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村人Aでも勇者を超えられる。  作者: 日向日影
第一七章 戦いでしか終われない Dissension_War.
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335 思惑の内側へ

フェーズ4【終末の序曲】スタート!(一応、第二六章までの予定。あくまで予定なので変動する可能性は十分にあります)

 さて、今回はヒーローの条件についての話をしましょうか。


 ローグ・アインザームの場合は絶望に抗い続ける事、希望を絶やさない事、前へ進み続ける事。それを体現した者達が人々にヒーローと呼ばれると伝えていました。


 そもそも、ヒーローとは何でしょうか?


 多くの人を助ければ良いのか、世界を脅威から守れば良いのか、実は明確な答えがある訳ではありません。助けられる側にとってはヒーローでも、相手からすればただの邪魔者でしかないのが当たり前です。『ディッパーズ』だってヒーローの集団という見方もあれば、単なる自警団という見方があるように。


 つまり明確な基準が無い以上、それぞれが自分の基準に沿って決めるしかないのが現状です。自分が正しいと思い込む危険性を知っている彼らも、結局は自分の基準に沿うしかないのは皮肉が効いていますね。


 今ではヒーローと呼ばれる彼らは、これまで誰かのために、誰かにとっての悪と戦い続け、同時に仲間達との絆を深めて来ました。


 では、もしヒーロー達の信念がぶつかり合ったらどうなるのでしょう?

 自分の中の正義に従ってお互いに戦う事になったら、それは悪と何が違うのでしょうね。





    ◇◇◇◇◇◇◇





 狭くて暗い部屋の中央、さらに小さいスペースになるように鳥籠のような鉄柵が三六〇度囲っている檻があった。中には生きた人間一人とすでに白骨化していて動かない生きた人間だったものだけがある。つまり用途は勿論、人を閉じ込めておく事だ。骨がそのままな事から察するに、閉じ込めた方は閉じ込められている者の生死に興味が無い事がうかがえる。


「……言いたい事は分かってるよ。どうしてこんな所に閉じ込められてるのか、だろ?」


 檻の中にいる生きた人間の方、その少年アーサー・レンフィールドは体を鎖でぐるぐる巻きにされ、手首は後ろで縛られた状態だったが、特に気にした様子もなく淡々と口を動かしていた。


「まあ、色々あったんだけど……俺はこれでも『ディッパーズ』って組織のリーダーで、ヒーローとも呼ばれてる。で、今回はヘルトとの約束通り、動けないあいつの代わりに『MIO』(エム・アイ・オー)と呼ばれるある装置を探しに、元々『一二宮会議』のために『ポラリス王国』に来訪する予定だったセラに付いて来て調査を開始。だけど見つからなくて……それでも集めた情報を頼りに行動を続けて、辿り着いた場所がここだった……ってのが今の状況かな」


 端から見たら独り言にしか見えない状況なのだが、彼は一応同居人の白骨死体に話しかけているつもりだったようで視線を向ける。しかし当然ながら何の反応もない。というかいくら物寂しいとはいえ、白骨死体に話しかけている今の自分の状況に閉じ込められている以上の悲しさを感じざるを得ない。


「っていうか暗すぎて時間感覚が狂って来たんだけど。ここに入れられてどれくらい経った? いつまで閉じ込めておく気なんだよ、おーい!」


 壁に反響するだけの声はすでに何度か上げていて、これまで一度も向こう側からのアクションは無い。

 しかし今回は違った。ガタン、と音がしたかと思うと床が開いて下に落ちていく。止まった瞬間に鳥籠のような檻の床に叩きつけられた。ちなみに白骨死体はその衝撃でどこかへ飛んで行ってしまった。


「も、もっと静かに下ろせなかったのか……? 友達のボーン君がバラバラになっちゃったんだけど……」

「減らず口が叩けるのも今だけよ」


 声が聞こえたので顔を上げると、周囲には数人の人がいた。あからさまに恐怖心を煽りに来ているゴツイスーツ姿の男が数人と、どうしても顔を見られたくないのかフルフェイスのヘルメットを被ったスーツ姿の女がいた。


「アーサー・レンフィールド。まさかこんな簡単に捕まえられる少年に多くの人達が良いようにやられて来たなんてね。替え玉じゃないでしょうね?」

「大きなお世話だ。正真正銘、アーサー・レンフィールド本人だよ」


 捕まっている状況では説得力は無いかもしれないが、本人なのは間違いないので仕方がない。というか間違いだったらそれはそれで問題なのだが、彼らは一般人をこんな目に遭わせる事に良心の呵責を覚えないのかもしれない。


