を構えたエリナが叫んだ。


「エリナの直感が訴えてる。多分、ここにある力じゃ彼には勝てない。だから……やるべき事は分かってるよね?」

「……来た道覚えてるのか、エリナ?」

「大丈夫。魔術を譲って貰ってから重力はハッキリ感じてる。真っ直ぐ行けるよ」


 エリナの提案は分かっている。ランチャーを倒すのではなく、この星そのものを破壊しようと言っているのだ。確かにそれが目的の一部ではあるのだが、『レジスタンス』の生き残りの避難が済んでいない状態でこの星を破壊するのは不味い。


「お前らの考えは分かってるぜ。この星の破壊と不思議な石の確保だろ? 前のアーサー・レンフィールドもそうだった。まあ、俺が阻止したがな」

「……まあ、作戦が同じなら発見された瞬間にバレてるよな」


 発見はアーサー自身の行動のせいだが後悔は無い。人類を助ける為に目の前の誰かを見捨てるのは違う。それも救えるチャンスがあるのに見過ごすのは絶対にダメだ。『ディッパーズ』として以前に、一人の人間として間違っている。そんな犠牲前提で救った世界は、救われた後も犠牲を許容するようになる。そんなものに価値はない。

 どうするか考えるには時間が無い。だからまずは時間を作る事にした。


「エリナ! 同時にランチャーに突っ込むぞ。攻撃も何もするな!!」

「それ本気なの王様!?」

「本気だ、すぐ行くぞ!!」


 一切の躊躇なく本当に駆け出したアーサーに驚きつつも、自身の信じる主に従ってエリナも駆け出した。

 中央のランチャーは二人に注意を向けながら、やはり楽しそうだった。しかしアーサーの方には彼を楽しませてやるつもりなど毛頭ない。限界ギリギリまで近づいてランチャーが迎撃の為に拳を振り上げた所でアーサーは叫ぶ。


「『時間停止(クロノス)()星霜世界(カルンウェナン)』!!」


 その瞬間、アーサー以外の『時間』が全て止まる。こればかりは時間を移動しても『回路(パス)』が繋がっていた事に感謝だ。とはいえ猶予は五秒フラット。無駄に使えるほど余裕はない。ランチャーの横を通り抜けてエリナに触れると彼女の時間も動かす。そして前方に向かっていた彼女の体を抱き留めると顔を近づけた。


「悪いエリナ。緊急事態だ、今からキスするぞ」

「え、キス? うん、王様なら良いよ」


 軽く返事をすると、むしろエリナの方からアーサーに顔を近づけてキスをした。ほんの一瞬の接触だがこれで『回路』が繋がった。


「これで互いに位置が分かる。姿を隠して俺があの重力球に近づいたらすぐに動けるように準備してくれ。俺はみんなを避難させてから向かう。行くぞ、時は動き始める!!」


『時間』が動き始めた瞬間、床にランチャーの拳が突き刺さって背後から衝撃が飛んで来た。


「ん? 突然消えやがったな。そういや前もこんなの使ってたな」

「先に行けエリナ! 俺はもう一勝負だ!!」

「ほう……良い度胸だッ!!」


 もう一度『愚かなるその身に祈りを宿して』を発動させて『加速・(ジェット・)天衝拳(スマッシュ)』をランチャーが振るった拳に向かって打ち出した。

『灰熊天衝拳』すら生身で防ぐランチャーに、しかも絶大な破壊力を持つ拳に対して『加速・天衝拳』では無意味なのは分かっている。だからもう一つの魔術を重ねる。


「―――『意味を求め(42アーマー)て手を伸ばす(・カルンウェナン)』!!」


 そこまでやって何とか拮抗。しかし必死のアーサーとは違い、まだランチャーには余裕があるようだった。

 アーサーはさらに両手のみに魔力を集めると『旋風掌底』(せんぷうしょうてい)を発動させて握り締める。


「『加速連撃(ジェットラッシュ)()廻天衝拳(ドリルスマッシュ)』!!」

「良いぜ、ようやく面白くなって来た!!」

「うォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 両手で何発も何発も硬い肉体を殴り続け、何発目かで両拳を叩きつけるとようやくランチャーの体が後方へ吹っ飛んだ。

