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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一七章 戦いでしか終われない Dissension_War.
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349 その日、世界はまた終焉に針を進めるとも知らず

 アーサー側の七人が飛行場に潜入した時、すでに人気は無かった。ユキノが示してくれたジェットの場所まではまだ移動しなければならない。しかし移動を始めれば飛行場は遮蔽物が少ないのですぐに見つかってしまう。そこでターミナルを支える柱の陰で最後の確認をしていた。


「……マスター」

「分かってる。すでに待ち伏せされてるだろうな」


 敵は『ディッパーズ』か『W.A.N.D.(ワンド)』か、どちらにせよ戦闘は避けられないだろう。そして彼らがこの場所を察知したという事はユキノ達『ナイトメア』から情報を得たと見るのが妥当だ。彼女達の安否が気にかかるが、どう動くにしろまずはこの飛行場から安全に脱しなければならない。


「ここまで来て言うのもあれだけど、いっそ私の『バルバトス』で全員を運ぶっていうのはどう?」

「無理でしょうね。話を聞いた限り七人全員が乗れるほどコックピットは広くないようですし、何人かは手の中にいる状態で飛ぶんですよね? 高速移動ができずに『ポラリス王国』上空を飛べば補足され、最悪リーヴァさん一人に制圧されてしまいます。どちらにせよ『ディッパーズ』と戦い、リーヴァさんを無力化しなければ『レオ帝国』に移動はできません」

「……分かってる」


 応じたのは結祈(ゆき)だった。七人の中でも特に表情が硬い。その理由はここに来る前に立てた作戦にある。


「リーヴァはワタシが何とかする」

「……一番大変な役を与えてしまってすみません。ですがマスターをリーヴァさんに当てれば、リーヴァさんを止められても飛行場を突破する可能性が極端に低くなるんです」

「分かってるよ、ラプラス。心配しないで。秘策もあるし、ワタシならリーヴァに勝てるから」


『ディッパーズ』が真正面から戦った場合、勝つのは誰になるのか? 何人か候補はいるが、そこにはリーヴァと結祈の名も挙げられるだろう。それにラプラスの見立てでも勝率は五分だ。現状を鑑みれば挑戦する価値はある。


「では、久遠(くおん)さんと(つむぎ)さんも手筈通りに。そしてマスターは……」

「分かってる、俺はアレックスを止める。セラはおそらく出て来ないだろうから、空を飛べるのは後あいつだけ。そういう話だったよな?」

「はい。ここに関しては勝率云々よりマスターが適任です。どうなるにせよ、話し合っておくべきかと」

「ああ、わかってる」


 その役目は他の誰にも務まらない。おそらく向こうも説得にはアレックスがやって来るだろう。それがお互いに相手を引き込む最後のチャンスだ。


「それじゃ計画通りに。あとは臨機応変に行こう」


 アーサーの言葉に六人は頷き、それぞれ隠れながら行動を始める。

 残されたアーサーは浅く息を吐いて『手甲盾剣(トリアイナ・ギア)』を起動し、手甲からすぐに盾を展開して柱の陰から滑走路の方へと歩いて行く。

 アクションはすぐにあった。空から影が二つ落ちて来る。

 一人は自作の特殊なスーツを纏ったアレックス・ウィンターソン。もう一人は白と黒のボディースーツに身を包んだシグルドリーヴァだった。これで目の前に対処するべき二人が揃った事になる。


「よう、アーサー。随分と楽しそうだな。誘ってくれねえなんてつれねえぞ?」

「……言えてるな。それで何の用だ? これから旅行に行く所なんだけど」

「世界を終わらせに行く、の間違いだろ。とにかく俺達がお前らを捕まえるのに許された時間は四八時間、残りは九時間って所だ。手遅れになる前にネミリア=Nの身柄をこっちに寄越せ」

「すっかり政府の犬だな、アレックス」

「……アーサー、テメェが音無ミオを救いたい気持ちは分かる。透夜の妹って事に自分の妹の事情を重ねてんだろ? だがお前が守ろうとしてるヤツが昨日何人殺したと思ってる!?」

「俺達を捕まえる前に聞け。ネム……ネミリア=Nやミオを利用して事件を起こした黒幕がいる。そいつを止めない限り世界中で同じ悲劇が繰り返される。元凶を止めない限り世界は救えないぞ」

「アーサー」


 横合いから声が飛び込んで来た。

 いつの間にそこにいたのか―――なんて考えるのはナンセンスだ。おそらく時を止めて来たのだろう。そこにはクロノと彼女と一緒に来た透夜(とうや)の姿があった。


「クロノ……それに音無(おとなし)透夜だったか。まさか『ディッパーズ』に入れたのか?」

「すでに犯罪者となったお前には関係の無い話だ。それにしてもお前が馬鹿で無謀で無茶が好きなのは知っていたが、流石に今回のは常軌を逸してないか? まさか誰かに操られているんじゃないだろうな。例えば翔環(とわ)ナユタなんかに」

「それを疑ってお前はそっち側に付いたのか? だとしたら見当違いだ」

「だとしてもお前は科学的な洗脳には無防備だからな。それにラプラスが何を観たのかは知らんが、私にはその選択の先に良い未来があるとは思えん。悪いが今回はお前に協力できん」

「そうか……」


 残念だが彼女にも彼女の考えがあるのなら仕方がない。あるいはこれも前のように未来に必要な手順の一つなのだろうか。その辺りはいくら考えても無駄なので、今は思考から排除する。


「話は済んだか? 悪いが俺はもう我慢の限界だ。出番だぞ、坊主!」


 アレックスが叫んだ瞬間、アーサーは全身に悪寒が走るのを感じた。前にもどこかで感じた事のあるような感覚だ。


(っ!? この感覚は……クロノの時間停止の時に似ている?)


