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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一七章 戦いでしか終われない Dissension_War.
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行間三:思惑の裏側 Page_03

「それで結局、捕らえられたのは四人か。しかも肝心のアーサー・レンフィールドとネミリア=Nを取り逃がすとは、やはりお前達に任せるべきではなかったな」


 飛行場での戦いが終わり、数時間が経っていた。

W.A.N.D.(ワンド)』本部へと戻って来たアレックス達は、早速『リブラ王国』国王のアウグストから煩い小言を受けていた。


「……だったら後は好きにしろ。『W.A.N.D.』でもお前の国の軍隊でも使ってアーサーを捕まえろよ。出来るもんならな」


 吐き捨てるように言って、アレックスは用意して貰っている自室へ行ってベッドに身を投げた。

 結局、逃げたアーサーの居所は掴めていない。厳密に言えばミオが『レオ帝国』で監禁されている事は『W.A.N.D.』経由で伝わって来ているので、おそらくアーサーも『レオ帝国』に向かったのだろうと予想はできる。しかし予想はできるだけで『ディッパーズ』には出動許可が下りていない。もしこの状況で動けば、アレックスもたちまち指名手配だ。

 そんな歯痒い気持ちでは横になっても寝れないので、同室のデスクに座ってパソコンを操作する。そして『スコーピオン帝国』のアンナの病室に設置してあるカメラの映像を確認する。相変わらず望んでいるような変化は無い。静かに眠ったままだ。

 その様子をぼーっと眺めていると、画面の端にチャットの通知が表示された。覚えの無い発信元を怪訝に思いながら、アレックスはそれをクリックしてチャットに応じた。するとすぐにスピーカーから声が発せられる。


『アレックス・ウィンターソンね。少し話があるわ』


 ボイスチェンジャーを通しているのか、その声は明らかに肉声ではなかった。男性のものか女性のものかも分からない。つまり怪しさ満点だ。


「……テメェは誰だ? まずは名乗るのが礼儀じゃねえか?」

『どうでも良い事よ』

「ならどうやってこの回線に繋いだ?」

『だからどうでも良い事よ。あなたにはそれより重要な事があるはずじゃない?』

「重要な事? テメェは一体何の事を……」


 話の流れが読めないアレックスに、画面の向こう側の誰かは告げる。


『アンナ・シルヴェスター。彼女が倒れたその真相よ』

「……っ!?」


 それは確かに無視できるものではなかった。

 しかしアレックスは気づいていないだろう。この時点ですでに彼女の術中に嵌まっているという事を。


『教えてあげるわ。あの日、あの時、「タウロス王国」の地下で何があったのか。映像を見るのが一番早いわね。フェイクかどうかの判断はできるでしょう?』

「……ヒルデ」

『お任せください、アレックス様』


 解析はヒルデに任せ、アレックスは送られてきたメールから動画を開く。どうやって手に入れたのかは知らないが、それは確かに既視感のある『タウロス王国』の地下の監視カメラの映像だった。動画にはアーサーとアリシア、それにアンナとネミリアの姿が映っている。

 ……そこで何があったのか、今更詳しく語るまでもないだろう。

 ネミリアがアリシアを撃とうとし、それを防ぐためにアンナが犠牲になった。そしてその場にいた者達で彼女を逃がした。映像には全てが記録されている。

 その動画を数十秒ほどで見終わって、アレックスは静かに席を立った。そして外へ向かって足を進める。

 途中、前からシルフィーが歩いて来た。そして彼女はアレックスの様子を見てぎょっとする。


「あ、アレックスさん……? そんな怖い顔をして、一体どちらへ……」

「……なあ、シルフィー。俺は誤解してたんだ」


 歪んだ笑みを浮かべてアレックスは答えた。

 シルフィーが声をかけているというのにアレックスは足を止めない。そしてシルフィーには彼の歩みを止める勇気が出なかった。


「アーサーの野郎を止めて、ネミリア=Nを捕まえて、ミオを殺す。それで全部丸く収まると思ってた。……それで何とか恩赦を貰って、またアーサー達と『ディッパーズ』の活動を一緒にやっていけるって」

「え、ええ。ですから私達は……」

「だが、それが間違いだった」

「っ……」


 必死に返答するシルフィーへ、アレックスは有無も言わせない強い語気で答えた。

 ようやくアレックスは足を止めてシルフィーの方へ振り返った。しかしシルフィーはアレックスの顔を見て思わず後退ってしまった。

 シルフィー自身、それは初めての感覚だった。アレックスを見て怖いと感じてしまったのは、それほど今の彼が鬼気迫るプレッシャーを放っているからだ。


「ヤツらは世界の敵だ」


 そう言い残して、アレックスは時計のディスプレイをタップして『ヴァルトラウテ』を身に纏うと、すぐに飛び立って行った。

 それを止められず見送ったシルフィーは気が気ではなかった。彼の表情の内側にあるのが殺意だと、それを知るには十分過ぎるほどの経験を積んで来たからだ。

 シルフィーは胸の前できゅっと手を握る。

 もしかしたら彼は二度と帰って来ないかもしれないと、そんな不吉な予感が胸中で疼いた。

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