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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一章 どこにでもいるごく普通の少年
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01 ある少年達の平和な日常

今回からこっちの主人公サイドが基本になります。

 人間領、通称『ゾディアック』。

 巨大な円形の壁の内部にある『ポラリス王国』を中心に、外側をこれまた巨大な円形に、魔獣や魔族が極力入って来られないように魔術的な結界が張られており、その『ポラリス王国』から結界までが領土の二重丸のような形をしている。そして『ポラリス王国』の中心から外側の結界まで三○度ずつに分けられた、それぞれ均等な面積の領土を持つ十二の国が『ゾディアック』の全てだ。

 その十二の国の一つ、『ジェミニ公国』の首都からかなり離れた所にある村の近くの森の中を、アーサー・レンフィールドという少年は歩いていた。アーサーは見た目一六歳くらいの中肉中背で、良い意味でも悪い意味でも特徴のない少年だった。

 そんな少年が森で何をしているのかというと、手ごろな木の枝を見つけては拾って脇に抱えるという、いわゆる薪拾いだった。


「なあアーサー。こんな事に意味なんかあんのかよ」


 そんな単純な作業に音をあげたのは、アーサーの隣を歩くアレックス・ウィンターソンという少年だった。身体的特徴はアーサーと似たようなものだが、アレックスの方が少し筋肉が付いており、背中には剣が掛けられている。


「そもそも何でジェミニ公国はこんな時代錯誤なんだよ。少しは『ポラリス王国』や『サジタリウス帝国』を見習えってんだ」


『ポラリス王国』は科学、『サジタリウス帝国』は魔術がそれぞれ最先端の国だ。それに比べてジェミニ公国は公王の意向で魔術が少し生活に関わってくる程度で、しかも外れの村となるとほとんど文明の利器なんてものはないのだ。


「黙って拾えよアレックス。お前がサボると終わるものも終わらないだろ」


 愚痴を漏らし続けるアレックスに発破を掛けるが、当の本人は心底嫌そうな顔で、


「だって薪拾いだぜ? 農作業とか水汲みとか衛兵とかじゃなくて、四歳児でも出来る薪拾いだぜ? しかも家の裏に大量に薪が積まれてるじゃん。あれを見た後だとやる気なんて無くすに決まってんだろ」

「仕方ないだろ。みんなそれぞれの仕事をしてるんだ。子供だからって遊んでばかりいられないだろ。それに元々はよそ者の俺達に仕事を与えてもらってるだけ感謝した方が良いと思うけど」

「だから別の仕事があるだろって言ってんだ。例えば農作業とかさあ」

「前にやった時は二人して鍬を見当違いの所に落として滅茶苦茶にしたっけ。あの時は翌日飯抜きだったっけな」

「結構前の話だろうが! いつまで根に持ってんだよあのおっさん!」

「まあ、村のみんなからしたら死活問題だしねえ……」


 アーサーは少し遠い目をする。


「じゃあ水汲みはどうだ!」

「ああ、あれね。朝に汲みに行って夕方まで川で遊んだ時だろ? あの時はマジで怒られたよなあ」

「……覚えてんよちくしょう。あの後、終わるまで眠れない休めない水汲み一○○往復したやつだろ。罰にしたって正気の沙汰じゃねえよ。歩いたまま意識を失うとか初めて経験したぞ」

「しかも倒れる度に水をぶっかれられて無理矢理起こされるんだよねえ。もはや罰じゃなくて拷問だったよ……」


 アーサーは再び遠い目をする。


「くそっ! じゃあ衛兵はどうだ! 剣の腕ならじーさん以外にゃ負けねえぞ!」


 自信満々なアレックスを見て、アーサーは思わず溜め息をこぼした。


「あのなあ、俺達みたいな問題児がそんな重要な役職に就かせてもらえる訳ないだろ。そもそもここは魔族領から離れた『ジェミニ公国』のさらに外れにある村だぞ。たまに紛れ込んで来る魔獣と戦うだけの役目も少ない衛兵にそんな人員は割けないだろ」