「ところでアンタらにずっと聞きたい事があったんだ。アンタらが追ってるっていう『MIO』ってのは何なんだ?」

「自分が質問できる立場にいると思っているの?」


 しかし拘束している側の余裕なのか、彼女は続けてこう言う。


「まあ良いわ。折角だし冥途の土産に教えてあげる」

「冥途の土産って……ぷっ、くく……」


 突然笑い始めた事で周囲からの怪訝な視線を感じた彼は、少し時間をかけて笑いを止めてからヘルメット女を見ながら若干の笑いの名残が残った顔で、


「ああ、ごめん。冥途の土産って初めて聞いたからさ。今時使うやつがいるんだなって」

「よし殺す」

「いや早まるなって! 冥途の……くくっ、土産……ぷっ、ってのに教えてくれるんだろ?」

「言いながら笑ってるじゃない! あんた舐めてるでしょ!?」


 アーサーを威圧するために集められたであろう男達が上司っぽいヘルメット女を取り押さえるという謎の時間がしばしの間続き、彼女が落ち着いてきた所で話は元に戻る。


「……人々は未来を知る事はできない。知れたとしてもそれが望む未来でない可能性の方が高い。でもそれを自分の望むままに決定できるとしたら?」


 何だかんだ説明してくれる辺り、本当は良い人なんじゃないかと疑り始めて来たアーサーだったが、待ちに待った『MIO』についての情報が物騒すぎたため、おふざけムードは引っ込めて真面目な面持ちになる。


「まさか……それが『MIO』なのか?」

「ええ。すでに『(キー)』は手に入れた。あとは大元の装置を使うだけで、未来は全て私達のものになる。そうなれば『ディッパーズ』や『W.A.N.D.(ワンド)』でも止められない」


 確かにヘルメット女の言う通り、もし彼らが未来を好きなように弄れるようになったら誰の手にも負えなくなるだろう。しかし逆に言えば、彼らが『MIO』を手に入れていない今なら止められるという意味でもあった。

 話を終えたヘルメット女が軽く手を挙げると、周囲にいた男たちが一斉に鎖に縛られて動けないアーサーに拳銃を向けて構えた。


「それじゃあ、土産を持って逝きなさい。どうせ生きていてもあなたに私達は止められないんだから」

「良いや、止めてみせるさ。これでも一応、ヒーローなんでね」


 そしてアーサーは先程とはベクトルの違う笑みを浮かべると、すっと息を吸って叫ぶ。


「さあ来い!!」


 銃を構える周囲の男達など気にも留めず、さらにヘルメット女の後方へと叫んでいる風だった。その様子に周囲の男達はアーサーから扉の方へと銃口を向け直す。

 しかし数秒待っても何も起きない。微妙な空気が流れ始めた辺りで、アーサーは申し訳なさそうにおずおずと、


「あー……すまない、言うのが少し早すぎた。おい、もう良いぞ!?」


 再びアーサーが叫ぶと、今度こそ明確なアクションがあった。

 正面のドアではなく、横の壁が吹き飛ばされて二人の少女が部屋の中に飛び込んで来たのだ。さらに続けざまに数発の発砲音が響くと、部屋の中を何度も反射してヘルメット女以外の男達が全員倒された。


「そんな、一瞬で……」

「麻痺効果付きのリフレクトバレットです。死んではいないので安心して下さい」


 二丁の拳銃をコートの内側に仕舞いながら、ラプラスは壁を拳一つで破壊した少女、サラと一緒に部屋の中へと入って来た。

 今回の仕事で共に行動しているのはこの二人だけだ。仕事内容をヘルトから聞いた段階で、情報解析等に優れているうえに、常にアーサーの居場所が分かるラプラス。そして第六感(シックスセンス)で魔力の使われていない科学兵器にも対応できるサラを選んだのだ。贅沢を言えば結祈(ゆき)の自然魔力感知があれば良かったのだが、彼女はまだ傷が完治していないのと少人数の方が良いだろうという事で今回は三人での行動を取っているのだ。

 仲間達が脅威を取り除いてくれたのを確認して、アーサーは『手甲盾剣(トリアイナ・ギア)』を盾の形に展開するとそれを利用して鎖を切った。次に剣に変えると正面の鉄格子の上下を横に切って外へと出た。


「さて、攻守交替だ。『MIO』の『鍵』ってのについて色々と吐いて貰うぞ」


 三人は一人になったヘルメット女へと詰め寄っていく。すでに立場は完全に逆転していた。

 壁を破壊し、一瞬で屈強な男達を倒し、完璧だと思っていた拘束から難なく逃れた三人のそれぞれの行動に心が折れてしまったのか、ヘルメット女は簡単に口を割った。

 彼女の言う『鍵』はこの場所にあるらしく、日の当たらない通路を彼女に先導されながら付いていく。すでにアーサーの右手で魔力を掌握しているので、下手な真似はしないだろう。

 そうしてヘルメット女は鍵のかかった部屋にアーサー達を連れて来た。ドアの前で番人のように立っていた男は手っ取り早くラプラスに無力化して貰い、ヘルメット女が鍵を開けるとベッドと椅子と机しかない殺風景な部屋の中に、たった一人だけ少女が閉じ込められていた。一四歳程度の見た目で、黄緑色の長い髪と瞳で、白いワイシャツとスカート姿だ。