 背をつけたランチャーは笑いながら立ち上がると、ようやく背中に掛けている唯一の武器である『金砕棒』を取り出した。

 そして―――


「―――『金砕疾駆(クラッシュ)』!!」





    ◇◇◇◇◇◇◇





 アーサーとエリナが戦うすぐ近く。ラプラスとスゥは言われた通りに避難誘導していた。この人数をスゥの魔術で消す訳にはいかないので、堅牢な魔力障壁を使えるスゥを先頭にエリナが開けた穴から逃げていった。


「さあ、あなたが最後ですよ。早く避難を……ジェームズさん?」

「……あれではダメだ。彼はまだ『その意志はただ堅牢で(マナ・プロテクション)』を使いこなせていない」


 三つの力を掛け合わせてランチャーと戦うアーサーを見て、ジェームズは呆然と呟いていた。


「『その意志はただ堅牢で』……? 全身の好きな場所に魔力を移動でき、かつ硬化する事ができる魔術ですよね」

「それだけじゃないんだ。この時代の彼はもっと上手く攻撃に転化させていた」


 そもそも『愚かなるその身に祈(シャスティフォル)りを宿して(・フォース)』に使っているのだって普通の使い方ではない。防御のための魔術を攻撃のために使っているのだ。しかしジェームズに言わせればそれでも足りないらしい。


「……君に伝えておくべき事がある。もしこの状況を逃れられたら、彼にも伝えてくれ」

「え、ええ……」


 そうしてラプラスが彼からいくつかの話を聞いている最中、壁を破って部屋の中に何かが高速で突っ込んで来た。見るとそれはアーサーだった。


「アーサー!? そんな……っ」


 すぐに駆け寄ると攻撃は『手甲盾剣(トリアイナ・ギア)』の盾で防いだのか、ダメージは重いが意識自体は繋いでいるようだった。しかし言葉を喋る余裕が無いのか、近くに来たラプラスの腕を掴んで目を見て考えを訴える。


「っ……ロケットの位置は南西に三八四回分です。ジェームズさんもこちらへ、早く!!」


 ラプラスが彼に手を伸ばすと、視界の端に『金砕棒』を担いだランチャーが入った。しかしその間にジェームズが立ち塞がる。それはまるで、アーサーとラプラスを守ろうとしているようでもあった。


「……さっきした話、覚えているな?」

「ジェームズさん?」

「行け。お前達にはやるべき事がある」


 彼が壁になった所で、稼げる時間は一秒もないだろう。だからこれは自殺行為だ。何の意味もない、ただ自分が納得して死ぬためだけの行為に過ぎない。


「がっ……ァァァあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 しかしその場にいた少年は、そんなものを見せられて自分の命を惜しんで見過ごせるような男ではなかった。

 彼が吼えた直後、ランチャーとジェームズの間を区切るように床から『黒い炎のような何か』が噴き出て壁を作った。その隙にアーサーは自分達とジェームズの距離を『消滅』させ、その体を掴むとラプラスと共に三人で転移した。

 ラプラスが言っていた通りに転移し、ロケットを止めた場所まで戻って来た。周りにいた褐色の肌を持つ異星人が騒々しく騒ぎ出すが構わない。アーサーは壁に向かって右手を伸ばす。


「北東に約三八四ヤード、死角から食らえ! 『突き立て喰(ロンゴミニアド)らう黒渦の牙(・オルタナティブ)』ッ!!」


 ドリルのように渦巻く『黒い炎のような何か』がアーサーの右手から放たれる。それは障害となる壁を『消滅』させて真っ直ぐ突き進んでいく。

『魔神石』の力など例外はあるが、あらゆるものを硬度も魔力量も関係無く『消滅』させる絶対の力。しかし目的の場所まで進んだ辺りで漆黒の槍が消え失せた。

 三八四ヤード先。ランチャーは『金砕棒』を振るって『黒い炎のような何か』を散らしたのだ。おそらく過去の世界で戦った自分なら衝撃波すらも『消滅』させられたのだろう。しかしアーサーの力はあまりにも不安定過ぎる。それは波のようで、ランチャーはその波が一番底に来る弱いタイミングを狙って打ち消したのだろう。そんな規格外の所業が出来る力量があるのだ。