「じゃあなんで薪拾いなんだよ! この仕事に意味が見いだせねえ!」


 批判ばかりされてとうとうアレックスが切れた。アーサーはそれを眺めながら適当な調子で、


「それは分からないけど、厄介者は村の外で無駄な仕事でもしてろって事じゃないの?」

「かぁー! それを言うか!? ただでさえ無いやる気を削ぐのがお前の仕事かよ!!」


 アレックスは手に持っていた薪を適当に投げ捨てた。


「止めだ止め! どうせ厄介払いの仕事ならサボったって誰も困らねえだろ!!」

「まあそうだよねえ」


 アーサーは肩をすくめて、脇に抱えていた薪をアレックスのように適当に投げ捨てる。そもそもやる気の無い問題児二人がこの話題に入った時点で、こうなる事は決まっていたようなものな訳だが。


「じゃあ夕方までどうする? このまま村に戻っても暇だし、一応ナイフと極細ワイヤーくらいは持ってきてるから、簡単な釣り竿くらいならすぐに作れるけど」


 早速遊ぶ事を考えるアーサーの提案に、アレックスは首を横に振る。


「魚より肉の方が良いだろ。なんか動物でも捕まえに行こうぜ。薪は腐るほど拾ったんだ。幸い剣と『火の魔石』は持って来てるしな」

「用意がいいねー。さては最初からサボる気だったな?」

「ったり前だろ。んで、お前は乗るか?」


 悪い笑みを浮かべるアレックスに対して、これまた悪い笑みを浮かべてアーサーは答えた。


「聞くまでもないだろ。村のみんなには内緒で豪華なディナーと行こう」





    ◇◇◇◇◇◇◇





 そんな訳で、薪拾いを放棄した二人は先ほどとは違う理由で森の中を歩き回っていた。

 アレックスは背中に掛けていた剣を手に持って、ほぼ勘だけで獲物を探している。アーサーはそんなアレックスの後ろで、迷わないようにナイフで木に目印を付けながら適当な調子で話しかける。


「それで何を狙ってるんだ?」

「ここら辺で美味い肉っつったら、クラウンホーンかハネウサギだろ。他は眼中にねえ」


 クラウンホーンは枝角ではなく、王冠のような角の生え方をした鹿の事だ。下半身が異常に発達しており、もの凄いスピードで対象に突っ込み、王冠のようにそろって生えている角を体中に突き刺してくるのが主な攻撃で、普通に対峙したら一○○パーセント死ぬ恐ろしい動物だ。

 対してハネウサギは出会っても死ぬ事はないが、仕留めるのはクラウンホーンよりも難しい動物だ。クラウンホーンと同じで異常に発達した下半身を持っているが、使い方はそれとは全く違い、攻撃ではなく逃げるために使う。さらに鳥の羽のような耳で冗談抜きに空を飛ぶ。ようするにハネウサギは強靭な足で超加速し、耳(羽?)を使って飛んで逃げる。まるでカタパルトを使った戦闘機だ。つまりハネウサギを仕留めるには気付かれないように近づくか、ハネウサギよりも早いスピードで追いかけるしかないのだ。