 しかしおかしい。『鍵』に案内して貰う予定だったのに、この部屋にはそれっぽいものが一つも無いのだ。改めて問い詰めようとした所でヘルメット女の方が先に口を開く。


「この子が『鍵』よ」

「は? 待て、この子って……『鍵』って人の事だったのか!?」

「生物じゃないとは言ってない。まさか『ポラリス王国』は人間兵器を造らないとか思ってた訳じゃないでしょう? これでも『魔神石』の力を宿してる。見た目よりよっぽど危険だわ」

「……」


『人的資産流用』や『造り出された天才児デザイナーズチャイルド』に手を出しているのを知っている以上、人間兵器に手を出していないとは考えていなかった。だけど認識が甘かったのは認めざるを得ない。今までの経験から容易に想像できたはずなのに、完全に頭から抜け落ちていた。


「あなた達は……」


 どこか怯えた様子の少女を怖がらせないように心がけて、アーサーは自分達の身元を明かす。


「俺達は『ディッパーズ』で、俺はアーサー。こっちがサラで、こっちがラプラス。人だとは思わなかったけど……アンタを探しに来たんだ。保護するから安心してくれ」

「ッ……ダメ! 利用するつもりが無いなら、今すぐわたしを殺して!!」

「えっ……殺してって、一体どういう……」


 突然血相を変えて飛び込んで来た彼女は、アーサーの服を掴んで見上げるような姿勢で叫んだ。物騒すぎる彼女の言葉の真意が分からず困惑していると彼女は続けて叫ぶ。


「早くお願いします! わたしがいる限り、未来が……っ!?」


 再び彼女の様子が唐突に変わる。言いかけていた言葉を止め、頭を抱えながら一歩ずつアーサーから離れていく。


「あ、ああっ……また始まった! もう、止められない……ッ!!」

「何を……」


 言っているんだ、と言葉を続ける前に事態が動く。

 ズッッッ!!!!!! という大きな揺れが彼らを襲い、すぐにラプラスが慌てだす。


「そんな!? 前兆は何も無かったはずなのに……」

「どうしたんだ!?」

「このビルは間もなく倒壊します! マスター、転移を使った脱出を今すぐお願いします!!」

「なっ!? くそッ……みんな俺に捕まれ! アンタもだ!!」


 アーサーは全員に呼びかけながら頭を抱えている『鍵』の少女を脇に抱きかかえ、さらにヘルメット女の手を掴むと素早く部屋の外に出て、麻痺させた男の背にヘルメット女の手ごと押し付け、サラとラプラスもアーサーの肩に手を置く。そして同時にラプラスはもう片方の手で斜め上を指さした。


「マスター、五〇四回分です!!」

「了解―――『幾重にも重ねた(ワンヤードステップ)小さな一歩(・カルンウェナン)』!!」


 天井が崩れ落ちて来た時には、すでにアーサー達はその場から消えていた。転移の力で地上へと戻って来た彼らが見たものは、今の今まで自分達がいたビルが地の底に落ちていく信じられない光景だった。しかもそれは隣り合ったビルも次々と巻き込んでいき、あっという間に道路や歩道までをも巻き込んでいく大惨事となった。


「そんな……」


 被害は想像もつかない。一体どれだけの人が巻き込まれて瓦礫の下敷きになっているのか。ヘルメット女以外と部屋の前にいた男以外は助ける余裕が無かったし、他のビルや歩道にいた人々、そして巻き込まれた車の数も数え切れない。もうすでに手遅れな人達も大勢いるだろう。

 アーサーは困惑しながらも、震える声でサラに指示を出す。


「サラ……すぐに『W.A.N.D.』に連絡を。セラにも頼む。俺達も救助活動に行くぞ」


 この大惨事の原因が地盤沈下という答えはすぐに頭に浮かんだが、そこに至ったプロセスが全く分からない。隣を確認するとラプラスでさえ開いた口が塞がらないといった表情だった。


「……わたしのせいで、また……」


 しかし答えは思ったよりも身近にあった。

 この事態の真相を知っているような呟きを放った黄緑色の髪の少女に、アーサーは慎重に推し量るように問いかける。


「……アンタ、名前は?」

「……ミオ。『未来決定装(MIO)置』の『鍵』って言った方が分かりやすいかな?」


 一四歳程度の見た目に反して何年も歳を重ねた者のような哀愁漂う笑みを浮かべて、ミオと名乗った少女は皮肉っぽく答えた。

 アーサーは今回もまたとてつもなく大きな問題に巻き込まれている事を自覚して、いい加減うんざりしたような深い溜め息を溢した。とりあえずロクな情報もくれずに厄介事を背負わせたヘルトには、後で文句の一つでも言ってやろうと密かに誓ったのは言うまでもないだろう。

ありがとうございます。

という訳で第一七章、スタートです。

今回は今までの話で登場して来た人物達の再登場も多いので、前話の登場人物紹介3を参考にして頂けたらと思います。

さあ、今回の敵は『ディッパーズ』だ!

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