 だとすれば対処は簡単だった。右手に意識を集中させ、不可侵の次元の狭間へ飛び込むと驚愕に体が硬直しているピーターの顔面に(スーツのヘルメットで覆われているが)拳を叩き込む。

 スーツが間にあるせいで魔力の掌握は出来なかったが、ピーターの魔術はそこで切れた。彼が地面をゴロゴロと転がっていったかと思うと、再び『次元跳躍』を使ってアレックスの隣に移動していた。


「ちょ、アレックスさん!? あの人、次元の狭間で動いて来たんだけど!?」

「それも右手の力か……お前がいれば簡単だと思ってたが、相性最悪だな。ピーター、お前は別のヤツを担当だ。アーサーには近づくな」

「りょ、了解」


 その様子を見て、アーサーは思わず笑いそうになってしまった。

 見た事のないヤツと親しげにしているという点は除いて、あの面倒くさがりのアレックスが誰かの指導をしているという事実が不自然極まりないのだ。


「新しい仲間か。『ディッパーズ』らしくやってるな」

「そういうテメェは何やってんだ? 世界を危険に晒す女を追い続けて、指名手配犯を庇い続けて、挙句の果てに『協定』に違反してお尋ね者になって、テメェは一体何がしてえんだ!? どうしてテメェは自分で作った『ディッパーズ』を危険に晒してんだ!!」

「『ディッパーズ』が常に危険な仕事なのは分かってた事だろ。それに俺が今やってる事は、今までやってきた事と何一つ変わらない。変わったのはお前だ、アレックス」

「いつまでガキの幻想見てんだよ! ネミリア=Nとミオはこの世界の敵だ。最初にどういった思惑があれ、そいつらのせいで何の罪もない人が死んだり、濡れ衣を被らされて檻の中に閉じ込められる。分かるか、たった一人と全人類だぞ? そんなの比べるまでもねえだろ!!」

「その濡れ衣を着せられてるのが二人なんだぞ? ここで妥協したら、次からも必ず妥協する。お前らは今後、罪のない人達を政府の一部の人間の利益の為に殺し続ける。そんな世界で良いのか!?」

「ならテメェが抑止力になれるとでも思ってんのか? 世界中を敵に回して!? そもそもミオは自分自身で死を望んでるって話だっただろうが。テメェ一人の我が儘に世界を巻き込むつもりか!?」

「人が言った事を額面通りに受け取るなんて、そこら辺にいるガキにだってできるよ。俺達が見るべきはその先だろ? 俺達は『たすけて』って一言すら言えない理不尽をどうにかするために旅を始めたんじゃなかったのか?」

「ああ、だから潰すんだろうが。これから多くの人を理不尽に突き落とす元凶を」


 二人の会話はどこまでも平行線だった。しかも話に集中しているようで実は違う。アーサーはいつでも動けるように準備をしているし、それはアレックスも同じだった。

 言葉を交わしていても、二人には分かっている。

 この対立は、もはや戦いでしか終われない所まで来てしまったと。


「……クソッ、テメェと話してても埒が明かねえ。さっさネミリア=Nを引き渡せ!! テメェだって状況分かってんだろ!? 九時間後には『W.A.N.D.』を筆頭に組まれた精鋭チームがお前達を殺しに来る。このままじゃテメェら全員殺されるんだぞ!!」


 アレックスの言い分が正しいのは分かっている。自分が間違っているなんて重々承知だ。

 けれど、だけど、どうしても見過ごせない。救いの手すら拒み、世界中からお前が死ねと指をさされ、それを甘んじて受け入れようとしている少女を、どうあっても見捨てられない。

 本当の本当に心の底から申し訳ないと思いつつも、アーサーは両手を硬く握り締める。


『マスター。準備が整いました』

「……ああ、始めよう」


 その瞬間、アーサーは短剣を取り出して逆手に握り、『瞬時神速(ジェット・ドライブ)』でアレックスに向かって突っ込んだ。アレックスはその攻撃を腕を交差させて受け止め、至近距離で二人は睨み合う。


「……悪いな、アレックス」

「っ……か野郎。テメェの選択がいつも正しいと思ってんじゃねえぞ!!」

「思ってない! いつだって間違ってばかりだった。この選択だって間違いなのかもしれない!! だけどッ!!」


 アーサーの四肢が光を放つ。

愚かなるその身に祈(シャスティフォル)りを宿して(・フォース)』を発動させた彼は短剣を押し込みながら続けて叫ぶ。


「それでも俺は、二人を助けたい!!」


 交渉決裂。

 その瞬間アレックスも『雷神纏壮(ニョルニル)』を発動させて青い稲妻を身に纏う。それを見て回りにいた全員が同時に動き始める。



 アーサーとアレックス。

 七人と七人。

『ディッパーズ』と『ディッパーズ』。

 同じヒーロー達の戦いは、こうして始まった。





ありがとうございます。

いよいよ『ディッパーズ』同士の戦いです。今までダイアナや『フェアリーズ』、そしてヨグ=ソトースなどに勝利してきた『ディッパーズ』をそれぞれが相手にする訳です。

さて、その結果はどうなるのでしょうか。

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