「また難易度の高いのを選んだな。もっと簡単なやつで良いんじゃないか?」

「バッカお前。どうせ食うんなら美味い方が良いだろうが」

「だからそもそも食う段階に行けるかどうか怪しいんだが……まあいいや。仕留めるのはお前だし、俺は黙って付いていきますよ」


 そこから先は会話がなかった。獲物に気づかれないように、息を殺して森の中を進み続ける。

 三○分程そんな調子で歩き、ようやくアレックスは足を止めた。


「(見つけたのか?)」


 アーサーは小声でアレックスに言葉を掛ける。


「(ああ。前方一五メートル先、ハネウサギだ)」


 アレックスが指さす方へ視線を向けると、真っ白で小柄な体躯を持つハネウサギが雑草を食べていた。アーサーとアレックスは茂みに身を潜める。


「(どうする?)」

「(まだ気づかれてねえし、このままギリギリまで近づいて俺が仕留める)」

「(了解。俺はここで待機しておくよ。食材調達は任せた)」


 言って、アーサーはアレックスに親指を立てる。


「(任せとけ)」


 アレックスもアーサーと同じように親指を立てて応えると、背中から剣を引き抜いてハネウサギの方へ回り込むように近づいていく。気配を完全に殺し、少しずつ獲物との距離を詰めていく。

 アーサーはそんなアレックスとハネウサギを交互に見ながら観察している。

 さざ波の音しか聞こえない緊迫した状況がしばらく続く中、突然ハネウサギが弾けたように顔を上げた。


(……っ、気付かれたか!?)


 逃げられる、とアーサーは思ったが、それに反してハネウサギは辺りをキョロキョロと見渡すばかりで逃げる動作はしない。どうやら気配は感じているが、まだ確信がないようで警戒に留めているようだ。


『おい! 警戒されてるぞ! まだダメなのか!?』


 アーサーは目線と小さい腕の動きだけでアレックスに言葉を送る。長年一緒に行動してきた二人は、簡単な会話くらいそれだけでできるのだ。

 アレックスは既にハネウサギとの距離を一○メートルの所まで縮めていたが、


『ダメだ! せめてあと二メートルは近づかねえと確実に()れねえ!』


 アーサーはアレックスの答えに歯噛みする。アレックスの位置からあと少しでも動けば、感知能力の高いハネウサギに確実に見つかってしまう。


『……仕方ない。こっちで注意を引くからその間に仕留めろ』

『……了解』


 簡単な会話が終わると、アーサーは茂みの中に腕を突っ込む。


「頼むから逃げないでくれよ」


 祈りながら腕に力を込め、茂みを揺らした。突然動いた茂みに、ハネウサギの警戒がその一点に絞られた。そしてその瞬間、アレックスは駆け出した。ハネウサギが逃げる前に仕留めるために残りの二メートルを縮める。

 だがハネウサギの方も立ち直りが早かった。飛び出したアレックスに気づくと即座に逃げる動作を始めた。アーサーの位置からでも分かるくらいに、ハネウサギの後ろ脚の筋肉が力を込められて膨らんできている。


「やれ、アレックス!」


 アーサーが叫んだのと、アレックスが魔術を使ったのはほぼ同時だった。

 瞬間、アレックスの体を黄色い雷が包み込む。

 この世界には多種多様な魔術があり、それに対応した魔力適正をそれぞれ平均して一つから三つ程備えている。人間は原則として、この魔力適正にあった魔術しか使えないのだ。

 そしてアレックスの持つ魔力適正の一つが『雷』。汎用性に優れた適正だ。

 今アレックスが使ったのは全身に雷の魔力を流し、強制的に身体能力を引き上げる魔術、『纏雷(てんらい)』だ。これにより爆発的な瞬発力を得たアレックスは、ハネウサギとの残り八メートルの距離を駆ける。

 だが少し遅い。ハネウサギの脚は今すぐにでも解き放たれようとしている。

 間に合わない、と。

 そう悟ったアレックスは、全身に流していた雷を両足と剣のみに集中させる。


「逃がすかよ!」


 刹那、アレックスの体がブレた。全身に雷を纏っていた時よりも速く駆け抜ける。

 剣を構え、すれ違い様に一気に振りぬく。


噛業(かみなり)!」


 その決着には音すらなかった。

 アーサーがアレックスとハネウサギが交差したと認識した時には、全て終わっていた。

 あとにはいつの間にかハネウサギの後ろに移動したアレックスと、小さな体から鮮血を撒き散らし、微動だにしないハネウサギだけが残っていた。

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