「ラプラス、あそこにある中型のジェット機を奪えるか!? あの大きさならみんな乗れる!! 奥の手も通じない以上、エリナが言ってたように今の力じゃ勝てない!!」

「わ、分かりました。少しだけ時間を下さい!」

「急いでくれ……頼んだぞ!!」


 彼方にいるランチャーが地面を蹴ってこちらに突っ込んでくる。

 三八四ヤード、およそ三五〇メートルの距離を一瞬の内に詰めてくる。『消滅』の力を止めたアーサーは右手を引き絞り、『ただその祈りを届けるた(エクスカリバー)めに』を放つ。しかし予想はしていたとはいえ、ランチャーは構わずその中を歩いて進んでくる。


「二○年ぶりにお前を見た時は楽しめると思ったが、まさか『()()』も『()()』も使えないとはな。肩透かしを食らった気分だ」

(『仙術(せんじゅつ)』? 『珂流(かりゅう)』? 一体何の話を……!?)


 未来の自分が使っていた力だとは思う。聞き覚えもない単語だが、ほんの少しだけ思う。

 その力があれば、もしかしたら目の前のこいつを倒す事が出来るのではないか、と。


『マスター!!』


 発着場全体に響くスピーカーを通した声が聞こえて来た。アーサーはすぐに集束魔力砲の照射を止め、ジェット機に向かって走り出すと開いたままのドアに向かって跳び乗る。

 後ろを振り返るとランチャーが『金砕棒』を振り上げて飛び掛かって来た。アーサーは『妄・穢れる事プロテクションロータスなき蓮の盾(・カルンウェナン)』を展開して一瞬だけ攻撃を防ぎ、その間にジェット機はエンジンを吹かしてその場を離脱する。

 ラプラスが安全を確認して速度を落とし、アーサーもジェット機の中に入った。


「ラプラス。まずはスゥと合流してみんなを避難させてから重力球を破壊する。それからランチャーを倒せるかもしれないヒントを得た。『仙術』か『珂流』っていう、未来の俺が使ってた力を知りたい」

「『珂流』? それってジェームズさんが言っていたものですよね? こうして生き残ったんですから、自分の口でアーサーに伝えて下さい」


 ラプラスが操縦しながら答えると、ジェームズはそれに頷いた。アーサーが視線を隣に座る彼に移すと話し出す。


「鍵は『その意志はただ堅牢で(マナ・プロテクション)』だ。手足に集めて硬化するだけでなく、攻撃する瞬間に魔力を一点に流すんだ。走り出して徐々に最高速度へ持っていくように、拳を構えて殴るまでの間に使っていない無駄な魔力を攻撃する箇所の一点に流す感覚らしい」

「魔力を流しながら攻撃する……」

「そうだ。魔力を一ヵ所に集めてから攻撃するよりも、徐々に移動させて接触時に最大限の力にした方が威力が高い。タイミングはシビアだが、その攻撃は重く、鋭く、内部に伝わっていくらしい。それからランチャーへの攻撃は掌打が望ましい」

「掌打? またどうして……」

「ヤツの表皮はまるで鋼だが、生物の構造上、内部は柔らかいはずだ。拳で殴るより掌打の方がダメージが通るはずだ」


 拳打は外傷を、掌打は内部への攻撃を目的にしている。どちらが有効かは状況にもよるだろうが、ジェームズの見立てではランチャーには後者が良いらしい。実際、拳を交えたアーサーも同じ意見だった。


「とにかく、ヤツを倒すには『珂流』の習得が必須って訳だな。ただ練習する暇は無いし、とにかく当初の目的を果たして帰ろう。それから備えた方が勝つ確率は上がるんじゃないか?」

「……そうですね。とにかく今はスゥさんを迎えに行きましょう。マスター、位置を教えて下さい」


 ラプラスから否定の言葉は無かった。

 今は対抗手段が見つかった事を、少なからず喜ぶべきだろう。とにかくランチャーを躱して目的を果たすしか道は無い。

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